2023年8月30日(水)当学会主催で、ユマニチュードの「優しさが伝わるケア」を知っていただくための交流会をオンラインで開催しました。

開始時間が19:30分からということもあり、仕事や家事を終えた方、また職場から、そして移動中に耳だけ参加された方と、全国から約50名が参加されました。

講師は、ユマニチュード認定インストラクター渡邊美江子さん。


講師:渡邊さん

交流会では「ユマニチュードとは何か?」そして「ユマニチュードとご家族の事例」、最後に講師の渡邊さんが自身の「わたしのユマニチュード体験」を語りました。渡邊さんは、これまで介護施設で20年勤務した経験、ユマニチュードとの出会いと体験を、たくさんの具体例を挙げて説明しました。

最後の質疑応答、交流の時間では、参加者より「ユマニチュードは認知症でなく精神疾患のある方へも有効ですか?」や、「自治体で認知症サポーター制度がある。ユマニチュードも是非、やってほしいいが、どうやったら、自治体で取り入れてもらえるのか?事例はあるか?」といった質問がありました。

オンライン上で、みなさんの笑顔があふれた交流の時間となりました。

当学会では、今後もみなさんがご参加できるオープン参加型ユマニチュードキャラバンを開催いたします。 学会サイトや、SNSでお知らせいたしますので、是非、ご参加ください!

福岡市は、認知症になっても住み慣れた地域で安心して自分らしく暮らせるまちを目指す「認知症フレンドリーシティ・プロジェクト」を推進しています。

2023年9月15日(金)、拠点となる「認知症フレンドリーセンター」が、健康づくりサポートセンター・あいれふ(中央区舞鶴2丁目)2階にオープンしました。

記念式典

この認知症フレンドリーセンター開所記念式典に、ユマニチュードの考案者イヴ・ジネスト先生とロゼット・マレスコッティ先生、本田美和子当学会代表理事が出席しました。

冒頭の高島宗一郎 福岡市長のご挨拶では、福岡市が世界で最初に都市としてユマニチュードに力を入れて取り組んでいること。これまでの活動に加えて、このセンターでは、ユマニチュード講座の定期開催をすることなど、センターの紹介がなされました。


高島福岡市長

続くご来賓の方々のご祝辞では、イヴ・ジネスト先生、ロゼット・マレスコッティ先生も登壇し、福岡市のユマニチュードの取り組みに感謝の念と賛辞をおくりました。


左から本田美和子代表理事、ロゼット・マレスコッティ先生、イヴ・ジネスト先生

最後に、高島市長、福岡市議会打越議長、ロゼット・マレスコッティ先生、そして認知症当事者のぶこ様が、テープカットを行い、多くの関係者とともに、記念撮影をしました。



テープカットの様子

当日は、多くのマスコミが取材におとずれ、各媒体でこの様子が広く紹介されました。


報道カメラ

セミナー開催

認知症フレンドリーセンター開所記念式典後には、イヴ・ジネスト先生、ロゼット・マレスコッティ先生の二人が講師、当学会の本田美和子代表理事、入江芙美理事が通訳を務め、ユマニチュードセミナーが開催されました。

セミナーの様子


受講者は、福岡市でユマニチュードを多くの人に伝える役を担っている地域リーダーや、ユマニチュード認証取得に取り組んでいる施設の方々など、約30名が参加しました。ユマニチュードを普及・浸透させるという志を同じくする仲間が集い、ともに学び支え合う、絆を深める場となりました。

センターの様子


センター内のユマニチュードを紹介するボード

センターの受付では、ユマニチュードを紹介する映像を流しています。

ユマニチュードキャラバン2023 好評開催中!

認定インストラクターとの無料講習会に参加された方からの喜びの声を取材しました。

一般社団法人あしたの働き方研究所

代表理事 加藤 深雪さま

第3回は、2023年6月に受講された『一般社団法人 あしたの働き方研究所』代表理事の加藤深雪さんです。

皆が知っていたら皆がラクになる、コミュニケーションの技術

加藤さんが代表理事を務める『一般社団法人 あしたの働き方研究所』では、主に大人の発達障害など、生きづらさを抱える人の職場での理解とコミュニケーションを促進する活動や、職場のメンタルケア支援をミッションとしています。今回は、ユマニチュードがD&Iの基本的精神を体現していて、日頃からケアに関わっていらっしゃる皆様がよりよいケアを実践するためのお役に立つ、との思いからキャラバンに参加されました。

加藤さん ユマニチュードはタノシニアン®️の伴克子さん(第1回に登場)から紹介されて知りました。取り組みを聞いて、発達障害のある方とコミュニケーションをとる際に意識しなければいけないことと、共通する部分があると思ったのです。なかなか伝わらない相手に対して、どう気持ちを伝えてコミュニケーションをとっていくのか、そこのところに興味がわきました。

少しして91歳と88歳の両親の介護が始まり、今までなら起きなかったさまざまな出来事に直面しました。特に穏やかだった父が怒りっぽくなったのには戸惑いましたが、目を見て話したり、背中をさすったり、ユマニチュードの技術を使うと、とてもよいコミュニケーションが取れるようになって。「効果があるな」とますます関心を持つようになったのです。

公私の立場から、ユマニチュードの可能性を感じたという加藤さん。実際にキャラバンを受講してみていかがでしたか?

加藤さん 発達障害の中でも、特に自閉スペクトラム症の人と認知症の人では、脳の前頭前野(記憶や判断、感情のコントロールを司る部分)の機能が似ています。例えば自閉スペクトラム症の人が何かに夢中になっているときに声をかけても、コミュニケーションをとるのは難しい。相手の様子を見て、相手のペースに合わせて対応をしていく必要があるのですが、ユマニチュードの根本にあるケアに対する哲学というか人を思いやる基本の精神は自閉スペクトラム症の方へのそれと通じ合うものを感じました。

技術の面ではそのまま取り入れられる部分とそうでない部分もあります。自閉症の方は目をじっと見られるのが苦手な場合もあるので、「目を見て話す」ことは難しいのですが、小さなお子さんの場合、広い面積で適度に圧をかけながら行う触れる技術については、ご両親に対してお伝えするのはよいのではないかと思っています。

今後、介護の現場にとどまらず、ユマニチュードがより広く活用されていくとしたら、どのようなことが期待されますか?

加藤さん ユマニチュードの考え方で接すると、相手が穏やかになりますね。わが家でも父がよく笑うようになりました。相手がニッコリ笑ってくれればこちらも嬉しい。そんな循環が生まれるようになる。だから皆がこの方法を知っていれば、皆がラクになると思います。介護に限らず、ケアを必要とする人が身近にいるという状況は、誰にでも起こりうること。誰もが一人で生きているわけではありませんから。この考え方をいろいろな場面で活かしていけば、コミュニケーションがとりやすく、お互いの関係性もよくなるはず。そのことが、社会全体の生きやすさにつながっていくと思いますね。

参加者の皆様から寄せらせた感想

― 認知症、発達障害、うつ病、どれも身近に起こりうること。ユマニチュードはそれに対応できる技術だと思う。

― 介護者ではないが、仕事上、高齢者とそのご家族と接する機会が多い。ユマニチュードの考え方をご紹介したり、自分の仕事にも活かしていきたい

― 回想法(昔のことを丁寧に聞き、思い出を蘇らせること)について、とてもよい勉強になった。

― 近い将来、ユマニチュードを取り入れている心療内科のクリニックで働いてみたいと考えるようになった。

ご紹介

加藤さん企画のインターネットラジオ「たるみんの わくわくワークヒント」
毎回いろんなゲストをお迎えしての放送は、いつでも繰り返しお聞き頂けます。

https://honmaru-radio.com/category/ashihata/

Zoomによるセミナーも積極的に開催されています。
(発達障がいに関するセミナーの様子)



普段の対面研修の様子



令和5年9月18日(月・祝)13:00~15:30、福岡市の「認知症フレンドリーセンター」の開設にあたり、ユマニチュードと認証制度をテーマに、当学会と福岡市との共同による記念講演を開催いたしました。

(助成:日本財団、開催場所:福岡市 TKP ガーデンシティPREMIUM 天神スカイホール)

ダイジェスト映像

イベントレポート

福岡市では6年前の平成29年に「福岡100プロジェクト」を立ち上げ、人生100年の時代の到来を見据えた様々なプロジェクトを展開していますが、この福岡100の最初のプロジェクトとして採択されたのがユマニチュードです。プロジェクトの発表記者会見にはジネスト先生も出席し、これまで6年間にわたりにさまざまな活動が行われてきました。とりわけ「福岡発ユマニチュード」ともいえるのが地域への取り組みです。地域の公民館や小学校、中学校で合計192回の講座を開催し、延べ9000人が受講しています。また、福岡市消防局では世界初の救急隊のためのユマニチュード・トレーニングも始まっています。さらに今年の9月には福岡市の中心部に福岡市が運営する認知症フレンドリーセンターが開設されました。ここではユマニチュードに関するさまざまな資料を揃え、学ぶ機会を提供します。福岡市では「自分らしく暮らせる自治体」としてユマニチュードを導入し、市民の暮らしをより良く支えるための発展をめざしています。

今回、認知症フレンドリーセンターの開設記念イベントのひとつとして、ユマニチュードの考案者であるイヴ・ジネスト先生とロゼット・マレスコッティ先生を招いた講演が開催されました。「誰もが人生の最期の日まで自由と自律を持ち続ける生活の場をどのように実現させるか」をテーマに、ユマニチュードの歴史と基本的な考え方、そして誰もが自由と自律をもった生活の場としてのひとつのゴール「ユマニチュード認証制度」について、会場に集まった300人あまりの市民に情熱あふれるお話をしてくださいました。

講演会は、ジネスト先生とマレスコッティ先生のお二人が登壇し、交互に語る形式で行われました。まず福岡市の取り組みに対する感謝の言葉から始まりました。「福岡市はケアにおいて日本の代表となる、お手本となる街です。日本中の、そして世界中の街が福岡に続いていくよう願っています。」続いて45年前に体育学の専門家であった二人が病院に招かれ、ケアの分野に足を踏み入れることになった経緯と、そこで遭遇したたくさんの困難な事例、さらにその困難な状況に対してどのように取り組んできたかについて語りました。

講演抄録

メインスピーカー/
ユマニチュード考案者
イヴ・ジネスト先生、ロゼット・マレスコッティ先生

「誰もが人生の最期の日まで自由と自律を持ち続ける生活の場をどのように実現させるか」

「私たちはたくさんの失敗をしました。しかし、失敗からしか私たちは学ぶことができません。本当にたくさんの失敗をし、その結果、たくさんのことを知ることができました。失敗を通して400を超えるケアの技術を見つけ出しました。そして20年ほど経った時に、その経験と知識、技術を基盤とした、ケアの哲学と技術で構成されるユマニチュードを考案しました。」

お二人は2012年に日本に招かれ、日本の病院や施設、家庭でのさまざまなケアが困難な状況に対して、ユマニチュードを用いた解決策を提案し、実践してきました。いくつもの日本での事例が講演の中で映像を交えて紹介されました。

続いて、このような効果を生み出すユマニチュードの基盤である「ユマニチュードの哲学」についての講義が行われました。人間が他の哺乳類と共通する点、他の哺乳類とは異なる人間の特性、さらに哺乳類が誕生した際に親が本能的に行う動物行動学的な行動と、それが仔に与える情報についての話から始まり、人間の場合それが「ユマニチュードの4つの柱」として本能的に行われていること、これは人類の長い歴史を通じて身につけたものであり、この4つの柱は人生を通じて大切な相手には私たちは本能的に無意識に行なっていることが語られました。4つの柱が得られなかった場合に人間はどうなるのか、という例として、ルーマニアの孤児院で発見された「チャウシェスクの子供達」の状況とその子供たちの救済に取り組んだフランスの医師ボリス・シルルニック先生のインタビューが紹介されました。

急速に進展した高齢社会において、人類は脆弱な高齢者に対してどのように対応をしたら良いかの経験がなく、「あなたのことを大切に思っている」ことを伝えるための4つの柱が存在しない状況でケアを受けている人々が世界中に数多く存在します。その方々は、「チャウシェスクの子供達」と同様の状況にあり、そこにユマニチュードを実践する大きな理由が存在します。

ケアが必要な脆弱な状況にある方々に対して「あなたのことを大切に思っています」「わたしが一緒にいるから大丈夫ですよ」と伝え続け、自分のことを自分で決め、自由を担保した生活の場の提供がこれからの社会には求められます。

フランスの典型的な介護施設のケアの様子の映像では、てきぱきと仕事は行われていましたが、4つの柱は存在せず、ケアを受ける人とケアを提供する人との間には、まるで戦争のような状況が繰り広げられていました。これは、フランスに限らず、世界中のケアの現場で起きています。

「ケアで陥りやすい罠とその解決方法」

先ほどのフランスでの介護施設の映像を見て頂きました。皆さん、介護する人、ちょっとひどいなと思われたかもしれません。でもあのような場面は、私たちが働いてきた世界中のどの国でも見ました。私たちは、ご家族の家庭での状況も見ました。その介護をしている方のことを悪く思わないで下さい。私たちもユマニチュードの技法を発見するまでは同じようなことをしていました。私たちのせいで、介護を受ける方が泣いたり叫んだりしていました。どうしてかというと、私たちはどうしたらいいか知らなかったからです。

皆さんにお伝えしたいのは「その解決方法は学べる」ということです。学ぶことができます。もしケアの現場で、あなたが叫んでる人を見たら、看護師さんを殴るような行動を見たら、ずいぶん攻撃的だなと思いませんか? そうではないんです。その方は、むしろ自分に向けられた暴力から自分を防御しようとしているのです。私たちはそれに気がついていないのです。

ケアを実践するとき、そこにはたくさんの罠があります。わたしたちは、相手に間違ったメッセージを伝えてしまいます。先ほどお見せした映像の中で、一生懸命仕事をしている看護師さんが、患者さんの腕を掴んでもちあげていましたね。看護師さんが相手のためにと思って行なっている行動が、ご本人には掴まれることで自分が攻撃されている、と感じさせてしまい、そこから自分の身を守るために防御の行為を行い、さらにそれが看護師さんには患者さんが暴力を振るっている、と思われてしまう。そこで生まれるのは強制的なケアです。

「ユマニチュード認証制度」

私たちはフランスでたくさんの施設で、ユマニチュード教育を行ってきました。でもなかなか進歩を確認する術がありませんでした。このため、ユマニチュードを用いたケアの質を担保する手段として認証制度を作り、少しずつ進歩が確認できるようなシステムを作りました。この認証制度は、満たすべき基準を満たすとAsshumevieという認証団体から認証が与えられることになります。私たちはフランスでの経験によって、この認証制度という制度がユマニチュードを実践してもらうために非常に重要だと実感しました。そして、「良いケア Bien traitance」を実践するのに有効だと感じました。

認証を受けるには5つの基本を満たす必要があります。日本では、Asshumevieに代わり日本ユマニチュード学会が認証を付与するシステムです。

まずは「強制的なケアはゼロにする」。かといってケアを諦めることはしない。例えばアルツハイマーの患者さんのところにいって、体をきれいにしましょうかと提案する。でも注意して下さい。もしその患者さんが嫌だと言ってるのに無理に実施したら、その患者さんはたぶん叫ぶと思います。この原則に沿ってケアする場合には、強制的に実施するのではなく、後にしましょうと言って後でやります。強制ケアではなくて、別の方法を探します。

2つ目の原則は、「1人1人の患者さんが唯一無二であるという存在を大切にし、プライバシーを尊重します」。例えば住居者の部屋に入る時は、必ず許可を得てから入ります。ケアをする側の人には、必ずドアをノックして、そして返事があるのを待ってから入るようにと指導しています。

3つめの原則は「最期の日まで立つ」ということです。全てのテクニックを使って、立位を最期の日まで保持できるようにします。立つこと、少なくとも体を起こすことは、人間にとって生理学的な効果にとどまらず、自己のアイデンティティを感じるためにとても重要な要素です。

4つめの原則は「組織が外に対して開かれている」ということです。つまり、24時間365日、誰でも来たい人は来ていいということです。例えばご家族の方が泊まりたいとおっしゃったら、それができるようにします。

5つめ、最後の原則は「生活の場、したいことができる場」ということです。お見せする映像の中で、フランスでの認証を受けた施設でいかにたくさんのアクティビティがあるかを見て頂きます

ここで、フランスの認証施設の日常の様子を撮影した映像が紹介されました。現在は四肢麻痺で寝たきりになっているスキー選手だった高齢の男性の「滑降するときの頬にあたる冷たい空気をもう一度経験したい」という願いを、スキー場にお連れしてソリに乗って実現する映像などが紹介されました。

フランスのユマニチュード認証施設には平均して90人位の方が入居しています。そのうち、寝たきりの人の割合は1%ぐらい。圧倒的に少ないです。一日に合計20分間立つ時間を作ることによって、例えば、お食事のテーブルまで立って移動するとか、歯磨きの時に立つとか、小さな積み重ねで合計20分を確保することによって、人生の最期の日まで歩く、立つことができる。寝たきりにならない生活を送ることが可能なのです。

ユマニチュードの認証施設では、皆で海水浴に行ったり、遠足に行くこともあります。ずっと山に住んでいた方がいて、海を見たことがなかったそうです。車椅子に乗って遠足に行きビーチに到着したら、彼女は立ち上がって海の中に足を浸し、「私の人生の一番の夢が今日叶った」とおっしゃったそうです。

ユマニチュードに取り組んでいる施設でユマニチュードの教育が始まると、様々な変化が生まれます。その例をひとつご紹介します。郡山市医療介護病院というユマニチュードを先駆的に導入して下さっている長期療養型の病院ですが、病棟で患者さんが眠れないときや、非常に大きな声を上げて興奮状態になったときのために病棟に備えていた薬を全く使う必要がなくなり、病棟にストックする必要がなくなったと、看護部長さんがおっしゃいました。私たちの話を、この蝶の話で終わりたいと思います。

あるところに、大きな森がありました。ある日そこで大きな火事が起きました。森に棲んでいた動物たちがみんな逃げ出し始めました。ライオンもゾウも逃げ出しています。でも、そこに一匹の蝶が火に向かって飛んでいます。逆方向に逃げていたライオンが蝶を見つけて声をかけました。蝶は足に小さな水のしずくを一滴抱えています。

「そんなちょっとの水を持っていったって火なんか消せっこないんだから、やめろ」とライオンは言いました。でも蝶は、「私は私ができることをやるんです」とライオンに応えました。

自分ができることをやる。

ユマニチュードはポジティブな関係を結び続けるものです。ユマニチュードは私はあなたの兄弟、あなたは私の兄弟という考え、友愛の情で結ばれているものです。これは平和の哲学でもあります。私たちに力を貸して下さい。より平和で優しさの溢れた町になるように、ぜひ皆さまのお力を借りることができたらと思います。ありがとうございました。

日本ユマニチュード学会の学術会報誌「ユマニチュードの絆」第0号準備号を掲載しました。
ぜひご覧ください。
ユマニチュードキャラバン2023 好評開催中!

認定インストラクターとの無料講習会に参加された方からの喜びの声を取材しました。第2回は、2022年10月に受講された『アトリエ・ハコ』のデュプイ エリック・絵里子さまご夫妻です。

ユマニチュードを通じた優しさが伝わるケアの広がりを身近なところから地域社会へ

エリックさんは東京都杉並区で、地域に拓かれた交流と発信の場であり、フランス語学校を併設したレンタルスペース『アトリエ・ハコ』を運営されています。
そもそもなぜお二人はユマニチュードに関心を持たれたのでしょうか。

絵里子さん 考えてみると3つの出来事がきっかけになっているように思います。まず『ケア』について考えるきっかけを与えてくれたのは、2020年に亡くなった義母と、最後に過ごした時間だったと思います。亡くなる3ヶ月前に約1ヶ月ほど一緒に暮らしました。認知症ではなくても、視力、聴力の衰えから認知機能が落ち、日々できることが少しずつ限られていく中で、何をしたら彼女が心地よく感じてくれるか、笑顔を見せてくれるかを考えた時間でした。ただ、その時はユマニチュードの存在は知らず、今思うと、もっと彼女を楽にしてあげられる方法がたくさんあったのでは、と悔いが残ります。

2つ目は、実母が外科手術を受けた際に、家族としてサインを求められた身体拘束への同意書です。実際には拘束が行われるような状況にはなりませんでしたが、これが私達の唯一の選択肢なのか?とショックを受けました。

3つ目は、20年来のフランス語の生徒さんが、今年の初め認知症と診断されたことです。症状は日々顕著になり、混乱されているご本人にどう接したら良いのか。自分達には知識がないことを実感しました。

ご家族の介護や認知症を身近に感じる機会によって、ユマニチュードへ関心を寄せてくださったデュプイさんご夫婦。対象は「認知症」だけではなかったと言います。

絵里子さん 『認知症の方とのコミュニケーションの技法』ということはもちろんですが、それだけではなく、ユマニチュードの哲学が広く浸透し、人としての尊厳を保ちながら最後の日を迎えられる社会が、少し先の未来にあったら良いな、と思います。そのために自分達は何ができるかな?と。そこで、今回のキャラバンは“最初の一歩!“という思いで開催させていただきました。

実際に地域の方を集めたキャラバンを開催し、動画で事例を見ることで再度理解が深まり、参加者との繋がりもできたそうです。キャラバンが終わった後、会場に残って少し話し合いをしたり、その後でアトリエに来てくださる方もいる。今まさに介護中の人もいれば、知識として知りたい人もいて、話し合うことでお互いヒントを得られたと実感されているそうです。

エリックさん ユマニチュードの良いところは、できることを奪わずに「何ができるか?」を考えそれをサポートしていくところだと思います。Try & Errorですよね。

参加者の皆様から寄せらせた感想

― 初めて学ぶ人でも分かり易かった。交流会では、皆それぞれ不安があり、自分だけではない、ということが共有できてよかった。

― 母の介護をしていて「こうするべき」とか「残された時間は限られている」と思っても、肉親だからこそ難しいと感じる時があります。そこにもし『技術』があるのなら知りたいと思いますし、今回拝見した事例からも多くの学びがありましたので、より多くの事例を知りたいと思いました。

取材を終えて

エリックさんはキャラバンの後、88歳のフランス語の生徒さんが入院された際に、感情記憶にふれる関わりをすることで、フランス語の歌の最後の一言を聞くことが出来たのだそうです。
また、絵里子さんのお母さまは現在88歳。お元気で介護は不要なものの、手を出したくなる場面もあるそうで、そんな中でも『できることを奪わない』ことを心がけているのだとか。急いでいるときなどは特に『言うは易し、行うは難し』の状況の中、ちょっとだけ立ち止まって、「それは必要?」と自分に問う機会ができたことは大きな一歩。これからも地域に「優しさが伝わり合う」関係を広げていただけたらと思います

ユマニチュードに関する映像をご紹介します

ユマニチュード認証初年度パイロット事業の記録の動画を掲載しました。認証への取り組み事例がコンパクトにとてもわかりやすく凝縮された内容になっていますので、是非ご覧ください。

ユマニチュードキャラバン2023 好評開催中!

認定インストラクターとの無料講習会に参加された方からの喜びの声を取材しました。第1回は、2023年3月に受講された『タノシニアン®』というグループを主宰されている伴 克子さんです。

ユマニチュードを知った方、介護を終えた方から、優しさが伝わるケアの輪が広がっていく

『タノシニアン®』は、豊かな彩りある人生を送るシニアの方たち、およそ300人からなるグループで、毎月1回、様々な領域で活躍する方をゲストに招き、オンライン交流会を開催されています。デジタル庁からデジタル推進委員・デジタル推進呼びかけ員に70名が任命されるなど、多方面で活発な活動をされており、月次交流会の一つとしてユマニチュードキャラバンにお申し込みいただきました。

伴さん ユマニチュードについては、福岡市が先進的に取り組みをしていることを聞いており、以前から興味を持っていました。わたし自身がきちんと知りたいという思いがありましたし、タノシニアン®のメンバーにはシニアの方が多いので、認知症の方とのコミュニケーションやケアというテーマに対して、ひょっとしたら向き合うのが怖いって方もいらっしゃるかもしれないとも思ったのですが、まずは知ることが大切なので知って頂きたいとの思いで企画しました。

『実際にキャラバンを実施されて、「向き合うのが怖いかも」というのは杞憂であったと実感されたそうです。

伴さん まず、想定以上に当日の参加者が多くて驚きました。そして何より、ご自身に介護経験があり介護が終わった方たちが、ユマニチュードを知っていれば違ったかもしれないって思われた、ということが非常に印象的でした。わたしとしては、ご自身の介護を決して後悔して欲しくないと思うのですが、一方で、様々な思いを抱えていらっしゃることを受け止めなくてはとも思いました。

伴さんの受け止めを通じて、参加した方の中からは、「私は長年の介護を終えましたが、この感動&幸せの介護の技法を周りの人にも伝えたいと思います」「私は母の介護を終えた身ですが、長年の介護を思い出しながら(涙)…ユマニチュードの技術を知って使っていればもっと楽に介護ができたのではと思いました。現在、介護中の周りの人達に学んだ技法を伝えてあげたいなと思いました」など、前向きなメッセージが寄せられたと言います。
他にも、「暖かさを感じました。紹介された事例動画をみて涙が出てきました」「私の身内には介護する人はいませんが、自治会の方々が高齢化してるので役に立つことがあるのではと思ってます」「ユマニチュードはいずれ我が事になるかもと思いながら、家内とメモ取りながら観させて頂きました。大変有意義な話で、大いに参考になりました」などの感想をいただけたそうです。

伴さん 私自身、高齢の両親への接し方で、ちゃんと見たり、ゆっくり話したり、今までは適当だったところにも気を遣うようになりました。これからもユマニチュードの学びを深めていきたいと思いました。

実際に伴さんは、当学会主催のユマニチュードの実践力を身につける講座『市民・家族のためのユマニチュード認定サポーター準備講座・養成講座』を受講され、ユマニチュード認定サポーターとして登録し活動を開始されています。こうしてユマニチュードへの理解と共感の輪が広がり、実践できる方が増えていくことを心強く思います。



◆講座の情報はこちらからご確認いただけます

※次回の募集は10月実施分から再開の予定です

2023年6月11日(日)、ユマニチュード認証授与式及びシンポジウムが行われました。

ダイジェスト映像公開中

当日は、会場に集まった関係者に加え、当学会会員や一般からの応募者約50名がオンラインライブ配信にご参加くださいました。会場には、晴れてブロンズ認証を取得した「ふじの家瀬野」から3名、「調布東山病院・病棟」から4名、当学会から代表理事の本田美和子、認証審査委員の南髙まり、認証事業担当理事の吉川左紀子が参加いたしました。

授与式及びシンポジウムの司会進行は佐々木恭子さん(フジテレビジョンアナウンサー)。佐々木さんは一昨年、認証事業の検討を進めた認証準備委員としても活動されていました。

授与式に先立ち、本田代表理事からご挨拶、ならびに認証事業の概要についての説明と、認証取り組み中の全国26の認証準備会員の紹介(2023年6月11日時点)が行われました。続いて、ブロンズ認証取得事業所への認証プレート授与の際、サプライズが起きました。当初オンラインでの参加予定だったユマニチュード考案者イヴ・ジネスト氏がプレゼンターとして会場に登場、会場は大きな驚きと歓声に包まれました。

続くシンポジウムでは、ふじの家瀬野から牧田さん、末広さんが、調布東山病院から福地さん、田邊さんが登壇し、認証取得までの道程について振り返りました。

認証への取り組みとその変化として、ふじの家瀬野からは、「ユマニチュードへの取り組みを職員一人ひとりが自分ごと化するよう心がけた。動画を活用してケアの見える化を行ったことで、関わり方に変化が出た。一方で、技術の正解がわからず、これは正しいのか?と悩みながら取り組んでいったが、最後の答えは入居者さまが教えてくれた」との声が寄せられました。

調布東山病院からは、「関わる人全員がユマニチュードを理解し取り組めているか、バラツキがあるのが課題だった。ノックについて入り口ドアに表示したり、患者さまへの接し方についての動画を作成するなど工夫し、ユマニチュードを実践することの意味と理由を伝えるようにした」との発言が寄せられました。

今後のさらなる課題として、ふじの家瀬野からは、「認証を取ることが目的ではなく、良いケアをすることが目的。自分が入居したい施設にしていきたい」との声が寄せられるとともに、調布東山病院からは、「難しいことではあるが、他職種スタッフ全員が毎日の習慣を変えていくことで、組織の風土を変えていきたい。部署ごとの実践レベルのバラつきをなくし、事業計画をもとにレベルアップしていきたい」と、双方からともに力強い目標が語られました。

最後に本田代表理事から、正しい技術を学ぶこととチームワークの大切さ、そして何よりもユマニチュードのことを好きになって諦めずに取り組みを続けてほしいとのエールが送られました。締め括りとして考案者のイヴ・ジネスト氏からは、「人と人をつなぐ、愛情がユマニチュード。ユマニチュードは平和の哲学。みんなで一緒に、より良い社会、より良い地球を作っていきましょう」と激励の言葉が贈られました。

認証準備会員様の取り組みをご紹介します

認証準備会員として、ユマニチュード認証にチャレンジ中のケアホーム西大井こうほうえん(東京都品川区・社会福祉法人こうほうえん)が、この度、「介護付きホーム研究サミット2022」で優秀賞を受賞されました。この取り組みをご紹介します。

こうほうえんでは、開設以来、口腔ケアに注力してきました。口腔ケアは、歯・口の病気予防だけでなく、QOLの改善、誤嚥性肺炎の予防、認知症予防など全身の健康に関与します。入所当初は口を開けることすら拒絶反応を示す利用者さまも少なからずおられるそうですが、介護士を始めとするスタッフ一丸となって口腔ケアの技術を磨き、ユマニチュードの哲学と技法をもとに利用者様との良い関係性を構築することで、自ら口を開けケアに協力してくれるようになるのだそうです。

このために独自の研修制度を取り入れ、そこでは、①歯磨きと専門知識、②機能的口腔ケア、③口腔ケアプランを学び、段位制度も設置しています。半年や一年に一度、学びの見直しも行なっています。こうした取り組みが評価され、「介護付きホーム研究サミット2022」で優秀賞を受賞されました。

今回は、この取組みの経緯や成果について、施設長である田中さん(当学会の理事でもあります)、歯科衛生士の奈良さん、介護福祉士の清水さん(ユマニチュード推進委員で口腔ケア委員会チーフ)に現場の生の声をお伺いしました。

業界内でも、反響が大きく関心が持たれたとのことですが、一般的な口腔ケアがどのようなものが多いのでしょうか?

清水さん 毎食後の口腔ケアは、トイレや更衣・食事等と比べると、優先順位もついつい低くなり、歯ブラシを口に入れて動かす、スポンジで口の中を拭う等、「こなす」ケアになりがちです。入居者様が「痛い」「嫌だ」という場合には、ケアを諦めることにもなりかねないのが課題だと思います。

奈良さん 歯科衛生士の居宅療養管理指導は月に4回という回数の決まりがあり、必要な人に必要なケアを行うので、効果は高いですが、効率は決して高くないです。

田中さん お口の中というのは、とても複雑で敏感な器官です。歯の数、義歯か否か等、個別性が高くもあります。そのケアをするにあたっては、良い関係性の構築がなくてはならないものです。何も聞かされないままケアを受けることで、反射的に噛んでしまうケースも多々あり、職員はそれを自分が悪いからと責めてしまう。どちらにとってもつらいことです。しかし、こうほうえんでは現在、「噛む」ということも全くなくなりました。

口腔ケアとユマニチュードとの関係性はいかがですか?職員の意識や行動にどんな変化や影響がありましたか?

奈良さん 私は障害者の歯科衛生にも携わっていましたが、そこでは、基本的方法であるTTSD(T(Tell:説明する)、T(Touch:触らせる)、S(Show:器具等を見せる)、D(Do:実施する))にて治療を行います。治療中も、「今の状態」の説明を行い、がんばっていること、がんばったことをほめることで、成功体験を身につけていきます。何が起きるかわからない不安が安心に変わることで、治療もスムーズに進めることができます。

まさにこれが、ユマニチュードの4つの柱・5つのステップにも合致しているように思えるのです。ユマニチュードはとても有効な手法だと思います。

清水さん 立位になる時間と口腔ケアを組み合わせた取り組みをしています。立位でのセルフケアは無理でも、うがいからはじめてみる、鏡の前に立ってケア後のお口の様子を見てみる、など、一人ひとりにあった取り組みを組み入れています。口腔ケアのベースが確立されることで、他のことと連携して自立へのステップとなっています。

また、口腔ケアに関する職員アンケートでは、取り組みを始める前は関係性の確立が難しくあきらめることもあったが、入居者様それぞれに合った関わり方を工夫することで、実施率・関係性ともに上がったという声を聞くことができました。「◯○せねばならない」という考えがなくなった、気持ちが楽になった、という声もありました。

例えば入浴に関しても、これまでは「午前中に」「何人入れる」など、こちら側の都合で進め、服選び等も職員が行っていました。自分たちのものさしでケアをこなしていたという感じです。現在は、職員みんながユマニチュードという共通の意識を持っているので、一人ひとりに合ったケアを自然に実現できるようになってきていると思います。

口腔ケアに限らず、どのケアでも同じで、「できる」の基準を変えたことで、入居者様も職員も穏やかに取り組めていると思います。

独自の研修・段位制度を作るにあたって、苦労した点、工夫した点、また成果としてどのようなことがありましたか?

奈良さん 施設としての方針がしっかりしていたので、苦労といった苦労はなかったです。忙しい日々の業務の中で、全員が同じ研修を受けるにあたっては、チーム分けをして取り組む・シフトを工夫するなどの調整でやりくりしています。初級(ブロンズ)の時点で、歯の名前など知識の共有を図るので、正しい情報を速やかに共有できるようになりました。お口の異常も早期に発見できるようになりました。何よりも、「適正な口腔ケアを継続すると、歯ぐきから出血しなくなることを介護職員が身をもって体験し理解した」ことが、専門分野からみた意識の変化になり、臨床ではセルフケアへの動機づけとして有効な事象になります。

清水さん 確かに、歯ぐきから出血しなくなることを知ることは大きな体験でした。出血しなくなることが適正なケアの判断基準となり、入居者様と「血が出なくなったね」と喜びを分かち合えるのは嬉しい成果でした。

取材を終えて

口腔ケアをしっかり行なうことで、入居者様も良い気持ちになり、職員も自分の仕事に誇りを持って取り組める。朝礼のときにユマニチュードの話をしているそうですが、自分が行なうケアの体験を共有することで、聞いた側も成長につながっている。こうほうえんでは、ユマニチュードと口腔ケアを軸に、良いケア浸透の好循環が進んでいるようでした。

(取材:天田 瑞恵)

2022年12月3日(土)14時~16時、市民福祉プラザ(ふくふくプラザ)1階ホールで、福岡市が主催する市民向けユマニチュード講座「初めて知るユマニチュード」が開催されました。

福岡市に在住もしくは通勤・通学されている方を対象とした講座で、約130名が参加されました。

最初に、福岡市福祉局高齢社会部 認知症支援課の笠井課長がご挨拶で「福岡市は認知症フレンドリーシティプロジェクトを立ち上げて、様々な取り組みを行っています。その一つがユマニチュードの講座。2016年、2017年の2回、ユマニチュードの効果の実証をおこなった。その結果として、ケアを受ける人の拒否や暴力的な行動が改善される効果が確認できたことに加え、ケアをする側の人にも、精神的負担感が軽減されるなどの効果がもたらされることが確認できた。そこで2018年から本格的にユマニチュードの普及活動を続けている。福岡市が目指す社会は、認知症と共に、住み慣れた地域で安心して自分らしく暮らし続ける街。認知症のご本人や介護する方々が自分らしく暮らし続けられることを目指している。ユマニチュードをご家族や、お知り合いにも伝えていただいて、ユマニチュードの輪が広がることを祈念しています」と話しました。

講師は、ユマニチュード認定チーフインストラクターの安武澄夫さん。安武さんはご自身のお母さんと高齢の祖父とのやり取りなど、実際の体験談を交えながら、「認知症と共に生きる」「記憶のメカニズム」「ケアする人とは何か?」そして、「ユマニチュードの哲学や技術」について話しました。

同じくユマニチュード認定チーフインストラクターの杉本智波さんも登壇し、安武さんと一緒にユマニチュードの「見る」のデモンストレーションを行いました。

最後にユマニチュード学会の永井事務局長から、学会の紹介や無料で行っているユマニチュードキャラバンの案内がありました。講座終了後、参加者から講師や、学会のスタッフにユマニチュードの技法や、学会の活動についての質問が寄せられ、よい交流の場となりました。


福岡市 笠井課長 / 講師:安武さん(左)、杉本さん(右)

2022年11月18日(金)・27日(日)10時~17時、福岡市が主催する「ユマニチュード専門職向け講座」がオンラインで開催されました。

福岡市に在住もしくは勤務されている看護や介護の専門職を対象とした講座で、約50名が参加されました。


講師:佐々木さん

講師:金沢さん

講師:髙澤さん

講師:丸藤さん

18日の講師は、ユマニチュード認定チーフインストラクターの佐々木恵未さん、金沢小百合さん、髙澤君予さん。27日は、佐々木恵未さん、丸藤由紀さん、髙澤君予さん。

『ケアで大事にしていること』では、「先走らず同じペースで」「心穏やかにケアする」「気持ちによりそう」「本人らしい生活の邪魔をしない」「コミュニケーションをとりながら相手の性格を知ること」など、そして、『ケアでの困りごと』では、「時間に追われている」「おもいが伝わらない」「穏やかに対応できない」「拒否される」「受け入れてもらえない」といった様々な意見が出ました。これらは、職種が違っても皆さんに共通しているということを認識しました。

次に、コミュニケーションが上手くいかずケアを拒否していた患者さまが、ユマニチュードのケアを受けるようになったところ、ケアを受け入れ、自分の足で歩けるようになったり、優しい表情を見せるようになったという、事例映像が流れました。

ユマニチュードでなぜ、このような変化がおこるのか?なぜ、受け入れてくれるのか? そのためには何か必要になのか? ユマニチュードの哲学と具体的な技術について、様々な映像や、講師のデモンストレーション、受講者も体験しながら、学びました。

これらのユマニチュードの技法について参加者からは「ケアの拒否は自分のかかわり方に原因があったのかもしれない。技術を使って反応の変化をみたい」「拒否されることの分析ができると思う。知らず知らずにやっていて、それが拒否につながっていると気づいた」「できることは本人にやってもらうことの大切さを改めて実感した」「優しさを伝える方法として技術を使うということがわかった」といった感想が寄せられました。


「見る」「立つ」のデモンストレーションの様子

2022年11月16日(水)奈良市の西京公民館ホールで、六条地区社会福祉協議会が主催する「優しさを伝えるケア技法 ユマニチュード®講演会(第2回)」が開催されました。六条地区にお住まいの主に認知症の方のご家族を対象とした講演会で、前回は、オンラインでの開催でしたが、今回は、対面での実施となり、会場には約50名がお集まりいただきました。

日本ユマニチュード学会の永井美保子理事が講師を務め、奈良医療センター看護師で、ユマニチュード認定インストラクターの山西智美さん、上林久子さんも皆さんとの意見交換に加わりました。

まず、主催者である六条地区社会福祉協議会の大森護会長のご挨拶から始まりました。「高齢化が社会問題となり、認知症、MCIが増えていく中、お役に立てることをしたいと考えていたところ、国立奈良医療センターの当時の院長よりお声がけ頂き、院内で開催されたジネスト先生の講演を聞くことができ、 “魔法の介護法” だと、いい意味でのショックを受けました。家庭内で、認知症の介護で苦労をしている方、一人でも多くの方に聞いてもらいたいと思っていたところ、あるご夫妻から福祉にお役立て下さいとご寄附をいただき、開催したのがユマニチュードの講演会です。」とユマニチュードの講演会を開催するきっかけをお話しました。

講演では、講師自身がユマニチュードに出会って救われた張本人であり、亡くなった父が認知症を発症し、86歳の父を82歳の母が介護する老々介護の様子や、娘としての自身の体験を語りました。多くの人から寄せられる「家族への介護は、どうしても優しくできない、うまく介護をすることができない」という声に「介護をしていることで、十分にあなたは優しい人です。問題は、その優しさが相手に伝わっていない、相手が理解してくれていないこと。相手に伝わる、理解してもらうには、コツがある。誰でもできる、このコツの考え方と技術がユマニチュードです。」と語り、ユマニチュードの哲学や技術について、さまざまな映像を交えながら説明をしました。

質疑応答では会場からの「介護業界で働いていてユマニチュードを実践して、認知症の患者さんへの成功体験を得ている。しかし、家族の介護に悩んでいる。両親ともに80歳を超えて、認知症の母を父が介護している。父がかっとなって怒り、母に手をあげてしまいます。どうしたらいいのか? 身内の介護で感情が先に出た時にどうしたらいいのか?」という質問に、インストラクターの山西さんが、「身内だから自分の言っていることをわかってもらいたいと期待する気持ちになってしまう。それは寄り添う優しさから発せられるもの。まずは、お父さんの気持ちを大切に理解してあげたい。認知症は脳の病気。年だから年相応に物忘れするということとは違う。年をとって、物忘れすることの延長に認知症があるのではなく、脳が疾患として委縮して、覚えておけない病気。足の骨が折れた人に、まっすぐ歩きなさいというのと、認知症の人に、さっき言ったでしょ、覚えてないの!というのは、同じこと。忘れることを責められると本人もなんで私は覚えていないんだろうと不安になって、お互いが気まずくなる。お父さんの気持ちも大切にしつつ、お母さんの行動は病気からくるもので、これを改善するのは難しいということをお父さんとご一緒に受け止めていただき、どうしたらいいかを考えられるようなかかわりができたらと思う。」とアドバイスをしました。上林さんは、「私も、病棟で患者さんを見ているつもりで、見てなかったと思う。私は現在、コロナ病棟にいるが、これまでも結核病棟にいて、必ずマスクしないといけない状況だった。特にコロナ病棟では、帽子まで被って目元しか見えない状態で、誰だかわからないし、それが故のトラブルもあった。でも、ユマニチュードの技法を使って、ちゃんと目線を合わせて、声をかけて、処置をしますよと話をすることで伝わることができた。また何カ月もお風呂を拒絶する入院患者さんについて、調べてみると、昔はお風呂が好きだったが、以前の施設ではお風呂が冷たかったり、お風呂で痛いことをされたり、季節によっては、ゆず湯などあって、これが便に見えて嫌だった、などお風呂に入らなくなった理由があったということもあった。介護は、絶対こうしたらいいですよという答えはない。相手は人なので、一人ずつ方法は違います。実践して、小さな成功体験を積み重ねていけば、前向きになれます。私も失敗と成功を繰り返しながら実践しているので、皆さんもそのようにしていただけたら」と話しました。

講演会後も会場の皆さんと講師やインストラクターとのやり取りがあり、対面で直接交流することができた貴重な機会となりました。

日本ユマニチュード学会では、ユマニチュードについて知っていただく第一歩として、講演依頼を受け付けています。オンライン、対面どちらでも可能です。ご興味のある方は、是非、お問合せ下さい。

←前編から続く

3日目:10月19日(水)

ケアの見学・参加・意見交換、施設内見学(認知症のある方が暮らす区画、移動自転車)、各施設が実施する年次自己評価の講義がありました。

ケアの見学・参加では、再び3つのグループにわかれて、前日と異なる、それぞれ別の区画でケアの現場に入らせていいただきました。前日と同様に、ユマニチュードの技術を用いて、朝のケアを実施(着替え、整容、朝食のために食堂へ向かう等)しました。本人が自分でできることは自分で行い、難しい場合は代替案を提示しながらケアを行っています。それぞれの部屋には、家具やDVDや編物等、自分の好きなものを飾ったり配置していました。ある入居者の方がカフェオレなど飲み物を準備してくださったり、ご自身で下膳している方もいらっしゃいました。以前は職員が下膳していましたが、現在は可能な場合は入居者ご本人が実施しているそうです。さいごに職員から相談のあったケースについてディスカッションしたり、各グループのインストラクターの感想を共有しました。

施設内見学では、認知症のある方12名が暮らす区画を訪ねました。ちょうどリンゴのコンポートを調理中で、リンゴのいい香りが漂っていました。入居者の希望にあわせて各種アクティビティを実施しており、参加しても途中でやめることも自由だそうです。家のような雰囲気をつくるため職員は名札をつけていませんでしたが、職員は全員私服なので家族や訪問者が誰が職員か分かるように職員の顔写真を区画内に掲示していました。本人と、家族や職員がペアで乗る電動自転車も見学しました。車いすに座ったまま自転車の前方に乗ることができ、施設の外に出ることも可能です。

各施設が実施する年次自己評価では、取り組みの進め方の例についてラ・メゾン・デ・ジャンヌのケースを交えながら説明していただきました。

・3月 推進プロジェクトチームを立ち上げる:To Doを明記したカレンダーを作成する(評価基準の章・節ごとに担当者を決める)

・4月 全職員へ周知:全職員に向けて関係者各位で担当者へ連絡する

・5 月、6月 観察と面談:ラ・メゾン・デ・ジャンヌでは、リーダー研修を受けたリーダーが施設内評価を実施し、施設オリジナルのチェックリストを1日かけて埋める(Asshumevieもチェックリストを作成して提供しているが、利用は任意)

・7月、8月 研修機関による分析

・9月 研修機関から分析結果を受ける

フランスでは施設が審査を申請するまで研修機関が対応して、原則、認証取得の準備が整った段階で審査を申請します。現時点では、日本では進め方等の認証準備中の相談も含めて審査機関・ユマニチュード認証制度本部が対応しています。

この日は、今回の訪問に関して施設管理者エリスさん及び本田代表理事が、地元メディアの取材を受けました。地域に開かれた施設として情報発信にも積極的に取り組んでいます。


手編みのマフラー

ケアへ参加

認知症の方が暮らす区画

自転車

外観

周囲の様子

休憩時間に質問

4日目:10月20日(木)

最終日は、認証審査に関して多岐にわたる質疑を行いました。その一部をご紹介します。

Q.認証準備会員になってから最初の自己評価を実施してオンラインシステムにアップするまでの期間は?

A.取り組みを始めたら、すぐに継続的に登録する

Q.不合格の場合のフォローの在り方は?

A.書類を提供したり口頭で説明する。

例:調査員の訪問後レポート(記載項目・内容の一部)

・調査員がいいと思った点(職場環境として・生活の場として等の項目別)
・改善の余地ありの点・それに対する提案とその理由
・個人の仕事についてのフィードバック
・全体へのフィードバック
・まとめ:いい点、改善すべき点<提案事項は5年後の認証更新時までに改善する(研修機関にも共有して研修を受ける)>

Q.ボランティアの受け入れはどのように行われているのか?

A.ボランティア団体を通じて受け入れて、ワークショップと同じように計画を立てて、適切な振る舞い方ができるように40分前後の研修を行う(哲学、4つの柱)。

Q.家族向け説明はどのように行っているのか?

A.1時間ユマニチュードについて説明会を実施しており、ユマニチュードに関するマンガのような冊子を配布しているところもある(冊子を配布するだけだと質問がたくさんくるため説明会を実施している)。

Q.認証取得前後で地域の変化はあるか?

A.地域に開かれた取組みをするため、認証取得の取組み開始時点ですでに変化は始まっている。認証を取得した際には地域で表彰式を開催して政治家・報道関係を呼んでいる。


たくさんの質問

丁寧な説明

まとめ

【全体】

今回、認証に取り組むにあたっての課題はフランスでも日本でも基本的に共通していると感じました。それは「組織全体で取り組む」「その取り組みを継続する」という点です。

組織全体での取り組みとその継続を実現するには、ユマニチュードの哲学と技術をしっかりと定着させると同時に、リーダーシップや組織の在り方、プロジェクトの進め方等、一般的な組織論やマネジメントの手法が必要となってきます。

【認証施設の組織での取り組み】

今回、訪問したユマニチュード認証施設ラ・メゾン・デ・ジャンヌの組織での取り組みの進め方は大変参考になりました。

まず、経営層が組織として認証の取り組みを通して何を実現したいか決定して、全職員と共有する。そして、具体的に取り組みの担当とスケジュールを明確にして、職員が理解しやすい資料を作成したり、問題解決のアクションチームの実行や、研修等の日次・週次・月次・年次でPDCAサイクルを回していました。

また、施設見学では、よい点だけではなく改善すべき点を含めた説明が印象的でした。常によりよい取り組みを目指す姿勢が継続した取り組みにつながると感じました。

そして、職員向けの研修やサポートする個別プログラムが手厚いことが働きやすさや職員の定着につながり、この点でも、組織としての取り組みの後押しとなっているのではないかと思います。

【審査機関の在り方】

審査機関は、よいケア・よい生活の場の実現を目指す認証を目指す施設と仲間である、という姿勢を改めて感じました。とくに、評価基準を満たしている・いないという点にのみ着目するのではなく、施設の自己評価をベースに、よりよい取組みを提案するという点を大切にして、認証準備会員に併走し取り組みの応援を続けてまいります。

また、今回、日本の研修機関のメンバーでもある認定インストラクターが同行しており、審査機関と研修機関の役割分担と協働の重要性を確認しあうことができました。現在、日本では認証関係の研修を含めて研修体系を再構築中ですが、今後、役割分担をわかりやすく整理していくとともに一層連携を強めてまいります。

さいごに

今回の充実したフランス認証施設訪問は、事前の準備と当日あたたかく迎えてくださったフランスの皆さま、そして日本の認証制度を応援してくださっている日本財団様のおかげで実現できました。心より感謝申し上げます。今回得られた知見を活かして、今後もよりよい制度づくりに取り組んでまいります。ありがとうございました。

2022年10⽉17⽇(月)から10⽉20⽇(木)にフランスのユマニチュード認証施設を訪問してまいりました。秋が深まりつつあるこの時期、美しい緑に包まれたノルマンディ地方の認証施設ラ・メゾン・デ・ジャンヌ(EHPAD La Maison de Jeanne)でたくさんの素敵な出会いと学びがありました。

訪問の目的

今回の訪問の目的は、ユマニチュード認証施設を訪問し、①施設運営・ケア実践の⾒学及びケアの実習を⾏うとともに、②認証制度委員⻑から認証制度の審査に関するレクチャーを受けることです。

訪問施設の概要

ラ・メゾン・デ・ジャンヌは、EHPAD(Établissement d’hébergement pour personnes âgées dépendantes(老人ホーム))です。設立は、なんと1373年。ホスピスとして始まった建物を利用して運営しているそうです。認証取得は2018年。180名の高齢者の方が8つの区画に暮らしています。職員は160名、そのうちケアをする人は90名です。施設管理者のエリス・ガンビエさんは、ユマニチュード認証制度を管理する団体Asshumevie の代表でもあります。


ラ・メゾン・デ・ジャンヌの外観

施設管理者のエリスさんと森山認証制度本部長

みんなで記念撮影

訪問メンバー

フランスからユマニチュードの考案者のロゼッタ・マレスコッティ先生(ジネスト・マレスコッティ研究所 所長) 、フランク・デヴュヴュさん(ジネスト・マレスコッティ研究所 国際部長)の2名が参加。日本から総勢8名、日本のユマニチュード認証制度へ多大なご支援いただいている日本財団から袖山啓子様、日本ユマニチュード学会から本田美和子代表理事やユマニチュードの研修と認証のチームが参加しました。

1日目:10月17日(月)

朝到着すると、職員の皆さんと入居者の方、そしてたくさんの桜と日本の国旗に迎えられました。建物のあちらこちらに日本をイメージした装飾がされ、入居者の皆さんから今日のためにつくったオリジナルの歌のプレゼントや、さらに入居者の方の自作の詩の朗読のサプライズがありました。初日から職員・入居者の皆さんからあたたかい歓迎を受けました。

1日目のスケジュールは施設内見学と講義でした。

午前中は、私たち訪問者も時々一緒に参加しながら、ボールをつかったエクササイズや、転倒時に他に手段がない場合に利用する体を起こすための道具の実演などをみせていただきました。また、地域の方も利用できる美容室や、入居者・家族の方や職員が利用するカフェ、売店、ラウンジの案内をしていただきました。午後からは、職員及び地域の方の子ども2ヵ月〜6歳を対象とした10名以内の小規模保育所と、入居者で認知症の周辺症状がある方向けの院内デイケアを見学。保育所とデイケアは隣で、子どもたちは月2〜3回入居者と一緒に食事をしたり入居者と同じ活動プログラムをするなど交流しています。

講義では「施設概要とユマニチュード導入による変化」「Asshumevieと認証のアプローチ」について学びました。現在、ユマニチュードを導入している施設は7,500。そのうち103施設が認証取組み中で、26の認証施設があります。

実際に現場に入ってケアを行なう場面では、「黒子とマスター」を実践しました。実際に訪問した、丸藤さんが飛び入りで感想をくださいました。日本語で話しかけても、メッセージは伝わるなあと実感したそうです。相手の手からもそれがよく伝わってきたそうです。

食事について、嚥下食は見た目も匂いも日本で見るものとは違っていて、他の食事も手でつかみやすい形やサイズになっていました。食べながら歩くのもOKとしているとのことでした。アップルパイもおいしいし、しっかりりんごの風味が感じられたそうです。栄養面だけでない工夫がたくさんなされていたそうです。

ラ・メゾン・デ・ジャンヌにおける導入による取り組みの変化について、

・移動時にすぐ車いすを利用していたけれど歩いていけるよう歩行の付添いをするようになった

・ケアする側の利便性だけを考えて導入していた食事用エプロンを廃止

・夜間必ず3回実施していた部屋への巡回をドアを開けずに部屋の外から耳で様子を確かめて睡眠を妨げないようにした 等

また、身体拘束が43%(2014年)から4.4%へ減少(2022年)、自分の部屋の鍵を持っている方が6割から9割へ増加等の数値の変化などの説明がありました。

職員向けの取り組みとして、

・調子のよくない職員には外部専門家も介入して個別プログラムを策定し本人が希望するプロジェクトを提案している

・平日より週末のほうが職員数が少なかったため週末にメインでケアをする人を3名増員した

・天井走行リフトなど介助のための機材も多く導入する 等

職員が誇りを持ち、そして働きやすい環境づくりをしています。

離職率は低く、離職する理由は、全く異なる業種や職種に転職したり家が遠くて通えない場合のみ、とのことです。

一般的な認証へのアプローチとして、施設内の次の3つの組織によって進めるという説明がありました。

①経営会議:組織の方針の決定権を持つ経営層によって構成し、組織全体として取り組みやその方針を決定する

②推進プロジェクトチーム:実働マネジメント・働く人をサポートする人等、多職種部門横断的なメンバーで構成し、ケアの現場で必要なことを具体的に決めていく

③アクションチーム:テーマを決め適切な人数の実働メンバーで構成し、問題となっている事柄を検討して解決していく

①~③それぞれの情報が双方向に流動的でオープンであることが重要、行動が常にビジョンに立ち返りビジョンに沿っているか点検が必要。

認証の取組みを維持するためには、プロジェクトの必要性を職員全員が知ることが重要であり、シフトが変わるときに適切な申し送りを行ったり、研修を受けたリーダーと一緒に現場で学び実践を評価するなどが大切である、とのことでした。


玄関には桜と日本の国旗

日本語で「ようこそ」!

廊下にたくさんの提灯

皆さまの合唱

詩の朗読

みんなでエクササイズ

体を起こす道具

カフェと美容室

2日目:10月18日(火)

ケアの見学・参加、食事の説明や厨房見学、認証の訪問評価の講義がありました。

ケアの見学・参加では、3つのグループにわかれて、それぞれ別の区画で実際のケアの現場に入らせていただきました。ユマニチュードの技術を用いて、朝のケアを実施(着替え、整容、朝食のために食堂へ向かう等)しました。その他にも、決まった質感の生地の布を触っていると落ち着く入居者の方のために「ジョセフのバッグ」という異なる質感の生地やファスナー等がついて収納できる形態のバッグを職員が作成してお渡ししているなど、現場での様々な取り組みについてもお話を伺いました。

食事は、嚥下食が必要な方向けには、通常食と同じメニューと食材で、ビーツやりんご等食材の風味はそのままで形状を変えて提供しています。また、カトラリーをつかわない方、つまんで食べる方向けには、つまみやすいように表面を少し固めにつくっています。いずれも美しい見た目で盛り付けに工夫されていました。通常食と嚥下食のデザート・リンゴのケーキの食べ比べをしましたが、人によっては嚥下食の見た目や食感のほうが人気でした。厨房も見学させていただきました。保温・冷蔵機能のある台車で厨房から各区画へ運んで現地で食器につぎ分けて配膳する仕組みになっていました。

認証の訪問評価の講義では、施設側の取り組みと審査機関であるAsshumevieの対応について説明がありました。施設ではユマニチュードの取組みを継続するため様々な研修を計画的に実施しています。認証制度では、施設の自己評価を経て、調査員による訪問調査後、審査会による評価結果が出ます。訪問前から訪問後までの具体的な流れ、調査員の役割や訪問時スケジュール、評価について詳細な説明がありました。基本的に日本の認証制度はフランスと同様の仕組みですが、認証の種類は、フランスが1種類に対して、日本はブロンズ、シルバー、ゴールド(フランスの認証相当)と少しずつステップアップしていく3種類となっています。


グループわけ

ケアに参加

ジョゼフのバック

ビーツの前菜

シェフの説明

リンゴのデザート

嚥下食と食べ比べ


→後編へ続く

ユマニチュードに関する映像をご紹介します

報道特集(TBS)にて2014年5月10日放送されたユマニチュードに関する特集をYoutubeにてご覧頂けます。

ぜひご覧ください。

2022年10月1日(土)、22日(土)、福岡市南区男女参画支援センターアミカスで、福岡市が主催する「ユマニチュード家族介護者向け講座」を開催しました。

福岡市在住で家族介護をされている方を対象とした2日間各2時間の講座で、10月1日の1日目はユマニチュードの基礎を学び、3週間後の10月22日の2回目は、家族にユマニチュードを実践した効果や感想などと参加者同士で共有して、さらにユマニチュードの学びを深める内容です。

<1日目・10月1日>

10月1日は、福岡市福祉局高齢社会部 認知症支援課の笠井課長のご挨拶から始まりました。


福岡市笠井課長のご挨拶

「2050年には総人口の1割が認知症になるといわれています。認知症になっても住み慣れた地域で安心して自分らしく暮らしていける社会をつくっていきたい、そのために福岡市は認知症フレンドリーシティプロジェクトを立ち上げて、様々な取り組みを行っています。その一つがユマニチュードの講座。誰もがなりうる認知症。これを特定の誰かだけが支えるのではなく、みんなで支えていく社会を目指します。ユマニチュードを受講して、よかったと思われたら是非、周りの皆さんにもユマニチュードを伝えてください。」と話しました。

講師は、ユマニチュード認定チーフインストラクターの髙澤君予さんと、安武澄夫さん。 


講師安武さん(左) 高澤さん(右)

介護の困りごとは何ですか?の髙澤さんの問いに「デイサービスに行きたがらない」「着替えをしてくれない」「モノをなくしたと大騒ぎする」と皆さんから様々な問題が共有されました。髙澤さんは、認知症を知ること、そしてユマニチュードを実践することが、これらの困りごと解決の第一歩となりますと話し、「介護をするということ」「認知症を理解すること」「優しさを伝える技術ユマニチュード」をスライドで説明しました。安武さんはユマニチュードの技術を使った認知症の方への接し方を、受講者と一緒に実践しました。 

2時間の講座で学んだことを、ご自宅に持ち帰り、実践して3週間後にまた会いましょう!ということで1日目の講座は終わりました。

<2日目・10月22日>

2日目は、前回学んだことを復習して、その後、2グループに分かれて、ユマニチュードを実践した体験談と感想を受講者同士で交換しました。


認知症の方の見え方を体験

グループでユマニチュードを実践したことを共有

ある男性は「叔母が末期癌で、アルツハイマー認知症。これまでホスピスにいたが、この1年くらい自宅に戻って生活している。週1回、叔父の代わりに叔母のお世話に通っているが、叔母は私のことがわからないし、お昼を食べさせようとしても拒否されて、叔母に会う時間が苦痛で仕方なかった。でもユマニチュードで習ったことを実践したみたら「●●君ね、、、、」と私のことを思い出してくれた。今度行く時はまた忘れているかもしれないけど、次、会うのが楽しみになった。私は弁護士の仕事をしている。認知症などで判断能力が十分でなくなった人の意思決定を支援するため、成年後見制度というものがある。ある女性は認知症で財産を脅かされる被害にあっていた。家族がこの制度を使うように説得していたがこの女性は拒否していた。弁護士として、ユマニチュードの技術でこの女性と話をしてみたら、話を聞いてくれて、納得してもらえた。家族介護だけでなくて仕事にも活かすことができて、ユマニチュードを周りに広めたいと思った」と話しました。他の受講者も家族介護でユマニチュードを実践してみて上手くいったこと上手くいかなかったことを、共有しあいました。

最後は、髙澤さんと安武さん2人のインストラクターが、2日間の講座のまとめとして、ユマニチュードの技術を使った様々な“家族の為の介護のコツ”を実践して、受講者はさらに学びを深めました。

受講者の皆さんと講師

2022年11月11日(金)14:00-15:30に認証パイロット施設オンライン交流会を開催しました!認証パイロット施設20施設中、急きょやむを得ず8施設が参加できませんでしたが、12施設・約30名の方にご参加いただきました。評価基準の説明とグループワークの2部構成でした。

評価基準の説明では、まずユマニチュード認証で用いる評価基準の考え方などについて森山認証制度本部長から説明がありました。そのうえで事前にパイロット施設の皆さまからいただいた評価基準に関する質問や訪問調査に関するよくある質問に関して説明を行いました。例えば、評価基準の基準はポジティブに受け取っていただき、何を問うているかユマニチュードの哲学や価値観にかえって考え取り組んでいただきたい、評価基準を一つ一つを個別にみていくというよりも全体で何を目指しているか・実現したいかが大事である、など基本的な取り組みの考え方を伝えました。また、職種や部門にかかわらず職員がお互い尊重し認め合うことが大事であり、具体的な認証の評価基準を通して実現していっていただきたいという話がありました。

個別の質問への回答については近日中にFAQとしてHPへアップする予定です。

グループワークでは、4つのグループにわかれ、2つのテーマ①認証に取組む前後でどういう風に変化があったか・職員の変化があったきっかけ、②認証の取組の工夫(研修やミーティングなどの時間確保や実施の方法、職員の意識を合わせる等)について意見交換しました。

テーマ①については「入居者への接し方、声かけの仕方が変わっていった」「最初はとまどいがあったけれどケアの技術を学び実践していくなかで、入居者といい関係を気づけていることに職員自身がその変化に気づいた」「職員が習熟度チェックを受けるなかで理解を深めていき変化していった」など様々な変化やきっかけについてお話しいただきました。

また、テーマ②については、朝礼での生活労働憲章の読みあわせや5原則・生活労働憲章を自分事化するワークショップの開催、「職員の目に入りやすい場所としてタイムカードの場所にユマニチュードの今週の目標のポスターを貼った」「まずはユマニチュードの考え方ををしっかり理解することが重要なため、5原則や生活労働憲章の資料をつくって共有している」など、具体的な取組みについて共有していただきました。

その他にも、皆さまの様々な取り組みについてお話を伺うことができました。

最後に、各グループから発表していただき、森山本部長と本田代表理事からまとめと挨拶がありました。

どのパイロット施設も、よい人生・よい生活・よいケアを目指して、日々しっかりと取り組まれているのが伝わってまいりました。素晴らしい取り組みのお話を伺うことができて大変心強く、事務局一同、元気をいただきました。ぜひこの感動を施設・病院でユマニチュード認証に取り組んでいる皆さまにもお伝えいただきたいと感じました。今回残念ながら参加できなかったパイロット施設の皆さまも、同じように素晴らしい取り組みをされていると確信しています。

引き続き、日本ユマニチュード学会・認証制度本部は『よいケアの場』の実現に取り組むパイロット施設・準備会員の皆さまを応援してまいります。

今後、皆さまの中からユマニチュード認証施設が誕生するのを心から楽しみにしています!

福岡市が2017年より取り組む、人生100年時代に向けた100のアクション「福岡100」。その一つとして福岡市は、認知症の人やその家族がいきいきと暮らせる、認知症にやさしいまち「認知症フレンドリーシティ」を目指し、ユマニチュードの普及啓発に取り組んでいます。

今年から、この事業のパートナーとして、日本ユマニチュード学会が全面的に参画しました。

そしてこの度、福岡市の依頼を受けて、より多くの市民の方がユマニチュードについて興味を持ち取り組むきっかけとなるよう、ユマニチュードに関する30秒のプロモーション動画を制作しました。

まずはその動画をご覧ください。

ディレクターを担当いただいた高橋夏子さんにお話をうかがいました。

高橋さんは、日本ユマニチュード学会設立時から継続して、ユマニチュードに関する様々な取組みを記録されている映像ディレクターです。研修の記録撮影、学会総会のオンデマンド配信、認証制度のパイロット事業の紹介など、その活躍は多岐にわたっています。

ユマニチュードとの関わり

高橋さんご自身も、義母の介護を経験されています。そこでユマニチュードと出会ったことで、温かいやり取りをすることができ、関係性がとても良くなったそうです。相手を思う気持ちと、それを届ける技術が結びつく手段がユマニチュードだったのでしょう。ご自身が自らユマニチュードの効果を体感されています。

今回の動画制作にあたって

普段は30分〜2時間程度のテレビ番組や映像作品を手掛けることが多い高橋さん。今回の動画は、たった30秒という、短いの一言では片付けられない、別世界の作品を作るかのようで、どういう組み立てにするか非常に悩まれたそうです。そこで注力されたのが「視覚で伝えるイメージ」。

高橋さん曰く、ユマニチュードは「映像向き」なのだとか。言葉で意思疎通できないなど難しい関係性が、ユマニチュードの技法を用いることで、お互いに通じ合う、温かい関係性に変わっていく様子が目に見えて伝わるからだそうです。

30秒という限られた時間で集中したことは2つ。一つはユマニチュードを「知ってもらうこと」、もう一つは「だれにでもできるんだと感じてもらうこと」。そしてユマニチュードならではの効果や力を、「モノクロの世界が色のある世界に変わる」という映像効果で見事に表現されました。

ちなみに、今回の動画に出演されている方々は全員、一般の方だそうです。認知症の方が迷子になった状態をどうイメージすればいいのかしら…?という時には、「外国に行った時の状況をイメージしてみる」と、本田代表理事からアドバイスがあったそうです。見たこともない景色、言葉も理解できない状況での不安感は計り知れません。そんな時、ユマニチュードの技法で見つめられ、声をかけられ、手を差し伸べられると、、、モノクロだった気持ちがパッと色鮮やかな世界になる!ということなんですね。

さいごに

高橋さんがユマニチュードへの思いをお話してくださいました。

「ユマニチュードは、認知症のケア技法と紹介されることが多いのですが、ユマニチュードを皆が知って実践することで、相手が認知症であるか否かに関わらず、お互いの存在を尊重し合う、誰もが生きやすい街になっていくと思います。ユマニチュードの技法を身につけることで、自分にとって難しいコミュニケーションも上手くいくようになるかもしれない。そういうきっかけになれば良いなと思います。」

福岡市のユマニチュード事業についてお伝えする30秒の新作動画が完成しました。

短い時間となりますが、ユマニチュードの意義を皆さまに感じていただけると嬉しく思います。

ぜひ、ご覧ください!

日本ユマニチュード学会第4回総会を2022年9月24日25日の両日にわたり京都大学国際科学イノベーション棟シンポジウムホールにて開催し、後日、録画版をオンデマンド配信いたしました。ご協力いただきました皆さま、ご参加くださった皆さまに改めてお礼を申し上げます。

新型コロナウイルスの影響もさることながら、前日からの大雨により交通機関に乱れが生じ、多少ながらもプログラム内容の変更を余儀なくされました。しかしながら、皆さまのお力添えにより、無事に2日間の全プログラムを終了することができました。(第4回学会総会の詳細はこちら)

今回第4回総会のテーマは『優しいケアの仕組み〜ユマニチュードとサイエンス〜』。2017年に科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(CREST)の研究テーマとして採択された『「優しい介護」インタラクションの計算的・脳科学解明』について、情報学・工学・心理学・医学・看護学などさまざまな分野の専門家が「ユマニチュードはなぜ有効なのか?」に関する研究を進めてきた、その成果を中心に、ユマニチュードに関する様々な最新の研究や取り組みについて発表がなされました。

1日目は、生存科学研究所共催による第10回市民公開講座として、2つの基調講演およびシンポジウムを行いました。基調講演1つめは、ユマニチュード考案者イヴ・ジネスト先生によるフランスからのオンライン講演でした。私たちが周囲から得る様々な情報はどのように脳に届けられているのか、「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの柱の情報学的な効果は何かなど、ユマニチュードを通した幅広い観点から「優しいケアの仕組み」を解説されました。

基調講演2つめは、国際電気通信基礎技術研究所 住岡英信氏による「ロボット技術で目指す優しいケア」でした。ロボット技術の介護への有効性について、人形対話ロボットを用いた認知症高齢者へのコミュニケーション支援とともに、ロボット開発の中で培った技術を用いて、立ち上がり動作介助における「優しい介助」を計測し、理解する取り組みについて紹介されました。

続いて開催されたシンポジウムでは、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(CREST)研究テーマである『「優しい介護」インタラクションの計算的・脳科学解明』について、研究チームそれぞれの成果発表や全体討論が行われました。

また会場外のスペースでは、デモンストレーションとして、シンポジウムで発表された研究チーム開発のシステム体験が行われました。ユマニチュードの技術を評価するシステム、ケア中の相手との距離を簡便に計測するスモック型・マスク型センサー、拡張現実(AR)を用いたユマニチュード・シミュレーション教育システム、IT技術を使ってチームでユマニチュードを学ぶトレーニングシステム等を、実際に多くの方に体験していただくことができました。

こちらのデモンストレーションは、2日目も引き続き実施しました。

2日目は、まずは15演題の口頭発表が行われました。「分析調査」「導入効果」「実践事例」の3つのテーマに分かれ、ユマニチュードの実践、教育、研修効果、家族介護などに関する取り組み事例などについて、様々な立場・視点から発表が行われました。質疑応答を通じた意見交換も盛んに進み、学びを深めることができました。

続いて午後より、『ケアの見える化に取り組んだ郡山市医療介護病院の歩み』 と題して、2016年より6年に渡り、静岡大学情報学部協力のもと、自分たちのケアを撮影し映像学習を現場に取り入れている同病院の歩みをシンポジウム形式にて発表いただきました。数値化することが難しいケアを、サイエンスの力で見える形にし、それを再び現場にフィードバックすることで、ケアの現場にどのような変化が起こるのか、それぞれのお立場からお話を伺うことができました。

続けて最後のプログラムとして、「認証制度日本版」についての進捗報告が行われました。4月から開始された『ユマニチュード認証制度』。そのパイロット事業に取り組む20の事業所それぞれの意気込みが動画メッセージにて紹介されました。いずれの事業所も、「ケアの見える化」や「組織の取り組みの見える化」によって「よいケア・よい生活の場」実現に向けた意欲的な取り組みを進めており、スタッフの意識の統一・向上にもつながっているとのこと。加えて、パイロット事業所(認証準備会員)の一つである広島県広島市「ふじの家瀬野」のスタッフ3名が、パネルディスカッション形式で、それぞれの立場からの取り組み報告を行いました。学会と連携して行ったワークショップを通して、スタッフの共通認識が醸成されたことや、お便りや冊子など作成といったご家族への共有化の工夫など、具体的な取り組みエピソードが好事例として紹介されました。

過去2回の総会はオンラインでの開催でしたが、今総会は直接の意見交換やデモンストレーション等、実体験ができる場も設けることができ、より学びの深い会になったものと思います。会場内のスペースに十分な距離を置きながらも、2日間合計で延べ135名の会員、非会員のみなさまにご参加をいただくことができました。

下記からご覧いただけます。

2020年次報告書

ユマニチュード認証制度の発足を記念して6月から始まった「ユマニチュードキャラバン2022」。ユマニチュードに関心を寄せてくださる全国の皆さま方と認定インストラクターとの交流会が各地で続々と開かれています。沖縄県石垣市の「ぬちぐすい診療所・認知症医療疾患センター」での会の様子をご紹介し、キャラバンが実際にどのような形で行われているかをお伝えします。

主催者・インストラクターご紹介

主催

ぬちぐすい診療所・認知症医療疾患センター
(共催・沖縄県石垣市)

ユマニチュード認定インストラクター

伊東美緒さん
(群馬大学大学院保健学研究科・老年看護学・准教授)

映像を使いユマニチュードを解説

交流会を主催された「ぬちぐすい診療所・認知症医療疾患センター」は訪問診療を主とした、開所1年を迎えた診療所です。所長の内科医、今村昌幹先生は長年、沖縄県立八重山病院に勤務され、ユマニチュードを取り入れたケアを実践されて来ました。これまでにも石垣島でユマニチュード考案者のイヴ・ジネストさんを招いた講演会を開催されていて、キャラバンにもいち早く手を挙げて下さいました。

今回の交流会には、沖縄・八重山地域の医療、看護や介護に従事する皆さま約35人が診療所に設けられた会場やオンラインにて参加。当学会からは、認定インストラクターの群馬大学大学院准教授の伊東美緒さんがオンラインで参加しました。

まずは、伊東さんが高齢者のケアの研究を長年されていること、その中で出会ったユマニチュードが「介護や治療を拒否する方々へのケアの仕方に答えをくれる」ことに驚き、ユマニチュードに関わるようになったと自己紹介。

続いて、アルツハイマー型認知症のお母様の介護にユマニチュードを取り入れたご家族の変化を記録した、NHK厚生文化事業団のビデオ「優しい認知症ケア ユマニチュード」を参加者の皆さまと見ながら、具体的なユマニチュードの技術やその考え方を解説しました。

伊東さんは「(ユマニチュードを取り入れた後で)“認知症の妻を持っても不幸ではない”“人生が楽しくなってきた”という言葉がご家族の口から出てきました。ユマニチュードでご家族の気持ちがポジティブになると、ご本人にもその影響が出てきます。ご家族はその反応が嬉しくなり、また新たな行動ができる。ユマニチュードにはそうした相乗効果があります」と、ユマニチュードがご本人とその周囲の方々にもたらす効果を説明。

さらに、この春より始まった「ユマニチュード認証制度」とその意義、さらにユマニチュードを知るための書籍や映像資料の紹介も併せて行いました。

「地域全体に広めたい」

会の後半は参加者の皆さまとインストラクターが共に語らう交流の時間です。

会場にいらした方々からは「本など言葉では分からないことが、映像で実際のユマニチュードのケアの様子を見られたことでよく分かりました」「ユマニチュードは初めて知りましたが、こうしたことはご本人だけでなくご家族にも必要だと思いました」との感想が聞かれました。

また、ユマニチュードの講座を行ってもなかなか実践に結びつかないというお悩みも。伊東さんは、職場で1人で実践する難しさに共感しつつ、「2人でも3人でも、同じ職場の方が複数で一緒にユマニチュードを学ぶと実践しやすくなります」「(ユマニチュードの技術を使うことで)ご本人に起こる変化がよく分かる動画を現場で作り、職場や地域での研修で活用してみては」とアドバイスをしました。

また、高齢者が多いものの使える介護サービスが少なく、また人材も不足しているという離島ならではの課題がある中で、参加された医師からは「職場などの単位ではなく、島全体、地域全体を一つの組織としてユマニチュードを広げる方法もあるのではと考えています」との発言も。

訪問診療に関わる方からは「認知症の患者さんに学びたてのユマニチュードを使ってみたら、ほんの10分、15分ほどの出会いでしたが、帰るときには(患者さんの方から)握手をして下さって、本当に嬉しくなりました。この八重山地域の介護に関わる方々に広く伝えたいと思っています」との嬉しい実践報告も聞かれました。

「ぬちぐすい診療所・認知症医療疾患センター」主催の交流会は和やかな雰囲気の中、1時間半ほどで終了いたしました。

ユマニチュードキャラバン2022に関する情報

ユマニチュード認証制度のスタートにあたり開催いたしましたオンラインシンポジウム「よいケア、よい生活の場とは〜ユマニチュード認証制度の検討から」の模様の後編です。

前編はこちら

「よいケア」にたどり着く評価項目

本田美和子・代表理事 続きまして認証制度について改めまして皆さんのお考えをお伺いできればと思います。まず早出さん、いかがでしょうか。

早出徳一委員 お話にありました認証の評価項目についてですが、本当に細かな項目があるんですけれども、今まで介護の世界に「よいケア」をするためにはどういうことを行っていけばいいかという、ここまで明確な基準はなかったのではないかと思います。

もちろん介護保険制度の中で制度の決まりというものがあります。「虐待はいけません」「身体拘束はしては駄目です」とか、「週2回はお風呂に入れてください」ということはありますが、それは結局、最低の基準として「これはやってはいけません」「これ以上はやってください」というものです。

介護の現場にもマニュアルは存在していて、私どもの法人では介護福祉士のテキストや介護職員の初任者研修のテキストから、その中身を引いてきています。でも、そこにも一般的なことは書かれていますが、実際に「こんなケアをするといいです」という、具体的なことが示されているものはあまりありません。

そうした意味で、私はユマニチュードの評価項目は介護の現場で「こういうことをするといいですよ」というものになり得ると捉えていまして、しっかり組織として取り組んでいくことに、とても意義があると思います。

本田 ありがとうございます。評価項目は日本の法制度にも沿ったもので、ユマニチュードの認証の取り組みを進めることで、日本の行政から求められている条件もクリアできる形にいたしました。イメージとしましては、すごく大きな川を渡りたいけれど、橋がない。その時に川の中に大きな石が飛び飛びにあって、順に一個一個飛び乗っていくと、最終的に向こう岸に行ける、というような感じかなと思います。目的を達成するための道のりをお示しするものです。

逆説的になるかもしれないのですが、この評価項目を実践すれば「よいケア」の場を実現できます、というシステムでもありますので、認証の取得を目的としない方々にも、ぜひご利用いただけたらと思っています。多くの方がよいケアを受けられる社会づくりの一助になれたらうれしいです。佐々木さんは利用者という立場からこの認証制度についてどのようにお考えでしょうか。

メダルが施設選びの目安に

佐々木恭子委員 この制度には二つの意味があると思っています。ユマニチュード学会が発足した時のシンポジウムも聞かせていただいたのですけれど、その時にどなたかが、ユマニチュードを素晴らしく思っていて取り入れていきたいのに、なかなか周りにそれを伝えることがしんどいことなんだとおっしゃったんです。

今の現状を変えたいと思っている人がいて、その思いはあってもそれをどうやって周りに伝播させるかという時に、制度や仕組みというものは、その後ろ支えになると思います。熱いリーダーがいればできるというような属人的なものでは意味がなくて、その状態が続いてこそ根付く、人が変わっても制度があれば理解する人が増え続けるという意味で、やはり仕組みというのは大事だなと思っています。

もう一つ自分が施設を利用する立場で考えると、認証マークというのはそれぞれの施設のPRポイントとなります。自分が利用を考える立場になったときに、ユマニチュードのブロンズメダルを掲げている施設があれば積極的に利用したいと思います。利用者側にとって選択の幅が広がると思いますし、視点が増えると思います。

本田 私のところにも「ユマニチュードを導入している施設に家族を入れたい」「自分が入りたいけれどもどこにありますか」というお尋ねが多く来るのですが、ユマニチュードを学んだ方がいらっしゃるということと、その施設がユマニチュードを組織として実践している状況にあるかということはまた違うということを知るに至り、「よいケアの場を目指す」ことを目標に、認証に取り組もうという施設があるということはすごく重要なことだと思いました。

佐々木さん それが言語化されているということがすごく重要かと思います。例えば入学試験で学校を選ぶときに、その学校の校風はすごく言語化するのが難しいですよね。ユマニチュードで考えると、ユマニチュードの哲学によって作られるその施設の文化が校風に当たるかと思いますが、ユマニチュードの認証メダルが、具体的なメソッドと理念が結びついているマークだと思うと、施設を選びやすいと思います。

ウェルビーイングを叶えるユマニチュード

本田 ありがとうございます。山口先生、最後に一言いただけますでしょうか。

山口晴保委員 話が少し外れるかと思いますが、マイブームの話をします。私はなるべく認知症をポジティブに捉えようと提唱しているんですけれど、最近、認知症のケアは医学的なケアと人間学的なケアの両方が必要だと思っているんです。

医学的なケアというのは、その代表がBPSD(認知症の行動・心理症状)なんですが、BPSDというのは医学用語で、医学会が決めた患者の症状なんですね。医学というのは要するに悪いところを無くす、病気を無くすということですから、BPSDというのは異常な行動・言動であって、それを無くすというアプローチが医学的なケアモデルで、私はそれをネガティブケアと呼んでいます。その本人の良い所を伸ばす、隠された潜在能力を引き出すのがポジティブケアで、まさにユマニチュードがポジティブケアなんだろうと理解をしています。

人間は、普段からネガティブな言葉を口にしているとどんどんネガティブな方に行きますし、脳も体も使わなければどんどん機能が悪化して行きます。逆に、脳も筋肉も骨も、体の機能は使えば使うほど向上していきます。それが人としての大原則で、認知機能が低下した状況で色々と生活に困難を抱えている人がどうやって楽しく、私はウェルビーイングという言葉を使っているんですが、ウェルビーイングな状態でいられるようにすればよいのか。

心理学ではどういう状態がウェルビーイングなのかいくつかの要素があるのですが、まずは「ポジティブ感情がたくさんある」ということが大切です。ユマニチュードのケアを受ける側の人に「自分が大切にされている」と分かってもらえるというのは、ポジティブ感情を増やすことになります。ユマニチュードはそういうアプローチをしています。「他者との良い関係性」も要素の一つですが、これもユマニチュードが非常に大切にしていることです。

それから、本人が「ケアをされる」のではなくて主体性を持つということも大切で、人は人として認められると「生きていこう」という前向きな気持ちになると思うんですが、ユマニチュードはそこにもアプローチしています。

さらにもう一歩進めると「役割」というのもとても大切なんですね。ただ単に与えるケアではなくて、本人が何らかの役割を持つ。例えば「立つ」ことも、本人が協力をするから立てるのであって、そうでなければ介護をする人が100%引っ張り上げてしまうことになります。ケアもケアをする人と本人との共同作業だと思うんですが、本人の役割に着目して、協力してくれたことに感謝をすることもユマニチュードには含まれています。

ポジティブ心理学での幸福の条件とユマニチュードが目指すものには共通する部分がかなりありますから、こういうケアが日本でどんどん普及してくれるといいなと思っています。

人材確保につながるユマニチュードの導入

本田 ありがとうございます。認証制度についてはいかがお考えでしょうか。

山口さん 認証制度に取り組む施設と取り組まない施設があると思いますが、取り組む施設がいわばオピニオンリーダーや先達という感じで、一歩先に自分たちでよいケアを行って、その効果をぜひ示して欲しいです。

ユマニチュードを導入した施設で離職率が減るというのは、是非強調して欲しいことですね。それは施設経営にとっての最大の効果ではないかと思います。ユマニチュードの認証を受けるとコストはかかるけれども、そこに勤めてる人の満足度が高く、辞める人が少ないですよというのを世の中に示していくことがとても大切だと思います。そうすると導入する施設がどんどん増えるんじゃないかと期待しています。

本田 その点では早出さん、研修を実施した管理者の手応えとしていかがでしょうか。

早出さん はい、では私どもの施設で出ているユマニチュード導入の成果を簡単にお示しします。一つは定着率です。始めて2年くらいになりますが、108人が受講して、退職された方は2名です。多いか少ないかは事業所によって状況が違うかと思いますが、私どもの法人で今までの離職率を考えると、これは飛躍的に少ない数だと思っています。

おそらく、チームとしての目標をみんなが持って、「こういう介護をしていこう」「我々はこうしたケアを行っていくぞ」という気持ちがありますので、それが離職率という部分に表れているではないかと思います。

もう一つは新しい職員の採用です。今、介護の世界では人材を確保するのが難しいのですが、今年度私どもの施設では2人の新卒の職員を迎えることができました。その2人が自分の就職場所の決め手として考えてくださったのが、ユマニチュードなんです。

「色々な施設に実習に行ったけれど、この施設はちょっと変わったことをしている。なぜこんなことをしているのかな」から始まって、「もっとユマニチュードを知りたい」そして「ぜひこの職場で働きたい」というところに繋がったようです。ユマニチュードに取り組んで2年足らずで、実績としては足りないですが、我々投資している側としても、その成果は続けて見ていきたいと思います。

それと、山口先生からポジティブ感情という話がありましたが、ユマニチュードというのは本当にその通りだと実感しています。年老いてできないことが増えて、諦めてしまうという社会でなく、老後がワクワクできるような、自分の望む暮らしが実現できるような社会づくりを進めて欲しいと思っていますが、それがユマニチュードにあると思います。「日本の老後には未来がある」と言われるよう、私自身も頑張って取り組みたいと思います。

本田 ぜひよろしくお願い致します。お話は尽きませんが、お時間がなくなってきました。最後にご紹介をしたいことがございます。ユマニチュードを多くの方に知って頂くために、日本財団の支援をいただき、認証制度の制定を記念しました「ユマニチュードキャラバン」を始めました。

詳しくは当学会WEBサイトをご覧いただきたく思いますが、ユマニチュードについて知っていただき、また認定インストラクターと交流していただく場でございますので、ぜひお申し込みください。

本日はこれにて終了したいと思います。100名を超す皆様にご参加いただき、とても嬉しく思います。ありがとうございました。

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