シンポジウム『ケアの連携〜調布東山病院での事例』開催レポート

第3回日本ユマニチュード学会総会で開催したシンポジウム「ケアの連携〜調布東山病院での事例」の模様をご紹介します。ご家族、地域、施設でユマニチュードのケアのバトンがつながれていく貴重な事例を当事者の皆さまが語って下さいました。

ご登壇者
佐々木澄子さま 吉澤真理さま
家族介護者(お二人は母娘です)
安達英一さま
社会福祉法人桐仁会居宅介護支援事業所
栗田香織(ユマニチュード認定インストラクター)
特定医療法人社団研精会 デンマークイン若葉台 
佐久本和香さま
医療法人社団東山会 東山訪問看護ステーション科長
安藤夏子(ユマニチュード認定チーフインストラクター)
日本ユマニチュード学会教育育成委員長
医療法人社団東山会 調布東山病院ユマニチュード推進室科長 
進行役
杉本智波(ユマニチュード認定チーフインストラクター)
第3回総会大会長 日本ユマニチュード学会学術研究委員長

映像配信

※映像は2022年3月末までの公開です

シンポジウム『ケアの連携〜調布東山病院での事例』

杉本智波・大会長 今回は「ケアの連携〜調布東山病院での事例」というテーマでシンポジウムを開催いたします。このテーマにしたきっかけは、インストラクターの安藤夏子さんからのご提案でした。ユマニチュードは大切なケアの技法ですが、継続、連携というところではまだまだ課題が多いのが現状だと思います。ユマニチュードのケアが地域の中でどういった変化をもたらすのか、そうしたお話を伺いたいと思います。

まず今回、私たちにたくさんのことを教えて下さいます佐々木澄子さまと娘さんの吉澤真理さま。共に夫で父親の佐々木健太郎さんを介護されています。澄子さんは前もって撮影しました映像での御登壇です。

吉澤真理さん 今日はよろしくお願いします。

杉本 よろしくお願いいたします。そして佐々木さんの地域での生活をずっと支えていただいておりました、安達さま、佐久本さま。

安達英一さん ケアマネージャーの安達と申します。よろしくお願いします。

佐久本和香さん 東山訪問看護ステーションの佐久本です。よろしくお願いします。

杉本 よろしくお願いいたします。そして、デンマークイン若葉台のユマニチュード認定インストラクターでいらっしゃいます、栗田さん。

栗田香織インストラクター よろしくお願いします。

杉本 そして調布東山病院のユマニチュード認定インストラクター、安藤夏子さん。

安藤夏子・教育育成委員長 よろしくお願いします。安藤です。

杉本 佐々木健太郎さんの紹介を安藤さんからお願いします。

ケアが届かず疲弊するご家族

安藤 今回の学会総会の「つなげようケアのバトン」というメインテーマのもとに、本日は調布東山病院と在宅と施設でのケアの連携の事例を共有させていただければと思います。まずはこれまでの介護のご様子について介護者である、妻の澄子さんからのお話をご覧ください。

佐々木澄子さんインタビュー(VTR上映)

看護師さんやお風呂の(介助をしてくれる)人が来てくださって(ケアを)やってると「触るな!」「お前は誰だ」と叩いたりつねったりがひどくて、罵詈雑言、言いたい放題で看護師さんはあっちつままれ、こっちつままれ、申し訳なくて。

とにかく手早くやらなきゃいけないというのがまず第一。手早くやって、あんまり触らない。私がやる時は手早く、ちょこっと触ってパパパっとやろうとして、それが頭にしみ込んでいました。『1、2の3』で洋服を持ち上げたり、脱がせたりしてたんだけど、いつだったかゴツーンとゲンコツがきて、膝蹴りを食らったりもして。

『一生懸命やってるのになんで叩くのよ!』って言うと、向こうも売り言葉に買い言葉で『バカ野郎!』とか『クソばばあ』だの、日によって言葉が違うんだけど、その応酬になっちゃって。こっちもまた今日も何か言われるかなと思って言葉も少なくなっちゃって、『おはよう』とかそういう言葉かけもしなかったですね。

私も自分がやってることが間違いだとは思っていないから、正しいことを私がしてるのに向こうが嫌がって、なんでこんな怒ってるのか分からない。そーっとやっていたら遅くなるじゃないですか。だからとにかく手早くやっていたんだけれど、それが本人にとっては苦痛だったのね。(ユマニチュードを知るまでは)それが一切分かってなかったんです。

安藤 このように非常にご苦労されていた澄子さんだったんですが、ユマニチュードが介入することになった経緯をご説明します。

佐々木健太郎さんは妻の佐々木澄子さん、本日ご参加くださっている長女の吉澤真理さんの介護を受けながらご自宅で生活をされています。10年前に発症した脳梗塞の影響で左片麻痺と左上下肢の拘縮があり、ベッドで過ごす24時間の生活は常に介護を必要とされている状態です。

ユマニチュードが介入することになったのは、遡ること昨年(2020年)の6月、本日ご参加いただいている訪問看護ステーションの佐久本科長より依頼をいただいたことがきっかけでした。それまでは週に1回の訪問看護と訪問入浴のほかに、ショートステイを利用されていたのですが、長年利用されていたショートステイ先の諸事情で利用先が変わると、ご本人のスタッフに対する暴言暴力を理由にそちらから利用を断られてしまいました。

※安藤さん作成の資料より

暴言暴力はショートステイに限らず訪問看護、それから訪問入浴、そして毎日介護をしているご家族にも同様の状況でした。それでもショートステイの利用を家族の休息時間とすることで何とか頑張ってこられていたのですが、それが利用できないという状況になったことで、ご家族の介護負担、それから疲労が顕著となってしまいました。そして佐久本科長が途方に暮れているご家族を心配して、相談をくれたことが介入のきっかけとなりました。

杉本 ケアを一生懸命やっていたのだけどなかなか良くならない状況というのは、澄子さんの言葉で十分に私たちに届く内容だったと思います。ではユマニチュードが入る前の状況を一番近くで見ていた安達さん、よかったらその時の状況をお話しして下さい。

安達さん 昨年4月から私が担当で伺ったんですけれど、その頃からショートステイ先から「利用中の介護が大変です」といったような相談が私の方に直接あったり、家族の方にも連絡がいきました。具体的にいうと「手が出る」「暴言がある」ということで、施設では受け入れは難しいということが何度もあり、訪問する度に、澄子さん、真理さんが下を向きながら「どうすればいいんだ」とお困りでいらっしゃいました。

安藤さんが入るようになってから、少しずつ、家族と介護に対するお父様の反応が変わったという話を訪問時にお伺いするようになってきました。

杉本 一番近くでご苦労なさってるご家族と、決して良い状況ではないご本人様、そして依頼をする施設の方のおっしゃる内容も十分に理解なさっていて、その間で非常にご苦労なさったんじゃないかと思います。

佐久本さんが安藤さんに介入の依頼をなさったわけですが、その前の状況、訪問看護として関わっておられた時の状況を佐久本さんから改めてお伺いできますか。

佐久本さん はい。佐々木さんは約3年前ぐらいに、私が在籍しています訪問看護ステーションの母体の調布東山病院に「食欲が少なくなってきた」ということで検査入院をされました。退院された時に退院後の体調確認を訪問看護でして欲しいというご依頼を受けました。その時にも病棟の看護師さんから「少し攻撃性があります」という申し送りがされていたと記憶しています。

訪問看護を続けるなかで、攻撃性が常時あるということも分かってきましたし、それがサービスを提供する側に向かうこともありました。毎日本当に一生懸命介護していらっしゃるご家族が攻撃されるというお話も伺って、ご家族も私たち関わる側も胸を痛めながら介入していました。

ご家族からお父様を「家で過ごさせたい」「支えたい」というご希望を何度も伺っていましたので、どうにかこの状況を解決できないかと考えましたが、ショートステイが攻撃性の問題で難しいというところで、ご家族も私も途方に暮れてしまい解決策が見えないという状況になってしまいました。

こうなったらユマニチュードの技を持っている安藤さんに助けてもらおうということで、澄子さん、真理さんとお話をしまして、安藤さんに依頼をしたというのが経緯です。

杉本 それぞれ関わっておられる専門職の立場から、非常に悩み多き状態だったということが非常によく伝わってきます。佐久本さんの言葉で印象的だったのが、家にいたいと思われているご本人の願いを叶えたいとご家族も懸命に介護をなさっている状況。けれども良い状況にならないという苦しさが、イメージがつくぐらいしっかりと届きました。ユマニチュードの介入が始まってから、その後の経過を安藤さん、引き続きご説明いただけますか。

まずは「触れる」技術から

安藤 はい。昨年6月から訪問看護に同行してご家族と一緒に介護の方法について考えてきました。介入の経過を簡単にお伝えしますと、初回訪問の時に、清拭、着替えたりというところの抵抗が非常に強く、触れられることに非常に敏感に反応しているということが分かりました。

普段は、先ほど澄子さんが「とにかく触ると怒るのでなるべく触らない、パッパッパと急いで行う」とおっしゃっていましたけど、この工夫がですね、ご本人にとっては不快な情報として届いてしまって、ケアが難航しているのではないかと考えました。まずは触れる時に工夫することとして、ユマニチュードの触れ方の技術をお伝えしました。

それ以降は毎週少しずつ少しずつ技術を足していって、技術の習得に重点を置いたのちに、今度はそれが定着するように訪問看護の際にはご家族と一緒にケアを行っていきました。

これは娘さんの真理さんの提案なのですが、ケアの様子をビデオに撮り、実際に行ったケアを振り返るということを続けています。

こちらはご自宅の様子なんですが、ご本人の部屋の扉やベッドサイドには真理さんの手作りの貼り紙が貼られていて、奥様の澄子さんが忘れないように工夫されています。

このようにご家族がユマニチュードケアを実践されることによって、本人に変化がみられるようになってきました。実際に澄子さんの声を聞いていただければと思います。

佐々木澄子さんインタビュー(VTR上映)

あっちもこっちも(施設に健太郎さんの受け入れを)断られて、どうしようと思っていた時に、パッと安藤さんが目の前に現れて。真理が『お母さん、ゆっくりやって、ゆっくりやって』って言うのと同じで、安藤さんも『こうじゃなくて、こうですよ』って。私のすぐ前でなさって、そうしたら相手が変わったんだから。それで目がぱちくりですよ。

今までは声かけるのも嫌だったけど、自然に『おはよう』と出て、(健太郎さんも)目をつぶってたのが目を開けて『おはよう』とか言う。自然に私もそういう態度が出来るようになったのが、自分でも驚いていて。

安藤 今まで自分なりに考えて、良かれと思ってやってきたものがあり、それを変えるというのは最初の一歩としてすごく大変だったと思うんですけれど、半信半疑ながらも変えてみて下さった。スタートは技術を変えたことですが、それによって健太郎さんご本人の反応が変わったことで、今までは「話しかけることも嫌だった」という澄子さんが自然に声をかけるようになってきました。「そんな自分に驚いた」とおっしゃっていましたが、私たちも澄子さんの変化には非常に驚きました。

このように健太郎さんが落ち着き始めた頃に、在宅チームとしましては、ご家族がこの先も在宅での介護を続けていくためには、断られてしまっていたショートステイの利用を再開できないかと考え始めました。ただ、お住まいのある市内ではどこも受け入れがないと、ケアマネの安達さんも悩まれていまして。

一方で、ユマニチュードの介入によってご本人の状態が落ち着いたということもあって、このケアを継続してつないでくれるところがないだろうかとも考えていました。そこで、市外ではあったんですが、栗田インストラクターが勤務されているデンマークイン若葉台に相談をしたところ、本当にありがたいことに施設で検討して下さり、その結果、受け入れてくださることになりました。

昨年の10月に初めて入所しまして、約1カ月の施設入所、そして在宅で3カ月過ごし、そしてまた1カ月デンマークインに入所ということを繰り返しています。在宅と施設との共通言語としてユマニチュードケアの継続というものがあり、バトンを渡しては受け取って、また渡すということが実現できています。

杉本 ありがとうございます。皆様が自分の持てる力全てを使って判断をして、その時の状況に応じて「これがベストではないけれど、これしか方法がない」という中で支え続けてきた。その時に技術を持った安藤さんがやってきて、少しずつ澄子さんがその方法を取り入れてくれるようになった。

私たち医療者は、ご家族の在宅介護の生活の中で24時間ずっといるわけではありません。佐久本さんが一番よくご存知だと思いますけれど、スポットで行く中で、常に一緒にいるご家族が試行錯誤している中で編み出した、とにかく早く済ませようという方法を毎日続けていらっしゃった。これは決してご家族のお話しだけではなくて、私たち医療者も同じような場面を臨床で多く経験していると思います。

第2の課題であったショートステイの利用に関しては、栗田インストラクターの働きもあって、今、「デンマークイン若葉台」でのショートステイの利用と家での生活をなさっているということですが、ショートステイの間の、健太郎さんのご様子を栗田インストラクターからご説明いただければと思います。

在宅と施設 つながるバトン

栗田 ご家族と安藤さんからのバトンを私たち介護士が施設で受け取る形で、ちょうど1年前ぐらいに初めて1カ月の利用をしていただきました。初めてお目にかかった1日目は、みんなが緊張していたと覚えています。一緒に来てくださった真理さんも「本当に1カ月間、大丈夫かな」って不安そうな様子で、健太郎さんご本人もお家を出られるときは緊張して、寂しそうだったとお聞きしました。お迎えした私たち職員も、1カ月無事にケアをすることができるのかなと緊張していました。

その顔合わせの日に、ご家族が安藤さんから教えてもらったユマニチュードのケアで特に気を付けていたことをお手紙にしてお持ちいただいて、それを私たちフロアスタッフみんなが読んで、施設での健太郎さんのケアがスタートしました。

なかなかスタートからそう上手くはいかず、ご自宅で悩まれていた状況が施設でもありまして、スタッフが健太郎さんの強い言葉を受けてしまったり、ケアの最中につねられたり。ただ、そこで「大変な人だな」とか「仕方ない」で終わらせず、スタッフみんなで「今のはなぜいけなかったのかな」と考え、観察をしてやり方を変えたりと様々な工夫をしました。

ユマニチュードの関わり方を繰り返し繰り返し実践し続けることで、スタッフの中でも上手くいった時のケアの方法が当たり前のケアの方法となっていき、そうすると徐々に健太郎さんにも変化がみられるようになりました。介護の拒否や抵抗が軽減されて、ケアを受け入れてくれる様子が見受けられるようになったり、ケアの最中に、例えば(体位)変換していく時に柵につかまってくれたり、移乗する時には私たちの首のところに健太郎さん自らが手を回してきてくれたりという形で、協力動作をいただけるようになってきました。

中でも、お家ではなかなかできなかったベッドから起きて車いすに移ったりという、ベッドから離れる、移乗する時間を作ることができたことが、ケアを受け入れてくださった一番大きな変化かなと私たちは思っています。

施設では起きる時間をお食事の時間に絞って、朝食、昼食、おやつ、夕食と4回の時間にお声がけをしています。ご飯の時間だから「じゃあ起きますよ」ではなくて、毎回健太郎さんご自身に「お食事はどちらで召し上がりますか」と聞くと、健太郎さんご自身が「みんなと一緒に食堂で」と選択してくださるようになって、起きる時間を確保できるようになってきました。関係性ができたからこそだと思います。

全ての食事ではないですが、ほとんどの時間で自ら起きるということを選択してくださり、その離床されてる時も、お話とまではいかないですけど同じテーブルの方々と一緒に食べている姿を見ていると、「起きる」という行為をネガティブなものではなくて、ポジティブなイメージとして捉えてもらえたのかなと感じました。

食事の摂取量が増えていたり、お食事の後もお部屋に帰らずに皆さんと一緒にテレビを観るという選択をされたり、そうした行為からも「起きる」こと、施設での生活がそれほど苦痛ではなく、安心できる環境に徐々になっている、ケアを継続することで私たちが受け入れてもらえているのかなと感じることができました。

1年前のご入所から現在までに3回のご利用があり、つい先日、3回目のご利用を終えてご自宅に帰られたんですが、入所を繰り返す度に状況がどんどん良くなって、スタッフに労いの言葉をかけてくれたり、他の利用者さんに「○○さん」と声をかけたりされるようになりました。ご家族様、ご本人様がご希望される在宅ケアが続けていけるように、施設としてのサポートをこれからも続けていきたいと思っております。

杉本 ありがとうございます。良いバトンが渡っては戻ってきて、また渡っては戻ってと、落ちることなくバトンがつながっているんですね。ケアのバトンがどこかですり抜けることがないようにと考える上で、非常に重要なお姿だなと思います。

お話の中で私が感じたことは、健太郎さん自身が安心できる環境を二つ持たれたことの意味です。安心できる人たちに囲まれる場所が二つあるというのは非常に重要なのではと思います。デンマークインという意思を持って出かける先、その場所があることが非常に生活の豊かさにも繋がっていくのではと思いながら聞かせていただきました。

では一番近くでお父様の状況を見て、そしてお父様を介護をなさっているお母様の状況も一番近くで見ていらっしゃった娘様の吉澤真理さんからお話をいただきたいと思います。ユマニチュードが入る前のこと、そして現在、何か変化を感じていらっしゃるようでしたら、そういった点もお話いただければと思います。

「ユマニチュードで母が一番変わった」

真理さん 父に関わって下さった皆様のお話を伺って、昨年の6月以前はあんなに大変だったんだなと思い返していたんですけれど、ちょうど安達さんがケアマネージャーになる前に、1年の間に2回ケアマネージャーさんが変わったんです。安達さんは父のことがよく分からない状態、ショートステイ先とうまくいってないところからのスタートだったので、ご心配やご苦労をおかけしたなと思います。

安藤さんが6月に来てくださるまで、本当に毎日父の介護をするのが地獄のようでした。父自体は1日中不機嫌だったわけではなく、食事なんかはお喋りしながら食べたり、テレビを観ながら感想を言ったり普通に喋るんですけど、オムツ交換とか、家族以外の人が来てケアをする時の拒否が激しく、(訪問看護の)看護師さんのユニフォームを見た途端に「お前は誰だ!帰れ!」って大きな声で怒鳴って、まだ何もしていないのに怒ってるという状況がずっと続いていて、そういうところを無理やり着替えさせたりするので、余計にひどくなっていったんだと思います。

お風呂自体は好きで、訪問入浴のサービスも受けていたんですが、着替えの際に服が引っ張られたりすることが、今思えば父にとっては苦痛で、嫌な思いをしていたんだと思います。(サービスをする人を)叩いたり、つねったり、蹴ったりということがありました。新しく探したショートステイ先も断られてしまって、行く先を失ってどうしようという時に、佐久本さんから安藤さんに来ていただくのはどうかと提案をいただきました。

以前、父が調布東山病院を退院して間もない頃に安藤さんが1、2回来てくださったことがあって、佐久本さんに「安藤さんが来られた時、何か違いましたか」って聞かれて、確かに安藤さんが来た時はまるで猛獣と猛獣使いみたいだったなと思い出して(笑)、「そういえば違った感じがします」とお話ししましたら、「それなら安藤さんに相談してみます」ということで、安藤さんが続けて毎週来てくださることになりました。

毎週来てくださったっていうことが母にはすごく良くて、訪問看護の看護師さんは毎回違う方が来られるのですが、母は全然顔も名前も覚えられないんです。逆に父はすごく人の顔も名前も覚えるんですね。ですので、同じ人に関わってもらうのが母にも父にも良いのかなと思うんです。

ユマニチュードという言葉は私にとって初見ではなくて、前にジネスト先生がNHKの番組に出ていらしたのをたまたま見ていて、「ユマニチュード」という言葉は覚えていなかったんですけれども、フランス人の頭もじゃもじゃのおじさんが、患者のおばあちゃんと会話して言葉も違うのに意思の疎通ができて、おばあちゃんの調子がどんどん良くなっていくっていう、すごいケアの方法があるんだなって思って。

それを取り入れてる病院の看護師さんも、(ユマニチュードは)手間がかかるように思われるけど、患者さんが協力してくれるので気持ちよくケアができるっていうようなお話をされていたことを覚えていたんです。ですので、安藤さんのお話を聞いたときも、私は「あ、あのユマニチュードか」っていうようなイメージでした。

ただ、母にとっては初めての言葉で、安藤さんがくれた(ユマニチュードを解説した)冊子を「お母さん先に読みなよ」って渡したんですが、何日かして「読んだ?」って聞いたら「まだ読んでない」って言うんですね。「じゃあお母さん、私が先に読むから」って読んで、大事だなと思うことを紙に書いてドアに貼り付けました。

「お母さん、部屋に入る前は3回ノックしてね」「いきなりガラッと開けて、オムツ変えるからじゃなくて、トントントンッて3回してね」っていうところから始まって、気をつけなきゃいけないことを紙に書いて一つずつ増やしていきました。いきなり要件を言わないとか、目線は上から見下ろさないとか、上から掴まないとか、簡単なことなんですけど「お母さん書いてあるでしょ、あそこ見て」って意識づけをしながら、毎日父に接するようにしました。

私にとっては、父も変わったんですけども、母が一番変わったなと思うんですね。(ユマニチュードに出会う前も)私は、父と接する時に「今なんで怒ったんだろう」って思うと「じゃあ今度はこうしてみようか」って、父が何が嫌なのかを考えながら私なりに色々と実践していたんです。

それで「こうしたら良かったよ」って母にも伝えるんですけど、母には母の考えがあって自分の正しさで介護をしているので、私の言葉が届かずなかなか一緒にできなかったんですね。そこがずっとネックになっていて、私が父に「おはよう」というと「おはよう」と返してくれているんだけど、母がベッドサイドに来ると「お前何しに来たんだ」ってなってしまうという上手くいかなさがずっとありました。

そこに安藤さんが来てくださって、私的には「今まで父が笑顔を見せてくれていた、そのやり方で良かったんだ」っていう確認ができました。そして母にとっては、安藤さんから言われてその通りにちょっとやってみたら、父の態度が変わったので「もっと早くすればよかった」と腑に落ちたような感じで。母が、自分の接し方が父に苦痛を与えていたということに気付いたっていうところが、本当に劇的な変化だと思います。

母が父に笑顔で「お父さん、おはよう」って声をかけているのを見た時、私は本当に感動しました。「ええーっ!」って。母は自然に出てくるようになったって言うんですけど、(ユマニチュードを実践すると)介護する人の気持ちも変わるし、それが次の優しさに繋がっていくという感じがするんですよね。

この前、デンマークインの3回目の入所から帰ってきたんですけれど、今までは家でずっとベッドの上で過ごしていた父が、「お父さん、ご飯だから車いすに乗ってあっちで食べよう」って言ったら「うん」って。車いすに乗ることが当たり前っていう習慣が身について帰ってきました。帰ってきて1週間ぐらいですけど、食事の度に車いすに移るということができています。

母は、最初はそれが嫌そうで(笑)、車椅子に乗せる時には私1人では乗せられないので母に手伝ってもらうんですが、「お父さんベッドの方がいいんじゃない?」「お父さん、本当に車いすで食べるの?」って何回も聞いて。だけど、父が車いすで食べるって言うので「ああ仕方ないわね」って渋々手伝っているんです。

父は車いすで食べることで姿勢も安定して、行く前は右手でスプーンがちゃんと持てなくてふらふらしていたのが、リハビリもしていただいたので、すごく上手に食べられるようになっていました。出したご飯もきれいに食べるので、父が残さずに食べることを母も喜んで、その嬉しさもあって車いすに乗せるのを渋々ですけど毎回手伝ってくれています。デンマークインで身につけた良い習慣を家でも継続して、父の基礎体力的なものを落とさずにキープ出来たらいいなと思っています。

杉本 ありがとうございます。安藤さんがユマニチュードという技術を持ってきてくださったことは非常に大きいと思うんですけど、真理さんが紙に書いてくださったりして、こうやってみたらというきっかけの種をたくさん蒔いておられたんだなと思いました。

一つ質問がありまして、先ほど安藤さんのお話しの中でケアの様子をビデオに撮ろうと提案されたのが真理さんだったと聞きました。なぜ映像に撮った方がいいと思われたのか、教えていただけますか?

真理さん 着替えをする時に、それまでは私と看護師さん2人で父をゴロンゴロンひっくり返しながら、ベッド上で着替えさせていたんですけど、安藤さんが来られて、ベッドサイドに腰かけて着替えた方が父もラクなんじゃないかということで、そこで母にも手伝ってもらって着替える方法を指導していただいたんです。

その着替えの時に父が怒って母をゴン!て叩いたり、怒鳴ったりすることがあるのですが、やってる時は何に怒ってるのかがよく分からないんですね。母に「こうしたんじゃないの?」「ああしたんじゃないの?」って言ったら「いや、そんなことしてない!」ってなってしまったので、客観的に振り返れるようにと思って撮影することにしました。

その映像を見て最初に感じたのは、ベッドサイドに3〜4人の女性が襲いかかるように、手術台を囲んでる先生みたいになっていて、これはベッドに寝てる人はすごく怖いなと。周りから人の頭がのぞき込んでたら怖いだろうなと客観的に見て感じて、視野に入る人はできるだけ少ない方がいいんじゃないかと映像を観ながらいろいろ工夫しました。

あと、父はすぐ直前のことだけを怒っているわけじゃなくて、2分ぐらい前にやった動作に対して怒ってて、突然バン!ってきたりすることがあるっていうのは、つい最近発見したことです。

杉本 ユマニチュードを大きくご自分たちのものにされて、ケアを続けていらっしゃるのは非常に素晴らしいと思いますし、映像の持つ意味を改めて感じさせていただきました。

先ほどからのお話の中でキーワードとして出てきているのは、なんで健太郎さんがこういう反応をするのだろうと、その理由を探すことができるようになったということと、それに対する方法論、どんな風にしたらいいんだろうという方法を持った方が現れたということかと思います。

これは決して安藤さんや栗田さんが特別な人というわけではなくて、常に安達さんや佐久本さん、もちろんご家族の方が健太郎さんにとって何が良いことなのかを、毎日ずっと考え続けて来られたからだと思うんですね。それはユマニチュードの表現で言いますと、哲学を持ってずっと支え続けていらしたということかもしれません。自分たちの役割って何だろうなって思いながら、毎日毎日お過ごしになっていてそこに技術が入ったことで、パカっと扉が開いたような、そんな印象を受けます。

ユマニチュードは私たちケアをする者を「職業人」と位置づけています。安達さんはご家族の心の支えになっているお方だろうと思うんですけれど、職業人という立場から、健太郎さんの一連のケースを通してお感じになったことを聞かせていただけますか。健太郎さんご自身に離床の意欲も出てきて、もしかしたらケアプランの見直しも必要かなとも思うのですが。

安達さん ユマニチュードを始めた頃、お母様から「どうすればいいの」って聞かれた時に、安藤さんが「介護する時や接する時は、無理して優しくしなくていいです。相手が優しく感じるように技や表現方法を変えるようにしたらどうですか」と話したことがあって、それからお母さんもどんどん表情が変わっていったように思います。

今までは寝たきりの方が生活する上での最低限のサービスだったと思うんですが、これからはその人がその人らしく生きられるように、生活できるようにプランを変えていこうと思っていますし、ご家族もそれを望んでいると思いますので相談しながら変えていきたいと思います。

杉本 ありがとうございます。ケアマネージャーはたくさんのお役目を担う非常に大事なキーパーソンでいらっしゃいますので、尊敬を申し上げております。ぜひ健太郎さんご自身が、こうありたいと思われる自分でいらっしゃれる日々が今後も続いていくように、皆さんで力を合わせて進んでいっていただいきたいと思います。

健太郎さんご家族と3年間という時間を共に過ごして、これからもおそらく伴走なさると思います訪問看護師の佐久本さんは、同じように健太郎さんとご家族に関わられての率直なご感想を伺えますか。

佐久本さん 私は訪問看護師ですので、健太郎さんが今まで生きてこられた人生だったり経過を考えながら、持っているお力を最大限に存分に生活に使っていただくことを、医療も含めて看ていくのですけど、やはり色々お言葉が強い時期は、私たちも短時間でケアをするとか、(体を)つかむような動作になってしまっていたということを、今回改めて安藤さん入っていただいて学ぶことができ、振り返ることができたんですね。

先ほどもお伝えさせていただいたんですけど、夢中になってやっている時は、そういう攻撃性をブロックするだけになっていて、きっとご本人もその看護師の表情、行動がとっても怖かったんだと思うんです。そういう過去がありながら、今、健太郎さんが変わってきたということに私たちもたくさん学ばせていただきました。

真理さんが撮った映像を一緒に見ていると「あの時の行動がこれにつながったんだよね」という風に一つ一つの行動のつながりに気づき、全てやっぱり勉強だなと実感しながら一緒の時間を過ごさせてもらってます。

今、訪問看護では3人チームでケアを繰り返していまして、澄子さん、真理さんと訪問看護師で、起こしたり、体を拭いたり、お着替えをしたりっていうことをやっています。すごく抵抗されていた時と比べると、看護師の方に背中を預けてくれるような姿勢を取っていただけるようになり、私もとっても幸せな気持ちがしました。

3年前は正直ちょっと怖かったんですね。そういったところが健太郎さんの背中のぬくもり、私の手のぬくもりがやっと通じ合ったみたいな、とても幸せな気持ちがしたので、触れ合って信頼して、優しい言葉をかけてというところで好循環が生まれてくるんだなと感じました。

真理さんは安藤さん以上のって言うと、安藤さんに怒られちゃうかもしれませんけど(笑)、ユマニチュードの触れ方、言葉がけがとっても素敵にできますし、妻の澄子さんもスポーツをされていたご経験から動きがスピーディーで、とっても良いチームでやれています。こういったところでケアのバトンがつながっていくんだなっていうのを目の当たりにさせていただき本当に感謝しております。

杉本 ジーンときてしまいました。インストラクターの栗田さん、安藤さんからも同じようにお言葉をいただこうと思います。まずは栗田さん。健太郎さんと関わられて色々思われたことがあるのではないかと思います。

栗田 個人的な意見としては、このバトンリレーの一部に私たちデンマークイン若葉台が入れたというのが、すごく良かったなと思っています。まだまだこれから施設利用を継続していただく中で、色々なケースが出てくるかと思うんですが、3回目を終えて帰られて、お家でも離床ができるようになったというところでは、もっとまた違う変化が出てくるのかなと楽しみながら一緒にお手伝いをさせていただきたいと思います。

杉本 ありがとうございます。最後に安藤さんお願いします。

安藤 皆様のお話を聞いて、私自身すごく感動しているんですけれども、ユマニチュードのケアは継続し続けることに意味があると実感しています。介護は終わりが見えなくて、きれいごとでは済まない現実が毎日続きます。大変な状況であればあるほど負担は大きくなって、ご本人を含めご家族や関わる方々も苦しくなります。

そこに精神論ではなくて、技術を通して解決できることがあるならば多くの人が救われるのではないかと、一事例として自分たちの経験が何かお役に立てればということで、今回、妻の澄子さんにも映像出演に快諾していただきました。ユマニチュードのケアはケアをする人も、受ける人も救われるケアだと私は思っています。そのことを今回の事例を通して自分自身も再確認するに至りました。

ご家族だけが頑張るのではなく、関わる人が同じようにケアを繋いでいくことで、本人が穏やかに毎日を過ごすことができる。それがご家族が介護を継続していこうとしていく力になるのかなと思っています。まさしく今回のテーマである「ケアのバトンをつなぐ」ということで生まれる価値なのではないかと思っています。

杉本 ありがとうございます。今回のテーマでたくさんのことを私も学ばせていただきました。「つなぐ」という一言ですけれども、在宅と組織をつなぐ、それ以上にケアをする者と受ける者、先ほど佐久本さんがおっしゃっていましたけれど、やっと届いたという感覚ですね。気持ちだけではなかなか難しい現状がたくさんあり、その中で技術を持つことの意味を私自身も考えさせられました。

一番お近くにいらっしゃいます澄子さんの言葉を最後にこのシンポジウムを締めたいと思います。健太郎さんとご家族にはこのような機会を与えていただいて本当に感謝いたします。そして登壇いただきました皆様、本当にどうもありがとうございました。

佐々木澄子さんインタビュー(VTR上映)

理由があって手を出しているというのも教えてもらったから、そうかと。今までのこの何年かの間に、少しずつおっしゃってることが頭の中に入ってくるようになって毎日が勉強になってます。本当にありがたいことです。私が変われば相手も変わる。あれからバカ野郎だのはない。(健太郎さんが)ちゃんと優しくしてくれているなって分かるんだなっていうのが、分かりました。

だから、(ユマニチュードが)どれだけ大切なことかと思います。ただオムツ変えました、脱いでお風呂に入れました、じゃなくて、良い気持ちで。やっぱり『脱がせられると嫌!』って思うでしょうね。それを優しくしてあげれば、『またね』とか、手を振ることもありますから、看護師さんたちに。相手の気持ちを思いながらってなかなか大変だけど。

杉本 以上を持ちまして今回のシンポジウムを閉じたいと思います。皆様、どうもありがとうございました。

※写真撮影、発表時のみマスクを外しています。

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