認知症の初期の患者さんやご家族に寄り添うには

「家族介護について語り合う会」より

会員限定コミュニティ「雨宿りの木」にて、1月よりスタートした「家族介護について語り合う会」。この会にて参加者の皆さまから寄せられたご相談やお困りのことに、ジネスト先生、本田美和子代表理事が回答した解決策やアドバイスを皆さまと共有いたします。それぞれの現場やご家庭でのケア、ユマニチュードの実践にご活用ください。

※参加者の皆さまのプライバシーに配慮し、実際の内容を一部変えている部分があります。

Q.認知症の初期の患者さんやご家族に寄り添うには

認知症の診断を行う疾患センターで看護師をしていますが、不安の大きい初期の患者さんやご家族に接するときに気をつけることはありますか。

A.相手の話を信じ、その能力を奪わないことが大切です

まずは相手が話すことを一旦受け止めること、言われたことを否定しないことです。ご本人の気持ち、感情的なことをまずは聞いてあげてください。こちから「大丈夫です」と決めつけないことです。

看護師をはじめケアの仕事をしている人に大切にして欲しいことは、相手が持っている能力を相手から取り上げないことです。取り上げることによって、相手の力はどんどん弱まってしまいます。病院では患者さんに、普通に考えたらおかしなことを強いていることが多くあります。例えば、着るものはパジャマでなければいけないとか、外出するには届けを出さねばならないとか、市民として本来なら当然持っている権利を病院だというだけで奪って、それに無自覚であることが多過ぎます。

これは日本での病院の話ですが、私がベッドサイドで患者さんと話をしていたら、看護師さんがやってきて、話の邪魔をしてはいけないと思ったのでしょう、一言も何も言わず、ご本人に尋ねもせずに布団をはいで、便の状態を確かるためにお尻の穴に指を入れたのです。フランスから来てケアを教えている私の邪魔にならないように気を使ってのことで、ご本人に悪気はないのです。しかしながら、病院で働いている人は患者さんのお尻をいきなり触ってもいい、患者さんもそうされても仕方がないと力を失っている状況に、期せずしてなってしまっている。これが病院の中で働いている人が陥りやすい罠なんです。

患者さんの部屋に行く時には、私は「ケアをしに行く」とは絶対に思いません。オムツを換えるため、点滴をするため、採血のために行くのではありません。私が行く理由はただ一つ、その患者さんに「会いに行く」のです。

ノックをして来訪を伝え、相手の了承を得てから部屋に入り、最初の30秒は仕事の話はしません。「会えて嬉しいです」「お元気そうですね」などと話して、人と人との繋がりを作ります。それが相手に自分が行いたい仕事を受け取ってもらえる入り口になります。世界中の病院を見てきましたが、それが日常的にできている病院は、残念ながらほぼゼロです。自分たちが何かを与える存在というだけでなく、自分たちが受け取るものについても常に考えていてください。ケアは一方向性のものではなく、相手と分かち合うものです

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