「介護付きホーム研究サミット2022」で優秀賞を受賞したケアホーム西大井こうほうえん(認証準備会員)の取組みをご紹介します

認証準備会員様の取り組みをご紹介します

認証準備会員として、ユマニチュード認証にチャレンジ中のケアホーム西大井こうほうえん(東京都品川区・社会福祉法人こうほうえん)が、この度、「介護付きホーム研究サミット2022」で優秀賞を受賞されました。この取り組みをご紹介します。

こうほうえんでは、開設以来、口腔ケアに注力してきました。口腔ケアは、歯・口の病気予防だけでなく、QOLの改善、誤嚥性肺炎の予防、認知症予防など全身の健康に関与します。入所当初は口を開けることすら拒絶反応を示す利用者さまも少なからずおられるそうですが、介護士を始めとするスタッフ一丸となって口腔ケアの技術を磨き、ユマニチュードの哲学と技法をもとに利用者様との良い関係性を構築することで、自ら口を開けケアに協力してくれるようになるのだそうです。

このために独自の研修制度を取り入れ、そこでは、①歯磨きと専門知識、②機能的口腔ケア、③口腔ケアプランを学び、段位制度も設置しています。半年や一年に一度、学びの見直しも行なっています。こうした取り組みが評価され、「介護付きホーム研究サミット2022」で優秀賞を受賞されました。

今回は、この取組みの経緯や成果について、施設長である田中さん(当学会の理事でもあります)、歯科衛生士の奈良さん、介護福祉士の清水さん(ユマニチュード推進委員で口腔ケア委員会チーフ)に現場の生の声をお伺いしました。

業界内でも、反響が大きく関心が持たれたとのことですが、一般的な口腔ケアがどのようなものが多いのでしょうか?

清水さん 毎食後の口腔ケアは、トイレや更衣・食事等と比べると、優先順位もついつい低くなり、歯ブラシを口に入れて動かす、スポンジで口の中を拭う等、「こなす」ケアになりがちです。入居者様が「痛い」「嫌だ」という場合には、ケアを諦めることにもなりかねないのが課題だと思います。

奈良さん 歯科衛生士の居宅療養管理指導は月に4回という回数の決まりがあり、必要な人に必要なケアを行うので、効果は高いですが、効率は決して高くないです。

田中さん お口の中というのは、とても複雑で敏感な器官です。歯の数、義歯か否か等、個別性が高くもあります。そのケアをするにあたっては、良い関係性の構築がなくてはならないものです。何も聞かされないままケアを受けることで、反射的に噛んでしまうケースも多々あり、職員はそれを自分が悪いからと責めてしまう。どちらにとってもつらいことです。しかし、こうほうえんでは現在、「噛む」ということも全くなくなりました。

口腔ケアとユマニチュードとの関係性はいかがですか?職員の意識や行動にどんな変化や影響がありましたか?

奈良さん 私は障害者の歯科衛生にも携わっていましたが、そこでは、基本的方法であるTTSD(T(Tell:説明する)、T(Touch:触らせる)、S(Show:器具等を見せる)、D(Do:実施する))にて治療を行います。治療中も、「今の状態」の説明を行い、がんばっていること、がんばったことをほめることで、成功体験を身につけていきます。何が起きるかわからない不安が安心に変わることで、治療もスムーズに進めることができます。

まさにこれが、ユマニチュードの4つの柱・5つのステップにも合致しているように思えるのです。ユマニチュードはとても有効な手法だと思います。

清水さん 立位になる時間と口腔ケアを組み合わせた取り組みをしています。立位でのセルフケアは無理でも、うがいからはじめてみる、鏡の前に立ってケア後のお口の様子を見てみる、など、一人ひとりにあった取り組みを組み入れています。口腔ケアのベースが確立されることで、他のことと連携して自立へのステップとなっています。

また、口腔ケアに関する職員アンケートでは、取り組みを始める前は関係性の確立が難しくあきらめることもあったが、入居者様それぞれに合った関わり方を工夫することで、実施率・関係性ともに上がったという声を聞くことができました。「◯○せねばならない」という考えがなくなった、気持ちが楽になった、という声もありました。

例えば入浴に関しても、これまでは「午前中に」「何人入れる」など、こちら側の都合で進め、服選び等も職員が行っていました。自分たちのものさしでケアをこなしていたという感じです。現在は、職員みんながユマニチュードという共通の意識を持っているので、一人ひとりに合ったケアを自然に実現できるようになってきていると思います。

口腔ケアに限らず、どのケアでも同じで、「できる」の基準を変えたことで、入居者様も職員も穏やかに取り組めていると思います。

独自の研修・段位制度を作るにあたって、苦労した点、工夫した点、また成果としてどのようなことがありましたか?

奈良さん 施設としての方針がしっかりしていたので、苦労といった苦労はなかったです。忙しい日々の業務の中で、全員が同じ研修を受けるにあたっては、チーム分けをして取り組む・シフトを工夫するなどの調整でやりくりしています。初級(ブロンズ)の時点で、歯の名前など知識の共有を図るので、正しい情報を速やかに共有できるようになりました。お口の異常も早期に発見できるようになりました。何よりも、「適正な口腔ケアを継続すると、歯ぐきから出血しなくなることを介護職員が身をもって体験し理解した」ことが、専門分野からみた意識の変化になり、臨床ではセルフケアへの動機づけとして有効な事象になります。

清水さん 確かに、歯ぐきから出血しなくなることを知ることは大きな体験でした。出血しなくなることが適正なケアの判断基準となり、入居者様と「血が出なくなったね」と喜びを分かち合えるのは嬉しい成果でした。

取材を終えて

口腔ケアをしっかり行なうことで、入居者様も良い気持ちになり、職員も自分の仕事に誇りを持って取り組める。朝礼のときにユマニチュードの話をしているそうですが、自分が行なうケアの体験を共有することで、聞いた側も成長につながっている。こうほうえんでは、ユマニチュードと口腔ケアを軸に、良いケア浸透の好循環が進んでいるようでした。

(取材:天田 瑞恵)

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