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『ユマニチュードに出会って』 第1回 坂登美子さん(後編) | 日本ユマニチュード学会|人間らしさを尊重したケアを共に社会へ

『ユマニチュードに出会って』 第1回 坂登美子さん(後編)

家族介護者の体験談をご紹介します

ユマニチュードはご家族の介護をしていらっしゃる方にも役に立ちます。ご自宅での介護がうまくいかずに困っているときにユマニチュードと出会い、再びご家族との良い時間を過ごせることになった方々が多くいらっしゃいます。本学会の本田美和子代表理事がそうした皆さまを訪ね、ユマニチュードを実践した体験と感想をお伺いしました。

坂登美子さん

認知症のお母さまの介護に悩んでいたとき、NHKの情報番組を通じてユマニチュードと出会った坂登美子さんの体験談の後編をお届けします。
お母さまの介護を通して見えた様々な課題をお話して下さりました。

前編より続く

本田 お母さまが亡くなられてお仕事を再び始められたそうですね。

坂さん はい、本当は前の職場で60歳の定年まで働こうと思っていたところが、母のすべての世話がのしかかってきて50歳で人生がパッと変わりました。先日、一周忌の法要を終えましたけれど、介護をしているときはよく眠れませんでしたし、頭もカッカとして食欲もない状態で。母が他界してしばらくはフワーッとしていて、仕事を始めてようやく地に足が着き社会復帰した感じがあります。社会とつながりを持ちつつ、日常的に介護もしている方たちも多いですけれど、本当に皆さん凄いなあと思います。

本田 介護と仕事の両立がとても大変だとよくお伺いします。ご自宅での介護にユマニチュードが少しでもお役に立てるよう家族介護者の方向けの講習会を行っていますが、最近、スマートフォンやタブレット端末を使った新しい支援の実証研究も福岡市などで始めています。講習を受けた後で実際にご家庭でケアをしている様子を動画で撮影して送っていただいて、それをユマニチュード認定のインストラクターが見て「こうしたら」と介護のコツを提案して送り返します。これまでケアの技術は現場で教えることが前提でしたが、インターネットを使って遠くにいても教わることができるシステムを開発するための研究です。
(詳細はこちら ※現在は受付を終了しています。)

坂さん それはありがたいシステムですね。 私もそうでしたが、遠方に住んでいるとなかなかユマニチュードを学ぶ機会がありませんから。私は母の介護をしていて、ユマニチュードが家族だけでなく、デイサービスなどの施設を始めとして地域のいろいろな所に広まるといいなと実感したんです。

本田 具体的にどういう場面でそうお感じになったのでしょうか。

坂さん ジネスト先生に教えてもらったように介護をして、母は家では確かに穏やかになったのですが、デイサービスに行くと帰って来たときは機嫌が悪くなっていて大変だったんです。デイサービスでは少し動くと「座っていて」と言われたり、トイレに行くと言えば人が付いてきたりと過干渉な状態で行動を抑えられるのが嫌だったのだろうと思います。家と施設で環境が変わるのも認知症の母には大変だったのでしょうね。私が一人になれる時間がないと精神的にも体力的にも辛かったので仕方のないことではあったのですが。

本田 介護をしていらっしゃる方が、ご自身の時間を確保するのは、とても大切なことだと思います。デイサービスを上手にご利用になったのですね。

坂さん 私が休息できる、という点でデイサービスはとても助かったのですが、デイサービスでもユマニチュードのケアをして貰えたら、と何度も思いました。それと母の血圧が高くなり救急隊にお世話になることが3回あったのですが、母にはものすごく苦痛だったようです。救急隊員の方は悪くないんですよ。ただ認知症の母には、血圧を測るのにいきなり腕を圧迫されるのが殺されるのではないかという位に恐怖を感じるらしくて大騒ぎしてしまうんです。搬送先の病院でも、年寄りだからと大きな声で話しかけてくる看護師さんがいらして、それも母はすごく怖かったようで「帰る」「殺される」とそれはそれは騒いで。

本田 助けに行ったのに受け入れてもらえない、というのは、救急隊の方々にとってとても大きな問題になっていて、福岡市消防局の救急隊のみなさまから相談をお受けしています。それで、昨年から救急搬送のためのユマニチュードをお教えすることになったんですよ。

坂さん 母が倒れてどうしようもなくて救急車を呼んでいるのに、さらに酷くなるという目も当てられない惨状になってしまいました。福岡市では救急隊や病院でもユマニチュードの講習会が開かれていると聞いて、それは認知症の家族がいる人にはとてもありがたいことだと思います。病院には認知症だけでなくいろいろな病気の方がいますから、ユマニチュードが広がると助かる方は他にもたくさんいると感じます。

本田 ユマニチュードはケアの様々な現場で有効で、例えば、自閉症スペクトラム傾向のあるお子さんをお持ちの親御さんにユマニチュードをお教えする試みも始めています。坂さんのように、実際にユマニチュードを実践された方が「ユマニチュードは役に立つ」と言って下さるのが、私どもにはとても嬉しい応援です。

坂さん 母の一周忌のときにご住職にユマニチュードの話をしたらとても興味を持たれて、本を借して欲しいとおっしゃってくれました。こんな風にちょっとした機会にユマニチュードのことを話して広められたらいいなあと思います。母が亡くなり、心の整理がつかず介護のことを直視出来ずにいましたが、少しずつ癒されてきたと感じています。母が最期にお世話になったグループホームの方がNPO法人を設立して高齢者から赤ちゃんまで集える場所を作りたいとおっしゃっているのですが、ユマニチュードにも興味があるようで、今度覗いて来ようかなと思っています。

本田 坂さんのお話は介護をしてる方にとってすごく勇気付けられるものだと思います。貴重なお話をありがとうございました。

対談を終えて坂さんからメッセージを頂きましたのでご紹介します。

母の介護に疲弊していた私がユマニチュードと出会い、変化したことはとてもありがたいことでした。

ユマニチュードは、「人間らしさを取り戻す」という意味だとあります。私は、認知症の母のために介護離職し、介護うつのようになり、人生が終わったと思っていました。今思うと、それまでの人生が「なんとかうまくいっている」と思っていたことの方が錯覚でした。

介護を終えた今、何故、本田先生の講演を聴講したいと思ったり、お会いしたくなるのか?それは、ユマニチュードを通して、私自身が「人間らしさ」を取り戻したからだと気がつきました。そう思えるようになるには時間も必要でした。家族関係、職場、地域社会の中で、少しずつ変化してきたと思います。

今は、実際に介護をしているわけではありませんが、自分の生活を、毎日を、楽しく生きたいと思います。

一人でも多くの人へ、ユマニチュードが届くことを祈っています。

坂登美子

(構成・木村環)

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