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<特別公開>「ICUにおけるせん妄と身体抑制への多面的包括ケア方法論の訓練効果」 | 日本ユマニチュード学会|人間らしさを尊重したケアを共に社会へ

<特別公開>「ICUにおけるせん妄と身体抑制への多面的包括ケア方法論の訓練効果」

学術研究レポート

日本ユマニチュード学会総会のポスターセッションにて発表されたユマニチュードの学術的な研究成果を発表者のインタビューと共に紹介します。

杉本智波さん

社会医療法人雪の聖母会 聖マリア病院 看護師長

第1回はユマニチュード認定インストラクターで、社会医療法人雪の聖母会「聖マリア病院」看護師長の杉本智波さんの「ICUにおけるせん妄と身体抑制への多面的包括ケア方法論の訓練効果」です。

第 1 回日本ユマニチュード学会総会抄録集より

「ICUにおけるせん妄と身体抑制への多面的包括ケア方法論の訓練効果」

目的:ICU に勤務する看護師を対象としたマルチモーダル・ケア技法教育介入を行い、ICU 患者のせん妄予防効果を検証する。

デザイン:急性期病院・単一施設の後ろ向き前後比較の観察研究

対象者:2016 年から 2018 年にかけて ICU に入院した患者。観察期間は訓練前の 12 か月と訓練後の12 か月とした。

介入:マルチモーダル・ケア技法教育介入を行った。インストラクターが ICU の病棟看護師への講義およびベッドサイドでのコンサルテーションを実施した。

評価:プライマリアウトカムはせん妄発症率、セカンダリアウトカムは身体抑制率とした

結果:せん妄発症は教育介入前 6.11 %、教育介入後 1.20 %、身体抑制率は教育介入前 31.85%、教育介入後 15.65%であった。

結論:インストラクターによるベッドサイドコンサルテーションを伴うマルチモーダル ケア技法の教育介入は ICU でのせん妄発症および身体抑制実施率を減少させた。この技法実施における施設内インストラクターの存在はケアの技術とその効果を維持するためにも重要と考えられる。

身体拘束への違和感

2016年8月に認定インストラクターの資格を得てすぐこのテーマに取り組みました。ユマニチュードの哲学と照らし合わせて私の勤務していた集中治療室という現場をみたときに、身体拘束が最も違和感があるものだったからです。


第1回学会総会での口頭発表

身体拘束は、患者さんがご自身の状況を理解できないときに治療や命を守るために行うものですので、集中治療室では行わざるを得ない場合が往々にしてあります。しかし、ユマニチュードの哲学を知って治療の現場を見たとき、果たして患者さんの理解を促進するケアはできているのだろうか、と感じました。現場の皆がユマニチュードの技術を持ってケアをすることによって、「集中治療室だから身体拘束は仕方ない」と半ば諦めのように思っていた状況に風穴が開くのではないかと思ったのです。

また、身体拘束に繋がる大きな要因としてせん妄がありますが、せん妄の要因にはストレスが大きく関わっていると言われます。集中治療室は異次元と言いますか通常の世界ではなく、苦痛とストレスだらけの場所。その中で少しでも患者さんのストレスを緩和するための技術として、医療者側がユマニチュードを実践することで身体拘束が減っていくのではないかと考えました。

ケアを見直す意識が芽生えた

検証をして何より良かったのは、現場の皆がこれで良いとは思っていなかった問題点がユマニチュードにより改善していくと実感できたことだと思います。集中治療室だからこそ「命を守るための拘束であり外すと危険だ」と思っていましたが、その実施率が減少するというのは、ケアの方法次第では必要のない拘束があったということだと認識できました。


ポスターセッションの様子

ただ一方では、一度始めた身体拘束は外すのが難しいと言うのを改めて実感もしました。看護師はチームで患者さんをみていますから、拘束を始めた看護師と継続してケアをする看護師はメンバーが違います。もちろん必要があり拘束を始めるのですが、状態が良くなっているから一度外してみようかと別の看護師が提案するのは、明確な理由を示す必要もあり、度胸が要ることなのです。それを考えると、拘束の実施率が下がったというのは、そもそも拘束することを選ばなくなったというのが鍵なのではと思っています。

私が師長という管理者の立場だったのも良い結果が出た要因の一つかもしれません。管理者がユマニチュードを理解し、組織戦略的にユマニチュードを位置付けることで、現場の皆が動きやすくなるメリットは非常にあると思います。とても嬉しかったのは、なかなか拘束を外せない方がいらしたのが皆の工夫で外せるようになったことです。そうしたらスタッフの中から「もっと早く拘束を外せたかもしれませんので検証をしてみたい」という声が挙がったのです。ユマニチュードの技術は粗削りなのだけれども、ケアを見直そうという意識が芽生えたのだと思います。ユマニチュードはその考え方が大事なことなのだと改めて認識しました。

ユマニチュードを繋げる


第1回日本ユマニチュード学会ポスター発表

昨年から看護支援室という、一つの部署に囚われずに病院全体の看護をみる役割となりました。急性期病院でユマニチュードを役立てるにはどうしたら良いかと考えたときに、やはり、患者さんに合併症を起こさせず、体調が整ったらすぐに帰れるという状況にすることだと思います。そのためにはせん妄の予防や、認知症を抱える方でしたら認知機能を下げないようにしなければいけません。救急救命室から集中治療室、病棟そして地域の連携がユマニチュードを軸に繋がることが実現できたら理想的ですね。

今、病院では各部署にユマニチュードの実践者リーダーという6日間の研修を受けた人材を増やす取り組みをしています。長くかかるとは思いますが、まずは自分の施設からユマニチュードを繋げていきたいと思います。

(聞き手・木村環)

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