『雨宿りの木』主催、特別オープン対談をオンラインで実施します。

今回は、理学療法士としてご活躍の後、現在は参議院議員として活躍されている当学会理事・小川克巳氏をゲストにお招きし、本田代表理事がお話しをお伺いします。

対談テーマは「ユマニチュードに見るデータヘルスの可能性」。

普段は会員向けに行なっている「雨宿りの木」ですが、今回は多くの方と共に「これからの医療・介護について」考える機会としたく、小川氏のご協力を得てオープン開催となりました。

小川氏は参議院議員として、高齢者や障がいを有する方々の尊厳ある自立生活や医療・介護専門職の活躍支援に取り組まれており、設立以来当学会理事も務めてくださっています。

今回の対談では、小川氏が主査を務められた自由民主党政務調査会 データヘルス推進特命委員会での提言等も交えながら、「これからの医療・介護の在り方」やその中で「ユマニチュードに期待していること」など幅広いテーマでお話しをお伺いしたいと考えています。

本セミナーはどなたでも参加可能です。

以下のようなテーマに興味のある方は、ぜひご参加下さい。

・ユマニチュードの科学的エビデンス

・医療・介護領域へのデータ・ICT活用

・これからの医療・介護の在り方

『雨宿りの木』主催、特別オープン対談 開催概要

日時:2020年11月7日(土)14:00~14:50
登壇者:小川克巳参議院議員、本田美和子代表理事
テーマ:「ユマニチュードの科学的エビデンスから考える、医療・介護現場におけるデータ・ICT活用の可能性」
予約:事前申込必要 お申し込みはこちらから。
参加費:無料
視聴方法:ZOOMにて配信
※お申し込み後、peatixより視聴URLをお送りいたします。
※当日はPeatixの視聴ページにてご参加ください。
※URLの転送・共有はお控えください。
ZOOMの使い方はこちらをご覧ください。

小川 克巳(おがわ かつみ)氏

参議院議員。理学療法士として活躍ののち、(公社)日本理学療法士協会副会長などを歴任し、2016年から現職。高齢者や障がいを有する方々の尊厳ある自立生活や医療・介護専門職の活躍支援に取り組む。

プログラム

13:50 ~ 入室開始

14:00 ~ ライブ配信開始

14:00 ~ 14:50 対談:小川克巳参議院議員、本田美和子代表理事
テーマ:「ユマニチュードの科学的エビデンスから考える、医療・介護現場におけるデータ・ICT活用の可能性」
1.小川氏のこれまでのあゆみとユマニチュードとの出会い
2.データヘルス推進特命委員会での提言について
3.ユマニチュードに見る可能性
4.データに基づく科学的介護に求めること
5.これからの医療・介護の在り方
6.質疑応答  

14:50  終了

今後もさまざまな方をゲストにお招きした対談や、会員の皆さま同士が相互交流できる機会を設けてまいります。

日本ユマニチュード学会は、医療・看護・介護などの専門職の方はもちろん、ご家族の介護に携わられている方やユマニチュードに関心のある方などどなたでも会員としてご参加いただけます。参加を希望する方でまだ会員登録されていない方は、ぜひこの機会に会員登録ください。

詳しくは、「入会のご案内」をご覧ください。

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2020年10月16・17日にオンラインで開催された第50回 日本腎臓学会西部学術大会の男女共同参画委員会企画において、荒瀬泰子理事が講演を行いました。

≪学会サイトURL≫

http://www.convention-w.jp/jsnseibu50/index.html

≪講演テーマ≫

「新しい認知症ケア「ユマニチュード」は腎臓外来でも有効か」

「COVID-19を振り返って~医療スタッフの負担と苦悩」

 

ユマニチュードに関する講演資料はこちらでご覧いただけます(PDF)

10月23日(金)、24日(土)の二日間に渡り、一般財団法人 認知症高齢者医療介護教育センター 福井県立すこやかシルバー病院にて、ユマニチュードの講演会が開催されました。
ユマニチュード認定インストラクターである、富山県立大学看護学部 岡本恵里教授 が講師役となり、医療介護専門職約80名の方々を対象に約1時間半にわたってユマニチュードの哲学と技法などについて語り合いました。

 

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人間らしさを大切にするケア技法「ユマニチュード」は、医療や介護現場だけのものではありません。

これから超高齢社会を迎える日本において、誰もが自分らしく生きていける社会を実現するため、自治体として「ユマニチュード」への取り組みを採択、検討するところが増え始めています。各自治体がユマニチュードを採択した経緯や、取り組み内容についてご紹介するため、福岡市の取り組みをご紹介しています。

リンク:自治体におけるユマニチュード

 

特別対談

認知症の一つ「レビー小体型認知症」の当事者として、自身の体験や症状を発信し続けている樋口直美さんに、当学会の本田美和子代表理事がお話をうかがいました。新刊「誤作動する脳」(医学書院)の出版にまつわる裏話から認知症の方々と社会の関わり方まで、ケアをする側、受ける側双方の立場から話が広がりました。

「書く」ことが心理療法に

本田美和子・代表理事 樋口さんは日本でのユマニチュードの活動の初期から興味を持ってくださり、ジネスト先生からぜひ名誉インストラクターになっていただけないかとお願いして受けてくださいました。今日はお招きできてとても嬉しいです。

樋口直美さん インストラクターだなんて。応援団だと私は思っています。

本田 ありがとうございます。ジネスト先生は常々「我々の一番の先生は、その状況に置かれている人だ」と話していらして、樋口さんにも本当に様々なことを教えていただいています。最初にお会いしたのは1冊目のご著書「私の脳で起こったこと」(ブックマン社)を出版されたときでした。私もちょうどユマニチュードを始めて間もなくのころでした。

樋口さん 私の本が出版されて間もなく開かれた講演会の時にお会いしたんでしたね。

本田 認知症全般についてもっと知りたいと思っていた時に、ご病気と共に暮らしている自分のことを書いている方がいらっしゃるのを知り、どんなことをお話しになるかぜひ伺いたくて参加いたしました。

樋口さん 講演の後の懇親会でお話しさせていただいたのですが、なんだか知らない人という気がしなくて。

本田 そうでした。前々から存じ上げているような、古いお友達に久しぶりに会うような感じがいたしました。とても楽しかったです。「本を書く」と決意された一番の理由はどんなことだったのでしょうか。

樋口さん レビー小体型認知症という病気が知られていないために、正しく診断されない方が多く、私もそうでしたが、処方された薬で逆に症状が悪くなる方や、知らずに風邪薬などいろいろな薬を飲んで悪化している方が多くいます。あるいは幻視に対して向精神薬を処方されて寝たきりになってしまう方も多くいて、「これは多くの人に知らせないといけない」というのが一番強い動機でした。

本田 樋口さんがそう思って行動を起こしてくださったことで、多くの人が救われたと思います。

樋口さん それなら良いのですけど、まだまだ知られていないと思います。病名も知られていないし、認知症ということで括られてしまい、自律神経症状などで身体的に苦しい症状がたくさんあることや、薬にも注意が必要だということまでは全然知られていません。

本田 そうかもしれません。私も教科書的に「そういう病気があるんだな」と知識としては知ってはいても、実際にどういうことがご本人に起こっていて、何にお困りかはわかっていないことがとても多いです。実際に経験をしていることを明確に書いて下さったのは本当に素晴らしく、ありがたいことでした。ちょうど「当事者研究」という言葉が知られてきた頃と時期的に重なっていたのではないでしょうか。

樋口さん 私もあの本を出した時には「当事者研究」という言葉は知らず、本を読まれた方から「これは当事者研究ですね」と言われて知りました。私はもともと常に書いている人間で、そういう職業ではなかったのですけれど、書くことが好きで、言葉にすることが癖というか身についた習性になっているんです。

本田 そうでしたか。本をご出版になってから様々なところにお話しにいらっしゃったと思います。

樋口さん そうでもないんです。よく「日本全国を飛び回ってる」みたいに言われるのですが、レビー小体型認知症はアルツハイマー病の方とは違い、体調の波がすごくあって、決まった日時に1時間、2時間かけてどこかに行くというのは結構難しいことなので、月に1、2回、関東を中心に講演に行くだけでした。体力的に難しいので動画を撮ってもらうことにして、どんどんアップして頂いたら何だかそういう印象になってしまったようで(笑)。

本田 そうでしたか。新刊の「誤作動する脳」の編集者である医学書院の白石正明さんともそうした活動の中でお会いになったのですか。

樋口さん そうですね。最初の本を出して講演をするようになり、お医者さんの知り合いや友達が増えたんですが、ある時、認知症専門医に私の時間の感覚の話をしたのです。「今日が何月何日か分からないというのは、病院では『見当識障害です』と言われるのですけど、私の時間感覚はちょっと違うんです。距離感がよく分からなくて、1ヶ月前と3ヶ月前の違いが分からないんです」などと話したら、「そんな話は聞いたことがない。それはきちんと文章に書いたらどうか」と言われました。

確かに、それまで取材を受けて時間感覚の話をしても、少し説明したくらいでは相手になかなか通じなかったので、自分でもこれは書いておいた方がいいなと思って。それで「note」というサイトに、自分の時間感覚について書いておいたら、白石さんが読まれて「本を書いて欲しい」と言ってきて下さったんです。

本田 白石さんには私もお世話になっていて、最初の本、「ユマニチュード入門」を作って下さったのが白石さんです。ユマニチュードが日本で多くの方に知っていただけるきっかけを作って下さいました。

樋口さん そうでしたか。有名であるかどうか、肩書きがどうであるかを一切気にせず、本質的なことだけをパッと掴む方ですよね。そして「面白い、面白い」ってやたら面白がる(笑)。

本田 そうです、そうです(笑)。白石さんと一緒に本をお作りになることになって、まずは医学書院のウエブサイト「かんかん!」での連載が始まりましたね。連載にあたって、編集者としての白石さんは何とおっしゃったのですか。

樋口さん 白石さんからは「あなたが症状をどう体験しているかだけを書いて下さい」と言われました。レビー小体型認知症がどんな病気かという説明は書かず、「いろいろな症状をどんな風に体験しているかをなるべく詳しく書いて欲しい」とそれだけでした。

本田 書く作業は楽しかったですか。

樋口さん 書くのは好きですが、大変でもありました。体調の波がすごくあることを考慮して締め切りは設けない形になったのですが、「月に1本は絶対に書く」と自分で決めて守りました。白石さんとのやりとりは楽しく、また書いていくうちに新しく発見することもありました。過去の経験を書くことで、そのことをまた考え、自分の中でどんどん深めていく作業は面白かったです。

本田 白石さんとの二人三脚的で作ったご本なのですね。

樋口さん そうですね。白石さんがいらっしゃらなかったら出来なかったです。最後の章に書いたのですが、私は41歳の時にうつ病と誤診されて、その薬物治療で半分死んだようになりました。6年間苦しんだのですが、そのときのことは思い出すと涙が出てくるし、思い出すのも苦しくて誰にも話せませんでした。書いたこともありませんでした。

それを初めて詳しく、ぼろぼろ泣きながら書いたんです。それができたのは、きちんと受け止めてくれる人がいる、否定せず、肯定的に受け止めてくれると信じられる人がいたからです。ずっと泣きながら書いたのですが、サイトにアップされたものを読んだ時にはもう泣けずに、他人の話みたいに「へ〜」と思いながら読めました。だから、私にとっては書くことがすごい心理療法になったんだなと思います。

本田 そうだったんですね。この本には、樋口さんが勇気を持って心の中を全部見せて下さっているお話が山積みで、その迫力に押されて読み続けました。特にエピローグの1歳のお孫さんを樋口さんがお風呂に入れるエピソードはもう胸を突かれる思いでした。赤ちゃんが「一点の疑いも不安もなく、悟りを開いたような半眼のまま、微動だにせず、いのちを委ねているのです。神様みたいだなと思いました」という表現に、「そうだ、これなんだ」と思いました。

言葉でコミュニケーションを取れない、知らない人を信頼しきっている赤ちゃんの姿を想像しながら、私たちがケアをお届けしたいと思う方々にも、そうやって任せていただけるような存在、任せて大丈夫だと思ってもらえる存在になるのが、私たちのゴールなんだと改めて思いました。

樋口さん そういう読み方をされたんですね。素晴らしいです。

本田 ひとは何もない状態から徐々に社会性を身に付けていき、そして、あるところから徐々にまたそれが失なっていくことが認知症の特徴の一つであると捉えたとき、こういう形で信頼し、受け取ってもらえるような「優しさを届ける技術」を考えればいいんだなと、自分の仕事と重ね合わせて読みました。

樋口さん 本当にそういう信頼関係が全てだと思います。認知症でどれだけ状況判断ができなくなったとしても、周りの人を信頼できれば、「この人たちは味方で、私を傷つけることは絶対にない」と信じられたなら、問題は起きないし、穏やかでいられますよね。ところが、今はなかなかそれが成り立たない。ケアをする側も一生懸命にやっているけれど、信頼関係が成り立たないから、ケアを受ける人は不安を感じ、怖さで暴れたり、叫んだり、拒否したり、変なことを言ったりということが起きている。そこが上手くいけば良いなと常に思います。

本田 その点において、ユマニチュードが多くの人の役に立てばうれしいなと思います。自分や自分の大切な人に対して、みんなが普通にユマニチュードを実践できるようになれば良いと。

「認知症になったら終わり」ではない

樋口さん ユマニチュードのように「1人の人間として大切にする」ということは、結構難しいことですよね。家族だからできるというものでもないし。

本田 家族だからこそ難しかったりもしますね。ですので、もう「みんなが」というしかないのですが、社会のみんなが考え方を少しずつ変えることが求められているのではないかと思います。

例えば、私が研修医になった頃は、がんの患者さんにそれを伝えるかどうかが議論されていました。今は本人に告知しないという選択はありません。

私がHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の仕事をしていた時、治療薬が無い時代には、ご本人に告知するのは絶望させるだけだからやめようという議論があったと知り、驚愕しました。もちろん今は、どんな病気でもご本人にお知らせすることが、ご本人の権利であるという社会の共通認識が生まれています。

私は認知症に対するアプローチもそういう風に変わって欲しいと強く思っています。認知症は、医学的な介入のために、つまり「ご本人のためになることだから」身体抑制も仕方がないと思われていましたし、閉じ込めて自由を奪うこともありました。実際、現在でもまだそれがすべて解消しているわけでもありません。そうしたことに対して「過去はそうだったんだよね。すごかったんだね」となるような未来に、みんなが納得して社会の知恵と技術で解決していける時代になるとうれしいなと思っています。まだ夢のような感じなのですけれど。

樋口さん 認知症について、一部の人は今まで言われているものとは違うことが分かって来ていると思いますが、世間一般の人の認知症の捉え方はあまり変わっていないと思います。最近も芸能人の方がレビー小体型認知症だと診断されたことをテレビ番組で公表したらしいのですけれど、ご本人が「仕事を続けたい」とおっしゃるのに、「仕事なんて出来るわけない」というような発言をネットで見て、「認知症になったら終わり」「何も分からなくなるんだ」みたいな見方はまだまだ根強いなと思いました。

本田 HIVの時も全く同じことが起こりました。かつては、ウイルスに感染することで、免疫力が徐々に低下して、さまざまな感染症を併発してエイズになって亡くなる、という経過をたどる病気だったのですが、今ではすばらしい治療薬の開発によって、死に至る病ではなくなりました。現在、お薬をきちんと飲み続ければ、標準的な寿命までお元気に過ごすことができます。つまり、HIVと共に暮らす人生が始まるのです。そうなると、自分の生活を支えるため、生活を楽しむためにも仕事がとても大切になってきます。

そのために、患者さんの就労支援も私たち医者の重要な役割になりました。企業の人事担当の方に、「HIVは粘膜と粘膜との濃厚な接触がなければうつらない病気で、通常の業務では心配要らない」ことを伝えたり、時には社員向けの講演も行います。どの企業も1人目の採用はいつもとても大変です。でも、いったん雇用が決まると、その方があまりにも普通と変わらないので、さらに紹介を頼まれるようになります。こんな感じで、今までに何人の患者さんをご紹介したか分からないくらいです。

ですから、認知症も最初は「そんなこと出来るわけない」というところから始まると思うんですけれど、その人が出来ることを十分にやってもらうことで、活躍の場が作り出されるという社会的な同意ができていくといいなと思います。

樋口さん そうですね。つい先日、テレビ番組で若年性認知症の方の就労の話をやっていたんです。50代後半のしっかりした方で、記憶だけは不得手なところがあると思うのですけど、全く普通にお話しできて、和やかで明るい方でしたから対人関係のお仕事をされたらいいんじゃないかと思ったのですが、大手ネット販売会社の倉庫の仕分けをするお仕事に就かれたんですね。商品を仕分けするために広い倉庫の中の棚の位置を覚えなければいけなくて、「自分は仕事がすごく遅い」と落ち込んでいらして、もう少し、この方の得意を生かすような仕事はないのかなとすごく思ったんです。

本田 それもHIVの時に私たちがやったように、ご病気の特性をよく知っている方が間に入ればいいと思うんです。認知症をお持ちの方が仕事をしたい、社会とつながっていたいと思う時に、具体的に力になれる人がいたらありがたいと思いますし、私もそういうことが出来たらと思います。

樋口さん 医師はそんなことまでしませんよね、普通は。

本田 そうですね、でも病気の治療だけで患者さんが良くならないということは、みんなもう分かっているんです。特に高齢者医療をやっている人は、患者さんが家に帰った時に家での生活をどう支えていけばいいのかと考えています。最近は訪問診療をしていらっしゃる先生方もたくさんいらっしゃいます。従来の医療ではあまり重要視されていなかった、生活を支えるための医療の必要性を多くの臨床医は感じていると思います。そこに面白さを見いだす、価値を見いだす医者は、今後きっと増えてくると思うんですよね。私の周りは、そういうこと考えてる医師が少なからずいます。

樋口さん そうしたお話が伺えると嬉しいです。

本田 7月から晶文社のウェブサイトでも連載「間の人」を始められましたね。まとまったらまたご本になるのかなと思いながら読んでいます。

樋口さん ありがとうございます。その予定です。今回は軽いタッチで、その時々に考えたことを自由に楽しく書いていきたいと思っています。

本田 それは楽しみです。またぜひお話を聴かせてください。今日はありがとうございました。

(構成・木村環)



樋口直美(ひぐち・なおみ)さん

1962年生まれ。50歳でレビー小体型認知症と診断される。41歳の時にうつ病と誤診され、その治療で症状が悪化した6年間の経験が「当事者」として情報を発信するきっかけとなる。多様な脳機能障害のほか幻覚、嗅覚障害、自律神経症状などもあるが、思考力は変わらず、執筆活動を続けている。2015年に出版された最初の著書「私の脳で起こったこと」(ブックマン社)が日本医学ジャーナリスト協会賞優秀賞を受賞。

2020年3月「誤作動する脳」(医学書院)を上梓。

認知症未来共創ハブ制作のサイト「認知症世界の歩き方」の監修もしている。ベレー帽がトレードマーク。

樋口さんの活動の詳細は公式サイト「ペライチ」をご参照ください。

用語解説

レビー小体型認知症

アルツハイマー型認知症に次いで多いと言われる認知症の一つ。1995年にその名称と診断基準が発表された。大脳皮質の神経細胞に特殊なたんぱく質である「レビー小体」が蓄積することで、認知症の症状を引き起こすとされる。初期の段階では記憶障害は目立たないことが多く、認知機能の変動や幻視、幻聴、手足の震え、睡眠障害や自律神経症状などが特徴として挙げられるが症状は個人により多種多様。近年、早期に診断され、適切な治療とケアによって良い状態を保つケースも増えてきていると言われている。

本田代表理事が、2021年4月より毎週月曜日に開催される武蔵野大学「介護事業マネジメント講座」に登壇いたします。

本講座は、包括的なカリキュラムにより介護事業マネジメントの基礎的な知見を身につけたシニアレベルの人材養成を通じて、効率的で利用者満足度の高いマネジメント手法の確立、標準化、普及を目指すものです。教室聴講20名、リモート聴講20名の計40名定員で、全41回のカリキュラムです。本田代表理事は以下2回登壇予定です。


・4月19日 第3回「高齢者とは」
・10月4日 第22回「認知症の医学とユマニチュード」

定員になり次第、申込は締め切りとなります。


詳細は「介護事業マネジメント講座」のご案内(PDF)をご確認のうえ、参加を希望される場合はお申し込みください。

家族介護者の体験談をご紹介します

ユマニチュードはご家族の介護をしていらっしゃる方にも役に立ちます。ご自宅での介護がうまくいかずに困っているときにユマニチュードと出会い、再びご家族との良い時間を過ごせることになった方々が多くいらっしゃいます。本学会の本田美和子代表理事がそうした皆さまを訪ね、ユマニチュードを実践した体験と感想をお伺いしました。

中下裕広さん、智子さんご夫妻

今回、ご登場いただく中下さんご夫妻は沖縄県石垣市にお住いです。石垣島では同県立八重山病院の内科医、今村昌幹先生が旗振り役となり4年前からユマニチュードの講習会が様々に開かれていて、今村先生と仕事を共にされている裕広さんとご縁が出来ました。智子さんのお父様がアルツハイマー型認知症と分かったことから、ご家族皆でユマニチュードを独学し、今ではその哲学を地域の方とのコミュニケーションにも役立てていらっしゃるというお二人。その実践の様子を2回に分けてご紹介します。

本田 裕広さんが、運転手のお仕事で今村先生の訪問診療にご一緒されていることからユマニチュードを知ったそうですね。ユマニチュードに興味を持たれたのは、お父様のことでお困りのことがあったからでしょうか。

中下裕広さん(以下、裕広さん)  ユマニチュードに出会う前の話からしますと、妻の父親、おじいがお酒を飲むと暴言を吐いたり、暴れることがありました。若い時からそういう傾向はあったので酒乱だと思っていましたが、3日に1回ぐらいのペースで母から「助けてほしい」という電話がくるようになり、「困ったな」と思っていた時に、テレビや新聞で紹介される認知症の症状にどうも似ているなと気づいたんです。今村先生に聞いてみましたら、認知症の可能性があるので主治医に相談してみなさいと言われ、妻が聞きに行ったところ、実はすでに認知症の薬が出ていることが分かりました。

中下智子さん(以下、智子さん)  アルツハイマー型認知症とそのとき初めて知らされ驚きました。初期ということもあったようですが、母にも本人にも認知症とは伝わっていなくて、「脳にモヤっとしたものがあるから気をつけて」というくらいの説明だったようです。本人はもしかしたら聞いていたのかもしれないのですけれど。

本田 お父様がお酒を飲むと手に負えなくなるということは長く続いていたのですか。

裕広さん 1年ぐらいです。さらにお酒に酔っていないときでも、「おばあ(母)が浮気をしている」と現実では考えられないような事を話すときがあり、この症状で認知症ではないかと思うようになりました。

本田 そこで今村先生にご相談になったのですね。

裕広さん 治療や介護は本人の協力なくしては無理だと思ったので、主治医に父にはっきりと認知症であることを伝えてもらったのですが、今度は逆にふさぎ込むようになりました。ボーッとする時間が長くなり、このままでは寝たきりになるのではと心配をしていたところ、今村先生に「ユマニチュードを試してみたらどうか」と本田先生が出演されたニュース番組の映像を見せていただいたんです。

本田 ご覧になってどう思われましたか。

裕広さん ユマニチュードで認知症の人がこんなに変わるのかと驚きましたね。半信半疑でもあったのですが、藁にもすがる思いでしたから、まずはユマニチュードの本を読んでみたんです。ちょうどそのとき、仕事で行く診療所でたまたま認知症の男性を屋外から誘導する機会があり、僕が出来る範囲ですが、目線を合わせて笑顔で挨拶し、優しく腕に触れながら「診療所に一緒に行きませんか?」と話したら同意してくれました。診療所内にお連れし椅子に座ってもらったら笑顔も返してくれたんです。「ユマニチュードって本当に使えるんだ」とすっかり感動して、家でやってみようと家族に話しました。

本田 裕広さんからお話を聞いて智子さんはどう思われましたか。

智子さん 私はもともと介護の仕事をしていたことがあって、認知症の方と接する方法を若干は知っていたんです。目線を合わせたり、顔を近づけて話すことは自分なりにやっていたこともあり、ユマニチュードは私にはとても入りやすかったです。

本田 実際にお父様にユマニチュードを行ってみたときはいかがでしたか。

智子さん 最初は手を繋ぐのがとても恥ずかしかったんです。でも、父が「飲みに行く」というので付き添うことになり、夜道で人の目も気にならないので思い切って手を繋いでみました。35歳を超えて、75歳の自分の父親と「恋人繋ぎ」をして(笑)、石垣の夜道を30分ぐらい「気持ちいいね」「楽しかったね」と会話をしながら歩いて帰宅したら、いつもなら酔って帰ると家で暴れるのが当たり前だったんですけれど、その日は落ち着いて部屋に入って寝てくれたんです。(ユマニチュードは)「あ、こんな感じでいいんだな」と思いました。ちょっと恥ずかしかったですけれど。

本田 素敵なご経験ですね。

智子さん 精神科の先生に診ていただいてアルコールを止めるための薬を飲み始めていたこともあり、その頃から、本人が「お酒は要らない」と言い始め、普通の会話ができるようになりました。たまに被害妄想的なことは言うのですが、それを以前は暴言で表現していたのが、「おばあが他の人と出かけているんじゃないかと思うんだよ」と自分の悩みとして話してくれて。私も「じゃあ、おばあにどこに行くのか聞いてみるね」と、父の話をきちんと聞いて答えるようにしていたら、段々とそう言うことは言わなくなって来ました。

本田 ユマニチュードは治療ではなく、コミュニケーションのとり方です。お困りのときに、それまでとは違うやり方をしてみたら変化が生まれたと伺って嬉しいです。裕広さんはいかがでしたか。

裕広さん ユマニチュードの考え方が私たち家族を変えたと思います。相手の言っていることを聞いて尊重する。自分たちがやって欲しいことは、相手に伺いを立てて許可をもらってからやるというスタイルに変わりました。母がとても勉強してくれて、自分がやりたいことは、父にまず相談してからやるように徹底したら、2人の関係がとても良くなりました。

智子さん 例えば、我が家に来ているときも、それまでは「どこへ行った」「帰りが遅い」と父から電話が鳴りっぱなしで、母が帰宅すると怒っていました。それを「孫が遊びたいと言っているから、帰りが遅くなるかもしれないけれど良い?」と聞き、父がそれに許可を与えるというスタイルにしてからは、母が帰宅しても怒らないようになりました。

本田 素晴らしいですね。

裕広さん 家族でユマニチュードを学び始めたころが、ちょうど本田先生とジネスト先生が石垣島に初めて来られるタイミングで、お二人にお会いし、講習会を覗かせていただいたのもユマニチュードは良いと確信できることに繋がりました。


中下さんのご両親とイヴ先生、

本田 最初に石垣島に伺ったとき、おじいとおばあが営んでいらっしゃった民宿で食事をさせていただいんですよね。三線に合わせておばあが踊ってくださって。ジネスト先生はその時に撮影した、おじいとハグしている写真を今でも大切にされています。

裕広さん それは嬉しいです。特に母はジネスト先生にお会いしてからガラッと変わりました。年齢が年齢なので気恥ずかしいところもあったようなのですが、実際にユマニチュードで接すると父が穏やかになるので、それまでは愚痴ばかりだったのが、「おじいがこう変わったよ」と私たちに嬉しそうに報告してくれるようになりました。

智子さん 最近では会うたびに「おじいが優しくて、とても楽しい」とのろけています。結婚してから今が一番幸せだそうで、何度も同じことをいうので、おばあの方が心配なくらいです(笑)。

本田 なんて素晴らしい。本当に素敵なご夫婦ですね。

※後編に続く

(構成・木村環)

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学会設立以降、学会と会員の皆さまとをつなぐ機会として会員サロンなどを開催してきました。いずれの会も多くの方に参加いただき高い評価を得ていますが、開催を重ねる中で「もっと会員同士でつながりたい」というお声を多くいただきました。そこで、学会員が相互交流できる機会を強化すべく会員コミュニティ制度を立ち上げることといたしました。

会員コミュニティの名前は「雨宿りの木」

従来の会員サロンからパワーアップして、それぞれの現場で様々な経験をされている会員の皆様が集まり、分かち合いながら次へ進んでいく集合知の母体として新たな機会を提供していきたいと考えています。

会員コミュニティ制度の概要

「雨宿りの木」の下、これまでの事例共有会などに加え、新たに3つの会をご用意します。

【NEW】ユマニチュード研修経験者の会

対象者 正会員、賛助正会員
規模 会員10名程度
形式 1回約60分、オンライン
内容 ユマニチュード研修を受けられた後、現場に戻り実践される中で感じる不安や疑問について共に話し合い、会員の皆様が明日からユマニチュードを実践する際に意識する点や行動する際の参考を得られる時間にしたいと考えています。

【NEW】現場での課題共有会

対象者 専門職会員、正会員、賛助会員
規模 会員10名程度
形式 1回約60分、オンライン
内容 医療・介護・看護などさまざまな現場に従事されている方が感じられている「こんなときどうしてる?」「ユマニチュードのケアではどう対応する?」といった悩みや疑問を、会員の方同士で共有し合い解決のヒントを得られる時間にしたいと考えています。

【NEW】家族介護について語り合う会

対象者 全会員(市民会員、専門職会員、正会員、賛助会員)
規模 会員10名程度
形式 1回約60分、オンライン
内容 ご家族の介護に携わられている方や、介護やユマニチュードに関心のある方が集まり、ご家庭内での介護について抱えている悩みを共有したり、ご自身の経験を語ったりすることを通じて、一人で抱え込まない環境を作りたいと考えています。

講演会/取組事例共有会など

対象者 全会員(市民会員、専門職会員、正会員、賛助会員)
内容 ユマニチュードを実践されている方々をゲストに招いて本田代表理事と対談を行う事例共有会や、ユマニチュードに関する研究や論文に関する勉強会など、ユマニチュードへの理解を深めていただく時間にしたいと考えています。

また、\新/会員コミュニティ「雨宿りの木」は2020年11月に当学会の理事でもある参議院議員小川克巳氏をお招きした特別講演会から始動します。2021年1月以降、それぞれの会を開催してまいりますので、ご期待ください。