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ユマニチュードとは | 日本ユマニチュード学会|人間らしさを尊重したケアを共に社会へ

ユマニチュードとは

ユマニチュードはフランスの二人の体育学の専門家イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティが開発したケアの技法です。病院職員の腰痛予防プログラム指導者としてフランス文部省から派遣されたことがきっかけで、二人はこの分野での仕事を始めました。

ケアの現場で彼らがまず気がついたのは、専門職が「何でもやってあげている」ということでした。たとえば、立てる力があるのに寝たままで清拭をしたり、歩く能力のある人にも車椅子での移動を勧めたり、といったことです。二人は本人が持っている能力をできる限り使ってもらうことで、その人の健康を向上させたり、維持することができると考え、「その人のもつ能力を奪わない」ための様々な工夫を重ねながら現場でケアを実践していきました。

認知機能が低下し、身体的にも脆弱な高齢者の方々に対してケアを行う時、ある時は穏やかにケアを受け入れてもらえるのに、別の時は激しく拒絶されることがあります。その原因を考え続けた二人は、ケアがうまくいく時といかない時には「見る方法」「話す方法」「触れる方法」が違っていることに気がつきました。さらに、人は「立つ」ことによって、生理学的な効果のみならず、その人らしさ、つまりその尊厳が保たれることから、この4つの要素「見る」「話す」「触れる」「立つ」を「ケアの4つの柱」と名付けました。そして、ケアを一つの物語のように一連の手順で完成させる「ケアの5つのステップ」で構成するケア・コミュニケーション技法を編み出しました。特筆すべきは、ユマニチュードは理論が先行したのではなく、初めてケアの現場に赴いた1979年から現在までの現場での幾多の失敗から誕生したものだということです。

しかしその一方で、いくら技術があったとしても、その使い方が間違っていては何にもならないことも二人は痛感するようになりました。1948年に国連総会で採択された世界人権宣言では「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。」(世界人権宣言第1条)と定めています。

ケアの現場を振り返ったとき、冒頭で述べたような「点滴や清拭、与薬、食事介助など、いつもなら戦いのようなやりとりとなりかねない状況」においても、ケアを受ける人とケアを行う人との間に自由・平等・友愛の精神が存在するのであれば、ケアを行なっている人が掲げる理念・哲学と、実際に行なっている行動は一致せねばならず、「自分が正しいと思っていることと、自分が実際に行なっていることを一致させるための手段」として技術を用いるのだ、と二人は考え、その哲学を「ユマニチュード」と名付けました。ユマニチュードとは「人間らしさを取り戻す」という意味をもつフランス語の造語です。

4つの柱

4つの柱はあなたを大切に思っていることを相手にわかるように伝える技術です。

相手をどんなに大切に思っていても、また優しくしたいと思っていても、その気持ちは相手が理解できるように表現しなければ、相手には届きません。ユマニチュードの4つの柱はケアを受けている人に対して「あなたは私にとって大切な存在です」と伝えるための技術です。ここで重要なのは、この4つの柱は一つだけではうまくいかないということです。ケアをする時にはこの柱を同時に複数組み合わせて行うことが大切で、このことを「マルチモーダル・ケア」と呼びます。つまり「複数の(マルチ)要素(モーダル)を使ったコミュニケーションによるケア」を行います。

ケアとは幅の広い概念であり、医療・介護に携わる専門職や家族が援助を行うことは、みんなケアであると考えます。

誰かとコミュニケーションをとる時、私たちは無意識のうちに「言葉による」または「言葉によらない」メッセージを相手に伝えています。とりわけケアを行う時には「言葉によらない」メッセージが重要な役割を果たします。ユマニチュードでは、この言語・非言語メッセージを双方向に交わし合うコミュニケーションによって、ケアをする人とケアを受ける人とが良い関係を築くことをケアの目的としています。

「見る」技術

私たちが相手を見る時、多くの場合仕事の対象部位を見ています。たとえば口腔ケアのために口の中を見る、といったように。しかし、「見る」ことで相手を大切に思っていることを伝えるためには、仕事のための「見る」つまり手技に必要な視覚情報を得るだけでは十分ではありません。「見る」ことが伝える言葉によらないメッセージは、たとえば同じ目の高さで見ることで「平等な存在であること」、近くから見ることで「親しい関係であること」、正面から見ることで「相手に対して正直であること」を相手に伝えています。逆に、ベッドサイドで寝ている人に立って話しかけるとき、そんなつもりはなくても見下ろすことで「私のほうがあなたより強い」という非言語の否定的メッセージが届いてしまいます。

「話す」技術

ケアをする時には「じっとしていてください」「すぐ終わります」などの言葉を発しがちですが、このような言葉にはそんなつもりはなくても「私はあなたに命令しています」「あなたにとって不快なことを行なっています」というメッセージが言外に含まれてしまっています。これでは相手に優しさを届けることはできません。「話す」ときも仕事のための「話す」ことだけではなく、相手のことを大切に思っていると伝えるための技術を用います。低めの声は「安定した関係」を、大きすぎない声は「穏やかな状況」を、前向きな言葉を選ぶことで「心地よい状態」を実現することができます。また、相手から返事がない時には、私たちは次第に黙ってしまいます。無言の状況は「あなたは存在していない」と伝える否定的メッセージとなるため、ケアの場に言葉をあふれさせる工夫として、ユマニチュードでは自分が行なっているケアの動きを前向きな語彙で実況する「オートフィードバック」という方法を用います。

「触れる」技術 

ケアを行う時、たとえば着替え、歩行介助などで私たちは必ず相手に触れていますが、その時相手をつかんでいることに私たちは無自覚です。つかむ行為は相手の自由を奪っていることを意味し、認知症行動心理症状のきっかけとなってしまうこともよくあります。触れることも相手へのメッセージであり、相手を大切に思っていることを伝えるための技術を用います。具体的には、「広い面積で触れる」、「つかまない」、「ゆっくりと手を動かす」ことなどによって優しさを伝えることができます。触れる場所もコミュニケーションの重要な要素です。できるだけ鈍感な場所(たとえば背中、肩、ふくらはぎなど)から触れ始め、次第により敏感な場所(たとえば手、顔など)に進みます。

「立つ」技術

人間は直立する動物です。立つことによって体のさまざまな生理機能が十分に働くようにできています。さらに立つことは「人間らしさ」の表出のひとつでもあります。1日合計20分立つ時間を作れば立つ能力は保たれ、寝たきりになることを防げるとジネストは提唱しています。これはトイレや食堂への歩行、洗面やシャワーを立って行うなどケアを行う時にできるだけ立つ時間を増やすことで実現できます。

「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの柱は一見目新しいことはなく、またケアをしている人の多くは「当たり前のこと」、「自分はいつもそうしている」と思っています。しかし、ケア映像の情報学的な分析では、「相手のことを大切に思っていることを伝えるため」の4つの柱はほとんど使われていないことがわかりました。ユマニチュードのトレーニングでは、ケア映像の分析をすることでコミュニケーションを定量化しています。現在は人工知能によるケア技術評価も行えるようになっており、日本科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)において「『優しい介護』インタラクションの計算的・脳科学的解明」というテーマのもとに京都大学・九州大学・静岡大学の情報学・心理学の専門家と研究が進められています。

5つのステップ

ユマニチュードではすべてのケアを一連の物語のような手順「5つのステップ」で実施します。この手順は1・出会いの準備(自分の来訪を告げ、相手の領域に入って良いと許可を得る)2・ケアの準備(ケアの合意を得る)3・知覚の連結(いわゆるケア)4・感情の固定(ケアの後で共に良い時間を過ごしたことを振り返る)5・再会の約束(次のケアを受け入れてもらうための準備)の5つで構成されます。いずれのステップも、4つの柱を十分に組み合わせたマルチモーダル・コミュニケーションを用います。

Step1

「出会いの準備」

自分の来訪を告げ、相手の領域に入って良いと許可を得る

Step2

「ケアの準備」

ケアの合意を得る

Step3

「知覚の連結」

いわゆるケア

Step4

「感情の固定」

ケアの後で共に良い時間を過ごしたことを振り返る

Step5

「再会の約束」

次のケアを受け入れてもらうための準備