(後編)オンラインシンポジウム「よいケア、よい生活の場とは〜ユマニチュード認証制度の検討から」開催レポート
ユマニチュード認証制度のスタートにあたり開催いたしましたオンラインシンポジウム「よいケア、よい生活の場とは〜ユマニチュード認証制度の検討から」の模様の後編です。
「よいケア」にたどり着く評価項目
本田美和子・代表理事 続きまして認証制度について改めまして皆さんのお考えをお伺いできればと思います。まず早出さん、いかがでしょうか。
早出徳一委員 お話にありました認証の評価項目についてですが、本当に細かな項目があるんですけれども、今まで介護の世界に「よいケア」をするためにはどういうことを行っていけばいいかという、ここまで明確な基準はなかったのではないかと思います。
もちろん介護保険制度の中で制度の決まりというものがあります。「虐待はいけません」「身体拘束はしては駄目です」とか、「週2回はお風呂に入れてください」ということはありますが、それは結局、最低の基準として「これはやってはいけません」「これ以上はやってください」というものです。
介護の現場にもマニュアルは存在していて、私どもの法人では介護福祉士のテキストや介護職員の初任者研修のテキストから、その中身を引いてきています。でも、そこにも一般的なことは書かれていますが、実際に「こんなケアをするといいです」という、具体的なことが示されているものはあまりありません。
そうした意味で、私はユマニチュードの評価項目は介護の現場で「こういうことをするといいですよ」というものになり得ると捉えていまして、しっかり組織として取り組んでいくことに、とても意義があると思います。
本田 ありがとうございます。評価項目は日本の法制度にも沿ったもので、ユマニチュードの認証の取り組みを進めることで、日本の行政から求められている条件もクリアできる形にいたしました。イメージとしましては、すごく大きな川を渡りたいけれど、橋がない。その時に川の中に大きな石が飛び飛びにあって、順に一個一個飛び乗っていくと、最終的に向こう岸に行ける、というような感じかなと思います。目的を達成するための道のりをお示しするものです。
逆説的になるかもしれないのですが、この評価項目を実践すれば「よいケア」の場を実現できます、というシステムでもありますので、認証の取得を目的としない方々にも、ぜひご利用いただけたらと思っています。多くの方がよいケアを受けられる社会づくりの一助になれたらうれしいです。佐々木さんは利用者という立場からこの認証制度についてどのようにお考えでしょうか。
メダルが施設選びの目安に
佐々木恭子委員 この制度には二つの意味があると思っています。ユマニチュード学会が発足した時のシンポジウムも聞かせていただいたのですけれど、その時にどなたかが、ユマニチュードを素晴らしく思っていて取り入れていきたいのに、なかなか周りにそれを伝えることがしんどいことなんだとおっしゃったんです。
今の現状を変えたいと思っている人がいて、その思いはあってもそれをどうやって周りに伝播させるかという時に、制度や仕組みというものは、その後ろ支えになると思います。熱いリーダーがいればできるというような属人的なものでは意味がなくて、その状態が続いてこそ根付く、人が変わっても制度があれば理解する人が増え続けるという意味で、やはり仕組みというのは大事だなと思っています。
もう一つ自分が施設を利用する立場で考えると、認証マークというのはそれぞれの施設のPRポイントとなります。自分が利用を考える立場になったときに、ユマニチュードのブロンズメダルを掲げている施設があれば積極的に利用したいと思います。利用者側にとって選択の幅が広がると思いますし、視点が増えると思います。
本田 私のところにも「ユマニチュードを導入している施設に家族を入れたい」「自分が入りたいけれどもどこにありますか」というお尋ねが多く来るのですが、ユマニチュードを学んだ方がいらっしゃるということと、その施設がユマニチュードを組織として実践している状況にあるかということはまた違うということを知るに至り、「よいケアの場を目指す」ことを目標に、認証に取り組もうという施設があるということはすごく重要なことだと思いました。
佐々木さん それが言語化されているということがすごく重要かと思います。例えば入学試験で学校を選ぶときに、その学校の校風はすごく言語化するのが難しいですよね。ユマニチュードで考えると、ユマニチュードの哲学によって作られるその施設の文化が校風に当たるかと思いますが、ユマニチュードの認証メダルが、具体的なメソッドと理念が結びついているマークだと思うと、施設を選びやすいと思います。
ウェルビーイングを叶えるユマニチュード
本田 ありがとうございます。山口先生、最後に一言いただけますでしょうか。
山口晴保委員 話が少し外れるかと思いますが、マイブームの話をします。私はなるべく認知症をポジティブに捉えようと提唱しているんですけれど、最近、認知症のケアは医学的なケアと人間学的なケアの両方が必要だと思っているんです。
医学的なケアというのは、その代表がBPSD(認知症の行動・心理症状)なんですが、BPSDというのは医学用語で、医学会が決めた患者の症状なんですね。医学というのは要するに悪いところを無くす、病気を無くすということですから、BPSDというのは異常な行動・言動であって、それを無くすというアプローチが医学的なケアモデルで、私はそれをネガティブケアと呼んでいます。その本人の良い所を伸ばす、隠された潜在能力を引き出すのがポジティブケアで、まさにユマニチュードがポジティブケアなんだろうと理解をしています。
人間は、普段からネガティブな言葉を口にしているとどんどんネガティブな方に行きますし、脳も体も使わなければどんどん機能が悪化して行きます。逆に、脳も筋肉も骨も、体の機能は使えば使うほど向上していきます。それが人としての大原則で、認知機能が低下した状況で色々と生活に困難を抱えている人がどうやって楽しく、私はウェルビーイングという言葉を使っているんですが、ウェルビーイングな状態でいられるようにすればよいのか。
心理学ではどういう状態がウェルビーイングなのかいくつかの要素があるのですが、まずは「ポジティブ感情がたくさんある」ということが大切です。ユマニチュードのケアを受ける側の人に「自分が大切にされている」と分かってもらえるというのは、ポジティブ感情を増やすことになります。ユマニチュードはそういうアプローチをしています。「他者との良い関係性」も要素の一つですが、これもユマニチュードが非常に大切にしていることです。
それから、本人が「ケアをされる」のではなくて主体性を持つということも大切で、人は人として認められると「生きていこう」という前向きな気持ちになると思うんですが、ユマニチュードはそこにもアプローチしています。
さらにもう一歩進めると「役割」というのもとても大切なんですね。ただ単に与えるケアではなくて、本人が何らかの役割を持つ。例えば「立つ」ことも、本人が協力をするから立てるのであって、そうでなければ介護をする人が100%引っ張り上げてしまうことになります。ケアもケアをする人と本人との共同作業だと思うんですが、本人の役割に着目して、協力してくれたことに感謝をすることもユマニチュードには含まれています。
ポジティブ心理学での幸福の条件とユマニチュードが目指すものには共通する部分がかなりありますから、こういうケアが日本でどんどん普及してくれるといいなと思っています。
人材確保につながるユマニチュードの導入
本田 ありがとうございます。認証制度についてはいかがお考えでしょうか。
山口さん 認証制度に取り組む施設と取り組まない施設があると思いますが、取り組む施設がいわばオピニオンリーダーや先達という感じで、一歩先に自分たちでよいケアを行って、その効果をぜひ示して欲しいです。
ユマニチュードを導入した施設で離職率が減るというのは、是非強調して欲しいことですね。それは施設経営にとっての最大の効果ではないかと思います。ユマニチュードの認証を受けるとコストはかかるけれども、そこに勤めてる人の満足度が高く、辞める人が少ないですよというのを世の中に示していくことがとても大切だと思います。そうすると導入する施設がどんどん増えるんじゃないかと期待しています。
本田 その点では早出さん、研修を実施した管理者の手応えとしていかがでしょうか。
早出さん はい、では私どもの施設で出ているユマニチュード導入の成果を簡単にお示しします。一つは定着率です。始めて2年くらいになりますが、108人が受講して、退職された方は2名です。多いか少ないかは事業所によって状況が違うかと思いますが、私どもの法人で今までの離職率を考えると、これは飛躍的に少ない数だと思っています。
おそらく、チームとしての目標をみんなが持って、「こういう介護をしていこう」「我々はこうしたケアを行っていくぞ」という気持ちがありますので、それが離職率という部分に表れているではないかと思います。
もう一つは新しい職員の採用です。今、介護の世界では人材を確保するのが難しいのですが、今年度私どもの施設では2人の新卒の職員を迎えることができました。その2人が自分の就職場所の決め手として考えてくださったのが、ユマニチュードなんです。
「色々な施設に実習に行ったけれど、この施設はちょっと変わったことをしている。なぜこんなことをしているのかな」から始まって、「もっとユマニチュードを知りたい」そして「ぜひこの職場で働きたい」というところに繋がったようです。ユマニチュードに取り組んで2年足らずで、実績としては足りないですが、我々投資している側としても、その成果は続けて見ていきたいと思います。
それと、山口先生からポジティブ感情という話がありましたが、ユマニチュードというのは本当にその通りだと実感しています。年老いてできないことが増えて、諦めてしまうという社会でなく、老後がワクワクできるような、自分の望む暮らしが実現できるような社会づくりを進めて欲しいと思っていますが、それがユマニチュードにあると思います。「日本の老後には未来がある」と言われるよう、私自身も頑張って取り組みたいと思います。
本田 ぜひよろしくお願い致します。お話は尽きませんが、お時間がなくなってきました。最後にご紹介をしたいことがございます。ユマニチュードを多くの方に知って頂くために、日本財団の支援をいただき、認証制度の制定を記念しました「ユマニチュードキャラバン」を始めました。
詳しくは当学会WEBサイトをご覧いただきたく思いますが、ユマニチュードについて知っていただき、また認定インストラクターと交流していただく場でございますので、ぜひお申し込みください。
本日はこれにて終了したいと思います。100名を超す皆様にご参加いただき、とても嬉しく思います。ありがとうございました。
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