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職場にユマニチュードを根付かせるには | 日本ユマニチュード学会|人間らしさを尊重したケアを共に社会へ

職場にユマニチュードを根付かせるには

「現場での課題共有会」より

会員限定コミュニティ「雨宿りの木」にて、医療・看護・介護などケアの現場で働く会員の皆さまと語り合う「現場での課題共有会」が2月からスタートしました。この会に寄せられた実践者ならではの悩みや疑問に、ジネスト先生、本田美和子代表理事が回答した解決策やアドバイスを皆さまと共有いたします。ご活用ください。

※参加者の皆さまのプライバシーに配慮し、実際の内容を一部変えている部分があります。

Q.職場にユマニチュードを根付かせるには

急性期病院に勤めていますが、現場では治療が優先となり、なかなかユマニチュードのケアをやろうということになりません。また職場には認定インストラクターもいません。職場にユマニチュードを根付かせるにはどうすればよいでしょうか。

A.ユマニチュードはどのような臨床の現場でも有効です

「ユマニチュードなんかやっている暇はない」という言葉は本当によくいただきます。しかしながらユマニチュードは、私(ジネスト)とマレスコッティが40年ほど前に急性期病院で生み出した技法です。これまでに3万人を超える方々のケアをしてきましたが、新生児から高齢者の方々まで、そして救急医療や集中治療、精神医療などすべての臨床の現場でユマニチュードのケアを行ってきました。

これは日本での病院の話ですが、私がベッドサイドで患者さんと話をしていたら、看護師さんがやってきて、話の邪魔をしてはいけないと思ったのでしょう、一言も何も言わず、ご本人に尋ねもせずに布団をはいで、便の状態を確かるためにお尻の穴に指を入れたのです。フランスから来てケアを教えている私の邪魔にならないように気を使ってのことで、ご本人に悪気はないのです。しかしながら、病院で働いている人は患者さんのお尻をいきなり触ってもいい、患者さんもそうされても仕方がないと力を失っている状況に、期せずしてなってしまっている。これが病院の中で働いている人が陥りやすい罠なんです。

ユマニチュードはケアの専門職が自分の職場で仕事をすることを目的として作った技術です。きちんと身につけて正しく実践すれば仕事がとても早くなります。ユマニチュードを使うことで、これまで3時間かかっていた仕事が2時間25分で済むようになった、つまり、20%の業務の短縮につながったというフランスの調査報告もあります。

「5つのステップ」でケアを行うとき、一つ目の「ノックをする」はその時間が無駄なように思えます。ノックに必要な時間は10秒くらいですから、ここで10秒を無駄にしたと仮定しましょう。二つ目のステップ「ケアの準備」はケアを届けたい相手と良い関係を築くための最も重要なステップです。「あなたに会いに来ました」というやり取りは長くかかることもありますが、大体は40秒くらいです。ここまでで合わせて50秒無駄になっていると言う方もいらっしゃるかもしれません。

第3のステップはいわゆる仕事としてのケアを行う時間ですが、第1のステップ、第2のステップで良い関係を築けていれば、実際のケアの時間を短縮することが可能です。なぜなら、私たちが行うケアに協力をしてもらえるならば、ケアを拒否されて戦いのようになる要素が何もないからです。

第4の「感情の固定」、第5の「次の約束」は20〜40秒くらいで終わります。実際のケアを行う第3のステップの前後四つのステップで合わせて1分20秒ぐらい時間がかかります。しかし、その時間を持つことによって、これまで戦いのようになっていたケアをスムーズに受け入れてもらえます。結果的に、私たちが本当にやりたいケアをこれまでよりも短い時間で終わらせることができます。

フランスでユマニチュードを導入している施設では、寝たきりの方の数が全国平均の35分の1という報告があります。寝たきりの方のケアをするということは時間がかかることが常ですが、ユマニチュードを使うことにより、ベッドサイドに座って貰ったり、立って貰ってケアを行えたならば、寝たきりになる人を格段に減らすことができ、働く人の力も余分に使わずにケアができるようになります。

このようにユマニチュードはどのような形のケアにも使えますし、働いている人の仕事の内容も大きく変えることができます。

ユマニチュードが最大の効果を上げるためには、チームで取り組むことが必要です。ただ施設に導入するには研修が必要で、そのための費用と時間を未来への投資と考える必要があります。費用については、ユマニチュード導入の費用対効果に対するシンクタンクの報告が出ているのですが、1万円の投資に対して4万円が節約できる、費用対効果が4倍になるという結果でした。

例えば、職員の新規採用にはコストがかかりますが、ユマニチュードを導入すると離職する人が減るので採用コストが減ります。また、医療費の観点からも効果があります。これもフランスの調査ですが、ユマニチュードを導入後、施設全体の向精神薬の処方量が88%も減ったという報告もあります。

一方で、時間はかかります。施設全体に導入するには3〜6年くらいの計画で考えなければなりません。フランスでは、職場に導入計画を進めるための推進委員会を作り、その委員となる職員が2週間のリーダー研修を受け、施設の中にユマニチュードを根付かせるために活躍しています。

日本では、東京の調布東山病院が先駆的にそうした取り組みを行っています。この病院ではインストラクターが推進委員となっていますが、彼女たちによると、推進委員はユマニチュードを根付かせるための仕組みを作る役割であり、インストラクターである必要はないと話しています。

フランスではユマニチュードの認証施設の制度が始まっていて、ご本人が自分に関することについて自分で決める「自律」と、自分でできることは自分で行う「自立」や、職員が強制ケアを行わず、その一方でケアの放棄をしない、などの原則に基づいて、施設の外での生活がそのまま継続出来る施設が誕生しています。今、日本でも施設認証の制度作りが始まっています。ユマニチュードのケアが職場の文化として根付いた施設が誕生することを願っています。

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