照林社の看護専門学習誌『エキスパートナース』2021年4月号に、本田代表理事の連載「ユマニチュードってどんなもの?どうやって進めるの?」が掲載されました。

ナースのための医療・看護最新TOPICSの連載として、ユマニチュードとは何かを丁寧に紹介しています。

▼詳しくはこちらをご覧ください

https://www.expertnurse.shorinsha.co.jp/posts/15558325

家族介護者の体験談をご紹介します

ユマニチュードはご家族の介護をしていらっしゃる方にも役に立ちます。ご自宅での介護がうまくいかずに困っているときにユマニチュードと出会い、再びご家族との良い時間を過ごせることになった方々が多くいらっしゃいます。本学会の本田美和子代表理事がそうした皆さまを訪ね、ユマニチュードを実践した体験と感想をお伺いしました。

高野勢子さん

第5回にご登場いただくのはフランス語通訳者の高野勢子さんです。勢子さんとは、ジネスト先生、マレスコッティ先生が2012年に初めて日本にいらしたときに通訳をお願いしたご縁で知り合い、以来ずっと力を貸していただいています。お仕事を通じてユマニチュードに繰り返し触れていたことが、ご家族の介護にとても役立っているとおっしゃる勢子さん。ユマニチュードを実際にどう活かしていらっしゃるかお伺いしました。

本田美和子・代表理事 勢子さんとはもう丸9年のお付き合いになります。通訳を探しているときに、美しい日本語で説得力のある通訳をしていらっしゃる方をたまたまYouTubeで見つけて、それが勢子さんでした。当時、ユマニチュードを日本に紹介するに当たり、ユマニチュードで使われているフランス語の専門用語を日本語にするにはどうすればいいかについても、勢子さんの力をお借りすることができ、とてもありがたかったです。

せっかくの機会ですので、まずはユマニチュードの通訳をするに当たって、勢子さんが最初、どんなふうにユマニチュードについて感じられたか教えていただけますか。

高野勢子さん(以下、勢子さん)  通訳というよりは、その内容についてなのですが、今まであまり聞いたことがないお話で、ジネスト先生の話もすごく上手で引き込まれました。ユマニチュードは人と人を繋げてくれるということを実際の事例を通して話されて、そして認知症という大変な状況にどうやって対応していくかという話は本当に面白くて、最初2~3回通訳をしたときには「もう私の一生でやりたかったのはこれだ」と感じたほどです。

それと話がすごくポジティブですよね。高齢というだけでもネガティブに思えるし、さらに認知症だという状況はやっぱり誰もがネガティブに考えがちなのに、すごくポジティブに捉えていて。そして、さらにこういうふうに対処すればポジティブになるんだ、ということを教えてくれるという意味では本当に目から鱗という感じでした。

本田 ジネスト先生のお話は本当に楽しいですよね。今回、このインタビューを受けてくださったのは、勢子さんご自身のご家族にユマニチュードが役立ったからとお伺いしました。

勢子さん このお話を頂いて最初に思い浮かんだことは「お陰様で私はユマニチュードを2012年から知っていた」ということでした。義理の母が認知症になったのですが、そうなる前から家族としてユマニチュードを知っていたというのは、すごく良かったなと思うんです。というのは、今も言ったように認知症ってみんなの頭の中ではネガティブなものなんです。ネガティブなことしか思い浮かばない。

本田 「なっちゃったらおしまい」みたいな感じですね。

勢子さん そうです。義母は転んで頭を打って、7針縫うぐらいの怪我をしたことがきっかけで認知症になってしまったんです。だから突然だったわけですが、そのときの義理の兄の反応が「これで私たちの人生はおしまいだ」と言うんですよ。「兄弟の関係もこれで終わりだ。兄弟仲は悪くなる一方だ」と言って、私はそれを聞いてすごくびっくりしたんです。

それまでユマニチュードの研修の通訳をやっていると、認知症の人からはプレゼントをたくさんもらうんだという話をジネスト先生はされていて、認知症の人や高齢者の人と接することでいろいろもらうものがあって、そこに絆ができるんだという話をずっと聞いていたので、兄の反応にびっくりしちゃって(笑)。

私は幸いそう感じなくて済んだので、兄に「いや、そんなことはないと思うよ」と「そこまで悲観することはないんじゃないの」と言いました。できないこと、できなくなることはたくさんあるだろうけれども「お料理とかお掃除とかは人に頼んで、あとは普通に接していればいいんだよ」と言いました。

それと、母が認知症になって分かったことですが、何回も繰り返しユマニチュードを聞くというのはすごく大切なことだなと思いました。「ちょっと1回だけ」ではなく、同じ内容だと思っても、何回も聞くことによって身に付くということを本当に感じています。

本田 それはどういうことから感じられたのですか。

勢子さん 勘違いしがちですが、ユマニチュードってマニュアルじゃないんですよね。例えば「5つのステップ」をやればそれでおしまいというのではないと思います。私は現在自分の父の介護をしているのですが、ユマニチュードは本人を、つまりこの場合父をすごく観察して、それで彼がどういう反応をするかとか、どういうふうに彼に対応すれば応えてくれるかというのを「自分で考えましょう」という「考え方」を教えてくれるものです。だから、その人それぞれによって違う。

その「考え方」というのは、やっぱりすぐには分からないと思います。私たちはそうした「考え方」を習ったこともないし、そんな話を聞いたこともないですから。そういう意味ではユマニチュード研修を何回も何回も受ける、そしていろいろな事例を見ていろいろな体験をすることによって、どうしたらこちらが適応できるかということを学んでいく、そういうものだと思うんです。

だから、私は事前にユマニチュードを知っていて、それも、何回も何回も繰り返し研修の通訳の機会をいただき、それを通じて見ることができたというのは、すごく大きかった、得だったなと思います。

本田 良かったです。お兄さまには「こうやれば」という提案をなさったのですか。

勢子さん やっぱり「こういうふうにしましょう」と言ってもなかなか上手くはいかなくて。以前は義母はすごくしっかりした人で、記憶力も良くて何でも自分でできた人だったので、義兄にはやっぱりショックもあったようで、母が何かできないと怒るみたいなんです。

本田 お母さまの状況を受け入れられなかったのですね。

勢子さん そうなんです。受け入れられないんですよね。だから「お前は認知症でもう何もできないんだから、あっちへ行っていてくれ」とか言うわけです。兄にしてみれば「母はもう認知症になった」イコール「何もできない、だから僕が全部やるからあっちへ行っていてくれ」という感じなんですけれども。

本田 「やってあげるから、いいよ」とおっしゃる、優しい配慮からの言葉ですね。

勢子さん 優しい気持ちで言っているんだけれども、それでお母さんは泣いちゃって、部屋にこもって出てこなかったという話を聞いて、それは駄目だよという話をして。なかなか「こうしたらいいよ」というのも難しいです。

義姉もいて、トイレでお母さんの体を動かすことができないと言うから、お母さんよりも姉のほうが大きいから「軽く抱くようにして持ち上げて、自分が回ればいいんだよ」とかいう話をして、そうしたらできるようになったんですけれど。そういうふうに少しずつやっていくしかありません。

本田 他に具体的に工夫なさったことはありますか。

勢子さん ジネスト先生が「いつも相手を見て、とにかく観察をしなさい。観察して相手ができることはやってもらいましょう」とおっしゃっていたから、私はうちの夫と一緒に、お母さんはできないこともあるけれども、できることもいろいろあるから、いろいろ実験してみたんです。

それで、母はお料理が好きだったから、お米を炊いてもらおうと思いましたが「ご飯をつくってください」と言っても、その5分後には忘れちゃうわけです。それで、紙に「お米を炊いてください。おかずはこちらでつくります」と書いておいたら、お母さんはお米を炊くことができたんです。だから、できることって結構あります。

だけれども、それで失敗したのは、その紙をそのまま残して、お食事した後でみんな帰ってしまったんです。そうしたら翌日、またその紙を見て、お母さんはお米を炊いたんです。それが腐って数日後に発見されて(笑)。だから、書いてあれば、記憶はないけれども、次の日もちゃんと見て分かるんだということも分かりました。

本田 すごい発見ですね。他にも実験したことはありますか。

勢子さん あと実験したのは、ジネスト先生が「記憶としては残らないけれども、ポジティブなことを言う、あるいはそういう体験をすると感情記憶に刻まれる」という話を何回もおっしゃっていて、たまたま私の弟に子どもが生まれたので、「これはポジティブだ」と思い、お母さんに「弟に子どもが生まれたんです、男の子なんですよ」「かわいいですよ」と伝えたんです。そうしたらすごく嬉しそうな顔をして、「名前は?」と聞かれたので「リュウノスケというんです」と答えました。

もちろん5分後には忘れてるわけですよね。そうすると、5分後にもう1回同じことを伝えるんです。これはフランス語の単語を覚えるコツと同じなのですが、時間を置いてもう一度覚え直す。何回も何回もそれをやると記憶に刻まれるという話なのですが、何回ぐらいやれば、たとえ短期記憶がない人でも覚えられるのかなと思って、その日は5分ごとに20回繰り返しました。

ユマニチュードの事例に、認知症の方が何回も何回も同じことを繰り返すからこっちが嫌になっちゃう、という話があったんですけれども、それを逆手に取って、何回も何回も同じことをこちらから言ってみました。そうすると、そのたびに新鮮な喜びがお母さんにはあるんですね。

5分後に同じ「弟に子どもが生まれたんですよ」と言ったら「そうなの? それは良かったわね」と言う。「名前は?」と言うから「リュウノスケというんですよ」と言って、それを20回繰り返して、また次の週に行ったときに20回やって合計60回ぐらいやってみました。

そうしたら、あるとき兄から「勢子の弟に子どもが生まれたの?」と聞かれたんです。「そうだよ。誰から聞いたの?」と聞いたら「母が言ってた」と。「この話は本当なの?」と兄が言うので、「本当だよ。だから認知症になっても全然何にもできなくなるわけじゃないよ」と兄に言いました。

楽しいことは何とか覚えられる、少なくとも感情記憶に入ることが実験して分かりましたし、観察しているうちに、記憶力がなくなってしまったというのは本人も気が付いて、それが落ち込む要因にもなると分かりました。

一方で、人間の頭って、記憶以外の機能が残っていれば、他の脳の部分を使って状況を切り抜ける力というのは割とあるように感じます。お母さんも、記憶できない部分を割とうまくごまかして話をすることができるようになっていて。だから、そんなに悲観する必要はないと感じます。

本田 それはすごく面白いですね。その後、お母さまはどんなご様子でしたか。

勢子さん 認知症と診断されてからなるべく早い段階で対応する、早くデイサービスに連れていったり、歩かせることもすごく重要だとユマニチュードでよく聞いていたので、なるべく普通の生活を続けてもらうようにしました。もちろんヘルパーさんに来てもらったりするんですけれども、そのお陰で落ち着いた感じで推移しました。

しばらくしたら「これで人生は終わりだ。兄弟の仲はこれでおしまいだ」とか言っていた兄も「まあ、年相応だよな」とか言っていて(笑)。それで良かったなと思います。

本田 良かったです。ご家族が「人生の終わりだ」みたいになっちゃうと本当に介護を受けている方もつらくて大変になると思うんです。「これでいいんじゃない?」みたいにお兄さまが変わられたのは勢子さんのお陰ですね。

勢子さん 分からないですけれど、ユマニチュードの家族向けのビデオには私も登場させていただいていたので(※)、それをお兄さんのお嫁さんには見てもらったりしました。あんまり感想はなかったんですけれども少しは役に立ったんじゃないかと思います。

家族が認知症になると「大変でしょうがない」「大変でこっち(介護する側)が参っちゃう」みたいなイメージになってしまいますが、実際にはユマニチュードのアプローチをすればそこまで大変ではなくて、お風呂にも入れられるし、素直にこちらの言うことをいろいろ聞いてくれることも分かりました。義母の後、今度は義父がパーキンソン病と診断されましたが、そのときも役立ちました。

さらに今度は、自分の両親の介護をするに当たって、認知症になりかけた時点でユマニチュードのアプローチで観察をするとか、話しかけるとかすると、すごくスムーズに事が運ぶので、これは介護をしている人にはすごく楽ちんだな、楽に介護ができると実感しています。

(※ YouTubeで公開しているユマニチュードの教育映像で、勢子さんは介護がうまくいかずに困っている娘さんの役を演じてくださっています。

後編に続きます。

(構成・木村環)

「現場での課題共有会」より

会員限定コミュニティ「雨宿りの木」にて、医療・看護・介護などケアの現場で働く会員の皆さまと語り合う「現場での課題共有会」が2月からスタートしました。この会に寄せられた実践者ならではの悩みや疑問に、ジネスト先生、本田美和子代表理事が回答した解決策やアドバイスを皆さまと共有いたします。ご活用ください。

※参加者の皆さまのプライバシーに配慮し、実際の内容を一部変えている部分があります。

Q.職場にユマニチュードを根付かせるには

急性期病院に勤めていますが、現場では治療が優先となり、なかなかユマニチュードのケアをやろうということになりません。また職場には認定インストラクターもいません。職場にユマニチュードを根付かせるにはどうすればよいでしょうか。

A.ユマニチュードはどのような臨床の現場でも有効です

「ユマニチュードなんかやっている暇はない」という言葉は本当によくいただきます。しかしながらユマニチュードは、私(ジネスト)とマレスコッティが40年ほど前に急性期病院で生み出した技法です。これまでに3万人を超える方々のケアをしてきましたが、新生児から高齢者の方々まで、そして救急医療や集中治療、精神医療などすべての臨床の現場でユマニチュードのケアを行ってきました。

これは日本での病院の話ですが、私がベッドサイドで患者さんと話をしていたら、看護師さんがやってきて、話の邪魔をしてはいけないと思ったのでしょう、一言も何も言わず、ご本人に尋ねもせずに布団をはいで、便の状態を確かるためにお尻の穴に指を入れたのです。フランスから来てケアを教えている私の邪魔にならないように気を使ってのことで、ご本人に悪気はないのです。しかしながら、病院で働いている人は患者さんのお尻をいきなり触ってもいい、患者さんもそうされても仕方がないと力を失っている状況に、期せずしてなってしまっている。これが病院の中で働いている人が陥りやすい罠なんです。

ユマニチュードはケアの専門職が自分の職場で仕事をすることを目的として作った技術です。きちんと身につけて正しく実践すれば仕事がとても早くなります。ユマニチュードを使うことで、これまで3時間かかっていた仕事が2時間25分で済むようになった、つまり、20%の業務の短縮につながったというフランスの調査報告もあります。

「5つのステップ」でケアを行うとき、一つ目の「ノックをする」はその時間が無駄なように思えます。ノックに必要な時間は10秒くらいですから、ここで10秒を無駄にしたと仮定しましょう。二つ目のステップ「ケアの準備」はケアを届けたい相手と良い関係を築くための最も重要なステップです。「あなたに会いに来ました」というやり取りは長くかかることもありますが、大体は40秒くらいです。ここまでで合わせて50秒無駄になっていると言う方もいらっしゃるかもしれません。

第3のステップはいわゆる仕事としてのケアを行う時間ですが、第1のステップ、第2のステップで良い関係を築けていれば、実際のケアの時間を短縮することが可能です。なぜなら、私たちが行うケアに協力をしてもらえるならば、ケアを拒否されて戦いのようになる要素が何もないからです。

第4の「感情の固定」、第5の「次の約束」は20〜40秒くらいで終わります。実際のケアを行う第3のステップの前後四つのステップで合わせて1分20秒ぐらい時間がかかります。しかし、その時間を持つことによって、これまで戦いのようになっていたケアをスムーズに受け入れてもらえます。結果的に、私たちが本当にやりたいケアをこれまでよりも短い時間で終わらせることができます。

フランスでユマニチュードを導入している施設では、寝たきりの方の数が全国平均の35分の1という報告があります。寝たきりの方のケアをするということは時間がかかることが常ですが、ユマニチュードを使うことにより、ベッドサイドに座って貰ったり、立って貰ってケアを行えたならば、寝たきりになる人を格段に減らすことができ、働く人の力も余分に使わずにケアができるようになります。

このようにユマニチュードはどのような形のケアにも使えますし、働いている人の仕事の内容も大きく変えることができます。

ユマニチュードが最大の効果を上げるためには、チームで取り組むことが必要です。ただ施設に導入するには研修が必要で、そのための費用と時間を未来への投資と考える必要があります。費用については、ユマニチュード導入の費用対効果に対するシンクタンクの報告が出ているのですが、1万円の投資に対して4万円が節約できる、費用対効果が4倍になるという結果でした。

例えば、職員の新規採用にはコストがかかりますが、ユマニチュードを導入すると離職する人が減るので採用コストが減ります。また、医療費の観点からも効果があります。これもフランスの調査ですが、ユマニチュードを導入後、施設全体の向精神薬の処方量が88%も減ったという報告もあります。

一方で、時間はかかります。施設全体に導入するには3〜6年くらいの計画で考えなければなりません。フランスでは、職場に導入計画を進めるための推進委員会を作り、その委員となる職員が2週間のリーダー研修を受け、施設の中にユマニチュードを根付かせるために活躍しています。

日本では、東京の調布東山病院が先駆的にそうした取り組みを行っています。この病院ではインストラクターが推進委員となっていますが、彼女たちによると、推進委員はユマニチュードを根付かせるための仕組みを作る役割であり、インストラクターである必要はないと話しています。

フランスではユマニチュードの認証施設の制度が始まっていて、ご本人が自分に関することについて自分で決める「自律」と、自分でできることは自分で行う「自立」や、職員が強制ケアを行わず、その一方でケアの放棄をしない、などの原則に基づいて、施設の外での生活がそのまま継続出来る施設が誕生しています。今、日本でも施設認証の制度作りが始まっています。ユマニチュードのケアが職場の文化として根付いた施設が誕生することを願っています。

「家族介護について語り合う会」より

会員限定コミュニティ「雨宿りの木」にて、1月よりスタートした「家族介護について語り合う会」。この会にて参加者の皆さまから寄せられたご相談やお困りのことに、ジネスト先生、本田美和子代表理事が回答した解決策やアドバイスを皆さまと共有いたします。それぞれの現場やご家庭でのケア、ユマニチュードの実践にご活用ください。

※参加者の皆さまのプライバシーに配慮し、実際の内容を一部変えている部分があります。

Q.認知症の初期の患者さんやご家族に寄り添うには

認知症の診断を行う疾患センターで看護師をしていますが、不安の大きい初期の患者さんやご家族に接するときに気をつけることはありますか。

A.相手の話を信じ、その能力を奪わないことが大切です

まずは相手が話すことを一旦受け止めること、言われたことを否定しないことです。ご本人の気持ち、感情的なことをまずは聞いてあげてください。こちから「大丈夫です」と決めつけないことです。

看護師をはじめケアの仕事をしている人に大切にして欲しいことは、相手が持っている能力を相手から取り上げないことです。取り上げることによって、相手の力はどんどん弱まってしまいます。病院では患者さんに、普通に考えたらおかしなことを強いていることが多くあります。例えば、着るものはパジャマでなければいけないとか、外出するには届けを出さねばならないとか、市民として本来なら当然持っている権利を病院だというだけで奪って、それに無自覚であることが多過ぎます。

これは日本での病院の話ですが、私がベッドサイドで患者さんと話をしていたら、看護師さんがやってきて、話の邪魔をしてはいけないと思ったのでしょう、一言も何も言わず、ご本人に尋ねもせずに布団をはいで、便の状態を確かるためにお尻の穴に指を入れたのです。フランスから来てケアを教えている私の邪魔にならないように気を使ってのことで、ご本人に悪気はないのです。しかしながら、病院で働いている人は患者さんのお尻をいきなり触ってもいい、患者さんもそうされても仕方がないと力を失っている状況に、期せずしてなってしまっている。これが病院の中で働いている人が陥りやすい罠なんです。

患者さんの部屋に行く時には、私は「ケアをしに行く」とは絶対に思いません。オムツを換えるため、点滴をするため、採血のために行くのではありません。私が行く理由はただ一つ、その患者さんに「会いに行く」のです。

ノックをして来訪を伝え、相手の了承を得てから部屋に入り、最初の30秒は仕事の話はしません。「会えて嬉しいです」「お元気そうですね」などと話して、人と人との繋がりを作ります。それが相手に自分が行いたい仕事を受け取ってもらえる入り口になります。世界中の病院を見てきましたが、それが日常的にできている病院は、残念ながらほぼゼロです。自分たちが何かを与える存在というだけでなく、自分たちが受け取るものについても常に考えていてください。ケアは一方向性のものではなく、相手と分かち合うものです

「家族介護について語り合う会」より

会員限定コミュニティ「雨宿りの木」にて、1月よりスタートした「家族介護について語り合う会」。この会にて参加者の皆さまから寄せられたご相談やお困りのことに、ジネスト先生、本田美和子代表理事が回答した解決策やアドバイスを皆さまと共有いたします。それぞれの現場やご家庭でのケア、ユマニチュードの実践にご活用ください。

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Q.ユマニチュードを使っても自分の内面が伴わないと上手くケアできないのでは。

看護師として、ケアというのは自分の内側から出るものが相手に伝わってしまうと思っています。例えユマニチュードを使っても、内面が伴わないと上手く行かない気がするのですがいかがでしょうか。

A.わたしたちは「ケアを分かち合う人・ケアシェアラー」であると考えてみて下さい

ケアをする人にも人生がありますから、例えば離婚をしたり、家族が亡くなったり、すごく辛いことがあったりということがあります。そうした良くない状況であると、届けるケアも良くないという可能性はあります。でも、それだからこそ、技術が必要なのです。

ユマニチュードはコミュニケーションの技術です。個人的に悲惨な状況でケアをしに行く時でも、重要なのは、映画の中のヒロインやヒーローのように、ケアの現場で素晴らしい関係を作るプロフェッショナルを演じること、職業人の技術としてにっこりと笑うことです。

この技術で届けたケアによって、相手はきっと笑顔を返してくれます。私たちは一方的にケアを与える人「ケアギバー」であるだけでなく、相手から戻って来るものが確実にあります。相手から笑顔が戻って来ることで、逆に私たちがケアを受ける人にもなるのです。

カナダでの話ですが、両親が亡くなり、離婚をして最悪の状況で仕事をしていた人が「私は、私がケアした相手からたくさんの愛情を貰っているので、この仕事場ではとても幸せだ」と話していました。

わたしは、ケアの場では、ケアを一方的に与える人、一方的に受け取る人の役割を分担しているのではなく、ケアを共に分かち合う存在「ケアシェアラー」であると考えています。共に過ごす時間を分かち合い、良い時間を過ごすことで、ケアは素晴らしいもの、嬉しいものとなります。一方的にケアを与え続けていれば、だれもが疲弊し、嫌になってしまいます。そうではなく、共に分かち合うことができれば、燃え尽きてしまうことを避けることができます。ユマニチュードを導入した施設では職員の燃え尽きや離職が少なくなることを数多く経験していますが、その理由は「ケアの分かち合い」にあると考えています。

下記からご覧いただけます。

学会だより 第6号

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「家族介護について語り合う会」より

会員限定コミュニティ「雨宿りの木」にて、1月よりスタートした「家族介護について語り合う会」。この会にて参加者の皆さまから寄せられたご相談やお困りのことに、ジネスト先生、本田美和子代表理事が回答した解決策やアドバイスを皆さまと共有いたします。それぞれの現場やご家庭でのケア、ユマニチュードの実践にご活用ください。

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Q.ドクターショッピングをする母を説得する方法はありますか。

79歳の母が自分の膝の痛みについて「手術をしないと治らない」と思い込み、そうした診断をしてくれるお医者さまを求めて次々と病院を変えています。どう説得したらいいでしょうか。普段は杖をついて歩いていますが、美味しいものを食べて帰って来る時などは杖もなしで歩けています。

A.医師にお母さまの話を受け入れてもらうことから始めましょう

お母さまの痛みは頭で考えている痛みの可能性もありますが、ご本人が「痛い」とおっしゃるのであれば、それは医学的には説明できなくても、「痛み」として対応されるべきものです。誰でも別のことに集中しているときや、良いことがあると痛みを忘れることができるでしょう?お母さまは嘘はついていないと思います。

一つのやり方としては、お母さまが先生のところに行く前に、家族であるあなたがまず先生と話し、お母さまが言うであろうことをあらかじめ先生に伝えておきます。そして、お母さまが先生の元に来た時には、ご本人が言うことを「そうだね」と、まずは先生に受け入れてもらうのです。そうするとお母さまはその先生のことが好きになり、先生の治療を受け入れると思います。お母さまは先生に自分を信じてもらっていないと感じていることが大きな問題なのだと思います。

タイトルは、相手を思う気持ち伝える介護 フランス発祥の「ユマニチュード」

 

認知症の介護などで、一生懸命にケアをしても相手から拒否されたり、暴言を吐かれたりすることがある。しかし、それは「介護者が悪いのではなく、ケアのやり方に改善の余地があるのだと思います」と話す本田代表理事。

うまくいったケアには、友だちの家を訪ねて食事をし、おしゃべりをして名残惜しく別れるのと同じような流れがあると言います。

 

詳細はこちらからご覧いただけます。

https://medical.jiji.com/topics/1984

「家族介護について語り合う会」より

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Q.デイサービスで働いています。利用者の方々がお困りのことを知りたいと思いますが機会がありません。

利用者さん、利用者のご家族の方々のお気持ちに寄り添える仕事がしたいと思っていますが、ご自宅でどんなことに困っていらっしゃるのかを知る機会がなかなかありません。とくにおひとり暮らしの場合はどうしたら良いでしょうか。

A.信頼関係を築いて生活の場での情報を得るようにしましょう

一番良いのは、お迎えに行ったときに少しお家の中に入って様子を見せてもらうことです。そのためには利用者のかたと信頼関係を築くということも必要ですね。

家の中ではたくさんの大切な情報を得ることができます。例えば冷蔵庫はものすごい情報源で、冷蔵庫の写真を撮り、それをもとに皆で話し合いをすることもあります。たとえば、食べ物がちゃんと入っているか、また逆に詰め込みすぎていないか、など普段の生活を推測するのにとても役に立ちます。また、冷蔵庫の中に私は靴が入っているのを見たことがありますが、認知症の進行状態のわかりやすい目安にもなります。お風呂はどんな感じか、洗濯物はどうか、生活に何か問題が起きていないか、ほんの少しでも情報を得ることで、援助の方法を考えることができます。

ご家族と住んでいる方の場合は、まずはご家族の方にデイケアサービスのチームの一員になっていただき、力を借りることも有効です。利用者のかたと一緒に来ていただいて、15分でもお茶を飲みながら共に過ごす時間を作るのはいかがでしょうか。家での様子や家とは違うことなどをお伺いするよい機会になります。また、定期的にご家族のお茶会のようなものを開くのも良いでしょう。他の誰かが話すと自分も話しやすいという人もいます。利用者の方々が24時間をどう過ごしているか聞いてみましょう。ご家庭での様子を家族がご存知ないときには、利用者のかたは家で孤立しているかもしれません。

NHK Eテレの春季講座14時〜14時20分の家庭総合の枠にて、本田代表理事が出演する「高齢者を支える」が再放送されます。

https://www.nhk.or.jp/…/tv/katei/archive/chapter013.html

是非ご興味ある方、大変わかりやすい内容となっておりますので、ご覧ください。

「家族介護について語り合う会」より

会員限定コミュニティ「雨宿りの木」にて、1月よりスタートした「家族介護について語り合う会」。この会にて参加者の皆さまから寄せられたご相談やお困りのことに、ジネスト先生、本田美和子代表理事が回答した解決策やアドバイスを皆さまと共有いたします。それぞれの現場やご家庭でのケア、ユマニチュードの実践にご活用ください。

※参加者の皆さまのプライバシーに配慮し、実際の内容を一部変えている部分があります。

Q.コロナ禍で一人暮らしの母が弱っていくのが心配です

1時間半ほど離れたところに住む一人暮らしの母が、コロナが不安で習い事やリハビリを止めてしまい、ほとんどの時間を1人で過ごしています。体調を崩し、怒りっぽくもなりました。近くに住む兄弟が訪れても5分ほどしか会ってくれず、私も心配でよく電話で話はするのですが、本人が嫌がるため顔を映して話す機能を使ってのやり取りができません。優しく、お料理好きな母が子供や孫とも会えず、このまま弱っていくのではと不安です。

A.正確な情報、防御策を目前に行い会いに行ってみてはどうでしょう 孤独な状況は健康に良くない影響があることは広く認識されています。今の社会状況はとくにご高齢の方にはとても良くないと思っています。

かかりつけの医師のお話はよく聞いてくださる関係ができている、とのことですので、健康のためにリハビリはとても大切であること、1日に20分は歩くと良いですよ、と話していただくのはどうでしょうか。

また、WEBサイトなどで新型コロナウイルスについてしっかりと情報を得てお母様にお伝えする、またお母様に会うときには目の前で消毒をし、お互いにマスクをするなどの防御策を取ることを十分に説明して会いにいくと言うのも一つの解決策ではないかと思います。

また、電話ではお話しくださるのでしたら、つながりの手段は確保できています。もう一歩進めて、自分がどうしてもお母さまのお顔を見たい、私のために映像を使ってくれないかとお願いしてはいかがでしょうか。「お母さんの顔が見られないから、私はとても悲しい」とお願いするのです。とてもお優しいお母さまでいらっしゃるとお伺いしました。そうでしたら、お子さんがそれを望んでいると分かれば応じてくださる可能性もあると思います。

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