ユマニチュード考案者イヴ・ジネスト先生、ロゼット・マレスコッティ先生からのメッセージ連載

本内容はフランスのユマニチュード導入施設向けに配信されるニュースレター「ユマニチュードの絆」より転載したものです。ユマニチュード開発に至る経緯やジネスト先生たちの考えを知っていただく一助になると嬉しいです。

 

「なぜ商標を登録しているのか?」

非常によくいただく質問に、「なぜ、商標登録をしたのですか?」というものがあります。どうしてこのような選択をしたのか、説明します。

私たちが病院や施設で働く専門職を対象に指導を始めた頃、私たちはケアや病気に関する知識はもちろん、病院がどう運営されているかについても何も知りませんでした。研修生たちが私たちの先生になって彼らが学んできたケアについて私たちに教えてくれ、私たちは未知の世界を発見していきました。

病院や施設の世界では、当時、良いケアをする人というのは、全て患者さんの代わりにやってあげる人でした。患者さんの清拭はベッドで行うように学校で教えられ、それが現場で実践されていました。ケアの間中、「動かないでください」、「もうすぐ終わりますよ」、「あなたのためなんですよ」という言葉が聞かれました。そこでは、私たちが体育学の観点から持っていた、動くことを良しとする文化が根底から覆されていました。

教育者として、体育学の専門家として、私たちは動くことが健康に資すると知っています。動くことのトレーニングをし、それを繰り返し、動き続ける事のみが、人間としての大きな機能を維持させてくれます。しかし、ケアを受ける人達は、清拭も食事も睡眠も生きるすべてがベッドの上でした。椅子に腰掛けることができる患者さんは稀でしたし、その大半は布で椅子に固定されていました。

そこで、私たちは「ケアの新しい形を考案しよう」と決めたのです。清拭の際に、可能な時はいつでも患者さんにベッドの足元に立ってもらうことにしました。車いすをやめて立って移動していただき、ケアをする人はそこに寄り添うようにアドバイスしました。1982年には、私たちは、「亡くなるその日まで立つ®」を提唱しました。すでに実際のケア現場での研修で得られた結果では、寝たきりの方の80%が、本来は寝たきりになる必要がなかったと推定されました。そこで、私たちは一日20分立つ時間を作ることで寝たきりを防ぐことができるか、計測を開始しました。「亡くなるその日まで立つ®」は、こうして私たちの第一の強いコンセプト、これまでと異なるケアを行う第1歩となりました。

「ケアの技術は予防の技術になる。」

「亡くなるその日まで立つ®」を目指すためには、ケアについて、着衣介助、道具使用などの何十もの技術を開発しなければなりませんでした。そして、新しいケアの仕組みを提案する必要がありました。さらに並行して、私たちは非常に優しい触れる技術、後に「優しく触れる®」に結実する技術を開発しました。

1982年から20年間、私たちは言語的・非言語的コミュニケーションの現実を学び、新しいコミュニケーション技術を専門職の技術として確立するする必要性に気づきました。「オート・フィードバック®、知覚の連結®」の誕生です。これは本人ができることをケアを通じて評価するための清拭(これを評価保清と呼んでいます)、一連の手順に基づいた清拭など、これまでとは全く異なる考えに基づく新しいコンセプトのケアでした。そして、これによって暮らしの概念が大きく変容することになったのです。

私たちはこれまでの活動を通じて、私たちのアプローチを共有し、文章にし、開示してきました。インターネットの登場と同時にサイトを立ち上げ、私たちの知識をオンラインに載せました。しかし、私たちのコンセプトがその出典を示さずに発表されたり、文章に載せられたりすることが頻発し、私たちの成果がそっくりそのまま何ページにもわたって著述され、それを他の人が自分の業績として発表していることに遭遇するようになりました。

1998年、カナダ・ケベック州のパートナーとの出会いが決定的なものとなりました。私たちのコンセプトの重要性や成果に魅かれ、彼らは私たちに、私たちの成果全体を「ジネスト・マレスコッティのケア技法」と名付けることを提案してきました。こうして、最初のIGM(ジネスト・マレスコッティ研究所)がモントリオールで誕生しました。

カナダのパートナーは、このコンセプトは私たちが自ら教えたインストラクターからしか学ぶことができないと考え、コンセプトを商標登録することを提案してきました。

コンセプトを商標登録したことは、批判や非難を招きましたが、私たちは後悔していません。何故でしょうか?

何故なら、私たちは自分たちの30年間の仕事の成果を「キス療法」などと呼ぶ人が出現する事態に直面したからです。私たちは自分たちの成果の価値を貶めたくないからです。

何故なら、「ユマニチュード」がメディアで取り上げられたことで、私たちが会ったことも教えたこともない偽ユマニチュードインストラクターが研修を実施するという、私たちのコンセプトを盗用した例が引き起こされたことを繰り返したくないからです。

何故なら、患者さんや施設関係者がスタッフを教育したいと考えるときに、ユマニチュードの教育の評判、メディアや科学誌等で発表された内容など、手にする情報が常に正しいものであってほしいからです。

今日、「ジネスト・マレスコッティ・ケア技法®」と「ユマニチュード哲学®」の認定インストラクターのみが、IGMのネットワークに所属して働いています。私たちが訓練し、私たちが認定した質の高いインストラクターが組織化されたネットワークのもとで働くことで、ユマニチュードを選択してくれた方々へのケアの質を保証します。

最後に、大学・看護学校などの教育機関は登録商標保護対象の例外であることをお伝えしておきます。専門教育において学生がユマニチュードを存分に学んでくれることが私たちの望みです。もちろん、その教育者が私たちからユマニチュードについて学んでおくことが前提です。

ユマニチュードはケアをする皆さんのためのものです。皆さんが私たちを信頼し続けてくださることに感謝いたします。

ロゼット・マレスコッティ

イヴ・ジネスト

Le Lien de l’Humanitude より

朝日新聞デジタルにて、看護師である田中とも江理事のインタビュー全文が掲載されました。
1986年から現場で工夫を重ね、改革の先頭に立ってこられた田中氏が、71歳の現在に至るまでの活動の様子をご紹介いただいています。

▼こちらからご覧ください。
https://www.asahi.com/articles/ASN854WNBN73UHVA00F.html

 

8月12日発売のプレジデント9.4号の別冊付録の巻頭インタビューとして、ユマニチュード代表理事の本田美和子氏と田原総一郎氏の対談が掲載されました。
家族が認知症かもと思ったら今すぐ読む本
コロナ自粛で患者が急増中!


▼田原総一朗の告白「私は認知症かもしれない」

https://www.president.co.jp/pre/new/

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ユマニチュードを実践されている方々をゲストにお招きし、それぞれの現場での取り組みを語っていただく会員サロン「雨宿りの木」。約70名の方が参加された第一回会員サロンは、看護系学部として国内で初めてユマニチュードを正規のカリキュラムに導入した富山県立大学看護学部の竹内登美子学部長をお迎えしました。(第一回会員サロンレポート

後日、会員の方に実施したアンケートでは、今後の対談テーマに関するご要望を多くいただきました。その中でも「家族介護やユマニチュードを取り入れている施設で働く方の話を聞きたい」「ユマニチュードを導入するまでの経緯や導入後の変化を知りたい」「ユマニチュードの導入や実践にあたり上手くいかないことも聞きたい」など、具体的な事例への要望とともにユマニチュードに携わる人々とリアルな悩みを共有したいというお声が多く聞かれました。

そこで、第二回は当学会の理事でもある医療法人社団東山会 理事長 小川聡子先生をお招きして「急性期病院へのユマニチュード導入と導入後の変化」をテーマに対談を行いたいと思います。医療法人社団東山会 調布東山病院は、2014年よりユマニチュードへの取り組みを始め、現在では病棟や訪問診療に加え、外来にもユマニチュードのケアを取り入れるなど先進的な活動を行なっている施設です。

当日は、小川先生に導入の経緯や導入にあたっての苦労、導入後の患者様や職員の変化などをお伺いし議論を深めてまいります。続く第三回(10月開催予定)では、 調布東山病院でユマニチュード推進室科長として活躍する安藤夏子さんをお招きし、現場における実態など実践的なお話をお伺いする予定です。安藤さんは、ユマニチュード認定チーフインストラクターであり、当学会の教育育成委員長を務めています。第一線でユマニチュードに携わってきた安藤さんの貴重な体験談の回も合わせてご参加いただくことをお勧めします。

第二回会員限定サロン『雨宿りの木』開催概要

日時:2020年9月5日(土)14:00~14:50
登壇者:小川聡子理事、本田美和子代表理事
テーマ:「急性期病院へのユマニチュード導入と導入後の変化」
予約:不要。当学会会員ならどなたでも入退室自由。
※規定人数を超えるご参加をいただいた場合、入室できないことがあります。
ご希望の方はお早めに入室ください。

視聴方法:ZOOMにて配信 ※ZOOMの使い方はこちらをご覧ください。
URL:会員向けメールにてお知らせしています。
パスワード:会員の方には後日視聴用URLとパスワードをお送りいたします。URLやパスワードの転送・共有はお控えください。

小川 聡子(おがわ としこ)氏

1995年より慈恵会医科大学附属病院にて循環器内科医としてキャリアを開始する。同院等で8年勤務の後、調布東山病院に内科医師として着任。副理事長を経て2009年に東山会理事長に就任し、2013年~2016年は同院院長も兼任。現在は理事長として東山会を牽引する。

プログラム

13:50 ~ 入室開始

14:00 ~ ライブ配信開始

14:00 ~ 14:30 対談:小川理事、本田代表理事
テーマ:「急性期病院へのユマニチュード導入と導入後の変化」
14:30 ~ 14:50 質疑応答

14:50  終了

今後もさまざまな方をゲストにお招きして、会員サロンを開催してまいります。当学会は、医療・看護・介護などの専門職の方はもちろん、ご家族の介護に携わられている方やユマニチュードに関心のある方などどなたでも会員としてご参加いただけます。

ご参加を希望する方でまだ会員登録されていない方は、ぜひこの機会に登録いただき『雨宿りの木』にご参加ください。

詳しくは、「入会のご案内」をご覧ください。

家族介護者の体験談をご紹介します

ユマニチュードはご家族の介護をしていらっしゃる方にも役に立ちます。ご自宅での介護がうまくいかずに困っているときにユマニチュードと出会い、再びご家族との良い時間を過ごせることになった方々が多くいらっしゃいます。本学会の本田美和子代表理事がそうした皆さまを訪ね、ユマニチュードを実践した体験と感想をお伺いしました。

大津省一さん、信子さんご夫妻

認知症の信子さんと、信子さんの介護をされている省一さんは、前回の片倉美佐子さんと同様、福岡市が行なっている市民向けの講座でユマニチュードと出会われました。ユマニチュードにより再び信頼関係を取り戻すことができたというお二人には、福岡市と当学会で制作した映像「介護に笑顔があふれだした〜福岡市のユマニチュードの取り組み」にもご登場いただいています。

今回は、その映像の取材でイヴ・ジネスト先生と共に大津さん宅を訪問した折に伺ったお話をご紹介します。

ジネスト先生 今日はお招きいただきありがとうございます。信子さんは笑顔がとても素敵ですね。皆の宝物のような方です。

省一さん 今はもう完全に私のことを信じ切ってくれています。「あなたがいればもう何も要らない」と言ってくれているんです。

ジネスト先生 それは素晴らしい、愛の力ですね。

本田 信子さんと一緒に福岡市のユマニチュードの講座に参加されたのは3年前ぐらいのことです。その時にジネスト先生にお会いになったんでしたね。

省一さん そうです。市政だよりでたまたま見つけたのですが、ユマニチュードには本当に助けられました。妻が認知症を発症したのは10年ほど前ですが、その当時は声の掛け方すら分かりませんでした。なぜ何度も同じことを言っても分からないのか、同じ部屋に2人でいるのだから当然分かっているだろうと思っても反応がないから、私もついイライラして「言うたろうが」と怒ってしまう。そういうことの繰り返しでした。

本田 お辛かったですね。

省一さん 妻は30年前からうつ病を患っていました。しかし、それとは全く症状が違うんです。お金が無くなったと騒いだり、不安感が強く、私が同窓会の幹事のためたくさんの人から電話がかかってくるのを他の女性関係かと疑ったり。料理を作ろうとしても味噌の置き場や包丁のある場所が分からなくなるので出来ない。病院は薬を出すだけで、どう対応したらいいのか看護師さんに聞いても教えてくれない。様々な研修にも出てみましたが、全く解決できませんでした。何もない状態で自問自答を繰り返し、発症してから4〜5年は本当に辛くて、苦しかったです。

本田 ユマニチュードの研修を受けられて何が変わりましたか。

省一さん 認知症の症状に対して、具体的に「こうすればいい」ということを教えてもらえたのが本当に助かりました。そして、何よりまず手を握ることで変わりましたね。ユマニチュードでは下から支えるように「触れる」と教えて貰いましたが、日課の散歩の時にまずは普通に手を繋ぐようにしました。

本田 お散歩は毎日ですか。

省一さん 一年365日、雨が降っても雪が降っても朝4時半から出かけます。うつ病の頃から始めましたが、ユマニチュードに出会うまでは、私が先に歩いて後から妻が付いてくる感じで、妻は手を繋ごとうするのですが、恥ずかしくて私が振り払っていたんです。その手を繋いでみたら、妻はギュッと握り返して来ました。手を繋ぐことは、妻の安心感に繋がったようで一番大きな変化だと思います。妻に笑顔が増えました。

本田 ユマニチュードを実践して難しかったことはありますか。

省一さん 難しいということはなかったです。スッと入って来ました。疑問に思うこともありませんでした。ユマニチュードには哲学があるので、研修のノートを読み返すたびに奥が深いなと思います。相手をどう思いやるか、相手の人生を考えこちらがどう応じるのか。(認知症の)妻には昨日もなければ明日もないんです。あるのは今だけ。今日を精一杯に生き、妻が安心するように一緒にいることが大切です。ユマニチュードでは「目を見てゆっくり話す」のですが、そうすると相手に嘘もつけないし、喧嘩にもなりません。もちろん頭にくることもありますが、「こらっ」ていうくらい(笑い)。今は新婚の時みたいで一番幸せだと思っています。手を繋ぎ始めたときはすごく恥ずかしかったのですが、今は周りの皆から、自分もやりたいが出来ない、どうしたら出来るのかと聞かれます。

本田 どう答えられるのですか。

省一さん 「愛しているからです」と言ってます(笑)。妻と手を繋いで歩いている姿を見て、すれ違う方が「感動しました」と涙ぐんでくれたり、デイサービスの施設でも職員の方に「理想的」と言われますので、私たちも少しは良いことをしているかなと思います。

信子さん 夫がいてくれるからです。私に限らずみんな楽しく出来ればいいですね。

ジネスト先生 ところで省一さんには、昼寝をするなど信子さんから目を離していいとき、1人で休憩が出来る時間はありますか。

省一さん 週に2回、デイサービスに行きますが、昼間はまず1人で置いておくことは出来ません。例えば庭仕事で外に出るときも10分もすると私を探しに来ます。2歳ぐらいの子供の感じです。

ジネスト先生 それでは一つ提案をしましょう。

ワンポイント・アドバイス

 信子さんは先ほどからよく歌を歌われていますので、信子さんに向かい合っているようにカメラを見つめ、省一さんが歌っている映像を撮影してください。省一さんが何か用事があるときは、その映像をパソコンやタブレット端末、もしくはテレビなどで流しておくのです。
 これはフランスで奥様のお世話をしているご主人のケースなのですが(と言いながら省一さんに映像を見せる。註・この映像はDVDユマニチュードで見ることができます 。)奥様はご主人がいなくなると心配で仕方がなくなり、お手洗いにも付いてくるほどで、ひとりにできなくてお困りでした。そこで、お料理をしなきゃいけない、庭仕事をしなきゃいけないという時に、奥様をテレビの前に連れて行き、ご主人の映像をテレビで見られるようにするんです。
 歌を歌うのがお好きなご夫妻で一緒に歌った映像があるんですが、奥様はこれを30分くらいずっと見ていられるので、その間にご主人はやらなければいけない仕事ができるのです。

省一さん これは素晴らしいですね。

ジネスト先生 今、撮影してやってみましょう。例えば信子さんとの楽しかった旅行のお話など奥様が覚えていらっしゃる可能性のあることを1分ほどで構いません、信子さんの目を見て話しかける感じでカメラに向かって話してみてください。

省一さん (タブレット端末のカメラに向かって)お前とはよく山に行ったな。山の歌でも歌うか(と「山のロザリア」を歌う)。

(注釈:撮影後、その映像をタブレット端末で信子さんに見てもらうと、信子さんは集中して画面に見入り「山のロザリア」を歌い始める。その間にそっと省一さんが部屋から出ても信子さんは気づかずに歌を歌っている。数分の後、省一さんが部屋に戻る。)

ジネスト先生 省一さんがいなくなっても大丈夫でした。しっかり顔を上げて、目を見るように撮影するのがコツです。イヤホンで音だけ聞いてもらうというのも良いかもしれません。

省一さん こういう風にして歌ったのは初めてですが、ぜひやってみます。今日は先生方から良い材料をいただきました。

ジネスト先生 (省一さんを笑顔で見つめてる信子さんに)省一さんのことが好きですか? 結婚したい?

信子さん もうとうの昔にしています。

省一さん 今年で結婚50年になります。

本田 金婚式ですね。おめでとうございます。

信子さん (笑いながら)目出度くもあり目出度くもなし、です。

省一さん (大笑いして)私には良い女房です。散歩の時に「お父さんと結婚して良かった。手を繋いで歩けるから」と言ってくれます。2人の時間が持て、今が一番良い時だと思います。

(構成・木村環)

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