フランス・ユマニチュード認証施設訪問報告 後編

←前編から続く

3日目:10月19日(水)

ケアの見学・参加・意見交換、施設内見学(認知症のある方が暮らす区画、移動自転車)、各施設が実施する年次自己評価の講義がありました。

ケアの見学・参加では、再び3つのグループにわかれて、前日と異なる、それぞれ別の区画でケアの現場に入らせていいただきました。前日と同様に、ユマニチュードの技術を用いて、朝のケアを実施(着替え、整容、朝食のために食堂へ向かう等)しました。本人が自分でできることは自分で行い、難しい場合は代替案を提示しながらケアを行っています。それぞれの部屋には、家具やDVDや編物等、自分の好きなものを飾ったり配置していました。ある入居者の方がカフェオレなど飲み物を準備してくださったり、ご自身で下膳している方もいらっしゃいました。以前は職員が下膳していましたが、現在は可能な場合は入居者ご本人が実施しているそうです。さいごに職員から相談のあったケースについてディスカッションしたり、各グループのインストラクターの感想を共有しました。

施設内見学では、認知症のある方12名が暮らす区画を訪ねました。ちょうどリンゴのコンポートを調理中で、リンゴのいい香りが漂っていました。入居者の希望にあわせて各種アクティビティを実施しており、参加しても途中でやめることも自由だそうです。家のような雰囲気をつくるため職員は名札をつけていませんでしたが、職員は全員私服なので家族や訪問者が誰が職員か分かるように職員の顔写真を区画内に掲示していました。本人と、家族や職員がペアで乗る電動自転車も見学しました。車いすに座ったまま自転車の前方に乗ることができ、施設の外に出ることも可能です。

各施設が実施する年次自己評価では、取り組みの進め方の例についてラ・メゾン・デ・ジャンヌのケースを交えながら説明していただきました。

・3月 推進プロジェクトチームを立ち上げる:To Doを明記したカレンダーを作成する(評価基準の章・節ごとに担当者を決める)

・4月 全職員へ周知:全職員に向けて関係者各位で担当者へ連絡する

・5 月、6月 観察と面談:ラ・メゾン・デ・ジャンヌでは、リーダー研修を受けたリーダーが施設内評価を実施し、施設オリジナルのチェックリストを1日かけて埋める(Asshumevieもチェックリストを作成して提供しているが、利用は任意)

・7月、8月 研修機関による分析

・9月 研修機関から分析結果を受ける

フランスでは施設が審査を申請するまで研修機関が対応して、原則、認証取得の準備が整った段階で審査を申請します。現時点では、日本では進め方等の認証準備中の相談も含めて審査機関・ユマニチュード認証制度本部が対応しています。

この日は、今回の訪問に関して施設管理者エリスさん及び本田代表理事が、地元メディアの取材を受けました。地域に開かれた施設として情報発信にも積極的に取り組んでいます。


手編みのマフラー

ケアへ参加

認知症の方が暮らす区画

自転車

外観

周囲の様子

休憩時間に質問

4日目:10月20日(木)

最終日は、認証審査に関して多岐にわたる質疑を行いました。その一部をご紹介します。

Q.認証準備会員になってから最初の自己評価を実施してオンラインシステムにアップするまでの期間は?

A.取り組みを始めたら、すぐに継続的に登録する

Q.不合格の場合のフォローの在り方は?

A.書類を提供したり口頭で説明する。

例:調査員の訪問後レポート(記載項目・内容の一部)

・調査員がいいと思った点(職場環境として・生活の場として等の項目別)
・改善の余地ありの点・それに対する提案とその理由
・個人の仕事についてのフィードバック
・全体へのフィードバック
・まとめ:いい点、改善すべき点<提案事項は5年後の認証更新時までに改善する(研修機関にも共有して研修を受ける)>

Q.ボランティアの受け入れはどのように行われているのか?

A.ボランティア団体を通じて受け入れて、ワークショップと同じように計画を立てて、適切な振る舞い方ができるように40分前後の研修を行う(哲学、4つの柱)。

Q.家族向け説明はどのように行っているのか?

A.1時間ユマニチュードについて説明会を実施しており、ユマニチュードに関するマンガのような冊子を配布しているところもある(冊子を配布するだけだと質問がたくさんくるため説明会を実施している)。

Q.認証取得前後で地域の変化はあるか?

A.地域に開かれた取組みをするため、認証取得の取組み開始時点ですでに変化は始まっている。認証を取得した際には地域で表彰式を開催して政治家・報道関係を呼んでいる。


たくさんの質問

丁寧な説明

まとめ

【全体】

今回、認証に取り組むにあたっての課題はフランスでも日本でも基本的に共通していると感じました。それは「組織全体で取り組む」「その取り組みを継続する」という点です。

組織全体での取り組みとその継続を実現するには、ユマニチュードの哲学と技術をしっかりと定着させると同時に、リーダーシップや組織の在り方、プロジェクトの進め方等、一般的な組織論やマネジメントの手法が必要となってきます。

【認証施設の組織での取り組み】

今回、訪問したユマニチュード認証施設ラ・メゾン・デ・ジャンヌの組織での取り組みの進め方は大変参考になりました。

まず、経営層が組織として認証の取り組みを通して何を実現したいか決定して、全職員と共有する。そして、具体的に取り組みの担当とスケジュールを明確にして、職員が理解しやすい資料を作成したり、問題解決のアクションチームの実行や、研修等の日次・週次・月次・年次でPDCAサイクルを回していました。

また、施設見学では、よい点だけではなく改善すべき点を含めた説明が印象的でした。常によりよい取り組みを目指す姿勢が継続した取り組みにつながると感じました。

そして、職員向けの研修やサポートする個別プログラムが手厚いことが働きやすさや職員の定着につながり、この点でも、組織としての取り組みの後押しとなっているのではないかと思います。

【審査機関の在り方】

審査機関は、よいケア・よい生活の場の実現を目指す認証を目指す施設と仲間である、という姿勢を改めて感じました。とくに、評価基準を満たしている・いないという点にのみ着目するのではなく、施設の自己評価をベースに、よりよい取組みを提案するという点を大切にして、認証準備会員に併走し取り組みの応援を続けてまいります。

また、今回、日本の研修機関のメンバーでもある認定インストラクターが同行しており、審査機関と研修機関の役割分担と協働の重要性を確認しあうことができました。現在、日本では認証関係の研修を含めて研修体系を再構築中ですが、今後、役割分担をわかりやすく整理していくとともに一層連携を強めてまいります。

さいごに

今回の充実したフランス認証施設訪問は、事前の準備と当日あたたかく迎えてくださったフランスの皆さま、そして日本の認証制度を応援してくださっている日本財団様のおかげで実現できました。心より感謝申し上げます。今回得られた知見を活かして、今後もよりよい制度づくりに取り組んでまいります。ありがとうございました。

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