フランス・ユマニチュード認証施設訪問報告 前編

2022年10⽉17⽇(月)から10⽉20⽇(木)にフランスのユマニチュード認証施設を訪問してまいりました。秋が深まりつつあるこの時期、美しい緑に包まれたノルマンディ地方の認証施設ラ・メゾン・デ・ジャンヌ(EHPAD La Maison de Jeanne)でたくさんの素敵な出会いと学びがありました。

訪問の目的

今回の訪問の目的は、ユマニチュード認証施設を訪問し、①施設運営・ケア実践の⾒学及びケアの実習を⾏うとともに、②認証制度委員⻑から認証制度の審査に関するレクチャーを受けることです。

訪問施設の概要

ラ・メゾン・デ・ジャンヌは、EHPAD(Établissement d’hébergement pour personnes âgées dépendantes(老人ホーム))です。設立は、なんと1373年。ホスピスとして始まった建物を利用して運営しているそうです。認証取得は2018年。180名の高齢者の方が8つの区画に暮らしています。職員は160名、そのうちケアをする人は90名です。施設管理者のエリス・ガンビエさんは、ユマニチュード認証制度を管理する団体Asshumevie の代表でもあります。


ラ・メゾン・デ・ジャンヌの外観

施設管理者のエリスさんと森山認証制度本部長

みんなで記念撮影

訪問メンバー

フランスからユマニチュードの考案者のロゼッタ・マレスコッティ先生(ジネスト・マレスコッティ研究所 所長) 、フランク・デヴュヴュさん(ジネスト・マレスコッティ研究所 国際部長)の2名が参加。日本から総勢8名、日本のユマニチュード認証制度へ多大なご支援いただいている日本財団から袖山啓子様、日本ユマニチュード学会から本田美和子代表理事やユマニチュードの研修と認証のチームが参加しました。

1日目:10月17日(月)

朝到着すると、職員の皆さんと入居者の方、そしてたくさんの桜と日本の国旗に迎えられました。建物のあちらこちらに日本をイメージした装飾がされ、入居者の皆さんから今日のためにつくったオリジナルの歌のプレゼントや、さらに入居者の方の自作の詩の朗読のサプライズがありました。初日から職員・入居者の皆さんからあたたかい歓迎を受けました。

1日目のスケジュールは施設内見学と講義でした。

午前中は、私たち訪問者も時々一緒に参加しながら、ボールをつかったエクササイズや、転倒時に他に手段がない場合に利用する体を起こすための道具の実演などをみせていただきました。また、地域の方も利用できる美容室や、入居者・家族の方や職員が利用するカフェ、売店、ラウンジの案内をしていただきました。午後からは、職員及び地域の方の子ども2ヵ月〜6歳を対象とした10名以内の小規模保育所と、入居者で認知症の周辺症状がある方向けの院内デイケアを見学。保育所とデイケアは隣で、子どもたちは月2〜3回入居者と一緒に食事をしたり入居者と同じ活動プログラムをするなど交流しています。

講義では「施設概要とユマニチュード導入による変化」「Asshumevieと認証のアプローチ」について学びました。現在、ユマニチュードを導入している施設は7,500。そのうち103施設が認証取組み中で、26の認証施設があります。

実際に現場に入ってケアを行なう場面では、「黒子とマスター」を実践しました。実際に訪問した、丸藤さんが飛び入りで感想をくださいました。日本語で話しかけても、メッセージは伝わるなあと実感したそうです。相手の手からもそれがよく伝わってきたそうです。

食事について、嚥下食は見た目も匂いも日本で見るものとは違っていて、他の食事も手でつかみやすい形やサイズになっていました。食べながら歩くのもOKとしているとのことでした。アップルパイもおいしいし、しっかりりんごの風味が感じられたそうです。栄養面だけでない工夫がたくさんなされていたそうです。

ラ・メゾン・デ・ジャンヌにおける導入による取り組みの変化について、

・移動時にすぐ車いすを利用していたけれど歩いていけるよう歩行の付添いをするようになった

・ケアする側の利便性だけを考えて導入していた食事用エプロンを廃止

・夜間必ず3回実施していた部屋への巡回をドアを開けずに部屋の外から耳で様子を確かめて睡眠を妨げないようにした 等

また、身体拘束が43%(2014年)から4.4%へ減少(2022年)、自分の部屋の鍵を持っている方が6割から9割へ増加等の数値の変化などの説明がありました。

職員向けの取り組みとして、

・調子のよくない職員には外部専門家も介入して個別プログラムを策定し本人が希望するプロジェクトを提案している

・平日より週末のほうが職員数が少なかったため週末にメインでケアをする人を3名増員した

・天井走行リフトなど介助のための機材も多く導入する 等

職員が誇りを持ち、そして働きやすい環境づくりをしています。

離職率は低く、離職する理由は、全く異なる業種や職種に転職したり家が遠くて通えない場合のみ、とのことです。

一般的な認証へのアプローチとして、施設内の次の3つの組織によって進めるという説明がありました。

①経営会議:組織の方針の決定権を持つ経営層によって構成し、組織全体として取り組みやその方針を決定する

②推進プロジェクトチーム:実働マネジメント・働く人をサポートする人等、多職種部門横断的なメンバーで構成し、ケアの現場で必要なことを具体的に決めていく

③アクションチーム:テーマを決め適切な人数の実働メンバーで構成し、問題となっている事柄を検討して解決していく

①~③それぞれの情報が双方向に流動的でオープンであることが重要、行動が常にビジョンに立ち返りビジョンに沿っているか点検が必要。

認証の取組みを維持するためには、プロジェクトの必要性を職員全員が知ることが重要であり、シフトが変わるときに適切な申し送りを行ったり、研修を受けたリーダーと一緒に現場で学び実践を評価するなどが大切である、とのことでした。


玄関には桜と日本の国旗

日本語で「ようこそ」!

廊下にたくさんの提灯

皆さまの合唱

詩の朗読

みんなでエクササイズ

体を起こす道具

カフェと美容室

2日目:10月18日(火)

ケアの見学・参加、食事の説明や厨房見学、認証の訪問評価の講義がありました。

ケアの見学・参加では、3つのグループにわかれて、それぞれ別の区画で実際のケアの現場に入らせていただきました。ユマニチュードの技術を用いて、朝のケアを実施(着替え、整容、朝食のために食堂へ向かう等)しました。その他にも、決まった質感の生地の布を触っていると落ち着く入居者の方のために「ジョセフのバッグ」という異なる質感の生地やファスナー等がついて収納できる形態のバッグを職員が作成してお渡ししているなど、現場での様々な取り組みについてもお話を伺いました。

食事は、嚥下食が必要な方向けには、通常食と同じメニューと食材で、ビーツやりんご等食材の風味はそのままで形状を変えて提供しています。また、カトラリーをつかわない方、つまんで食べる方向けには、つまみやすいように表面を少し固めにつくっています。いずれも美しい見た目で盛り付けに工夫されていました。通常食と嚥下食のデザート・リンゴのケーキの食べ比べをしましたが、人によっては嚥下食の見た目や食感のほうが人気でした。厨房も見学させていただきました。保温・冷蔵機能のある台車で厨房から各区画へ運んで現地で食器につぎ分けて配膳する仕組みになっていました。

認証の訪問評価の講義では、施設側の取り組みと審査機関であるAsshumevieの対応について説明がありました。施設ではユマニチュードの取組みを継続するため様々な研修を計画的に実施しています。認証制度では、施設の自己評価を経て、調査員による訪問調査後、審査会による評価結果が出ます。訪問前から訪問後までの具体的な流れ、調査員の役割や訪問時スケジュール、評価について詳細な説明がありました。基本的に日本の認証制度はフランスと同様の仕組みですが、認証の種類は、フランスが1種類に対して、日本はブロンズ、シルバー、ゴールド(フランスの認証相当)と少しずつステップアップしていく3種類となっています。


グループわけ

ケアに参加

ジョゼフのバック

ビーツの前菜

シェフの説明

リンゴのデザート

嚥下食と食べ比べ


→後編へ続く

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