福祉の現場を支援する弁護士の取り組みを紹介します。

介護のケアにとどまらず、福祉の分野でもユマニチュードの考え方や技術を活かすことはできるのでしょうか。「セルフネグレクト」に取り組む福祉職を支援する弁護士、篠木潔さんの試みを紹介します。(聞き手・松本あかね)

篠木潔さん(福岡県在住)

弁護士法人翼・篠木法律事務所の代表弁護士(福岡県弁護士会所属)として、主に企業法務や医療・福祉関連業務に従事し、福岡県介護保険審査会長、福岡県社会福祉士会理事なども経験。法律事務所内に社会福祉士を雇用して共同で成年後見業務にあたるなど、法律とソーシャルワークの連携を実践しています。

(前編より続く)

独学からのスタート

-改めて篠木さんが、ユマニチュードを知ったきっかけを教えてください。

篠木潔さん 10年くらい前、NHKのテレビ番組でユマニチュードが特集されていたのを見たことが最初のきっかけです。ものすごく驚きました。ケアをあんなに拒んでいた人、歩けなかった人が、イヴ・ジネスト先生の手にかかるとあっという間に改善していくなんて。これって、私たち弁護士が依頼者を支援するときにも、使えるのではないかと興味を持ちました。

—依頼者ともっと繋がる方法はないかという問題意識を当時すでにお持ちだったのでしょうか。

はい。私は今年で弁護士26年目なのですが、私たちの世代の弁護士は、法学部を卒業して、あとは司法試験を勉強しただけなので、え的にコミュニケーションというものを学んだことがないんですよ。しかも、依頼者に対しては、まずは法律の知識を介して話を進めていくので、日常会話と違って内容が難しくならざるを得ないのです。

このため私もよく叱られていました。「先生の話は理屈っぽくてわかりにくい」、「先生は早口だからわからない」(笑)。でもイヴ・ジネスト先生の話をテレビでお聞きして、論理や知識だけでなく、ユマニチュードを使ってあんなふうに変われるんだったら、僕もやってみたいと思ったのがきっかけでした。そして、現場の医療福祉関係の方もコミュニケーションというものを学んではどうかと思った次第です。

—その後はどのようにユマニチュードを学ばれたのですか?

2014年2月に上智大学で開催されたイヴ・ジネスト先生と本田先生の講演会を聴講し、その会場で販売されていたDVDで学びました。当時、福岡では研修は全く開催されていなかったので、本を買って読み込みました。実際に、先ほどお話ししました消費者被害に遭っても支援を拒否される認知症高齢者の事案をはじめ、私が成年後見人になっている認知症高齢者の方々とのコミュニケーションもうまくいくようになりました。

2023年には福岡市主催のユマニチュード家族介護者向け講座を受け、叔母の介護を手伝っていたときに試してみたら、認知症で見当識障害が出ていて私のことを全く忘れてしまっていた叔母が、途中で「あんた、潔くんね」と思い出してくれたという劇的な体験もしました。

—セルフネグレクトの支援に関する相談を受ける以前から、ユマニチュードを独学し、実践するという経験を積まれていたのですね。

はい。あくまでテレビやDVDや本で学んだ範囲でしかなかったのですが、試すとうまくいくので、うれしくなって実践しました。また、私はコロナ禍前には定期的にケアマネージャーを対象に無償の勉強会を開いていたのですが、そこでDVDを見たり、私が本を読んで学んだユマニチュードの情報を伝えたりし、皆で研究しました。一度伝えると、皆さんが感動して、患者や利用者さんのために自分で走り出すのです。なので、医療福祉職は本当に素晴らしい専門職だなあと思いました。


「ケアマネゼミ・チーム篠木」の勉強会風景。約20名の小さな勉強会ですが、介護におけるさまざまな問題や法的課題について皆で勉強し、講演会なども実施しました。

—私たちは、支援に対して拒否が強ければ強いほど、相手側に問題があると思ってしまいがちです。こちら側にも伝え方に問題があるかもしれないと気づくのはなかなか難しい。法律家である篠木さんにとって、ユマニチュードを具体的なスキルとして知ったことが、実践の原動力になったのでしょうか。

そうですね。ご自身の生命や健康や財産を守るために必要不可欠である場合は、つい「病院に行ってください」「これをしないともっとひどくなりますよ」と言いたくなりますが、簡単に言ってはいけないのかもしれません。「正しいことは人を傷つける」ことがありますからね。

こちら側がまずはステップを踏んで、相手が少し心開いて話をしてくれるようになったら、こちらの意図と相手の気持ちがもつれているところを探し出して、ゆっくりほぐしていくことができます。そういう人間関係を築く一つのスキルとして、ユマニチュードは役立つということだと思います。“正しいこと”、すなわち、ご本人に今必要なことは、ユマニチュードのステップを踏んだ後に言うと、うまくいくことが多く、ユマニチュードと出合うことができて本当によかったと思っています。

法律家とユマニチュード

—支援者からすると、法的責任の問題もあったと思いますが、本人の意思の尊重との兼ね合いでも悩んだ部分があったのではないかと思います。医療者の立場では、命に関わる場合は踏み込まなければいけないという考え方もあると聞きました。

そうです。医療者の使命が患者の命や健康を守ることにあるので当然ですよね。ところが一方で法律家である弁護士の中には、判断能力の落ちていない本人が、もういいと言うのなら、そこまでしなくていい、むしろ本人の意思を尊重すべきだという考えの人も多いのです。むしろ意思に反して支援を行うことは自己決定権の侵害、すなわち人権侵害になるのではないかと危惧する意見もあります。

このように、医療者と法律家で感覚が違うと、支援の現場で意見が対立して支援が進まないという事態になりかねません。でも、よく考えてみると、結局のところ、セルフネグレクトのご本人が「いいよ」と支援を受け入れてくれればいいわけです。対立もなく支援も進んでご本人の生命をはじめとする権利を擁護することもでき、これが理想的な解決です。

そこで、その合意に至るために、支援者と相手の橋渡しをしてくれるのがユマニチュードをはじめとする具体的な「スキル」だと思います。スキルさえ身につけておけば、本人の嫌がる気持ちをほぐすことができるわけで、嫌がっているのに支援を強いることがなくなります。そしてご本人の命や健康や財産を守ることもできます。ということは、「スキル」というものが、権利や人権を守る有効かつ大きな手段だと言えると思います。言い換えると、「権利擁護のスキルとしての価値」ということができます。

私たち弁護士は抽象論ではなく、具体的な支援方法をアドバイスできなければ、権利擁護という弁護士本来の役割を果たすことができません。しかし、ユマニチュードはその具体的な方法を私たち法律家にも教えてくれているので、可能性は大きいです。

ユマニチュードは基本的には介護ケアのスキルとして構成されているけれど、その哲学や体系から考えると、介護ケアのスキルを超えて、権利擁護としての役割はもちろん、社会全般にもっと広い役割と機能が期待できるのではないかという点に着目しています。

—本人の人権を考えた場合、健康、命を守ることももちろんだけれど、自己決定の尊重という視点を失わないことも同じように大切で、そのための具体的なスキルを含めたアドバイスが必要とお考えなのですね。

はい、そのとおりです。イヴ・ジネスト先生も、患者さんが拒否することを認められていますね。無理矢理にはしないというのがユマニチュードの思想ですから。

私たち法律家は「拒否する権利」というように、つい「権利」という言葉を使ってしまいますが、先生ならおそらく「拒否することはあたりまえの人間性」とおっしゃるかもしれません。本人を同じ人間として尊重するという立場でいらっしゃると思います。そしてそれをほったらかしにするのではなく、次にどうするかという使命感がユマニチュードを作り上げていったのではないでしょうか。

—自立して最後まで人間らしく生きるという思想ですね。

はい。ユマニチュードの技術『4つの柱』のうち『立つ』は、ケアの側面としては物理的に立つことが念頭に置かれていますが、実は精神的に「自立」するということでもあるのかなと思っています。ゴミ屋敷に住んで支援を拒否する、そのことが果たして自立になっているのかどうか。実はそれが嫌なのに、片付ける方法を知らないだけかもしれない。支援を求める力を失ってしまっている方もいらっしゃると思います。それって決して自立しているとはいえませんよね。

「自立ってなんぞや」という話になるかもしれませんが、おそらく人間性とは何かといえば、人と話し合ったり、人の助けを求めたりすることができるということも、そうなのではないでしょうか。そうやって人間社会はできていますから。

—本人の意思を尊重しながら、どうしたら人間らしい生活を営めるようになるか。どうしたら拒否という形ではなく、適切な自己決定をしてもらえるか。それにいたるまでのサポートをすることで、法的な懸念もなくなるし、最終的にその人の権利擁護も叶うということでしょうか。

はい。世の中には、例えば、今までは治療や介護を受け入れていたけれど、途中で拒否する人もたくさんいらっしゃるわけです。必要な治療や介護の一部を拒否される方も少なくありません。それをそもそも全部嫌という人たちがセルフネグレクト事案の中には多く存在し、その方たちは困難事案の最たる当事者とも言えます。だから、セルフネグレクトの支援ができる人は、ある意味ほとんどの事案の支援ができるはずです。そのくらい究極の事例だと思います。

ある自治体では、支援が進まない困難事例として挙げられている事例の約52%が支援拒否だったことが判明し、その支援のためのガイドライン作りに乗り出した例もあります。やりがいがあるといったら少し語弊があるかもしれませんが、取り組む大きな価値があることだと思います。

私自身は弁護士ゆえ、クライアントから依頼があって初めて仕事をすることになるので、最前線でセルフネグレクト事案に遭遇する専門職ではありません。しかし、ユマニチュードの存在やスキルを伝えることで、支援者の方への支援、つまり後方支援ができるのではないかと考えています。そして、先ほど保佐申立を拒んでおられた女性の例から分かるように、弁護士も、個々の事案の解決のため、権利擁護の手段となり得るユマニチュードを学ぶことはとても有益だと思うのです。

“支援者への支援”を目指して

—今後は、研修会やシンポジウムを開催される予定とお聞きしています。

今年(2024年)2月に、私が所属する福岡県弁護士会と、九州の各弁護士会で構成する九州弁護士会連合会との共催で、シンポジウム「セルフネグレクト~支援を拒否する人への支援を考える」を開催しました。そこでは、保健師としてのご経験を持つセルフネグレクト研究の第一人者の先生の基調講演や各専門職の方とのパネルディスカッション、そして福岡市の地域包括支援センターと障害者基幹相談支援センターの協力を得て実施した「繋がるヒントを見つけるためのアンケート」調査の報告を行いました。

この報告はセルフネグレクト事案の多くの成功事例を集め、それらの事例を要約するとともに、そこから抽出できた「支援に繋がるアプローチ方法(スキルやヒントや心構え)」や「現場の悩み」を報告するものでした。すると、そのシンポジウムの事後アンケートでは、支援のための具体的な方法やスキルをもっと知りたいという要望が一番多かったのです。

そこで私の発案で、弁護士によるセルフネグレクト支援の後方支援の第2弾として、今年11月に福岡県弁護士会主催で、セルフネグレクト支援のアプローチ法やスキルを中心とした研修を実施します。準備が間に合えば、ユマニチュードがセルフネグレクトの方々とのコミュニケーションに役立つということもお伝えしたいと思っています。

現時点ではまだセルフネグレクトの現場でユマニチュードの具体的な応用方法ができ上がっているわけではありませんが、イヴ・ジネスト先生のおっしゃる「自立を促す技法」とそれを生み出した哲学体系は、必ず応用ができるものと確信しています。

そして、権利擁護のスキルとして、ユマニチュードを知ってもらうことによって、医療福祉関係者や介護の必要な市民だけでなく、自治体や企業、そして社会全体にユマニチュードを広めたいです。わが国では家族などの養護者による高齢者虐待が年間約17,000件程度発生しているのですが、その原因の第2位は「虐待者の「介護疲れ・介護ストレス」です。しかし、介護をする家族の方々にユマニチュードを普及させることに成功すれば、介護者による虐待が減少することが考えられます。これもユマニチュードの権利擁護としての側面です。

今後ユマニチュードからどんな展開が飛び出すのか、世の中の「支援の必要な方々」と「それを支援する方々」に対して、きっとすごいことができるんじゃないかと期待しています。そして、私自身は、「ユマニチュードの権利擁護としての側面とその価値」を多くの方々に伝えていきたいです。

後日談

本インタビューの後、篠木さんとイヴ・ジネスト先生が直接お会いする機会がありました。

篠木潔さん ユマニチュードをセルフネグレクト支援に活用することについて、zoomミーティングで本田美和子先生にご相談した際、私はジネスト先生のお考えと異なってはいけないと思い、その点について本田先生にお尋ねしました。すると、私の考えをジネスト先生に直接お話しされてみませんかと言われ、その場を設けてくださいました。

そしてなんと、私の地元福岡の鉄板焼屋さんで、3人で会食することになったのです。さすがの強心臓の私も、本田先生と直接お会いするのは初めてですし、ジネスト先生ご本人とのお食事会ですので、数日前から非常に緊張しました。ところが、お会いしてみると、ジネスト先生の包み込むようなコミュニケーションのお蔭であっという間に緊張がほぐれ、様々なお話をすることができました。

ユマニチュードをセルフネグレクト支援に活用することやユマニチュードの権利擁護としての側面にも大賛成してくださいました。お話をお聞きすると、ユマニチュードは人間の尊厳を基本とし、もともと人権をも念頭に置いたものだということでした。そして技法だけではなくユマニチュード哲学も重要だとおっしゃり、いろいろと教えてくださいました。

私はスキルとしてのユマニチュードに着目しすぎて、本当の意味でのユマニチュードをしっかり理解していなかったことを恥じました。そして、まだ知らない150の技法や哲学も含めて、ユマニチュードを改めて本格的に学びたいと思いました。そこで、酔いの勢いで弁護士向けのユマニチュード研修をしていただくようお願いし、本田先生に実施していただくことになりました。これは日本で初めての弁護士に対するユマニチュード研修となります。

余談ですが、ジネスト先生は日本酒の辛口がお好きとのことで、大変驚きました。そして最後には、私が持参していた先生のご著書にサインまでいただきまして(笑)、私はユマニチュードを多くの人に伝える決意を新たにした次第です。


左から本田美和子先生、イヴ・ジネスト先生、篠木潔さん。福岡の鉄板焼屋さんにて。

おわり

福祉の現場を支援する弁護士の取り組みを紹介します。

介護のケアにとどまらず、福祉の分野でもユマニチュードの考え方や技術を活かすことはできるのでしょうか。「セルフネグレクト」に取り組む福祉職を支援する弁護士、篠木潔さんの試みを紹介します。(聞き手・松本あかね)

篠木潔さん(福岡県在住)

弁護士法人翼・篠木法律事務所の代表弁護士(福岡県弁護士会所属)として、主に企業法務や医療・福祉関連業務に従事し、福岡県介護保険審査会長、福岡県社会福祉士会理事なども経験。法律事務所内に社会福祉士を雇用して共同で成年後見業務にあたるなど、法律とソーシャルワークの連携を実践しています。

支援を拒否する人たち

-弁護士として「セルフネグレクト」に関わる医療・福祉職の方をサポートする研修会、シンポジウムの開催に取り組まれていると聞いています。まず「セルフネグレクト」とは何かを教えてください。

篠木潔さん 「セルフネグレクト」は一般的には次のように定義されています。

「人が人として、生活において当然行うべき行為を行わない、あるいは行う能力がないことから、自己の心身の安全や健康が脅かされている状態に陥ること」

より専門的な定義として「健康、生命および社会生活の維持に必要な、個人衛生、住環境の衛生もしくは整備又は健康行動を放任、放棄していること。そしてそれには、サービスの拒否、財産管理の問題、社会からの孤立などの付随概念を含む」という内容が提唱されたりもしています。

身近な例でいえば、いわゆる「ゴミ屋敷」がそうですが、それにとどまりません。近所の人が通報して初めてわかることも多いのですが、訪問すると、夏なのにクーラーもない中で寝込んでいることがわかったりする。極端に物を溜め込んだ不衛生な環境で、本人の栄養状態も極めて悪い、持病があるのに治療しない、介護サービスを導入しないと在宅生活が困難なのに頑なに拒むといった事例が見られます。

—篠木さんご自身が「セルフネグレクト」の問題を知ったきっかけは?

弁護士として、医療・福祉関係者から、支援を拒否する人に対し、強く介入しなかった場合に法的責任を問われる可能性があるか」という相談や、逆に「本人が拒否している関係で、どこまで介入してよいのか? 介入しすぎると法的責任と問われる可能性があるか」という相談を受けることが度々ありました。

また知り合いのケアマネージャーさんから、支援を受け入れないまま、2、3年経過するという事案もあると聞いて驚きまして。実際に孤独死も起きていて、これは大きな問題ではないかと勉強したところ、「セルフネグレクト」という大きな問題(テーマ・課題)があることがわかった。それが、5、6年前のことです。

—「セルフネグレクト」は直訳では「自分の世話を怠る」となりますね。なぜ、そのような状況に陥ってしまうのでしょうか。

セルフネグレクトに陥るリスク要因にはいろいろあります。例えば認知症によって判断能力が落ちて、身の回りのことができなくなる場合があります。また、判断力はしっかりしているけれど、配偶者や近しい家族が亡くなる、リストラといったライフイベントによって生きる意欲が失われてしまう、その結果、自分の世話をしなくなるといった要因もあります。

さらにプライドや遠慮、気兼ね。これは日本人に多いそうです。プライドの高い人は人の世話になりたくない、遠慮や気兼ねをする人は人のお世話になるのは申し訳ないと思ってしまい、生活や医療の支援を拒否した結果、家屋の衛生状態、本人の健康状態が著しく損なわれてしまうのです。

引きこもりの長期化も要因として挙げられます。人間関係の構築ができず、受け入れを拒否してしまうのですね。人間関係のトラブルで、人間が怖くなっている場合や、虐待のトラウマで生きる意欲が失われ、SOSを出せないということもあるそうです。そのほかには経済的な問題。支援の費用が出せないから拒否するというケースもあります。

—さまざまな理由や背景があるのですね。

そうなのです。そのような方に対して支援を進めるためには、本人の協力や同意、承諾が必要ですが、それを拒否されてしまい、支援そのものが進まないというのが現状です。ひどい場合は、そもそも自治体の職員や医療・介護関係者等の支援者に会ってもくれないという例もあり、支援に繋がるまでに数年もかかる事例が少なくないようです。

しかし、こうした「支援の拒否」を弁護士から見た場合、ご本人は「自己決定権を行使されている」ともいえるわけです。分野は違いますが、「尊厳死」は延命を拒否してするものですが、今はこれを尊重しようという流れもありますし、海外では安楽死さえ認められている国もあります。つまり、積極的に死ぬことを許容されている国もある中で、セルフネグレクトの場合は、その手前の事柄で自己決定権を行使されているのですから、なおさらその意思決定を尊重すべきと言えなくもありません。

しかし、行政自体も支援者も、本人の生命や健康等に悪影響が出ているのだから、本人を守るという権利擁護の観点から、あるいは支援者たちの職業倫理の観点から、それを放っておくことはできないと悩まれる方が多いのです。一方、放っておくと自分たちに責任が及んでくるのではないかと恐れている方も少なくない。そのような現場の支援者のジレンマに対して、私たち弁護士が、ある程度の方向性をアドバイスする必要があったわけなのです。

ユマニチュードのスキルを使ってみたら

—現場の支援者が、本人の意思を尊重する気持ちと命や健康を守らなければ、という使命の板挟みになっている状況が伝わってきます。それに対して、ユマニチュードのスキルはどのように役立つのでしょうか。

私が実際に関わったケースをご紹介しましょう。

認知症の症状のある高齢女性ですが、消費者詐欺に遭ってしまったり、契約の意味を正しく理解できないばかりか、預貯金の管理さえもできなくなったりされていました。認知症が進んで判断能力の程度から言うと成年後見制度の「保佐人」による支援が必要な事態となりました。しかし家庭裁判所から保佐人に対して、その方の生活のために預貯金の管理や介護サービスなどの各種契約等を代わりにすることができる「代理権」を付与してもらうには、制度上、本人の同意が必要なのです。なので、その方から代理権付与についての同意を得られなければ、ご本人の生活全般を守れないわけです。ところがその高齢女性の方は、子供さんや私の先輩弁護士がどんなに説得しても同意してくださらない状況でした。

そこで、このままではうまくいかないということで、私が先輩の弁護士に頼まれまして、その方の所へ同行しました。当時入院中だったのですが、先輩弁護士はベッドに座っておられた女性のところへ行って、仁王立ちになって言うわけです。「被害に遭っているから後見制度使わないといけない」「代理権付与の同意書をもらわないと困る」と、叱るような口調で。その方にしてみれば、そもそも被害に遭っているという認識もないし、自分でなんでもできると思っておられるから、当然拒否される。

それを見て、私は相手の視野に入るようにして膝をついて、「初めまして」。ゆっくり、話しかけてみました。そうしたら「あんた、なんね」、「弁護士です」。なぜ弁護士が来ているのかと、最初は「助けはいらん」と拒否されました。そこで、私は話を切り替えて「この病院はごはんがおいしいですか?」「お困りのことないですか?」と聞くと、「おいしくない」「看護師が意地悪する」とかおっしゃる。「それは大変ですね」、それから「触れる」のステップをしてみたんですよね。そうしたら、私の顔をじっと見て、そこからが急展開。私という人間を受け入れて、話を聞いてくださって、いろいろお話をしました。そしてその場で同意をもらいました。おそらく1時間くらいのことだったと思います。

—説得しようとするのではなく、まず受け入れてもらおうとなさった。ユマニチュードを使うことでコミュニケーションの扉が開き、支援の内容を理解してもらうことができたのですね。

はい。ユマニチュードのスキルを使うことで、これまで受け入れてくれなかった方が話を聞いて、「いいよ」と言ってくださった。そのお蔭で保佐審判開始の申立を行うことができ、保佐人が選任されて財産を守ることができました。

この方は認知症でしたが、それだけでなく「8050問題」といわれる引きこもりの当事者や、ゴミ屋敷のケースにもユマニチュードは役立つのではないかと思うのです。その点について本田美和子先生にお聞きしたところ、先生も「役立つと思う」とおっしゃいました。そもそもユマニチュードは、いろいろなスキルを駆使して患者さんが自分は大切にされている、支援者たちもあなたのことを大切に思っているということを表現するスキルだとおっしゃっていました。

それってまさに、セルフネグレクトのご本人に対しても必要なことですよね。自分が大切にされていない、酷いことを言われた、自尊心が傷つけられた、他人が怖いといった理由で引きこもりの方もいらっしゃるでしょう。だからこそ「あなたのことを大切に思っています」ということを、まさにユマニチュードのスキルを使って伝えることが重要だと思うのです。

「尊重」と「支援」を両立する

本田先生ご自身も、医療現場でセルフネグレクトを経験されたことがあるそうです。いちばんいけないのは、「今日はあなたを支援するためにきました」とか、用件をはじめに言うことだとおっしゃっていました。

ユマニチュードの中でも、例えば相手の領域に入るために、ノックをして承諾を得ることとか、ケアをするという合意をしてからにしましょうとか、そういうところがある程度進んで初めて、用件を言って、その中で合意を得ますよね。それがご本人を一番尊重したやり方だと思います。

ところが現場の支援者は、セルフネグレクトが何年も続いる状況を目の当たりにすると、こんな暑い中で危険かもしれない、と急ぎ支援をしようと焦ってしまって、そういう大切な手順を取らないだろうと思うんです。本田先生は、相手が受け入れてくれなければ、その場で一旦帰るということも大切なことだと。実際に経験豊かな行政職、福祉専門職は、無理やり話を続けようとせずに、一旦は帰られるそうです。

—現場でも実はいろいろなスキルを実践されているのですね。

そうなのです、皆さん試行錯誤するなかで、生まれているスキルがあるのだと思います。ほかにも、私が使えるのではないかと先生にお話ししたのが、ユマニチュードの5つのステップの中の『感情の固定』。ケアの後で共に良い時間を過ごしたことを振り返るというステップがありましたね。

セルフネグレクトの場合にも、例えば、拒否していた方が、玄関だけ開けて話をしてくれたなら、「会ってくださってありがとうございます。本当に私は嬉しかったです」と感謝の気持ちを伝える。そうやって本人が喜ばれること、印象に残る話をすると、支援の前段階ではあるけれど、その会話自体が、本人にとってはケアのようなものではないでしょうか。そしてその良い印象が残り、それが次に繋がっていくのは、病院や介護施設でのユマニチュードの実践と同じかもしれないと思いました。

それから『再会の約束』、これは次のケアを受けてもらうための準備として、「今日は玄関を開けてくださってありがとうございます。また訪問します」と約束をする。おそらくそんな約束はいらないと言われるかもしれません。そのとき、「先ほど、花の話をされていましたよね、ちょうど1ヶ月後、紫陽花の季節なので、写真をいっぱい撮ってきます。○○公園の紫陽花なんかは種類が多くてとても綺麗なんですよ!」とかね。再会の約束と同時にご本人が喜ばれるような約束をする。それでも来なくていいとおっしゃるかもしれない。でも1ヶ月後に行ったときには、そのことを覚えていらっしゃって、その日の会話は、まずは紫陽花の話からスッと入っていくかもしれませんよね。

そのほかにも、ユマニチュードの手法や哲学で、セルフネグレクトの支援はもちろん、権利擁護の場面に役立つことはたくさんあるように思います。なので、日本ユマニチュード学会でも一度、研究していただければうれしいです。

—支援は介護と同じで、一回の訪問で終わりではなく、関係性の構築が必要だと感じます。

そうなんですよ。イヴ・ジネスト先生もそれをよくわかっていらっしゃって、うまくいく方法をしっかり体系化されていますから、介護ケア以外にも、きっと使えると思います。なんといってもユマニチュードにはそれを支える素晴らしい人間哲学がありますから。

—お話を伺っていると、本人の判断能力の低下による拒否もあるけれど、コミュニケーションがうまくいっていないことが、第一の原因という見方もできるのではないかと思いました。

そうですね。その意味では、まずは繋がるための支援が重要です。そのために、コミュニケーション ケア技法でもあるユマニチュードは本領発揮の場でもあると言えるように思います。さらに、セルフネグレクトの支援の場合、コミュニケーションが取れた後、ケアよりもさらに進んで、具体的にどういう支援をするかという話をご本人とする必要があります。

ケアや治療はある程度、行うべきことが決まりやすいです。でもセルフネグレクトの方を支援する時、それぞれ課題や背景や考え方が違いますから。お金がない、とにかく人が怖いとか、ご病気かもしれないなどさまざまです。そのため、適切なコミュニケーションを通じて必要な情報を取得し、その人にあった支援をどうしていくかという合意を形成していかなければいけません。その中においても、ユマニチュードの手順を1つ1つ繰り返していけば、拒否は起こりにくんじゃないか、そして前向きな合意形成が可能になって、セルフネグレクトの支援が進むんじゃないかなと思うのです。

(後編に続く)

サポーターズレター
ユマニチュード認定サポーター準備講座・養成講座を受講後、 “ユマニチュードを通して優しさが伝わり合う社会を実現するために共に助けあい、支え合う仲間”としてサポーター登録してくださった方からのお声をお届けします。

ユマニチュード認定サポーター

栗林よしえ(埼玉県)

サポーター講座を受けた動機

昨年、認知症の父と上手にコミュニケーションが取れずに悩んでいた時に、本田先生の著書を手にとりました。タイミングよく市民・家族のための認定サポーター準備講座が開催されることを知り受講しました。大変興味深い内容でしたので、養成講座も受けさせていただきました。

写真:フラワー曼荼羅/栗林さん撮影・提供

サポーター講座を受けた感想

普段何気なく行っていた、見る、話す、触れる、立つという行為が、ユマニチュードの技術と哲学を通して、優しさを伝える道具に変わっていく事に驚きました。

テキストも介護初心者の私に無理なく実践できるように、具体的に作られています。 養成講座で教えていただいた、4つの柱と5つのステップを振り返ることで、ケアの上手く行かなかった原因を発見できると、先生がおっしゃっていたことがとても印象的でした。

サポーター講座を受けた、前と後の変化

講座を終えて、少しずつですが認知症の人の立場に立って物事を考える事ができるようになり、父を苛立たせてしまう回数が減ったように思います。

父と向き合う私の姿勢を変えることが大切だとわかりました。

父の中に今も保たれている機能や可能性を見つけ、それに寄り添えた時「ありがとう」と嬉しげに答えてくれます。そんな時、ユマニチュードを学ぶ機会に恵まれたことを嬉しく思います。

サポーターズサロンについて(皆さんとの意見交換をして)

貴重なアドバイスや意見交換から、皆さんの経験の豊かさや積極性が感じられ、大変心強く思いました。

在宅介護を始めて6か月目に入るのですが、父の体調の変化に合わせて介護の仕方を変えていく事、必要なものをそろえていく事など、見直すべき点がたくさんあることに気付きました。皆様の温かいお言葉に感謝申し上げます。

ユマニチュードについて思うこと

父との絆を保つために学び始めたユマニチュードですが、それだけに留めておくのはもったいなく思うようになりました。

ユマニチュードを教養として身に着け、誰もが尊重され尊厳を持って暮らせる社会を作る一員として、ユマニチュードを通して社会に貢献していきたいと思います。

皆が幸せに暮らしていくことができますように。


「ガンジス河/栗林さん撮影・提供」

「障害を取り除いてくれる神様 ガネーシャ/栗林さん撮影・提供」
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2023年5月からスタートした「市民・家族のためのユマニチュード認定サポーター準備・養成講座」は、2024年7月までに全国各地に74名の認定サポーターが誕生しました!

家族介護をしている方、主婦、学生、会社員、接客業、清掃員、公務員、運転手、会社役員、保育士、管理栄養士、日本語教師、キャリアコンサルタント、教員、大学教員、医師、看護師、介護福祉士、歯科衛生士、訪問介護員、ケアマネージャー、薬剤師、理学療法士、臨床心理士、公認心理士、臨床検査技師、歯科衛生士、ネイリスト、マッサージ師など、様々な立場の方々が、生活のなかでユマニチュードを実践するために、この講座を共に学びました。

また、2022年からスタートした認証制度では、2024年5月までに、全国でブロンズ認証として8事業所を決定しました。

全国各地で、ユマニチュードの輪が広がっています!

サポーターズレター
ユマニチュード認定サポーター準備講座・養成講座を受講後、 “ユマニチュードを通して優しさが伝わり合う社会を実現するために共に助けあい、支え合う仲間”としてサポーター登録してくださった方からのお声をお届けします。

ユマニチュード認定サポーター

坂元佐知子さん(和歌山県)

サポーター講座を受けた動機

前の職場でユマニチュードを取り入れるとの事で、職場独自の方法で勉強しましたが、実践していく中で、難しいと思うことに答えを得られず、ただできていないことを指摘されるだけだったので、本当はどうなのかを知りたくて講座を受けました。

できていない時、目を見て話すと顔を引っ掻かれたこともあり、顔がひきつって笑顔になれず難しく思っていました。しかし講座を受けて何ができていなかったのかが、よくわかりました。

サポーター講座を受けた、前と後の変化

いまは別の仕事について、母と一緒に暮らし、母の介護をしています。

もともと母は、父が亡くなってから1人暮らしをしていました。たまに電話をすると元気だよと答え、一人で買い物に行き、生協も注文して、生活は出来ていると思っていました。ある日、携帯電話も家の電話も不通になり、慌てて様子を見に行ったら、家中の電源を切って、エアコンのコンセントも抜いて、寒い中、暖を取ることもできない状況でした。1人での生活は難しい?と考え私の家で一緒に暮らすことになりました。

しかし、毎日家に帰ると言うようになり、環境が変わると生活するのが大変そうです。 そんな母を見てつくづく思ったのは、もっと早くどこで誰と生活するかを家族で話し合っておけば良かったということ。認知症が進んでいると、本人の意思を聞くのが難しいです。

ユマニチュードの講座を受ける前、母に話しかけても返事がないので、耳が遠いのかと思い、耳鼻科に行って検査や耳垢の掃除、補聴器の相談をしましたが、特に問題がないと言われました。講座を受けて、ユマニチュードで目を見て正面から話す、家族なので、すごく近づいてやってみたら、普通の声で聞こえているのがわかりました。正しい接し方をすれば伝わることを学んで、コミュニケーションがうまくいくようになりました。

サポーターズサロンについて(皆さんとの意見交換をして)

一方で、母は、同じことを繰り返し何度も話し、何度も質問します。それに対して私は、感情的になってイライラし、疲れてしまいます。感情をコントロールできない時、どうしたらいいのか?


坂元さん撮影・提供

話題転換の為に違うこと、例えば、料理や、散歩しようとか、提案して、工夫していますが、毎回はうまくいかず、反省しています。何かいいアイディアは?

サロンで皆さんに問いかけました。色々なご職業、ご経験を持つ方がいて、親身に答えてくださいました。母とのコミュニケーションの事だけでなく、私の気持ちについても考えてくださり、ありがたいご意見、アドバイスをいただきました。そして、同じ悩みを持つ方もいらっしゃることも知り、私だけでない、一人ではないという気持ちにもなれました。

ユマニチュードについて思うこと

自分中心の考えを持つ人が増す世の中で、相手を思いやり、優しさを伝える技術=ユマニチュードが広がれば、もっとあたたかで安心して暮らせる、そんな世の中になると思います。


坂元さん撮影・提供
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日本ユマニチュード学会の学術会報誌「ユマニチュードの絆」第1号を掲載しました。
ぜひご覧ください。

令和6年2月16日(金)毎日新聞朝刊に、福岡市が2024年度、「ユマニチュード」を推進する部署(5人体制)を全国で初めて新設する内容の記事が掲載されました。また、市民講座の講師となる「ユマニチュード地域リーダー」の増員、同年度に「日本ユマニチュード学会」総会を学会と福岡市と共催で開催することも伝えています。

当学会では、日本におけるユマニチュードの普及・浸透活動として、医療や介護現場だけでなく、超高齢社会にある日本において誰もが自分らしく生きていける社会を実現するため、世界で初めて自治体・福岡市と連携することにより、病院/介護施設・家族介護者・一般市民・児童/生徒・公務員など幅広い方々を対象に「ユマニチュード」講習を行なっています。

この活動の1つ「救急隊員向けユマニチュード研修」を受講された救急隊員が、日常の救急活動にユマニチュードを取り入れることによって、いかに優れた実践をされているか、この動画にてご紹介いたします。

サポーターズレター
ユマニチュード認定サポーター準備講座・養成講座を受講後、 “ユマニチュードを通して優しさが伝わり合う社会を実現するために共に助けあい、支え合う仲間”としてサポーター登録してくださった方からのお声をお届けします。

ユマニチュード認定サポーター

横山由美さん(東京都)

サポーター講座を受けた動機

私は6年前から高齢者施設で対話型絵画鑑賞会のファシリテータを行っており、それはMoMA(ニューヨーク近代美術館)のアルツハイマープロジェクトを基盤としたものなので、認知症に対する初歩的な知識は学んでいました。ユマニチュードについても耳にしており、一般を対象とした講座を是非受講してみたいと思っていましたが、コロナ感染が拡大し講座は休止となっていました。

そのコロナ禍、父の認知症が進行してグループホームに入所することとなり、認知症に対する、より一層の理解と対応が必要となりました。


握手ではじまり握手でまたね。が毎回の父との面会

思い余って事務局へ問い合わせをしてみたタイミングで、ついに!数年来の希望であったオンラインで受講できる「市民・家族のためのサポーター講座」の受講が叶いました。

サポーター講座を受けた感想

サポーター講座では、講師や参加者の皆さんと双方向でのやり取りをしながら進行していき、本や動画で一方的に受け取る学習よりもずっと効果的でした。

サポーター講座を受けた、前と後の変化

サポーター講座受講後、「見る」「話す」「触れる」の3つの柱は、父に対しても、施設での対話型鑑賞会参加の皆さんにも行っています。

受講前との変化が顕著に見られたのは、既に信頼関係のできている父というよりも、鑑賞会の皆さんです。鑑賞会では全員で同じ絵を見ながら、思ったこと、感じたことを自由にお話いただきます。


対話型絵画鑑賞会の様子

それまでは首を横に振るだけや「わからない」とおっしゃっていた方々が、開始前に3つの柱を使ってお迎えするようになってから、心を開いてご自分の意見を積極的にお話して下さるようになりました。その驚きの効果に加えて「この場では何を言っても受け入れてもらえて嬉しい」とのご感想までいただき、ユマニチュードで接する時間が楽しみになっています。

サポーターズサロンについて(皆さんとの意見交換をして)

加えて有意義なのはサポーターズサロン。講師の先生、インストラクターの方々、ドクター、ご家族の介護で同じような経験をされている皆さんとの意見交換や貴重なアドバイスは、悩んでいるのは自分だけではないと大いに励まされます。

ユマニチュードについて思うこと

ユマニチュードはイソップ童話の『北風と太陽』のようです。

信頼関係は人としての尊厳を尊重し合うことで築かれ、その結果コミュニケーションが成り立ちます。信頼関係なくしてコミュニケーションが成り立つはずもありません。

ユマニチュードの哲学は、介護や看護の場のみならず人間関係の根本と思われます。

更に現場経験に裏打ちされた信頼関係構築のためのテクニックが示されて誰もが実践ができるよう体系化されており、単なる理想論ではありません。

コミュニケーションが困難と思われる方々の上着を、北風ではなく、暖かい太陽の日差しで脱がせて差し上げることは人道的かつ合理的で、1日も早くグローバル・スタンダードとなることを一当事者家族として切に望んでいます。折しも4月1日から事業者による障害者への合理的配慮提供の義務化が施行されますが、ユマニチュードは「意思疎通への配慮」の実現にも非常に有効であると思われます。

2月に、日本財団の支援を受け、ユマニチュードの移動技術研修が開催されました。
研修はイヴジネスト先生が直接行い、全国から集まった70名の介護士・看護師・医師が優しさを伝える移動技術を学びました。

立位介助、歩行介助、シーツを使った移動、体位変換、オムツ交換の技法などユマニチュードの関係性を結ぶ技術(Mnutention Relationnelle)を学んだ参加者からは早く自分の職場で実践してみたい、という声が上がりました。

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サポーターズレター
ユマニチュード認定サポーター準備講座・養成講座を受講後、 “ユマニチュードを通して優しさが伝わり合う社会を実現するために共に助けあい、支え合う仲間”としてサポーター登録してくださった方からのお声をお届けします。

ユマニチュード認定サポーター

倉田 洋和さん(山梨県)

サポーター講座を受けた動機

現在身近に認知症の家族はいませんが、高齢になった実母や義父は歳相応に物忘れが増加しています。高齢者白書では2025年には65歳以上の約5人に1人が認知症になると予測されていますし、いずれは自分も?と思い受講しました。

サポーター講座を受けた感想

ユマニチュードの4つの柱(見る、話す、触れる、立つ)と5つのステップ(出会いの準備、ケアの準備、知覚の連結、感情の固定、再開の約束)はどれも難しいものとは思いません。

重要なのは、相手を大切に思う気持ちも、それを相手が理解できるように表現しなければ伝わらないということ。そのために、4つの柱を適切に組み合わせてケアすることが重要で、その結果、する側とされる側とが良い関係を築けるということです。

今では、自分がケアされる立場になったときにはユマニチュードの技術を身につけた方にケアをお願いして、心穏やかに過ごすことができればと思っています。

サポーター講座を受けた、前と後の変化

数日前に老人ホームに入居した母は、ここ1年ほど入退院と老健での生活を続けていました。認知症ではないにしろ、コロナ禍での面会は回数も時間も限られ、満足のいく意思疎通ができず歯がゆい思いをしてきました。

まだ新しい環境に馴染んだとは言えませんが、今の施設は比較的自由に面会できますので、昨日もユマニチュードの技術を駆使して母とコミュニケーションをとってきました。そのせいか、入居以来連日早朝にかかって来ていた電話も今朝はなく、ほっとしています。

サポーターズサロンについて(皆さんとの意見交換をして)

参加者には日頃から認知症の家族と接している方も多く、そのご苦労や、ユマニチュードを取り入れてからのコミュニケーションの変化を具体的にお聞きすることができ、とても有意義な場となっています。


第1回サポーターズサロンの様子

オンラインで手軽に全国の仲間と触れ合うことができますので、是非講座を修了した多くのみなさんに参加していただき、仲間との中身の濃い情報交換の場となるよう願っています。

ユマニチュードについて思うこと

ユマニチュードは体系的に説明されていてわかりやすく、技術の習得も比較的容易だと思います。

認知症の親御さんなどとの関係に悩むご家族や、施設内で日々介護に尽力されている一人でも多くの介護者の方々にこの技術を身につけていただき、介護する側、される側が穏やかな日々を過ごせるようになることを望んでいます。

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家族介護者の体験談をご紹介します

認知症の家族の介護をする方にとって、コミュニケーションがとれなくなることは大きな葛藤です。いざ介護が始まり、意思疎通の難しさに直面したとき、ユマニチュードの考え方と技術を取り入れたことで、相手に寄り添う関わり方ができるようになったという声をご紹介します。

高橋夏子さん(東京都在住)

フリーランスの映像ディレクターとして、医療や環境、教育分野を中心にテレビ番組や映像制作を手がけ、本学会の設立当初から活動を撮影してくださっています。「介護のプロのためのもの」と思っていたユマニチュードが、家族の介護にも活かせることを知って実践してみたところ、お義母様との関係改善につながったという体験談を伺います。

子育ての偉大な協力者だったばあばに変化が

-子育てに多大なサポートをしてくれたお義母様の様子が、息子さんが小学校に入学した頃から「おや?」と思うことが増えたそうですね。

高橋夏子さん 実はその1年程前から、勘違いや計算ができなくなるといったことが始まっていました。「もしかして認知症?」「まさか認知症じゃないよね」の間で戸惑っていましたが、息子が小学校に入った年の夏休み頃から、義母とのコミュニケーションがうまくいかなくなり始めました。

映像ディレクターという仕事柄、締め切りに追われると夜も遅く、就業時間も不規則になりがち。そこで産休から復職したタイミングで、義母宅から徒歩7分の場所に引っ越し、義母にはたくさん助けてもらってなんとかやってきたのです。

これまでなら「今日は遅くなるからよろしくね」と3分の電話で通じていたのが、15分かかるように。義母もイライラしてきて、「じゃあ、私はどこに向かえばいいの!?」と怒り出すようなことが増えていったのです。


昼夜なく忙しい生活の中、
子育てをたくさん助けてくれた義母。

—はっきりと認知症ではないかと気づいたきっかけはあったのですか?

あるとき、ただならない様子で「すぐ来て欲しい」と電話がありました。駆けつけると、「電話が壊れた」と言うのです。私の番号は登録してあるのでワンプッシュでかけられるのですが、友達からの電話に折り返そうとしたら、かけ方がわからない。それを認めたくないからなのか、「壊れた」と。

さらにかかりつけ医に「ぼけているから検査を受けるように」と言われたと腹を立てているのですが、話があちこちに飛んで、あまりにも支離滅裂なのでで、思わず「ばあば、認知症なんじゃない?」と言ってしまったのです。

—そのひと言で関係が一変してしまったのですね。

認知症は“関わりの病”といわれています。認知機能が落ちても幸せに暮らしている人もいる。ではなぜ不幸になる人がいるのかといえば、関わり方がうまくいかないから。

私は「あなたは認知症だ」と面と向かって言ったために、義母を傷つけてしまった。それからは何を言っても、逆の意味にとられ、揚げ足をとられ、あることないこと攻撃されるようになりました。

ケーキを買っていったら投げつけられたり、街中で殴りかかられたりしたこともあります。この状態が3年ほど続いたのが、最もつらい時期でした。自分を守るために、顔を合わせなかった期間もあります。それくらい、人から嫌われ、よかれと思ってすることを全部否定されるのは、本当につらいことだと思いました。

「相手を否定しない」、その先がわからない

義母とは、息子が生まれる前は2人でお酒を飲むこともあったし、本当の母娘と間違われるくらい仲がよかったのです。信頼していたからこそ、私に八つ当たりしていたのでしょう。 義母の言うことには勘違いもあるけれど、悪意もあったと思います。5歳の子どものようにわがままを言う一方で、大人だから、どう言えば私が傷つくかもわかっている。「親がダメだから、お前もダメなのだ」と言ったり、攻撃したいという悪意の塊になっていました。

けれど、それまでの関わりの中で、それを抱かせてしまったのはおそらく私だと。関係性がうまくいかないから悪意が雪だるま式に膨れ上がって、にっちもさっちも行かない状況になっていました。

—当時はこうした出来事をどう受け止めていたのですか?

介護についての本をたくさん読みましたし、介護系のウェブサイトで、悩みを相談できるサービスを利用したこともあります。でも本には「相手を否定しない」と書かれていても、その先をどうすればいいかは書かれていないんですよね。

例えば、義母が「鍵を盗まれた」とやってきて、家をしっちゃかめっちゃかにして探そうとする。そこへ「鍵はここにはないよ」「誰も盗んでいないよ」と言っても火に油を注ぐばかり。いったいどこまで話を合わせたらいいのか、その術がいっこうにわかりませんでした。

お正月の後、神社のお焚き上げに家のゴミを持っていくといってきかず、後で夫に回収してもらったこともあります。とにかく、今どこの世界にいて、どの物語を生きているかがさっぱりわからない。こちらもどこまで合わせて演技しなきゃいけないの? 否定しないにしても限界があると感じていました。

相手をコントロールしようという思いを捨てて

—ユマニチュードとはどういうタイミングで出合いましたか?

本田先生が最初の本を出版した後、テレビの報道特集で取り上げられたのを見ましたし、メディア関係の知り合いから、すごいドクターがいて、フランスから導入して取り組んでいる魔法のケアがあるよ、と聞いていました。

でもその頃は、まだ介護も始まっておらず、ひとごとだったのです。実際に自分が認知症との付き合いで行き詰まったときも、自分でできるとは思わず、ずっと看護師さんや介護士さんのためのものだと思っていました。

いよいよ、つらくてどうしたらいいかわからなくなったとき、相談した同業のディレクターからユマニチュードは家族でも実践できると聞いて、ちょっとずつ真似事を始めました。「見る」「触れる」といっても正直、本を読んだだけではどうしたらいいかわからない。わからないながらも、義母が落ち着いているときに「マッサージしてあげようか」とニベアを塗ってあげたり、そばに近づいてから話す、聞くといった関わり方を、自分なりにやってみるようになりました。

—関わり方を自ら変えていったのですね。

「間違いを正さなきゃいけない」という義務感や、「正した方がいいに違いない」という思い込みを一切捨て去りました。認知症のある人がいる世界を完全には理解できないまでも、それはそれでいいんだと思えるようになってきたのです。

その頃には義母の体力も落ちて介護の支援を受けるようになり、常に噴火している状態から鎮静化して、関係性も少しずつよくなっていきました。


2018年、息子の11歳の誕生日に。
この頃から関係性が回復し始めた。

介護現場や家族の生の姿を記録する中、見えてきたこと

—日本ユマニチュード学会との仕事が始まったのはその頃でしょうか。

はい。本田先生(当学会代表理事 本田美和子)とジネスト先生(ユマニチュード考案者 イヴ・ジネスト氏)の対話や、介護現場の取り組みを撮影し、直に見聞きする中で「こんな関わりがあるんだ」と自分の心がころっと変わったのです。

まずは気持ちがラクになりました。介護現場の方も悩んでいる。皆大変なんだということがわかったからです。プロも壁にぶつかりながらやっている。そして簡単ではないけれど、ユマニチュードを知れば、プロでなくても誰でもできるようになるということも、目の当たりにしたのです。

義母とよく似た症状の奥様をケアする夫さんが、「最初はコミュニケーションがうまくいかず、心中も考えたくらいつらかった」と話すのを聞き、家族で追い込まれても、老老介護の方でも、ユマニチュードを実践すれば、超えていけるんだと。プロの場合と家族の場合、両方のリアルな体験を見たことは大きかったですね。

—プロでも壁にぶつかることがあると同時に、ユマニチュードを実践すれば、誰もがちゃんとコミュニケーションをとっていけるのだと。

皆さんの実践されている工夫も勉強になりました。新婚時代や、若く素敵な奥様の写真を集めてアルバムを作っている夫さんを真似て、息子の赤ちゃんの頃の写真を小さなアルバムにしたり。義母がイライラし始めたときに見せると「かわいいね」、と心がふわっとなるようなアイテムです。やっぱり孫は最強ですね。

—お義母様にも変化はあったのでしょうか?

その頃にはすっかり穏やかになりました。体力が落ちたせいもあったかもしれませんが、激昂しなくなりましたね。デイサービスでも、職員の方を「お姉さん」「お兄さん」と呼んで、時々面白いことを言って笑わせたりしていたようです。もともとサバサバした明るい性格で、コミュニケーション能力の高い人でしたから。

ただ体力が落ちた分、1日中こたつに入ってテレビを見るようになり、排泄ケアも必要に。ヘルパーさんの助けも借りながら、毎日義母宅へ通うようになりました。精神的には楽になりましたが、体力的にはしんどく、てんてこまいでした。

最終的には要介護3に認定され、持病の間質性肺炎のために在宅酸素療法を受けていましたが、通院が難しいため訪問診療の相談を始めた矢先、義母は急に亡くなりました。


2019年、最後に一緒に過ごしたクリスマス。
おばあちゃん子だった息子もよく手伝ってくれた。
孫がそばにいると、本当にうれしそうで元気になった義母。

不安のもとを理解することから

—介護の当事者でありつつ、撮影を通じ、さまざまな介護現場、ご家族の関わり方を目の当たりにした高橋さんですが、ユマニチュードをどのようなものと考えていますか?

一般的に認知症のある人は何もできない弱き人で、支援の対象者と考えられています。社会的に存在価値が認められなくなる、恐ろしい病という感覚が強いけれど、いやいや違うでしょ、と。認知症には誰でもなりうるし、関わり方さえ分かっていれば、気持ちの部分ではお互いに不幸になるわけではありませんから。

今思うと、義母はわからなくなっている自分のことをわかっていて、とても不安だったのだと思います。逸脱した行動をとってしまうのは、不安があるから。ジネスト先生、本田先生からは「理由はあるよ」「不安だよ」という言葉を何度も聞きました。

認知症だけでなく、発達障害や自閉症のある子どもの大変な行動の原因も、不安や心配に根付いていると考えられています。その行動のもとにある理由をちゃんとわかれば対応できるということを、技術と考え方の面で明示してくれているのがユマニチュード。そこは本当に希望であり、実際に役立つ情報だと思います。

—もし怒ったり、拒絶したりする人がいたら、普通は理由を慮(おもんぱか)ります。けれど、認知症の人の場合は、病気だからと拘束や投薬といった方向へ向かってしまう現状がありますね。

認知症のある人は視野が狭くなったり、感覚が過敏になっていたりする。認知症のある人の世界というのは、そういう見方、感じ方があるから不安になるし、その不安が逸脱した行動につながるということが、ユマニチュードでは可視化されています。

今、発達障害の人を対象にした取材も多いのですが、こういう感覚の違いがあるから不安、不穏、不快になってこの行動になる、という考え方は、ユマニチュードと全く同じですね。

— 病気として治療の対象とするほかに、知覚される世界が違うから反応が違ってくるという認識に変わり始めているのですね。

ある意味当たり前かもしれないけれど、言われないとわからない。そこを指し示してくれるのがユマニチュードの大きな点なのでしょうね。


2020年7月、ばあばに最後につくったおやつのおむすび。

(聞き手・松本あかね)

⼀般社団法⼈ ⽇本ユマニチュード学会(東京都⽬⿊区、代表理事:本⽥美和⼦)は、日本で3事業所目となるユマニチュード ブロンズ認証事業所として、社会福祉法人平成会 介護老人福祉施設さわらびを決定しました。ユマニチュード認証は、フランス⽣まれのコミュニケーション・ケア技法「ユマニチュード®」を通じて、質の⾼いよいケアを実践している組織を、予め定められた評価基準の元に認証する制度です。本認証制度は、誰もがお互いの⾃律を尊重し幸せに過ごせる社会の実現を⽬指し、フランス本部との連携の下、⽇本ユマニチュード学会が 2023年4⽉から⽇本での導⼊に取り組んでいます。

・ニュースリリース

新規ブロンズ認証取得事業所のご案内



社会福祉法人平成会
介護老人福祉施設さわらび

長野県岡谷市西山1723-101
介護老人福祉施設
定員 86名
介護老人福祉施設さわらびは、5年程前から、「集団ケア」から「個別ケア」へをコンセプトに取り組んでいる施設です。
お一人おひとりの入居者さまと向き合い、職員が職種の壁を越えて連携することで、個別性を重視したケアプランを実現し、「業務感のない環境づくりプロジェクト」と題した取り組みでは、入居者さま目線で「生活の場」としての設え・雰囲気づくりを目指しています。
「利用者様の幸せ、誰もが理想とする施設」にするべく職員全員でユマニチュード技術を学び実践していきます。

ユマニチュード認証制度とは

ユマニチュード認証制度は、ユマニチュードを通じて質の⾼いよいケアを実践している組織を、明確な評価基準を元に評価・育成・⽀援し、誰もがお互いの⾃律を尊重し、幸せに過ごせる社会の実現に寄与することを⽬指して⽣まれました。本部のあるフランスでは 2013 年にスタートし、現在までに30の事業所がユマニチュード認証(日本のゴールド認証に相当)を取得しています。日本では、2022年4月からパイロット事業として導入を開始しました。2023年5月には、日本初となるユマニチュード認証事業所が2事業所誕生し、このたび2023年11月に3事業所目が誕生しました。

ブロンズ認証取得事業所(2023年11月末)

・株式会社不二ビルサービス グループホーム ふじの家瀬野(広島県広島市)
・医療法人社団 東山会 調布東山病院 5階・6階病棟(東京都調布市)
・社会福祉法人平成会 介護老人福祉施設さわらび(長野県岡谷市)

ユマニチュード認証制度の概要

ユマニチュードの認証評価基準は、「5 原則」と「⽣活労働憲章」に基づいて定められています。
その特⻑は、下記の3点です。

1) ケアの質をわかりやすく可視化
2)⽇本の各種制度と連携
3) 取り組みの進捗を⾒える化

認証の種類には、「ブロンズ」「シルバー」「ゴールド(国際認証)」の 3 段階があります。取組む組織の種類によって介護系と医療系に分かれており、「ブロンズ」は共通の基準となっています。

認証の⼊り⼝とも⾔える 「ブロンズ」は、1)ユマニチュードに組織をあげて取り組む体制が出来上がっており、かつ 2)職員がユマニチュードの基本を理解し、実践に取り組んでいる組織に対して認証されるものです。ユマニチュードに組織を上げて取り組むことで、「⼊居者・患者・利⽤者」「職員・専⾨職」「経営者」の 3者が、お互いを尊重し、⽣きがい、やりがいを感じながら、さまざまなメリットを享受し、幸せに過ごせるようになります。

「ユマニチュード®」とは

フランス⼈の体育学教師イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティが⽣み出したコミュニケーション・ケア技法です。1979 年以来 40 年以上の歴史を持ち、『ケアする⼈とは何かを考える哲学』と『その哲学を実現するための技 術』からなります。介護を必要とする⼈どなたに対しても有効に実践でき、ユマニチュードによって、介護される⼈の BPSD(認知症の⾏動・⼼理症状)の改善に加え、介護する側の負担感や離職率を改善させ、薬剤やおむつの使⽤量を減らすことによる医療費削減効果が報告されています。⽇本ユマニチュード学会では、ユマニチュードの効果とより良い活⽤⽅法を科学的に解明・実証するために、世界中の⼤学等研究機関の医学・看護学・情報学・⼼理学等の専⾨家と、さまざまな共同研究を進めています。

お問合せ

⼀般社団法⼈ ⽇本ユマニチュード学会

メールアドレス:info@jhuma.org
電話:03-6555-2357
※受付時間 10:00-15:00(⼟⽇祝を除く)
※受付時間外の場合は、メールにてお問い合わせください

2023年9月23日、富山県立大学富山キャンパスにて「第5回日本ユマニチュード学会総会」が開催される中、同大学の中講義室から全国の認定サポーターさんにオンラインでつないで「ユマニチュード認定サポーターズサロンキックオフミーティング」が実施されました。


大島理事と学会のスタッフもご挨拶

進行役は、北星学園大学教授で当学会理事の大島寿美子氏。大島理事は、サポーター講座の講師も務めていたので、講座を受講してサポーターになった皆さんと、笑顔の再会となりました。

大島理事は、まず、学会のミッション、学会の活動、サポーターの役割や活動について説明しました。これからのサポーター活動については以下の2つを案内しました。

「サポーターズサロン」(2か月に1回)

・サポーターの支え合いと分かち合いの場
・スピーカーによる話題提供と意見交換
・インストラクターをゲストに迎えての交流

「サポーターフォローアップ講座」(年1回)

・哲学や技術の確認、実践の報告とリフレクション

続く、参加サポーターの近況報告では、ユマニチュードをどのような場で活用したのか、上手くできたこと、できなかったことを皆で共有しました。地域で認知症を発症した女性のご家族にユマニチュードを紹介したら、安心されたという話や、認知症の母を介護しているが、以前に住んでいた家に帰りたがる帰宅願望をもつ母とのやり取りの話、仕事でユマニチュードを実践して感動が増えた話、ノックや触れるなどのユマニチュード技術の効果を感じた話等々、サポーターは、各自のユマニチュード体験を共有し合いました。



みなさんとじゃんけん!

次回のサポーターズサロンは11月28日。

話題提供者を決める際には、大島理事と参加者がオンラインでじゃんけんをして決めました。

次の話題提供者はKさん。「これまで施設の面会時間が限定されていてなかなかお母さんと会えず、ユマニチュードを実践できなかったが、次の施設は面会ができるので、実践ができるようになります。皆さんの話が参考になりました。ユマニチュードの実践に慣れていきたい。」と語りました。

次回、Kさんとお母さん、ユマニチュードのコミュニケーションの様子をうかがえることを楽しみにしています!

2023年9月23日・24日、富山県立大学富山キャンパスにて「第5回日本ユマニチュード学会総会」を開催しました。全国各地から2日間でのべ300名と多数が参加され、また関係機関、関係者のご協力により無事開催できたことに深く感謝申し上げます。

ダイジェスト映像

開催レポート

今回の開催地は、全国に先がけてユマニチュードを看護基礎教育に導入した富山県立大学看護学部のキャンパス。看護学部でユマニチュードを学ぶ多くの学生さんが、総会の準備や当日の運営にご協力くださいました。

第5回総会のテーマは『ユマニチュードの可能性~教育の中にユマニチュードを取組む~』。

世界初や、日本独自のユマニチュードの広がりと可能性について、看護学生への教育、自治体での様々な取り組み、加えて専門職分野での最新の取り組みや研究と、多様な発表、意見交換の場になりました。

初日、総合司会の松井弘美氏(富山県立大学看護学科長/教授)の開会のご挨拶で幕を開けました。


総合司会 松井弘美氏

学術集会長 講演

最初の講演は、富山県立大学副学長でユマ二チュード認定インストラクターの岡本恵里氏による学術集会長講演『ユマニチューを学んだ看護学生の4年間の軌跡』。

2019年に開学した富山県立大学看護学部では、4年間を通して「看護ケアとユマニチュード」を授業に組み込み、2023年に初めての卒業生となる 1期生24名を送り出しました。

教育体制を整える開設準備ための2年間に行った教員向けユマニチュード教育、そして2019年から4年間、学部生と共に歩んだユマニチュード教育内容について、1年目~4年目まで、ユマニチュードの何をどのように学びを進めていったのか、学生との実際のやり取りを交えて、具体的に説明されました。2020年、2021年のコロナ禍においては、フランス、東京、富山等を結んでオンライン授業を行った様子など、困難な状況をも乗り越えた4年間の軌跡は、とても感動的で、富山県立大学看護学部の教育現場における新たな挑戦、そして可能性に多くの聴衆が感銘を受けました。最後に「全国の看護現場に飛び立った卒業生が実践する一つひとつのケアが、ユマニチュードの輪を徐々に広げてくれることを願っております」と述べました。


岡本恵里氏

基調講演

次にイヴ・ジネスト先生の基調講演『社会を支える基盤としてのユマニチュード』。

日本ではケア専門職にとどまらず、世界で初めて、小中学生、専門学校や大学生、市民・家族介護者など様々なフィールドでユマニチュードに取り組み、ユマニチュードが役立っており大変嬉しいと、この広がりに感謝の意を表しました。ユマニチュードは40年間、約3万人を超える患者さんと向き合いながら編み出した実践的なケア技法であること、またそのスキルは自由、平等、博愛の哲学に基づいて生み出されたものであり、ケアだけでなく社会にとっても、とても必要なものと、「ユマニチュードを学ぶ」ことの意義について述べました。


イヴ・ジネスト先生、通訳の本田美和子代表理事

シンポジウム

続くシンポジウム『ケア・キュア実践者にとってのユマニチュードの可能性』には、医療・介護分野でユマニチュードの普及・浸透に取り組んでいる4名の専門職が登壇しました。座長は、青栁 寿弥氏(公立大学法人富山県立大学准教授/ユマニチュード認定インストラクター)が務めました。


青栁 寿弥氏

林 智史氏(国立病院機構東京医療センター総合内科・感染症内科 医員)は、臨床現場でのユマニチュード実践、効果についての報告、そしてフランスでのユマニチュード認証施設での視察の際に、認知症の方に日本語でユマニチュードを実践してみたら、伝わった経験から、ユマニチュードは言語を超えた技術で、世界共通のものである実感を得たと視察時の写真と共に紹介しました。


林 智史氏

川岸 孝美氏(富山県 かみいち総合病院 看護部長)は、ユマニチュードの導入背景、研修、認知症ケア技術の可視化、そして、患者さんの変化を詳細なデーターを示しながら発表しました。更に、看護職でなく、全職種に広げるための取り組み、看護師による地域への出前講座という展開、今後の課題についても話しました。ユマニチュードの実践映像を見ると感動するが、目の前で行われて、患者さんが変化し、スタッフの笑顔を見ると何倍も感動する。もっと広めたいと話しました。


川岸 孝美氏

末弘 千恵氏(広島県 株式会社不二ビルサービス ケア事業部 次長)はユマニチュード認証に取り組んだ経緯、実際の取り組み、入居者・職員の変化、そして2023年6年にブロンズ認証を得た成功のポイントを発表。会場からの「職員全員で取り組む難しさについて」の問いに、ユマニチュードを実践することが目的でなく、なぜ、私たちは、ユマニチュードに取り組むのかを徹底的に考え、深めたことで、浸透できたと答えました。


末弘 千恵氏

荒谷 美波氏(富山県立中央病院 看護師/富山県立大学看護学部1期卒業生)は、 授業でのユマニチュードの学び、3年生の実習で試行錯誤をしながらも、こんな簡単なことで患者さんが変わるんだという体験談、そして現在、新人看護師としての活動、最後に私の強みとして、患者さんとかかわる際には、ユマニチュードが自分の強みだと思い、これからの更にユマニチュードを極めていきたいと力強く語りました。


荒谷 美波氏

質疑応答では、「病院ではユマニチュードを入院患者だけでなく外来患者にも対象としているのか?」「忙しい時にユマニチュードケアが途切れてしまうが、効果について」「施設職員全員で取り組む難しさについて」といった質問がありました。

最後に座長から、可能性ということで、諦めないという気持ちが大事。ユマニチュードのその人らしさを大切にすることは、自分自身を大切にすることと同じなので、皆さんと続けていきたい。ユマニチュードの輪が少しずつ広がって、ぬくもりのある大きな輪になることを願っています。とシンポジウムを締めくくりました。


シンポジウムの様子

学術発表:口演・示説

午後からは、会場を大講義室、201中講義室、203中講義室の3つに分け、『実践報告:大学・自治体』『実態調査・サポーター養成』『事例報告:入院患者』、『実践報告:専門職』、『事例報告:施設入居者』、『実践報告:施設内研究』等のテーマの学術発表が行われました。

発表プログラムと抄録集はこちらからご覧いただけます。

ポスター発表、実演

多くの人が行きかうホール部分では、数々のポスター発表掲示、ベッドシャワーシステムの展示、ユマニチュード シミュレーション教育システム(HEARTS)の展示・体験と、多種多様なユマニチュードの可能性を体感することができました。

市民公開講座

2日目の9月24日(日)は、澄み切った青空の下、第11回生存科学研究所共催・市民公開講座が開催されました。今回のテーマは『ユマニチュード認証施設:人生の最期の日まで「自律と自立が実現する生活の場」の創出』。昨年からスタートした日本版ユマニチュード認証制度の意義を考え、認証に取り組むことで生まれる組織の変容と将来像について語り合いました。

冒頭、本田代表理事から、本プログラムを継続して支援くださっている公益財団法人生存科学研究所 第6代理事長 故青木清先生の在りし日のお言葉や映像のご紹介がありました。続く基調講演では、まずユマニチュード考案者であるイヴ・ジネスト先生から、ユマニチュード認証制度の基本理念について伺った後、ユマニチュード認証の審査委員長である竹内登美子先生(富山県立大学名誉教授)より、ユマニチュードへ取り組む意義やフランス認証施設(ノルマンディーにあるジャンヌの家)の訪問を通じて得たユマニチュードの実践と評価に関する様々な示唆、ならびに「ユマニチュード認証審査会」での議論の一部などが紹介されました。


竹内登美子氏

その後、2日間の締めくくりとして、『日本のユマニチュード認証制度のこれから』と題した座談会を開催。ユマニチュード認証制度の設計に携わり調査員も務める森山由香氏と、認証を取得した施設の代表者である末弘 千恵氏、当学会の小川聡子理事が加わり、それぞれの経験を踏まえながら「人生の最期の日まで自律と自立が実現する生活の場とは何か」について語り合われました。


座談会の様子

今回の開催地、富山県の観光キャッチフレーズ “パノラマキトキト 富山に来られ” は、立山連峰から富山湾にかけての「雄大な自然景観」と、魚介類をはじめとする「新鮮な食」という、県が誇る、特徴ある観光資源の魅力・イメージを端的に表現し、「来られ」という優しい語感の富山弁で、富山県への誘客を呼びかけられているものです。この呼びかけを受けて、今年の学会総会は、2日間合計で延べ300名の会員、非会員のみなさまにご参加いただき、ユマニチュードの輪が強く大きく広がり、富山の魅力にも触れていただくよい機会となりました。


総会を支えて下さった富山県立大学看護学部の学生スタッフのみなさん

2023年9月24日、富山県立大学富山キャンパスにて「第5回日本ユマニチュード学会総会」2日目の市民公開講座が開催される中、同大学の老年・精神実習室にて「ユマニチュード認定インストラクター継続学習会」が実施されました。

全国各地で活躍するインストラクターのうち、今回は北海道から福岡まで15名のインストラクターが参加。近年は、コロナ禍でオンラインでのミーティング続きでしたが、約3年ぶりの対面での継続学習会となり、会場は熱気に包まれました。

今回のテーマは『移動・移乗の技術の再確認とインストラクター間交流』。進行役の当学会インストラクター継続プロジェクトリーダー伊東美緒インストラクター(群馬大学)より、「皆さんに希望を尋ねたところ、移動・移乗の技術の再確認と、インストラクターの交流の場がほしいという声があった」という、企画の経緯が話されました。

講師役は、IGM-Japon合同会社所属の丸藤由紀チーフインストラクター。「技術の復習ポイントをお伝えします。足りない所は、教えていただいて、一緒に学んでいきたいです」と話し、多くのインストラクターが共に学び合い、有意義な時間を過ごすことができました。

内容

1.正しいレベルのケアの選択
2.正しいベッドの高さの選択
3.シーツの技術(正しい敷き込みとはずし方)
4.日常的によく使う技術
5.インストラクター同士の情報交流・雑談

フランスで開催中の第16回非薬物的アプローチ学会において、自律をテーマにしたさまざまな講演や討議に、当学会の本田美和子代表理事が参画しています。

初日に開催された「国境なきユマニチュード・プロジェクト」発足式では、IGM(ジネスト・マレスコッティ研究所) 、コロンビアのAlbeiro Vargas財団、フランス・レユニオン島のPere Favron財団に加え、日本からは日本ユマニチュード学会・福岡市・IGM-Japonが参加を表明し、調印を行いました。

調印に先立ち、弾丸出張でご参画の福岡市・高島市長のすばらしいスピーチに、会場はスタンディング・オベーションとなりました。

プログラムでは、日本の取り組みを紹介する時間があり、当学会理事でもある荒瀬泰子福岡市副市長と本田代表理事が日本のユマニチュード認証制度についてご説明しました。

また、フランスのユマニチュード認証制度の運営団体Asshumvieのブースには、施設運営者としてご自身の施設を認証に導いた後に、ユマニチュードのインストラクターに転身し、現在は認証評価の調査委員長も務めているSohie Brobeckerさんもいらっしゃいました。