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イヴ・ジネスト先生からの特別寄稿 | 日本ユマニチュード学会|人間らしさを尊重したケアを共に社会へ

イヴ・ジネスト先生からの特別寄稿

私たちが立ち向かうべき2つの敵:COVID-19とせん妄

みなさん、こんにちは。

新型コロナウィルス・COVID-19が世界中に影響を与えています。その一つが高齢者施設に入居している高齢の方々への家族や友人の面会禁止です。この新しい制限についての私の意見を述べたいと思います。なぜならば、家族の絆を奪い孤立を生むことが、必然的に災害につながることを知っているからです。何千人、何万人もの人が、そのために辛い状況に陥り、亡くなる方もいらっしゃるでしょう。フランスには7200あまりの介護施設がありますが、もし、家族や友人から孤立していることが原因で亡くなる方が施設に1人いるだけで、全国では7,200人以上の死者が出ることになります。少なくともその死因はウイルス感染症ではありません。

これは信念ではなく、孤立が人間に与える影響についての科学的知見に基づくものであり、私は自分の40年間の現場での実践経験からこれに同意します。多くの老年医学の専門家は、高齢者が入院治療によって、寝たきりになったり、せん妄や認知症が進行することを現代高齢者医療の課題として認識しています。これについては数多くの科学的研究が進んでおり、せん妄が、周囲から孤立する生活環境の大きな変化によって起こり、80歳以上の高齢者の10人中1~2人に影響を与え、死亡率を20倍にも増加させることが示されています。

老年期の人々、そして非常に脆弱な状態にある人々は特殊性を持っています。つまり、精神的混乱の閾値に簡単に到達し、それは精神的混乱につながり、その後全身状態の低下が起こり、引きこもり、自分自身の殻に閉じこもり、食べることを拒否し、そして最後に、彼らは自身の拠りどころ、本質的な人間の家族の絆を奪われたときに、死に至る。どんなに努力しても、職業的介護者が家族の代わりになることはありません。

健康は私たちに与えられた貴重な贈り物です。しかし、それはあくまでも状況であり、価値ではありません。フランスは自由、平等、友愛といった価値観を世界にもたらすために戦ってきました。

私たちは高齢者の健康のために戦わなければなりませんが、 それによって彼らの自由や平等や友愛を奪ってはならないのです。愛と友情という人間の絆だけが、脳の活動、神経の健康、人間の発達、そして自身の尊厳の自覚を永続的に発展させ、その維持を可能にしているのです。

愛撫を受けない、愛情を伝える眼差しを受けない、優しい言葉をかけられない子供は、発達できず、重度の精神障害や知的障害を呈し、死亡することが多いことが知られています。これは高齢者でも同じです。おそらく、子供よりもさらにその傾向は強まるでしょう。

現在フランスでは、あまりにも多くの人が、愛する人に再会することなく、孤独の中ですでに亡くなっています。健康危機の緊急性の中で、高齢者を閉じ込め、家族との絆を奪い、最期の時に立ち会ったり葬儀への参列することを禁止するなどの重大な行為を行った責任は、私たちの社会が負わなければなりません。余命2ヶ月の高齢者を1ヶ月閉じ込めれば、その人の人生の半分が奪われてしまいます。このままではいけません。高齢者を孤立させることで、私たちが失うのは魂なのです。

では、どうすればいいのか?私には現場にいらっしゃる施設の運営者や介護部長、介護士の代わりに解決策を見つけて指示できると思う傲慢な考えはありません。解決策は、家族を含めた誰もが参加しなければならない創造的な思考から生まれます。私にはいくつかの解決策を提案することしかできません。

– まず無視できないのは、重要な訪問者(家族や親しい友人)は、施設に到着したら手を洗う、推奨されるマスクを着用する、私物(ハンドバッグなど)を入り口に置いて持ち込まないなど、介護職員と同じ標準予防策を取ること。

– 面会時間の制限を含め、尊重すべきルールが書かれた行動憲章を読み、署名する。

– 特定の場所を用意し、面会のための場所に透明なガラスやフィルムを使って直接の接触を避ける

– 実際に接触する場合は手袋を着用し、部屋を訪問する際には使い捨てのガウンを着用する

みなさんの力で、解決のためのアイデアを生み出してください。現場で生まれたいくつかの例をご紹介します。フランスの介護施設の試みです。

 

訪問する家族はマスクと手指消毒を徹底します。

 

面会のためのテントが庭に設営されました。

 

常に換気を行います。

 

対人距離を十分にとります。

 

マスクをしていても、笑顔を伝えることができる、ユマニチュードインストラクターの発案です。

 

窓を通して外部とつながります。

 

家族と過ごせない悲しみの中の入居者。孤独はせん妄の引き金となり、「終わりの始まり」となります。

 

それを防ぐために…

 

新しい科学技術を使ったコミュニケーションの試み。

 

家族の訪問は十分な距離を保ちます。

 

もしくは、窓越しに。

 

食事も距離をとります。

 

ガラスの移動式ついたて越しの面会。

 

扉を透明なボードに作り替えました。

 

 

これは、私たちが持っている基本的な価値観を尊重し、心が決めたことを尊重しながら、同時に何千人もの高齢者が亡くなることを防ぐための条件なのです。なぜなら、私たちは2つの敵に同時に立ち向かい、戦っていることを理解する必要があります。敵とは、つまり、新型コロナウィルス・COVID-19、そしてせん妄です。COVID-19のみと戦うのでは、我々がもう1つの敵・せん妄に敗北することになるのです。そして、高齢者を閉じ込め続けるのであれば、もう1つの敵によって多くの人の命が奪われることとなります。

私たちがこの2つの敵に対して同時に立ち向かい、戦うならば、私たちは勝利を得て、頭を挙げ、愛をもって、誰にも恥じることなく、この戦いを終えることができるでしょう。

2020年4月30日

 

イヴ・ジネスト

私は老年学の専門家です。私は40年以上にわたり、介護者と、高齢者と、病人と、実際の医療や介護の現場で仕事をしてきました。マルチモーダル・ケア技法:ユマニチュードは私のこの経験から生まれたものです。現在、京都大学こころの未来研究センターの特任教授、富山県立大学看護学部の客員教授としてケアに関する研究や教育に携わっています。

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