会員勉強会「介護施設でのユマニチュードへの取り組みと研修受講について」開催レポート

日本ユマチュード学会の会員向けコミュニティ「雨宿りの木」にて昨年11月に行われました会員勉強会「介護施設でのユマニチュードへの取り組みと研修受講について」の模様をご紹介します。ユマニチュードの施設導入に取り組んでいらっしゃる川崎市の新百合ヶ丘介護老人保健施設「つくしの里」療養部長・濱田誠子さん、同介護科長・長谷川秀人さんをお招きし、つくしの里にて行われた施設訪問型4日間研修の模様や、その後の施設の皆様の変化、今後の課題をお伺いしました。

本田美和子代表理事 今日はユマニチュードの実践者の一人でいらっしゃいます医療法人社団れいめい会新百合ケ丘介護老人保健施設「つくしの里」(川崎市)の療養部長、濱田誠子さんと介護科長の長谷川秀人さんをお招きしました。お二人には「つくしの里」におけるユマニチュードの導入について、非常に具体的なお話をお伺いできるのではないかと大変楽しみにしております。どうぞよろしくお願い申し上げます。

濱田誠子・ 療養部長(以下、濱田さん)  過分なご紹介をいただきありがとうございます。私が看護協会の講習会に行ったときのことをお話ししますと、講習会にはすでに申し込みをしていて、それが数日後に迫っているという時に、私どもの施設長の市来嵜潔先生に呼ばれまして、「ユマニチュードって知っているか」と聞かれたんです。「知ってます。講習会に行くので事前勉強をしておりました」とお話ししましたら、「実はユマニチュードというのは僕の後輩が日本に持ってきてやってるんだ」と本田先生のお話をされたのです。


濱田さん

「ぜひご挨拶をしてきます」ということで、私自身の興味だけでなく、別のベースのものができたということで前のめりで行きました。そして、その話の内容というのが本当に電気が走った感じだったんですね。私が今まで何十年も看護師をしてきたけれども、そういう概念がなかったということに自分の頭を殴られたようで、感極まって本田先生にお会いした思い出があります。

「(ユマニチュードを知って)これはぜひ当施設で取り入れた方がいいな」と思いましたし、すぐに始めた方がいいとも思い、細々とですがスタートをいたしました。後で長谷川さんからも話があると思うのですが、色々な失敗や成功体験を経て今にありますので、失敗談も皆様の参考になるのであればと思い、今日はお話をさせていただくことにしました。

本田 ありがとうございます。市来嵜先生は、私が研修医だったころの病院の救命センター長でいらっしゃって、内科医としてのトレーニングをしてくださった先生方のお一人です。その恩師と再びご一緒させていただいて、とてもうれしく思っています。

長谷川さんは介護士で、介護科長でいらっしゃいます。少し昔の話をいたしますと、ユマニチュードを勉強する制度を日本で少しずつ作っていく過程で、施設導入準備コースというものを作ったことがありました。

ユマニチュードのトレーニングはインストラクターが施設にお伺いし、一緒にケアを行いながら学ぶのが世界標準です。ただ、日本の場合はまずはユマニチュードというものを知っていただくことから始めなければいけない状況でしたので、まずは施設でやりたいと思っていらっしゃる所から、ユマニチュード導入のリーダーシップを取っていただける方を派遣してもらってトレーニングをする、施設導入準備コースを作りました。

そこに「つくしの里」から来てくださったのが長谷川さんでした。穏やかで静かなお人柄で、確実な介護の技術とそれを伝える言葉の確かさは本当に素晴らしく、ご一緒いただき嬉しく思っています。長谷川さん、自己紹介をお願い致します。

長谷川秀人・介護科長(以下、長谷川さん) 長谷川です。僕もユマニチュードに会うまでは、介護職の矛盾している部分を色々感じながら仕事してきたんですけれど、最初、入門コースに行かせていただいて、ユマニチュードの「見る」「触れる」という部分について、今まで自分のやっていたそれとは全く違うというところに、ものすごく感銘を受けました。


長谷川さん

その後、施設導入のコースに行かせていただいてユマニチュードの哲学と技術を学んで現在に至りますが、リーダー的に動いてはいるものの、なかなかそれがうまく発揮できないことがこの5年間にはありました。昨年辺りから研修の実施や勉強会の実施、職員のアプローチですとか色々な面で少しずつ、「こういった形でやって行けばいいのかな」というのが見えてきて、頑張っているところです。皆様とお話しして、一緒に学びたいなと思っていますのでよろしくお願いいたします。

本田 どうもありがとうございます。施設全体でユマニチュードを導入することの第一歩を踏み出して下さった「つくしの里」のご経験は、これから検討くださる皆様にとても良いお手本になると思います。今日は、お二人には「こういうことがあって大変だった」ということをたくさん伺いたいと思っていまして、そういったことも含めて皆様のご参考になる時間になれば嬉しいです。

「実践」が身に付く4日間研修

本田 まずは、「つくしの里」で2年前に行われた4日間の研修の模様をご紹介しますね。先ほど申し上げましたが、ユマニチュードのトレーニングは世界共通で、インストラクターが施設や病院にお伺いして、そこで講義を行い、技術を教え、講義で学んだ技術を実際にベッドサイドでインストラクターと一緒にやってみるということを繰り返します。毎日のケアで困っていらっしゃることについて、インストラクターと一緒に問題を解決する糸口を共に探していくことが研修の基本です。

その研修に、カメラを同行させていただいて撮影した20分ほどの映像があります。長谷川さん、濱田さんのお話を伺うのに役に立つと思いますので、まずは皆様、ご覧ください。

『<ユマニチュード>介護老人保健施設 「つくしの里」における4日間の施設訪問型研修記録』(15分47秒)

 

本田 皆様、いかがでしたでしょうか。この4日間研修を踏まえて、「つくしの里」の皆さんがどのようなことをお感じになられたかをお伺いしたいのですが、濱田さん、この研修の時とその後の「つくしの里」で何かお気づきのことがありましたら教えて下さい。

「分母を増やしても定着しない」

濱田さん はい。4日間研修を受けた当時のことをお話ししますと、最初、ユマニチュードの施設への導入は、1日の入門コースを受ける研修者を増やして、分母を増やしていけばその基盤ができて来るだろうと仮定していました。ただ人数的に、1日でも研修に人を出すというのは厳しかったので、2名ぐらいずつ出して、分母を広げているところだったんです。

けれども、長谷川さんがビデオの中でも言っていた通り、分母が広がっても定着感は全くなく、日常でユマニチュードが見られる場面がなかなかないという状況で、「どうやったら定着するか」というところがずっと課題でした。ユマニチュードの哲学と技術を学んでも、それが実践の場に至らないということの壁は何なんだろうというところですごく悩んでいました。

そうした中で介護、看護だけではなく事務やリハビリなど様々な部門の方に参加して頂く、「ユマニチュード委員会」という組織を立ち上げて、細々とですけれども前進していたところで迎えた4日間研修でした。

研修では、利用者さんを通して実践させていただくということが、学んだことをつぶさに見ることができ、研修に参加していないメンバーも食事介助の場面であったり、お風呂の場面であったり「ああいう風にやるんだな」というのを横目ではありながらも学べたということがすごく大きかったです。

(学んだユマニチュードを)やりたいと思っているけれどもやり方が分からない、どういう場面でどう使ったらいいかも分からない。普通の業務の流れの中にいると、自分と「ユマニチュードをやる自分」が全く別でそれがリンクしないというところがすごくあったんです。場面に応じて、ユマニチュードをどうやったら出していけるのかというのが大きな課題だったんですね。

4日間研修の後は、食事の場面、お風呂の場面で「この利用者さんにはユマニチュードをしようね」と長谷川さんが朝のミーティングで話したりして、ユマニチュードを「見える化」できるようになり、少し定着ができたということがあります。

本田 ありがとうございます。お話にありました委員会というのは、具体的にはどういった部署の方がいらして、どのくらいの頻度でミーティングは行われているんでしょうか。

濱田さん はい、「ユマニチュード委員会」という会がありまして、事務、リハビリ、看護、介護、ケアマネージャーに、もちろん施設長の市来嵜先生も入っていただいて、月に一度開いています。さらに、ユマニチュード委員会を運営するための推進委員会を施設長が立ち上げまして、長谷川さんとPT(理学療法士)さん、ビデオに登場しました介護の清水さんの4人で課題抽出と進め方を委員会の前段階で検討して、レジュメなどを作ってくれたりしています。

標語の唱和で実践が定着

本田 「ユマニチュード委員会」ではどのようなことを検討されているのですか。

濱田さん 「つくしの里」では月に一つ、ユマニチュードの実践目標を決めているんですが、その目標を決め、標語にするのが委員会の大きな仕事の一つです。例えば来月は「見る」が目標でしたら、長谷川さんがその哲学的な要点をレジュメにして下さっていて、それをアレンジしてみんなで案を出し合うんですね。

例えば「コンコンコン、3秒待ってもう一度」と言ったものですが、その標語を月に一度、全職員が一堂に会する朝礼で唱和し、そして各部署で毎日朝夕の申し送りが終わった後に唱和するということが定着しました。これがユマニチュードの実践の定着にもとても大きくて、ノックするときに「コンコンコン、3秒待ってもう一度」と心の中で言っている自分がいたりして、皆がそうなっているのが良いことだなと思います。

本田 素晴らしいですね。

濱田さん 唱和するのに語呂が良いからか、七五調になってしまったんです。最初の頃は「何とかはしない」「何々は止めよう」というような表現のものもあったのですが、ユマニチュードらしくないということで全部肯定的な言葉にしていくことになりました。それがすごく心地良くて、「ポジティブトークで、見る、触れる」とか「3分で、合意がなければまた後で」とか、考える方もポンポンと(アイデアが)降りてくる。

先日の委員会では、市来嵜先生が「最近の会話は楽しいね」と話していらっしゃいましたが、以前はすごく沈黙の時間がありました。それは現場でなかなかユマニチュードが実践できていないから、良いも悪いも評価しがたいような会だったのかなと思うのですが、最近は評価ができるだけ、実践の場を支えている委員会になったのかなと思います。

本田 その標語は今度、ぜひ見せていただきたいです。ユマニチュードのカレンダーを作った時にひと月ごとのテーマにつける言葉を色々考えたことがあるんですけれど、日本語の特徴を生かしたリズムのある言葉というのは、多くの方にユマニチュードをやってみようと思っていただくきっかけになりますね。

長谷川さん、現場のリーダーである長谷川さんが色々な事を考えて実行して、皆さんからのフィードバック、別の言い方をすると矢面に立ったりすることもあるのではないかと思うんですが、長谷川さんのご経験を教えていただけますか。

「何よりも哲学を理解してもらう」

長谷川さん 勉強会や研修をやったということだけでは現場の一人ひとりの「見る・触れる・話す」の実践には結びつかず、それが大きな課題でした。その理由として、最終的に辿り着いたのは、やはり哲学がしっかり理解されていないんじゃないかというところです。今年から哲学を項目別にかなり細かく分けて全体研修という形で行っていて、そうして初めて「だから『見る』って必要だったんですね」というような声が聞かれるようになりました。

そこに気づいた人は次の日から行動できるということがあって、何のためにユマニチュードをやっているのかを、やはり時間がかかっても理解してもらうことがすごく大事だと思っています。その中でやはり4日間研修というのは、ユマニチュードを現場に結びつけるためのことが詰まっていると思います。

実際に2回目もやっていただいたんですけれども、研修を受けた職員が4日間で実技と哲学を理解し、それを実践につなげてくれているというのはすごく大きくて、ビデオでも出ていた介護職の清水さんも委員会で活躍して、職員のお手本となっています。

通所のリハビリ部署から参加した女性は、最初は目立っていなかったんですけれども、やはり4日間研修の後で委員会のメンバーとなり、今はその部署で彼女を中心にユマニチュードの実践が広がっていて、やはり哲学と実技を学んだということが大きかったと思います。

ただ、このことは私たちの力が足りない部分、聞くだけで終わってしまうような研修になっていることも示しとくれたわけで、そうならないよう、今後、委員会も含めて常にどうしたら皆の理解が進むようなことをできるのか、そして日々の見直しをしていかねばならないと思っています。

今、目標の唱和はみんな言えちゃうんですよね。「コンコンコン」とは言えても、実際にはノックしないで部屋に入っていくという場面もあったりして、「あれっ」と感じることもあります。そういう時は「あ、ノック忘れてますよー」と声をかけたり、後から「おむつ交換は急ぐ必要はないので、今日は2回あるおむつ交換の時に全部ノックしていきましょう」と促したりしていますが、以前はそういうことを言うのもどうかという雰囲気がありましたので、今は唱和も含めてそういうことを言いやすくなったというのはあります。

入床介助の新たな挑戦

本田 ありがとうございます。この前、少しお話を伺いましたが、 夜のケアのお話もぜひ聞かせていただけますか。

長谷川さん はい、夜間帯に不穏の出る利用者様や夜間に起き出す方が多いという状況に、市来嵜先生から「夜は利用者さんが休む時間で、睡眠が大事だ」という話が出まして、実際に見てみたら、業務優先のため利用者さんが夕食を済ませ、口腔ケアが終わったら、とにかく入床介助を職員が一生懸命やっていたんですね。

寝たくない人にも入床介助をしてしまっていた結果、途中で起きてしまい、その対応が必要となる、ということを繰り返している現状がありました。それならば試しに、利用者さんが眠くなるまで見守って、眠くなったタイミングで入床介助を行ってみようかということで、夜勤の方には夜勤で動いていただいて、それとは別に濱田さんと一緒に実際にやってみたんです。

それほど大人数ではなく、遅くまで起きている方が8人くらいいらっしゃって、その方々と一緒に過ごします。ただ起きているだけではなくて、普通の夜勤の職員からすると口腔ケアも終わっているのにお茶菓子を食べるなんて、となるのでしょうが、僕たちも夜起きているときコーヒーを飲んだり、お菓子を摘みたいということはあるよねということで、ちょっとしたゼリーであるとか温かい飲み物、冷たい飲み物を用意しました。

濱田さんが足浴をやって下さったり、照明もムードが漂うような薄暗い灯りにして、焚き火のBGMを流したりしていると必然的に利用者さんがこっくりこっくりとなる場面があって、そのタイミングで「じゃあ、そろそろ寝ようか」という感じでやったら、朝まで起きずに寝てくれたということがありました。

試行的に先月やらせてもらったら、それを一緒にいる夜勤の人たちが見ていて「起きなかったというのはいいですね」とおっしゃっていて、見て学ぶということができたのが良かったと思います。

本田 やはり施設の中ではスケジュールが決まっていて、食事の時間、寝る時間というのがある中で、そうではないことをやってみようというのを管理の立場から決めるというのは、大きな変革でもあり大変だったと思いますが、濱田さん、どうして決断されたのでしょうか。

「眠い時に寝る」を大切に

濱田さん ユマニチュードに限らず、業務を何か変えるというのは、皆、すごくしんどいと言いますか恐れもあって、「今までやったやり方でいいじゃない」というのはどこの部署でもあると思うんですね。ただやはり物事を進めていくにあたっては、チャレンジしてみなくてはいけなくて、やってみた上で評価して、ダメなら元に戻せば良いのではないかと思いましたので、とりあえず、まず私と長谷川さんの2人でやってみました。成功例ができれば、毎回は成功しなかったとしても、試してもいいことの幅が広がるのではないかという感じです。

施設も家と同じ生活の場として考えたなら、眠くないという時にはそこに寄り添うということがまず原点で、「不眠で辛くて仕方がない」という方には薬を使うのもいいかもしれないですけれど、そうでない限りは「眠い時に寝る」という形を原点にするのが良いのでは、という感じですね。

ナースでもそうなんですけれど、毎日毎日眠剤を飲むということになっていると「今日は飲みませんでした」と言うと「何で飲まなかったの」という風に言われてしまい、その連鎖が業務になっているので、それを止める勇気がないんですね。

そこは介護も一緒で、例えば「みんなを寝かせた後に業務が待っているので、その業務をこなすためにも早く寝てもらわないと困る」みたいな風潮があって、翌日「こういうことがあったので業務ができませんでした」と言えば「何でやってないの」となる。「夜間、この人にこういう対応していたから業務ができていないんです」「いいよ、日中にやるから」というような、幅のある、懐の深い施設であればなと思い、少しずつ改善を始めています。

業務というところではまだまだ改善の余地があって、課題もいっぱいあるんですけれど、私と長谷川さんが夜勤の時に何回かチャレンジした内容というのは、一緒に行った夜勤のメンバーはその意味を感じ取ってくれて、自分たちでも実践してくれています。「昨日はこれをやりました」「これはダメでした」と報告も受けているので、これからも続けて行けたらいいなと感じています。

本田 施設の夜のアクティビティということで、ジネスト先生が以前にフランスのテレビで放映された映像見せてくださったことがあるんですけれど、「眠くない人は一緒にお菓子を作りましょう」なんてお菓子を作ったり、本を読んでもらいながらだんだんと眠くなるというような取り組みをしていて、すごく面白いなと思いました。

日本でも「つくしの里」でそれが行われていると分かって、とても嬉しいですし、ジネスト先生にも早速報告しておきたいと思います。

それでは、参加者の皆様で、どなたかご質問のある方はいらっしゃいますでしょうか。盛岡市の介護施設の方から「ユマニチュードの実践に取り組んでいますが、職員一人ひとりが実践できているかの評価のフィードバックはどうしたらいいでしょうか。チェックリスト作成や評価表を作るのがいいでしょうか」というご質問です。

「つくしの里」では職員の皆様に対してどのような評価という形があるかも含めて教えていただけたらと思いますが、いかがでしょうか。

「ユマニチュードの雰囲気」を作る

長谷川さん 研修が終わった後は、実技項目をチェックするチェックシートを使って、まずその講義がどう受け止められ、理解されたかの評価をしています。実際の場面での評価というのは、一度、「見る」の評価をやってみたんですけれども評価者によってばらつきが出てしまうんですね。Aさんは「ちゃんと水平でやれているね」と評価するんですけれど、Bさんは「これは距離が足りていない」とか、実践での評価というのは数値化しにくいというのが正直なところです。

ユマニチュードをきちんと理解してくれているかどうかは、日常の会話でも「この人は分かってるな」とか「この人はまだここが理解されていないな」というのは分かるのですが、数値化して評価するのは試行錯誤中です。評価表は作るんですけれども、最終的な部分でこれだというものは正直に言ってないです。委員会のメンバーで「最近はどうだ」というような全体的な評価はするという感じですね。

本田 濱田さん、補足はありますでしょうか。

濱田さん 冒頭で研修に行くだけで個々人に定着するのは難しかったとお話したと思うんですけれど、最近は皆をユマニチュードをやっている雰囲気の中にいかに巻き込むかというのが大切で、個人のスキルを追求すると出来なくなってしまうと思うんですね。

ですから「できてる、できてる。もうちょっと近くなったらもっといいよ」とか、見かけた時にはそんな感じで、その人に点数をつけるというよりもユマニチュードをやる雰囲気を作る。そうしているうちに、なんとなく皆のスキルが上がっていると感じます。

ユマニチュードは、成功したり失敗したりを繰り返しながら個人で身につけていくものだと思いますので、自分ができているのか、できていないかを確認するための目安として数値化するのはいいかもしれないですけれど、点数を付ける感覚ではない方がいいのかなと今は考えています。

本田 なるほど、そうですね。これは率直なご意見をいただけたら嬉しいのですが、「ユマニチュードケアの導入で職場に抵抗勢力はありましたか」というご質問です。

長谷川さん 実際にありましたね。うちの場合はまず全体研修を各部署でやりましたが、あまり利用者さんと接触することがない部署にそれを感じました。単純に言うと「私たちは利用者さんとは関わらない」イコール「関係ない」というのが、最初の頃はすごくありました。

ただ施設全体で職員一人ひとりがユマニチュードを学ぶということを諦めず、全体研修は必ず全員参加でやっていく中で、結果的にそう思っていた人が考え方を変えてくれたのか、諦めてくれたのかは実際に聞いてみないと分からないですけれど、今はありません。

濱田さんともよく話しますが、ユマニチュードの技術は、来客に対しても使えますし、日々の職員の関係の中でもユマニチュードをヒントに接遇をするとか、色々応用できる部分があります。実際にユマニチュードの哲学を理解することで、皆が(仕事が)楽しくなるというのを地道にやっていくことによって少しずつ歩み寄ってきてくれる状況になるのかなと思います。

本田 素晴らしいリーダーシップをとってくださる方が、情熱を持って進めてくださるというのが大事だと、私は「つくしの里」の皆様を見ながらいつも思っています。そうした仲間作りをしていただけたらいいのではと思います。

それでは「つくしの里」でユマニチュードを始めようと思ってくださり、今はユマニチュード学会の理事として活動を支えてくださってるというお立場から、市来嵜先生にお話を伺えたらと思います。

市来嵜潔・「つくしの里」施設長 大所からからどうこうということは申し上げられませんが、実際に今、「つくしの里」で色々とやらせて頂いてます。発表しましたように、(最初は)職員をただ研修させればいいんじゃないかというのが僕の考え方だったんですけれども、それでは駄目だということが実際によく分かりまして、色々と長谷川さんたちがやってくれています。

一番必要だと思っているのは、不眠のことにしても何でもそうですが、その人が「眠れない」のではなくて「寝たくない」だけなんですよね。自分の生活習慣として、寝なくていいはずのところを寝かされるのが嫌なのに、薬を飲ませるというのはおかしいんじゃないかと彼らは言ってるんじゃないかと思いました。

それを何とかしたいということで、なるべくお薬を使わずに、職員に動いてもらう形でやらせて頂いて、少しうまくいっているのかなという気がしています。ただし、それは僕に言われて職員がとても大変な思いをしているのも事実です。

でも、それはある時期頑張っていけばやっていけるんじゃないかと信じていますので、今、態勢を変えて、長谷川さんに(ユマニチュードに)専念してもらえるように考えてトライをしているところでございます。

いずれにしろ3カ月ぐらいのスパンで見てみると、フロアの雰囲気がかなり変わっているんですね。トゲトゲしさがなくなっているような気がするんです。これを今後もうまくやるためにどうするかというのが僕の仕事だと思っています。色々と考えてはいますけれど、やはりやり続けるという事しかなくて、やり続ける人が燃え尽きないようにするのが私の仕事だなと思い、今後を考えているところです。

本田 ありがとうございます。あっという間の90分でした。お二人から、最後にお言葉をいただけたらありがたく思います。

濱田さん 今日はありがとうございます。そんなに綺麗事ではなくて、まだまだ課題がいっぱいでこれからかなと思っています。来月から長谷川さんが完全にシフトからフリーになり、ユマニチュードを必要としているところに飛んでいけるというような状況が作れるのかなと思います。そこから少しずつ現場で広がっていくような状況になり、そこが評価できるようになっていけば嬉しいと思っています。

長谷川さん 研修の時のビデオを久々に見て、懐かしいというのと、あの頃は「一人」なんていう言葉を使っていましたけれども、今は仲間が増えてチームでユマニチュードにやらせて頂けているということに感謝しています。本当に課題はいっぱいあり、やりたいこともいっぱいあるんですけれども、焦らずに一つ一つクリアして、利用者さんと働いている職員が楽しい環境にいられるように、これからも頑張っていきたいと思います。今日はありがとうございました。

本田 ありがとうございました。皆様が伴走してくださっていること、そのご活躍に心強く頼もしく思っています。これからもどうぞよろしくお願いします。ご参加の皆様もありがとうございます。現場の声を聞いていただくことができて大変嬉しく思っています。

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