「現場での課題共有会」より

会員限定コミュニティ「雨宿りの木」にて、医療・看護・介護などケアの現場で働く会員の皆さまと語り合う「現場での課題共有会」が2月からスタートしました。この会に寄せられた実践者ならではの悩みや疑問に、ジネスト先生、本田美和子代表理事が回答した解決策やアドバイスを皆さまと共有いたします。ご活用ください。

※参加者の皆さまのプライバシーに配慮し、実際の内容を一部変えている部分があります。

Q.訪問看護をしていますが、認知症のお母様に怒鳴ってしまう息子さんがいて、こちらも辛くなるほどです。ご自身の中で、認知症のお母様を受け入れられないようで「頭では分かっているけれど心がついていかない」とおっしゃっていますが、何かできることはありますか。

A.ユマニチュードの映像資料を勧めてはいかがでしょう

ケアが必要なご本人よりもその周囲の方が問題だということもよくあることです。患者さんのご家族の問題は、知識がその解決の手段になると私は実感しています。

その知識を持っていただくために、ユマニチュードの映像資料や教材をみていただくのが良いと思います。一つは、東京医療センターの高齢者ケア研究室が作成したYouTubeで30分ほどで見られる映像があります。

また、NHK厚生文化事業団と一緒に制作したDVDもあり、こちらは同事業団に申し込めば無料で貸し出しをしてくれます(どちらもこのWEBサイトの「関連書籍・DVD」のコーナーで詳しく紹介をしています)。

この3枚組のDVDには、家族の認知症を受け入れられず困り果てているご家族のドキュメンタリーや、具体的な技術を教育テレビのような形式でお伝えしている模様が収載されていますので、今回のケースのご家族には良い内容かと思います。

息子さんに「なるほど、こういうことか」と思っていただければ、困った状況を軽減させることができるかもしれません。

「現場での課題共有会」より

会員限定コミュニティ「雨宿りの木」にて、医療・看護・介護などケアの現場で働く会員の皆さまと語り合う「現場での課題共有会」が2月からスタートしました。この会に寄せられた実践者ならではの悩みや疑問に、ジネスト先生、本田美和子代表理事が回答した解決策やアドバイスを皆さまと共有いたします。ご活用ください。

※参加者の皆さまのプライバシーに配慮し、実際の内容を一部変えている部分があります。

Q.障害のある方の外出をお手伝いするガイドヘルパー(移動介護従事者)の仕事をしています。片方を壁につけるように配置されたベッドで、壁の方を向いて寝ている方とはどのように視線を合わせたら良いでしょうか。

A.鏡を使って目を合わせる工夫を

壁にベッドが付いていて、ご本人が壁の方をむいている時、まずやれることはベッドを動かすことです。キャスター(車輪)をつけることが望ましいですが、難しい時は、脚の下に滑りを良くするマットなどを敷くことができると思います。そうすれば、必要なときには、アイコンタクトを取りに行けるような隙間を作ることが可能となります。

もう一つの解決法は、壁の方に鏡を置くことです。寝ている方が声を聞いて目を開ければ、鏡に映る私たちの姿を見て、自分の後ろに誰かがいることに気づけます。ケアをする人が「ここにいるよ」と分かってもらえれば、こちらを向いてもらったり、体を動かすことも出来るかもしれません。

背中が丸まって下を向いている状況の方とも、目と目を合わせることが難しいことがあります。こうしたときも鏡を使って、その人のお顔が映るようにすれば、鏡を通して目を合わせることができます。

「現場での課題共有会」より

会員限定コミュニティ「雨宿りの木」にて、医療・看護・介護などケアの現場で働く会員の皆さまと語り合う「現場での課題共有会」が2月からスタートしました。この会に寄せられた実践者ならではの悩みや疑問に、ジネスト先生、本田美和子代表理事が回答した解決策やアドバイスを皆さまと共有いたします。ご活用ください。

※参加者の皆さまのプライバシーに配慮し、実際の内容を一部変えている部分があります。

Q.マニチュードを実践していますが、上司から「そんなことはしないでいい」と言われてしまいます。

訪問看護をしています。ユマニチュードで接すると利用者さんが安心して笑顔になってくださるのが嬉しいのですが、現場での滞在時間が短いため、上司から「そんなことはしないでいい」と言われてしまいます。

A.良いケアを届けるためユマニチュードをぜひ続けて下さい

「ユマニチュードなんてやっている時間はない」という言葉は世界中でよく聞く言葉ですが、実は全く逆です。私たちの調査では、ユマニチュードに基づいた仕事をすると3時間かかる仕事のうち35分、つまり約6分の1の時間が短縮できるという結果があります。

例えば、福岡市消防局で救急隊がユマニチュードを取り入れるプロジェクトを行っているように、救急搬送という緊急事態でもユマニチュードは役に立っています。「ユマニチュードは時間がかかる」とおっしゃる方は結局のところユマニチュードがどういうものかご存知ないのです。

ユマニチュードを専門職の方へ教えるとき、技術的なことはもちろん必要ですが、それを最初にしてしまうと、相手に対してその技術を一方的に行ってしまう、「ケアをしてあげます」という権力を一方的に発動する関係に陥りかねません。

ユマニチュードは相手との良い関係を結ぶ技法です。おっしゃっているように、相手の笑顔を引き出すことができます。「ユマニチュードをする時間がない」ということは、「私たちは良いケアをする時間がありません」と言っているのと同じです。

ユマニチュードが必要だと考え方を変えてもらうことは難しいですが、あなたはぜひユマニチュードを実践し続けて下さい。以前、夜勤の誰も見ていないときにユマニチュードをやって、認知症の方とコミュニケーションを取り、穏やかに過ごしてもらえているという看護助手の方のお話を聞いたことがあります。

大切なことは、相手が穏やかでにこやかになれるかどうかということで、私たちはそれを実現するためにいるのです。ぜひ、ユマニチュードを今後も続けていただけたらと思います。

「現場での課題共有会」より

会員限定コミュニティ「雨宿りの木」にて、医療・看護・介護などケアの現場で働く会員の皆さまと語り合う「現場での課題共有会」が2月からスタートしました。この会に寄せられた実践者ならではの悩みや疑問に、ジネスト先生、本田美和子代表理事が回答した解決策やアドバイスを皆さまと共有いたします。ご活用ください。

※参加者の皆さまのプライバシーに配慮し、実際の内容を一部変えている部分があります。

Q.「ノックをしたら利用者さんにうるさいと言われた」と怒って諦めてしまう職員がいました・・

介護の現場で働いている看護師です。施設でユマニチュードの導入が始まっていますが、「ノックをしたら利用者さんにうるさいと言われた」と怒って諦めてしまう職員もいて、ユマニチュードをどう伝えていけばよいのか思案しています。

A.なぜその技術を行うのか、行動の意味を考える哲学こそが何より重要

ノックのお話はユマニチュードを学び始めたときに起こりやすい失敗です。でも、そこにはとても大切な視点があります。なぜその技術を行うのか、行動の意味を考える哲学こそが何より重要であるということを示しているからです。

相手を尊重することとは何か、自由とは何か、優しさとは何かというユマニチュードの哲学を理解していれば、「うるさい」と言われるようなノックをすることにはなりません。

ユマニチュードを専門職の方へ教えるとき、技術的なことはもちろん必要ですが、それを最初にしてしまうと、相手に大してその技術を一方的に行ってしまう、「ケアをしてあげます」という権力を一方的に発動する関係に陥りかねません。

まずは、利用者や患者の方を敬い、尊重する心を持つことが大切です。私たちが直面する問題の多くは、こうしたケアをする立場の権力を持って相手に対峙しているということに原因があります。

ノックはもちろん良い技術ですが、それが不適切な状況はもちろんあります。その時は、私たちの基本的な考え方は変えずに行動を変えるのです。技術を行うことがゴールではありません。

何のためにノックをするかというと、音を出すためではなく、「これからあなたの所に行っても良いですか」ということを聞くためです。それを実現するための行動がノックなのです。

ケアのときに言葉を溢れさせるようにという技術もありますが、ケアを受ける方に「うるさいから黙ってください」と言われたら、それは黙るべきなのです。決めるのはケアを受ける相手です。

「私たちはケアを提供する人です」「ケアを届けます」と考えると、相手は「ケアを貰わなければならない人」になってしまいます。そうした「ケアをする人(ケアギバー)」と「ケアを受ける人」という一方向的な関係ではなく、ケアを中心にお互いが「ケアを分かち合う人(ケアシェアラー)」と考えるべきであると思います。

関係というのは双方向性が大切です。お互いがやり取りする関係がないと成り立ちません。ケアを「シェアする」という概念は、これまでのケアの歴史にはありませんので仕方のないことですが、私はこれは歴史的な誤りであったと思っています。

「現場での課題共有会」より

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※参加者の皆さまのプライバシーに配慮し、実際の内容を一部変えている部分があります。

Q.介護職員の指導方法に悩んでいます。

有料老人ホームでユニットのリーダーをしています。介護職員の1人が威圧的な態度で命令口調で話すため、利用者さんから「精神的にとても傷ついていてる」という苦情がありました。本人にはその自覚がなく、「他の職員も同じことをしているから」と言って改める気持ちもないようです。どう指導したら良いか悩んでいます。

A.施設全体で目指すものを決め「憲章」を作りましょう

このようなトラブルで一番重要な問題は、施設全体として「この施設が何を目指しているのか」ということが、職員に共有されていないことです。苦情の出たその職員の方は、そこにいる人に食事を与え、おむつを替え、着替えをするのが私の仕事だと思って毎日職場に来ているのだと思います。

残念ながら介護の仕事をそのように考えて仕事をしている人は、実は世界中にたくさんいます。ケアが終わった後で、相手がすごく悲しい思いをしたり、泣いたりしていても、「私はやることはやった」とそういう人たちは言うのです。

その職場が何を目指しているのかを文書にして「憲章」とし、施設全体の方向性を明確に示さなければ、そこで働く一人一人の行動を変えていくことはできません。皆が大切に思っていることを言葉にし明文化して、それを実現していくのです。

ここで重要なのは、そうした言葉をインターネットで探してダウンロードするのでなく、組織の長や部門の長とそこで働いている職員がチームになり、数カ月の時間をかけてそれぞれの立場から「私たちはこれを大切に思う」「私たちにとって価値あるものはこれだ」と、自分たちが目指すものは何かということを話し合い、決定することです。

もし「入居者の方が幸せになる場所にします」という一文があった場合、先ほどの職員の方は、ケアを受けた方が幸せではないわけですから、施設が目指していることを達成できない状況を作っている、憲章に反する行動があったのだと指摘する根拠ができます。その憲章に外れた行動を取り続ける人には、その組織で働くことを止めてもらうことも、時に必要になるかもしれません。

さらに、虐待は身体的なものだけではないことも強調しておきます。人の心を突き刺して死なせてしまうような言葉は存在します。

ご自分ではできないことがある方々、誰かに「依存」しなければならない方が介護施設にはいらっしゃり、その援助をすることがケアをする人の仕事です。「依存」というのは悪いことではありません。私は、毎日子供と電話で話すことに幸せを感じていて、ある意味では子供に依存していると言えますが、それは素晴らしく良い関係です。

しかし、自分が嫌いな人に依存しなければならない状況になったらどうでしょうか。それはほぼ地獄です。「臭い」「汚い」と言いながらおむつを替えれば、聞いている人にはそれは言葉の虐待に他なりません。

おむつを部屋に替えに来た人が、「臭くてやってられない」と言いながら窓を開け放った現場に立ち会ったことがありますが、聞いたご本人は涙を流していたのです。言葉でなくとも、荒々しく窓を開けるという行為だけでも、ケアを受けるご本人には虐待行為となるのです。なぜなら自分が人間的に扱われていない、尊厳が損なわれていると感じるからです。

「現場での課題共有会」より

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※参加者の皆さまのプライバシーに配慮し、実際の内容を一部変えている部分があります。

Q.介護士をしていますが、施設でユマニチュードの研修を受け実践しているのが私一人だけです。

ユマニチュードでケアを行うと利用者の方に「気持ちがいい」「嬉しい」と言われ、不穏の症状も減りますが、別の職員がケアをするとまた症状が出てきてしまいます。こうした状況でどうモチベーションを維持していけばいいのか教えて下さい。

A.「感情の力」を使い、まずは仲間を作りましょう

ユマニチュードは言語と同じで、施設でただ一人だけが知っていても上手くいきません。皆が同じ言語を知らないと会話ができないのと同様です。そのような状況についてご提案できることは二つあります。

一つは、ユマニチュードの技術を用いるとケアが上手くいくことを同僚に気づいてもらうことです。それがユマニチュードを職場に浸透させる第一歩となることがとても多いです。ただし、上手くいくことが周囲の人にネガティブな反応を生んでしまうこともありますので注意が必要です。理屈では分かっていても、感情的に受け入れられない、つまりどんなに言葉を尽くして説明しても「何か嫌だな」と思われたら、もう受け入れてもらえないのです。

この理由は人間の脳の情報処理の仕組みから説明できます。人は外から入ってきた情報を視床で受け取ります。その情報はまず感情を司る扁桃体で「好き」か「嫌い」かが評価され、その後に大脳皮質で精密な分析が行われます。まず扁桃体で「好き」と評価されなければ、良い情報として受け取ってもらいにくくなってしまいます。相手に「この人は好ましい人だから、話を聴こう」と思ってもらうことが、自分の話を受け入れてもらえる下地を作る重要なステップになります。

まずは職場の親しい方に少しユマニチュードのことを話してみるのはいかがでしょうか。「こういう風にやると自分は良かったよ」と提案してその人にやってもらう。そして、少しでも上手く行ったら、大袈裟なくらいに「素晴らしい」「すごく上手くいったね」と褒めるのです。そうした反応を受け取ると相手に「嬉しい」という感情が湧きます。

そして、あなたが提案したケアを同僚にやってもらい、それが上手くいくと、もう一人、嬉しい人が増えます。ケアを受けた方です。一つのケアで、あなたと同僚とケアを受けた方の3人が「嬉しい」と感じるのです。ユマニチュードを用いたケアで、「嬉しい」という感情の動きが広がることを現場の方に学んでいただくのが、ユマニチュードを職場に広げる一つの入り口になると思います。

二つ目は、やはり一人での取り組みには限界がありますから、施設全体、組織としてユマニチュードのケアをするという流れを作ることが重要です。職場の部門長や施設長にユマニチュードのケアの良い点を、例えば日本ユマニチュード学会の資料などを材料としてお話していただくのも良いと思います。

ただし、その時にも注意すべきことがあります。例えば、あなたがケアをすると上手くいくけれど、他の人だと拒否をされる、上手くいかない、という文脈で説明をすると、あなたが優秀で他の人が駄目な人という印象に受け取られてしまう可能性があります。

自分がユマニチュードの技術を使ったときは上手くいったけれど、使わなかったときには差があったというように、自分の中での「できる・できない」という観点で説明すると、相手の心により響くことでしょう。

ユマニチュードはチームで実践するものです。スポーツに例えるならば、一人一人に技術がないと試合になりませんが、チームとしてまとまらないと試合には勝てません。あなたが素晴らしいユマニチュードプレイヤーであることも重要ですが、仲間を作ることが必要です。私たちのことを分かってもらうために、まずは仲間に自分を好きになってもらうことを忘れないでください。先にお話しした「感情の力」を上手く使うことです。

ユマニチュードのケアが技術で構成されたものであり、決して魔法ではないことと同じように、ユマニチュードのチームを作るのも魔法のようにはいきません。長期的な視野に立ち一つ一つ目標をクリアにしていくことです。

「現場での課題共有会」より

会員限定コミュニティ「雨宿りの木」にて、医療・看護・介護などケアの現場で働く会員の皆さまと語り合う「現場での課題共有会」が2月からスタートしました。この会に寄せられた実践者ならではの悩みや疑問に、ジネスト先生、本田美和子代表理事が回答した解決策やアドバイスを皆さまと共有いたします。ご活用ください。

※参加者の皆さまのプライバシーに配慮し、実際の内容を一部変えている部分があります。

Q.コロナ禍においてユマニチュードにどう取り組めばよいでしょうか

A.標準的な予防策をしっかりと

どのような状況であれ、ケアという仕事というのは相手に近付いたり、相手に触れないことには始まりません。採血したり、血圧を測ったり、体を拭いたりということは、相手と2メートル離れてできることではないのです。

まずはしっかりと標準的な予防策をすることです。私は患者さんに近づくときには、例えば、すごく距離を取ってマスクを外して挨拶をし、もう一度マスクをして、相手にもマスクを付けて貰ってから近づきます。もしくは、近付いてからマスクを外し、喋らずにニッコリと笑顔だけを届けてもう一度マスクをするようにしています。もちろんその前後には手指を必ずアルコールで消毒します。もちろん相手の方がコロナウイルスに感染している場合は、しっかりと必要な防御のための装備をして近づきます。

コロナウイルスに対して過度に恐れずに、標準的な感染予防策に応じて仕事をすれば良いのではないかと思います。マスクは表情を隠してしまうために、表情を読み取ることが難しい認知症の方に対応する場合には、「感情を増幅させて表現する」ことが重要です。

「現場での課題共有会」より

会員限定コミュニティ「雨宿りの木」にて、医療・看護・介護などケアの現場で働く会員の皆さまと語り合う「現場での課題共有会」が2月からスタートしました。この会に寄せられた実践者ならではの悩みや疑問に、ジネスト先生、本田美和子代表理事が回答した解決策やアドバイスを皆さまと共有いたします。ご活用ください。

※参加者の皆さまのプライバシーに配慮し、実際の内容を一部変えている部分があります。

Q.ケアを拒否する方や攻撃的な方にはどのようにケアをすれば良いでしょうか。

ケアを拒否する方や攻撃的な方にはどのようにケアをすれば良いでしょうか

A.ケアを届けたい人に「会いに行く」という意識が大切

ケアを受け取る方が「攻撃的である」とか「拒否をする」という話はよく聞くのですが、実際に攻撃をしてくる認知症の方というのはいません。これは「攻撃している」のではなく、ご自分を「防御している」のです。

その「防御」の反応に対してどうすれば良いでしょう。まず絶対に守らねばならないのは、無理やりケアをしないことです。無理やりケアをすると相手には感情的な記憶が残り、私たちが「敵」と認識されてしまいます。逆に私たちのことを「天使のようだ」と思ってもらえれば、次のケアではその方も天使になってくださる可能性があるのです。

拒否のある方に具体的にどうすれば良いかということは、その場に行かないと分かりませんし、技術というのは耳で聞いただけでいきなりできることでもありません。技術を学び、状況の分析法を学び、状況に応じた技術の選択方法を学ぶのがユマニチュードの研修です。ここではその前提条件となる、大切なことをひとつお話ししましょう。

例えば、口腔ケアを嫌がる方がいた場合、その方の部屋に我々が行く理由はなんでしょうか。口をキレイにするためでしょうか? それでは我々はその方の嫌がること、つまり拷問をしに行くのと同じことになります。我々は口腔ケアをしに行くのではなく、その方に「会いに行く」のです。まず私たちの認識をこう変えることが大きな変化を呼び起こします。

ケアをすごく嫌がっていて、近づくと引っ掻かれたり、つねられたりして、皆から「あの人は大変だ」と思われている方の部屋に行って、私が何をするか。その人の隣にただ座るのです。2分くらい何もしないで座っていて去ります。その人にとっては、誰かが自分の傍に来るけれど何も嫌なことはされないという初めての経験をすることになります。

そして30分後にもう一度行きます。今度も何もせず、例えば雑誌を持って行ったりして読みます。「ここに面白いことが書いてありますよ」「この写真は可愛いですね」などと会話をして時を分かち合い、それが終わったらまた去ります。そしてまた30分後にもう一度行って、同じように過ごします。

毎回近づいても何もしないで帰ることを繰り返すうちに、「私はイヴです」と握手したり、その人の体に触れるタイミングを得ることができます。「何かお手伝いすることはありますか」と聞き、「ありません」と言われたら「じゃあ、帰りますね」と言って去ります。

また30分後くらいに行って、今度は「お口をキレイしましょうか?」と聞いてみます。「嫌だ」と言われたら、「そうですよね。私だってあなたのような状況でしたら嫌ですよ」と言って帰ります。こうしたことを繰り返すと「なんとなく良い感じの人だ」という印象がその人の感情の記憶に残ります。

少しずつ少しずつ近づいては離れてということを繰り返すというこの方法は「無償の時間」を重ねることです。ユマニチュードの研修は4日間、インストラクターが施設を訪れ、一緒にケアをするベッドサイド研修が主体となりますが、ここでもこの手法を使います。

多くの場合、1日で変化が生じ、4日間にはほとんどのケースは解決します。ごくまれに、4日間で完全には解決しないことがありますが、その場合は、インストラクターがその後のやり方をお伝えし、実践してもらいます。その後10日以内で困った状況が解決しなかったというケースは、フランスではこれまでに一度もありません。ケアをしに行く人が「酷いことをしない人なんだ」と分かってもらうためのステップを踏んでいくことが大切なんです。ご本人が「拷問だ」と思っている限り、何をやっても上手く行きません。

そしてもう一つ重要なのは、これも大切なケアの一部だということを、職場の皆に理解してもらうことです。そうした文化を職場で作っていくことが大切です。

「現場での課題共有会」より

会員限定コミュニティ「雨宿りの木」にて、医療・看護・介護などケアの現場で働く会員の皆さまと語り合う「現場での課題共有会」が2月からスタートしました。この会に寄せられた実践者ならではの悩みや疑問に、ジネスト先生、本田美和子代表理事が回答した解決策やアドバイスを皆さまと共有いたします。ご活用ください。

※参加者の皆さまのプライバシーに配慮し、実際の内容を一部変えている部分があります。

Q.職場にユマニチュードを根付かせるには

急性期病院に勤めていますが、現場では治療が優先となり、なかなかユマニチュードのケアをやろうということになりません。また職場には認定インストラクターもいません。職場にユマニチュードを根付かせるにはどうすればよいでしょうか。

A.ユマニチュードはどのような臨床の現場でも有効です

「ユマニチュードなんかやっている暇はない」という言葉は本当によくいただきます。しかしながらユマニチュードは、私(ジネスト)とマレスコッティが40年ほど前に急性期病院で生み出した技法です。これまでに3万人を超える方々のケアをしてきましたが、新生児から高齢者の方々まで、そして救急医療や集中治療、精神医療などすべての臨床の現場でユマニチュードのケアを行ってきました。

これは日本での病院の話ですが、私がベッドサイドで患者さんと話をしていたら、看護師さんがやってきて、話の邪魔をしてはいけないと思ったのでしょう、一言も何も言わず、ご本人に尋ねもせずに布団をはいで、便の状態を確かるためにお尻の穴に指を入れたのです。フランスから来てケアを教えている私の邪魔にならないように気を使ってのことで、ご本人に悪気はないのです。しかしながら、病院で働いている人は患者さんのお尻をいきなり触ってもいい、患者さんもそうされても仕方がないと力を失っている状況に、期せずしてなってしまっている。これが病院の中で働いている人が陥りやすい罠なんです。

ユマニチュードはケアの専門職が自分の職場で仕事をすることを目的として作った技術です。きちんと身につけて正しく実践すれば仕事がとても早くなります。ユマニチュードを使うことで、これまで3時間かかっていた仕事が2時間25分で済むようになった、つまり、20%の業務の短縮につながったというフランスの調査報告もあります。

「5つのステップ」でケアを行うとき、一つ目の「ノックをする」はその時間が無駄なように思えます。ノックに必要な時間は10秒くらいですから、ここで10秒を無駄にしたと仮定しましょう。二つ目のステップ「ケアの準備」はケアを届けたい相手と良い関係を築くための最も重要なステップです。「あなたに会いに来ました」というやり取りは長くかかることもありますが、大体は40秒くらいです。ここまでで合わせて50秒無駄になっていると言う方もいらっしゃるかもしれません。

第3のステップはいわゆる仕事としてのケアを行う時間ですが、第1のステップ、第2のステップで良い関係を築けていれば、実際のケアの時間を短縮することが可能です。なぜなら、私たちが行うケアに協力をしてもらえるならば、ケアを拒否されて戦いのようになる要素が何もないからです。

第4の「感情の固定」、第5の「次の約束」は20〜40秒くらいで終わります。実際のケアを行う第3のステップの前後四つのステップで合わせて1分20秒ぐらい時間がかかります。しかし、その時間を持つことによって、これまで戦いのようになっていたケアをスムーズに受け入れてもらえます。結果的に、私たちが本当にやりたいケアをこれまでよりも短い時間で終わらせることができます。

フランスでユマニチュードを導入している施設では、寝たきりの方の数が全国平均の35分の1という報告があります。寝たきりの方のケアをするということは時間がかかることが常ですが、ユマニチュードを使うことにより、ベッドサイドに座って貰ったり、立って貰ってケアを行えたならば、寝たきりになる人を格段に減らすことができ、働く人の力も余分に使わずにケアができるようになります。

このようにユマニチュードはどのような形のケアにも使えますし、働いている人の仕事の内容も大きく変えることができます。

ユマニチュードが最大の効果を上げるためには、チームで取り組むことが必要です。ただ施設に導入するには研修が必要で、そのための費用と時間を未来への投資と考える必要があります。費用については、ユマニチュード導入の費用対効果に対するシンクタンクの報告が出ているのですが、1万円の投資に対して4万円が節約できる、費用対効果が4倍になるという結果でした。

例えば、職員の新規採用にはコストがかかりますが、ユマニチュードを導入すると離職する人が減るので採用コストが減ります。また、医療費の観点からも効果があります。これもフランスの調査ですが、ユマニチュードを導入後、施設全体の向精神薬の処方量が88%も減ったという報告もあります。

一方で、時間はかかります。施設全体に導入するには3〜6年くらいの計画で考えなければなりません。フランスでは、職場に導入計画を進めるための推進委員会を作り、その委員となる職員が2週間のリーダー研修を受け、施設の中にユマニチュードを根付かせるために活躍しています。

日本では、東京の調布東山病院が先駆的にそうした取り組みを行っています。この病院ではインストラクターが推進委員となっていますが、彼女たちによると、推進委員はユマニチュードを根付かせるための仕組みを作る役割であり、インストラクターである必要はないと話しています。

フランスではユマニチュードの認証施設の制度が始まっていて、ご本人が自分に関することについて自分で決める「自律」と、自分でできることは自分で行う「自立」や、職員が強制ケアを行わず、その一方でケアの放棄をしない、などの原則に基づいて、施設の外での生活がそのまま継続出来る施設が誕生しています。今、日本でも施設認証の制度作りが始まっています。ユマニチュードのケアが職場の文化として根付いた施設が誕生することを願っています。