第5回日本ユマニチュード学会総会 開催レポート

2023年9月23日・24日、富山県立大学富山キャンパスにて「第5回日本ユマニチュード学会総会」を開催しました。全国各地から2日間でのべ300名と多数が参加され、また関係機関、関係者のご協力により無事開催できたことに深く感謝申し上げます。

ダイジェスト映像

開催レポート

今回の開催地は、全国に先がけてユマニチュードを看護基礎教育に導入した富山県立大学看護学部のキャンパス。看護学部でユマニチュードを学ぶ多くの学生さんが、総会の準備や当日の運営にご協力くださいました。

第5回総会のテーマは『ユマニチュードの可能性~教育の中にユマニチュードを取組む~』。

世界初や、日本独自のユマニチュードの広がりと可能性について、看護学生への教育、自治体での様々な取り組み、加えて専門職分野での最新の取り組みや研究と、多様な発表、意見交換の場になりました。

初日、総合司会の松井弘美氏(富山県立大学看護学科長/教授)の開会のご挨拶で幕を開けました。


総合司会 松井弘美氏

学術集会長 講演

最初の講演は、富山県立大学副学長でユマ二チュード認定インストラクターの岡本恵里氏による学術集会長講演『ユマニチューを学んだ看護学生の4年間の軌跡』。

2019年に開学した富山県立大学看護学部では、4年間を通して「看護ケアとユマニチュード」を授業に組み込み、2023年に初めての卒業生となる 1期生24名を送り出しました。

教育体制を整える開設準備ための2年間に行った教員向けユマニチュード教育、そして2019年から4年間、学部生と共に歩んだユマニチュード教育内容について、1年目~4年目まで、ユマニチュードの何をどのように学びを進めていったのか、学生との実際のやり取りを交えて、具体的に説明されました。2020年、2021年のコロナ禍においては、フランス、東京、富山等を結んでオンライン授業を行った様子など、困難な状況をも乗り越えた4年間の軌跡は、とても感動的で、富山県立大学看護学部の教育現場における新たな挑戦、そして可能性に多くの聴衆が感銘を受けました。最後に「全国の看護現場に飛び立った卒業生が実践する一つひとつのケアが、ユマニチュードの輪を徐々に広げてくれることを願っております」と述べました。


岡本恵里氏

基調講演

次にイヴ・ジネスト先生の基調講演『社会を支える基盤としてのユマニチュード』。

日本ではケア専門職にとどまらず、世界で初めて、小中学生、専門学校や大学生、市民・家族介護者など様々なフィールドでユマニチュードに取り組み、ユマニチュードが役立っており大変嬉しいと、この広がりに感謝の意を表しました。ユマニチュードは40年間、約3万人を超える患者さんと向き合いながら編み出した実践的なケア技法であること、またそのスキルは自由、平等、博愛の哲学に基づいて生み出されたものであり、ケアだけでなく社会にとっても、とても必要なものと、「ユマニチュードを学ぶ」ことの意義について述べました。


イヴ・ジネスト先生、通訳の本田美和子代表理事

シンポジウム

続くシンポジウム『ケア・キュア実践者にとってのユマニチュードの可能性』には、医療・介護分野でユマニチュードの普及・浸透に取り組んでいる4名の専門職が登壇しました。座長は、青栁 寿弥氏(公立大学法人富山県立大学准教授/ユマニチュード認定インストラクター)が務めました。


青栁 寿弥氏

林 智史氏(国立病院機構東京医療センター総合内科・感染症内科 医員)は、臨床現場でのユマニチュード実践、効果についての報告、そしてフランスでのユマニチュード認証施設での視察の際に、認知症の方に日本語でユマニチュードを実践してみたら、伝わった経験から、ユマニチュードは言語を超えた技術で、世界共通のものである実感を得たと視察時の写真と共に紹介しました。


林 智史氏

川岸 孝美氏(富山県 かみいち総合病院 看護部長)は、ユマニチュードの導入背景、研修、認知症ケア技術の可視化、そして、患者さんの変化を詳細なデーターを示しながら発表しました。更に、看護職でなく、全職種に広げるための取り組み、看護師による地域への出前講座という展開、今後の課題についても話しました。ユマニチュードの実践映像を見ると感動するが、目の前で行われて、患者さんが変化し、スタッフの笑顔を見ると何倍も感動する。もっと広めたいと話しました。


川岸 孝美氏

末弘 千恵氏(広島県 株式会社不二ビルサービス ケア事業部 次長)はユマニチュード認証に取り組んだ経緯、実際の取り組み、入居者・職員の変化、そして2023年6年にブロンズ認証を得た成功のポイントを発表。会場からの「職員全員で取り組む難しさについて」の問いに、ユマニチュードを実践することが目的でなく、なぜ、私たちは、ユマニチュードに取り組むのかを徹底的に考え、深めたことで、浸透できたと答えました。


末弘 千恵氏

荒谷 美波氏(富山県立中央病院 看護師/富山県立大学看護学部1期卒業生)は、 授業でのユマニチュードの学び、3年生の実習で試行錯誤をしながらも、こんな簡単なことで患者さんが変わるんだという体験談、そして現在、新人看護師としての活動、最後に私の強みとして、患者さんとかかわる際には、ユマニチュードが自分の強みだと思い、これからの更にユマニチュードを極めていきたいと力強く語りました。


荒谷 美波氏

質疑応答では、「病院ではユマニチュードを入院患者だけでなく外来患者にも対象としているのか?」「忙しい時にユマニチュードケアが途切れてしまうが、効果について」「施設職員全員で取り組む難しさについて」といった質問がありました。

最後に座長から、可能性ということで、諦めないという気持ちが大事。ユマニチュードのその人らしさを大切にすることは、自分自身を大切にすることと同じなので、皆さんと続けていきたい。ユマニチュードの輪が少しずつ広がって、ぬくもりのある大きな輪になることを願っています。とシンポジウムを締めくくりました。


シンポジウムの様子

学術発表:口演・示説

午後からは、会場を大講義室、201中講義室、203中講義室の3つに分け、『実践報告:大学・自治体』『実態調査・サポーター養成』『事例報告:入院患者』、『実践報告:専門職』、『事例報告:施設入居者』、『実践報告:施設内研究』等のテーマの学術発表が行われました。

発表プログラムと抄録集はこちらからご覧いただけます。

ポスター発表、実演

多くの人が行きかうホール部分では、数々のポスター発表掲示、ベッドシャワーシステムの展示、ユマニチュード シミュレーション教育システム(HEARTS)の展示・体験と、多種多様なユマニチュードの可能性を体感することができました。

市民公開講座

2日目の9月24日(日)は、澄み切った青空の下、第11回生存科学研究所共催・市民公開講座が開催されました。今回のテーマは『ユマニチュード認証施設:人生の最期の日まで「自律と自立が実現する生活の場」の創出』。昨年からスタートした日本版ユマニチュード認証制度の意義を考え、認証に取り組むことで生まれる組織の変容と将来像について語り合いました。

冒頭、本田代表理事から、本プログラムを継続して支援くださっている公益財団法人生存科学研究所 第6代理事長 故青木清先生の在りし日のお言葉や映像のご紹介がありました。続く基調講演では、まずユマニチュード考案者であるイヴ・ジネスト先生から、ユマニチュード認証制度の基本理念について伺った後、ユマニチュード認証の審査委員長である竹内登美子先生(富山県立大学名誉教授)より、ユマニチュードへ取り組む意義やフランス認証施設(ノルマンディーにあるジャンヌの家)の訪問を通じて得たユマニチュードの実践と評価に関する様々な示唆、ならびに「ユマニチュード認証審査会」での議論の一部などが紹介されました。


竹内登美子氏

その後、2日間の締めくくりとして、『日本のユマニチュード認証制度のこれから』と題した座談会を開催。ユマニチュード認証制度の設計に携わり調査員も務める森山由香氏と、認証を取得した施設の代表者である末弘 千恵氏、当学会の小川聡子理事が加わり、それぞれの経験を踏まえながら「人生の最期の日まで自律と自立が実現する生活の場とは何か」について語り合われました。


座談会の様子

今回の開催地、富山県の観光キャッチフレーズ “パノラマキトキト 富山に来られ” は、立山連峰から富山湾にかけての「雄大な自然景観」と、魚介類をはじめとする「新鮮な食」という、県が誇る、特徴ある観光資源の魅力・イメージを端的に表現し、「来られ」という優しい語感の富山弁で、富山県への誘客を呼びかけられているものです。この呼びかけを受けて、今年の学会総会は、2日間合計で延べ300名の会員、非会員のみなさまにご参加いただき、ユマニチュードの輪が強く大きく広がり、富山の魅力にも触れていただくよい機会となりました。


総会を支えて下さった富山県立大学看護学部の学生スタッフのみなさん

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