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「雨宿りの木」特別対談「ユマニチュードの科学的エビデンスから考える、医療・介護現場におけるデータ・ICT活用の可能性」レポート | 日本ユマニチュード学会|人間らしさを尊重したケアを共に社会へ

「雨宿りの木」特別対談「ユマニチュードの科学的エビデンスから考える、医療・介護現場におけるデータ・ICT活用の可能性」レポート

日本ユマニチュード学会の会員向けオンラインサロン「雨宿りの木」にて、昨年11月7日に行われた特別対談「ユマニチュードの科学的エビデンスから考える、医療・介護現場におけるデータ・ICT活用の可能性」の模様をご紹介します。参議院議員で当学会の理事も勤めて下さっている小川克巳さん、当学会の本田美和子・代表理事が、それぞれの取り組みからデジタル化が進む社会でのケアの未来像について語り合いました。参加者の方からの質問やご意見を合わせまして対談のやり取りを余すことなくお伝えします。

小川 克巳(おがわ かつみ)氏

参議院議員。理学療法士として活躍ののち、(公社)日本理学療法士協会副会長などを歴任し、2016年から現職。高齢者や障がいを有する方々の尊厳ある自立生活や医療・介護専門職の活躍支援に取り組む。

理学療法士が力を発揮するために

本田美和子・代表理事 本日は私どもが行っております日本ユマニチュード学会の特別な集まりとして、いつもは学会の皆様向けに行っていますオンラインミーティングをご興味をお持ちの皆様にお聞きいただけるようオープンな場として準備いたしました。と申しますのも、私どもの活動に当初からお力を貸してくださっている、参議院議員の小川克巳先生にお話を伺う機会を頂戴したからです。

どうして私たちが小川先生にお目にかかる機会を頂戴したかといいますと、小川先生は自由民主党の政務調査会の「データヘルス推進特命委員会」の「科学的介護等ワーキンググループ」の座長でいらっしゃいました。私どもの活動に大変興味を寄せて頂いて、私だけでなく、現在ユマニチュードに関する研究を進めている京都大学の中澤篤志先生(京都大学情報学研究科知能情報専攻・准教授、日本ユマニチュード学会理事)や九州大学の倉爪亮先生(九州大学大学院システム情報科学研究院・教授)と一緒にワーキンググループにお招きくださり、ご説明申し上げる機会を作ってくださいました。

実は先生のバックグラウンドは理学療法士でいらっしゃいます。そのご専門の立場からも大変興味を寄せていただき、日本ユマニチュード学会は昨年の7月に法人として出発したんですけれど、そのときから理事として私どもにお力を貸して下さっています。小川先生の詳しいご経歴はお話を伺いながら、徐々に皆様にお伝えできればと思いますが、10月からは参議院の厚生労働委員会の委員長でもいらっしゃいます。小川先生どうぞよろしくお願い致します。

小川克巳先生(以下、小川先生) こんにちは。よろしくお願い致します。

本田 今日は皆様に小川先生のことをよく知っていただきたいと強く思っておりまして、先ほど参議院議員としてのご活躍について少しご紹介申し上げましたが、先生が理学療法士としてご活躍で、教育にも携われたのちに国政でお仕事をなさるようになったきっかけについてお話しいただけますか。

小川先生 語れば長いのですが、卒業後、臨床に出まして何年かするうちに、たまたまリハビリテーションというのが社会の波に乗って、学校が全国にずいぶんたくさんできたんですね。その走りの頃に声をかけていただきまして、学校で学生の指導にあたることになりました。

その一方で社会的活動ということで、私は熊本で、熊本県理学療法士協会の会長に就いていたんですが、そのうち日本理学療法士協会という全国組織の役員を務めることになり16年間やらせていただきました。なぜそうした協会の活動をやるようになったかというと、日本独特の理学療法士の職業に関する問題、本来のリハビリテーションというのは非常に広い意味合いを持った言葉なんですけれど、(日本では)その一部である医療的リハビリテーションにあまりに特化しすぎて、理学療法士が十分に力を発揮しきれていない、システムが作れていないということがありましたので、その辺りを整理したいと思っていました。

ただ、役員の立場で行政とも折衝をしていたわけですが、なかなか歴史の浅い職種でもあり、政治力もございませんし、団体としては非常に未熟な団体でもあったので、なかなか要望が通らないということもありました。私がちょうど副会長10年目の時に参議院選挙がありまして、「組織代表として誰か出すべきだろう」「じゃあ誰が出るんだ」という話になり「失うものがないお前が一番いいだろう」と、当時は子供たちも巣立っていましたので挑戦したところ当選させていただいて、今、5年目に入ったところです。

本田 そうなんですね。議員としてのご活動の中で、リハビリテーション、理学療法の方々が一歩前に進むようなことは何か起こりましたでしょうか?

小川先生 政策を議論するのが国会ですけれど、その中で医療に関しては医師、看護師というところで議論が完結してしまい、その他の医療専門職の話に全くなりません。少しずつ声を上げることで周りの議員さんたちにまずは理学療法士という存在を知ってもらったということが、一番大きかったと思っています。具体的な政策、課題はまだまだこれからですが、障害者職業紹介業務取扱要項について、理学療法士が任用条件に書き込まれるなど、そういう小さな変化はいくつかありますが、これからかなと思っています。

本田 素晴らしいですね。先生が座長をなさっているワーキンググループでは、どうして私どもに声をかけて下さったのでしょうか?

ユマニチュードで「介護を科学する」

小川先生 私が議員になって厚生労働委員会に配置していただいたとき、大臣の塩崎恭久先生(衆議院議員)が、2017年4月の未来投資会議(注1)で、厚労省におけるデータヘルス改革について三つの柱を掲げられました。1番目が「最先端技術の活用」、2番目に「ビッグデータの活用」、3番目に「ICTインフラの整備」ということで、この「ビッグデータの活用」の中に「科学的介護の実現」ということが入れられたんです。

実は私、介護を科学する、EBM(Evidence Based Medicine=エビデンス・ベースド・メディスン)ということに随分前から取り組んでいまして、介護は基本的には人対人の対応ですから、エビデンスをどこに求めるのかが非常に難しい領域だと思っておりましたので、「どれどれ、お手並み拝見」と高みの見物を決め込もうとしていたんです。ところが、塩崎先生が厚労大臣を降りられた後、党の中に「データヘルス改革推進特命委員会」が作られて、塩崎先生から「そこをやってくれ」と言われ、「え、こっちにくるの!?」と驚いたんです。

そこで、「介入の質」をどう標準化するか明らかにしないと、科学的介護の実現は難しいなと悩みましてね。どういう介入をしたか、我々でいうと理学療法の手技で「こういう訓練をやりましたよ」と言ったとしても、(重要なのは)その質なんですね。たとえば、「寝返りの動作訓練をやりました」といっても、寝返りを誘導するためのスキルの上手下手がどうしても出てくる。この質を標準化しない限り、「これをやったからこうなった」とは言えないので、介入の質を何とかしなければいけないと思っていました。

そんなときに、世の中には神様っているんだなと思ったのですが、2019年1月10日、テレビをつけましたら「クローズアップ現代プラス」(NHK)が始まって、その時の副題が「科学的介護最前線」でした。

「おお!」と食い入るように見て、先ほどお話のありました中澤先生と倉爪先生のお名前を知って、お出でいただいたんです。お二人から日本にユマニチュードを持ってこられた本田美和子先生という人がいますとご紹介いただきまして、(その年の)4月に本田先生にお出でいただいて、今年も2月に考案者のイヴ・ジネスト先生と一緒にお越しいただいて、科学的な見地からユマニチュードのお話を伺ったということです。

ユマニチュードの「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの柱の要素は、理学療法士の要素と全くぴったり合うんです。私は33年ほど学生の指導をやったんですが、実技指導をやる場合に、どういう風に触れるのか、どういう風に向き合うのかという話をずっとやっていたんですけれど、その話の思いは、まさにユマニチュードの思いと言いますか方法論とも合致したので、これは他人ごとではないと思いまして、学会にも参画をさせていただきありがたく思っています。

本田 私も国会議員の先生方がこういうフィールドについてもご興味を持っていらっしゃるということを聞いたときに、大変うれしく思いました。

今、小川先生がおっしゃったように、一体何をもって良いケアとするかは大変難しくて、しかも上手な技術を持っているとみんなが思うような方であっても、そのご本人はどうして自分が上手なのかを他の人に言葉で説明できない。良いケアを客観的に記述してそれを学ぶということは、私もユマニチュードを知る前から大変難しいと思っていました。

ユマニチュードというのは、フランスのジネスト先生とマレスコッティ先生がお作りになられたものですけれど、お二人も上手くいくときといかないときは何が違うのかについて40年間ずっと観察してきました。例えば、こういう風に触れないと相手は立ってくれないんだとか、こういう風に話すと相手に拒絶されやすいんだというような、ものすごい数の失敗を重ねて生まれた技法です。「失敗のケアといってもいい」「失敗しないと人は学ぶことができないと」ジネスト先生はいつもおっしゃっています。

この経験に基づいた実績を科学的に、客観的に記述して分析するユマニチュードの研究は、私が2012年に日本にユマニチュードをご紹介することになったことがきっかけで始まりました。経験として上手くいくということが分かっているけれど、それがなぜ有効なのかを客観的に評価することが必要だと思ったからです。

といいますのは、日本でいろいろな方にいいですよと紹介してもらって、テレビで見てもらうのはすごくいいんですけど、それをより広く学んでいただくには、小川先生が先ほどからおっしゃっている標準化がとても重要で、誰が評価してもそうだというような基準が必要だなと思っておりました。そんな時に中澤先生や倉爪先生、最初に声をかけてくださったのは静岡大学の竹林洋一先生(静岡大学創造科学技術大学院・特任教授)なんですけども、介護や医療やケアとは直接関係のない情報学の先生方が、自分たちが持っている技術で証明できるから一緒にやりましょうと声をかけてくださったことが私にとっては本当に幸運でした。

お力を借りる、という点では小川先生も全く同じです。理事をお引き受けいただいたときの嬉しさは忘れられないんですけど、今更ですが、どうして理事を受けて下さったのでしょう?

コミュニケーションを諦めない

小川先生 先ほどのお話とリンクするんですけど、ご縁だなというのが一つあります。いかに科学的に再現可能性を高めていくのかっていうことが、ここでできそうだなと感じたのが大きいと思います。それと、私の本来の職業である理学療法士という仕事にこの「4つの柱」はピタッとくるものがあったことです。技術を人に伝えること、もともとその人のセンスや感性が影響することを根拠をもって伝えるという方法論が教員の当時は見つからなかったということもあり、ユマニチュードで私自身の中に抱えていた課題が一つ片付けられるかもしれない、私のできることでお手伝いできればということでやらせていただきました。

後でお話しようと思っていたんですけど、(ユマニチュードは)認知症の患者さんとの対人技術、コミュニケーション技術で言われているわけですけども、必ずしも認知症の方だけでなく、一般的な人対人の関係性を作るときにも大事なことだと思います。そういう感覚で、ユマニチュードが生活習慣の中に定着できるようになればと思います。

本田 ケアに困る状況としてよくあるのが、例えば脆弱な高齢の方や認知症をお持ちの方なので、使い勝手の良さから「高齢者ケアユマニチュード、認知症ケアユマニチュード」とご紹介いただくことが多いのですが、先生がおっしゃったようにその対象はとても幅広いものです。

私は今、京都大学のリハビリテーションの先生方と一緒に自閉スペクトラム症をお持ちのお子さんを育てている親御さんにユマニチュードを教える取り組みを行っていて、予備的研究が終わったところなのですが、親御さんの対応が変わると、子供の状況が変わる、親子関係が変わるという結果が得られて、人と人のコミュニケーションの中では、いろいろな所に使えるのではないかと思っております。

小川先生 そうですよね。不寛容な社会で生きづらい社会と言われますけど、ちゃんと向き合ってないんじゃないか、向き合えばもう少し許せるような気がするし、許してもらえそうな気もするので、ちゃんと向き合うっていうことが基本にあると思っています。ユマニチュードのようにですね。

本田 そうですね。うまく関係が結べないとき、相手からの返事がなかったり、認知症の方から理解できない答えが返ってくると、こちらがやりとりを諦めてしまうんですよね。コミュニケーションを諦めてしまうことが相手をより遠ざけてしまうというか。

先ほどご紹介した研究では、自閉症のお子さんたちと親御さんとのコミュニケーションを映像で評価することから始めたんですけれど、親御さんは最初は全然子供に話しかけないんです。一生懸命、子供と遊ぼうと努力はしてるんだけども静かな時間が流れていたり、アイコンタクトがなかったり、おもちゃを使おうとはしてるんだけど子供に直接相対しないことが特徴的でした。子供が喋らないので、親も黙ってしまうようです。講習会にご参加いただいた後にもう一度映像を撮らせていただいていたんですけど、親も子もどんどん変わっていました。コミュニケーションを諦めないこと、さらに、自分がコミュニケーションを諦めてしまっていることに気が付くことが課題解決の鍵になるかもしれないと思っているところです。

小川先生 結果が出るんじゃないかと思いますね。私の父が晩年は軽い認知症になり、苦労というかな、父からいじめられたところはあるんですけど、仕事で認知症の方と向き合うときと、身内で向き合うときの落差っていうのはすごいなと思いました。それまでは介護教室なんかで偉そうに喋ってたんですけど、いざ自分の身に起こるとこれはなかなか大変なことだなと思った経験があります。

本田 ご家族の介護というのは、これからの日本ではますます重要性を増してきます。まずは認知症をお持ちでも心配せず、安心して過ごしていける社会作りが重要になってくると思います。

そうした中で、福岡市が髙島宗一郎市長のリーダーシップのもとに「福岡100」というプログラムを作っていらっしゃいます。人生100年時代に,誰もが住み慣れた地域で健康で自分らしく暮らせるための100の取り組みなんですけれど、ユマニチュードをその基幹事業にしたいと声をかけてくださいました。

その中で、ご家族向けに介護の研修会を開催し、その効果を検討する研究を行いましたところ、多くの方がご参加くださいました。この研究では、介護をしていらっしゃる方々の介護負担が減り、介護を受けていらっしゃる方の認知症の行動心理症状が減るという結果が出て、大変うれしく思いました。

これにとどまらず、もっとうれしい驚きもありました。福岡では140人ほどのご家族がユマニチュードを学んでくださったんですけど、この研究にご参加くださった方々の中から「ユマニチュードはみんなが知っておいた方がいいことだから、本田さんが忙しいなら私たちがお伝えしますよ」と名乗りをあげてくださる方々が生まれ、現在、ユマニチュードの地域リーダーとして、公民館や小学校などでユマニチュードを紹介してくださっています。

また福岡市の消防局、救急隊の隊員の方にユマニチュードを学んでいただくというプログラムも3年目になりました。高齢者の搬送がとても増えているけれども、搬送までのコミュニケーションに難しいことが起きている、課題があるとご相談を受けたことがきっかけです。大変好評をいただいて、救急隊の方々が手ごたえをもって、コミュニケーションとしてユマニチュードを使ってくださっているというのがうれしいなと思っています。

小川先生 いいですね。もともと私は福岡の出身なものですから、市全体の取り組みがあると聞いてうれしいです。今年から「CHASE」(注2)いうデータベースシステムが動き始めて、私の科学的介護のワーキンググループはもうおしまいかなと思っていたら、また新たに計画を組まなければいけないということになりました。自治体ごとの取り組みが広がるといいなと思っていますので、福岡市の取り組みの状況なども含めてまたお話していただけるとありがたいと思いながら、お話を伺っていました。

デジタル社会で人をどうつなぐか

本田 いつでも参ります!どうぞお声をかけてください。コミュニティについても何かお考えがありますでしょうか?

小川先生 「地域包括ケアシステム」(注3)のベースが地域づくりということなんですね。自立支援を具体化していく中では、菅総理もおっしゃっているように、自助共助という枠組みが大事になるだろうと思っているわけですが、さてシステムが本格化する2025年を目の前に、地域づくりって本当にできているのかということが疑問ですし、今回のコロナ騒動で社会活動が抑制を受け、人と人の距離が遠くなってしまった。デジタル化が進んできたところで、コロナ禍が多少収まったとしてもこの形態は変わらないだろうと思うと、人と人との距離をどうつなぐのか、物理的な距離を何かでまた近付けるということをしないと、地域づくりはできないんじゃないかと思っています。

今、本田先生とこうしてお話をさせていただいてますが、基本的にデジタルを使ったコミュニケーションというのは一対一という話になります。参加者が複数いたとしても、お話は一対一になりますので、これを本当にコミュニティと言えるのかということも気になっています。今年の通常国会で「スーパーシティ法案」(注4)が通りまして、簡単に言ってしまうとデジタルトランスフォーメーション、DXということですが、IOT、ICT、AIと言ったデジタル技術を総動員して日常生活の便を高めていく、要は人と人がFace To Faceで会わなくても用務ができる、用事が片付いてしまうことになります。

そういう社会がくるとしたら、人と人とがぬくもりを感じる付き合いをどう作っていくのかが個人的に気になっています。人と人がつながれる一つの大きな方法論がある中で、これからの社会の作り方を考えるとき、どう折り合いを付けるのか。しっかりとしたことを我々も考えておかないと、便利にはなったけど、ますます人と人の距離が遠くなってしまったということになりかねないと思ったりもするんです。

本田 小川先生がおっしゃるような技術を使うとき、人同士がどうつながっていくか、身体的なこともありますし、精神的なこともあると思います。例えば去年の今頃、私が先生とこんな風にオンラインで話し、こんなにたくさんの方々に聞いていただくなど、思ってもみなかったことです。でも、あっという間に現実のものになって、今はこういう会議が主流になっています。何か大きなきっかけで物事が急速に進む時代に私たちが直面していると考えますと、私たちが今想像していないようなことがいきなり実現する可能性があるんじゃないかと思います。

先ほど、お話しいたしましたが、ケアの「良い技術」ということがジネスト先生達の40年の経験で分かってきて、それを情報学の先生方が「こういうことなんだよ」と分析してくださって、今度は工学系の先生方が「そういうものを実現するにはこういう動きがあるといいんだ」と、ロボット技術と統合してくださる、という共同研究を進めています。

今、奈良先端研(奈良先端科学技術大学院大学)の先生と一緒に行っている研究で、触るときの気持ちよさを再現するロボットというのを作っていただいているんです。良い介護を再現する技術があって、その技術を搭載した機械がそんなに遠くない未来に生まれる可能性があります。例えば今、人がやるにはあまりにも大変ということを機械に任せることができるかもしれないし、その一方で、「一緒にいてうれしい」というコミュニケーションの愛情であるとか安心であるとかを様々なものと人がやり取りできるような社会が生まれてくるといいんじゃないかと思っています。

先生がおっしゃっている共助と公助と自助、この三つはどんな関係があるとお考えですか?

「公助、自助、共助」

小川先生 順番からいうと、自助、共助、公助ってよく言われるんですけども、公助が先にあって、そのうえで自助共助だと私は思っています。人が自らの力で事を成したいというのは自己実現欲求ですよね。人が持っている基本的な、本能的な欲求ですので、放っておいても自分でなんとかしたいんですよ、みんな。それができる環境を作ってあげるのが公助だと思っています。

ですからまず、社会支援を含めて公助でしっかりとした社会基盤を作ってあげること、そういう環境を整えてあげるという意味で公助があって、その上で「自分でやってみましょう」を応援する共助があると思っています。だから順番を公助、自助、共助に変えたほうがいいのかなと思うんですけど。

本田 そうですね。とりこぼさないというか、セーフティーネットがあって、そのプラットホームの上で様々な活動がでてくるといいですね。小川先生に「公助が先にあって、その土台のもとに共助や自助があるという視点には私も大賛成です」というコメントを頂きました。「小川先生がお父様の介護経験を通じて、これはぜひ解決しておきたいと感じられた課題があるようでしたら教えて下さい」という質問も来ています。

小川先生 ユマニチュードの考え方は活用できるなと思いますけれど、そのベースは「諦める」ところから始まると思っています。まずは受け入れてしまう。特に身内の場合はなかなか受け入れができないんですね。他人ですと、こんなものだという受け入れ、理性的な判断ができるんですけど、どうしても情が絡んでくると難しい。ですので、仕方がないと諦めると一定の距離を保ちながら観察ができるようになると思います。

そういう意味では「戦っちゃいけない」というのが私の教訓と思っています。つい戦っちゃう、「なんとかしなくちゃ」と思ってしまうんですけど、そうする必要はない。「いずれ行く道」というお話もありますし、そうだとするのなら、特殊な状況ではないということを前提として受け入れることが必要なのかなと。そうすることが自分を守ることになるし、自分が明るい気持ちでいられれば、ゆとりをもって向き合うことができると思います。

(参加者の方から)「機械がバイタルサインやせん妄患者の変化を検知してくれるなら、問題行動が起きる前に介入できると思います。忙しくて看られないのではなく忙しくてもデータに基づき駆けつけられるICT、期待しています」というコメントがありますけれども、まさにここに結び付けていくのが科学的介護だと思いますので、私も努力をしていきたいと思っています。

本田 先生がおっしゃったことで、私も補足しておきたいことがあります。コミュニケーションを諦めないことはケアにおいてとても重要だと思います。その一方で、状況に関しては諦める必要があることです。状況については先生がおっしゃった「戦わない」ことが、私はとても大切だと思います。自分だけで戦わず、ほかの人の力をできるだけ借りる「頼る力」も重要になってくるんじゃないかと思います。

ほかにもご意見が寄せられていますけれども、あっという間に予定の時間となりましたので今回はこの辺りで終わりたいと思います。皆様、聞いてくださってありがとうございました。小川先生、今日は楽しいお話をたくさん伺うことができてとてもよかったです。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

小川先生 ありがとうございました。楽しい時間でした。

(当日の対談を、発言の意図が伝わりやすよう、また読みやすいように削除・加筆・修正しています。ご了承ください。)

注釈

1. 未来投資会議 2016年9月に発足した内閣総理大臣を議長とする、国の成長戦略を議論するために作られた会議。

2. CHASE (チェイス)   厚生労働省が介護領域におけるエビデンスを構築するために、介護現場での高齢者の状態やケアの内容等を収集するデータベース。2020年5月に運用を開始した。

3.地域包括ケアシステム 高齢者が可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域で住まいや医療、介護、生活支援、介護予防など包括的な支援やサービスを提供するシステム。厚生労働省が2025年をめどに構築できるよう取り組みを進めている。

4.スーパーシティ法案 内閣府が提唱した未来都市「スーパーシティ」構想を実現するための国家戦略特別区域法の改正案。「スーパーシティ」とはAIやビッグデータを活用し、キャッシュレスや自動運転、遠隔医療や遠隔教育など生活全般にわたりスマート化された最先端都市のこと。

※自民党政務調査会データヘルス推進特命委員会が取りまとめた提言(2019年5月30日)については以下をご参照ください。
https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/news/policy/139863_1.pdf

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